【奥越】霧氷のラビリンスを行く 蛇鏡岳から木無山へ
Posted: 2024年2月28日(水) 21:03
【日 付】2024年2月24日(土)
【山 域】奥越 木無山周辺
【天 候】晴れ
【メンバー】sato、山日和
【コース】蛇鏡橋7:00---7:30尾根取付---10:10三角点蛇鏡---12:30木無山14:00---1500:P1153m----17:30蛇鏡橋
蛇鏡岳とはなんともいわくありげな名前である。「福井の山150」と「登ってみねの福井の山」によると昔むかし、
この山の山麓に大蛇の棲む池があり、水面に浮かび上がった大蛇の姿が岩壁に映ったことから岩壁を蛇鏡と呼ぶよ
うになったという。そしてこの池は蛇鏡の池(または蛇池)と呼ばれたらしい。
いつしかこの池はなくなり、ザゼンソウの群落のある湿地になったということだが、今は和泉スキー場に変わって
消えてしまったようだ。
木無山を訪れるのは今回で5回目だが、蛇鏡岳は初めてここを訪れて以来22年振りだ。
今年は積雪が少ない上に雪融けが早く、ヤブが出ていることが予想される。まともに歩くことができるだろうか。
前坂谷の林道入口が除雪されていたので車を止めることができた。ここに止められなければ大枚1000円をはた
いてスキー場の駐車場に止めないといけないところだ。
ここから眺める山稜は真っ白で、今日こそは霧氷を期待できそうである。
今年の積雪状況からすれば長倉谷の林道は雪無しかと思っていたが、意外にも入口からスノーシューを履くこ
とができた。冷え込みのおかげで雪はよく締まっている。
蛇鏡岳への取付きを間違えて隣の尾根を上がりかけてしまった。ここは9年前のスノー衆で使った尾根である。
どこかで見た風景だと気付いたが、元に戻るのも面倒くさく、谷へ下って対岸の尾根に這い上がった。
急斜面だがツボ足ではズボズボと潜る雪は、スノーシューを履けば快適に歩くことができる。ヒールリフターを
効かせれば階段を歩くように高度を稼ぐことができた。
本来の尾根は下部は植林だが、地図にない林道を過ぎれば若いブナと雑木の尾根に変わる。50センチ程度の微々
たる積雪だがヤブもなく快適な尾根歩きだ。右手には雪に覆われた蛇鏡の岩壁が迫ってきた。
スキー場からの尾根の合流点でひと息入れる。先週とは違って、今日は予報通りの快晴だ。
ここから蛇鏡岳への尾根が今日の核心部と言える。雪が付いていれば雪壁状だし、なければヤブを漕がなければ
ならない。今回はほぼ後者である。
できるだけ安全な尾根芯を進むが、かなり厄介なヤブに雪を求めて岩壁側へ逃げる。
ピッケルは持って来たものの、アイゼンではなくチェーンスパイクしか持っていないので、蛇鏡の岩壁側の登行
には緊張させられた。落ちればアウトなので、慎重にステップを切りながら、ピッケルとストックで確実に3点
確保してじりじりと歩を進めた。アイゼンを履いていればもう少し楽ができただろう。
立ち木のない白い岩壁は長倉谷へ一気に切れ落ちて痛快な高度感だ。そのはるか奥には越美国境稜線の山々が
並ぶ。
尾根芯の傾斜が緩むと雪が繋がって、1121.2mの三角点蛇鏡に到着。ようやく緊張が溶ける一瞬を迎えた。
「福井の山150」によれば蛇鏡岳の山頂はここではなく、次のCa1140mピークらしい。
ここから霧氷の回廊が始まった。木という木にびっしりと付いた霧氷は風が強かったのか、よく発達して5セ
ンチ以上の板状になっている。
蛇鏡岳の最高点では見事な展望が開けた。荒島岳の雄姿の左に見える縫ヶ原山の方が気になるのは私だけだ
ろうか。見わたす山々はすべて白く、今日はどこへ行っても霧氷祭を楽しめそうだ。
山頂を過ぎると徐々に太いブナが現れ始める。1098m標高点のあたりに広がる雪原はまったく素晴らしい。
ゆったりと広がる雪の原に立つ白装束のブナたち。まるで霧氷のラビリンスに迷い込んだようだ。
再び尾根の形がはっきりと現れるところへの登りは笹ヤブが出てすっきりしない。2月の木無山では考えられ
ない状態だ。
笹の障害物を乗り越えて尾根に立てば霧氷の回廊の続編が始まる。これほど白い森を見るのは初めてかもしれ
ない。9年前のスノー衆の時も見事な霧氷の森だったが繊細な印象だった。今日の霧氷はそれを遥かに凌駕して
いる。空の青とわずかに見える木の幹の茶色以外は白一色の世界に包まれた。
一昨日の雨はここでは新雪だったようで、パウダーに覆われた純白の雪面は美しい。
降り注ぐ日差しで霧氷が落ち始めている。普通はパラパラと落ちる霧氷も発達し過ぎて、雪面にドスンという
音を響かせるありさまだ。これに直撃されたらたまらない。美しい霧氷も一歩間違えれば凶器になりかねないの
である。
1162mを標高点を過ぎて木無山頂への登りにかかる。
後ろで悲鳴が上がったので驚いて振り向くと、satoさんが穴にハマっていた。右足が宙ぶらりんでもがいている。
ザックを外してなんとか脱出。思わぬところで雪面の下に空洞ができているので油断できない。
いつもなら雪庇が発達して風上側が雪の片斜面になっている山頂直下の登りは様相が違っていた。雪庇どころ
かヤブが出て、傾斜の緩い風上側の雪を繋いで進むありさまである。
スノーシューを外すという点だけは同じだが、美しい雪庇を眺めながらアイゼンとピッケルで山頂へ飛び出すと
いうクライマックスは些か冴えないものになってしまった。
しかし、辿り着いた木無山1328.5mの山頂は極上の空間だ。遮るもののない展望はまさに360度。残念ながら白山
方面は雲がかかって見えないが、石徹白の山の入口の小白山と大日ヶ岳から南はすべて手中にできる。
蛇鏡岳付近では吹いていた風も弱まり、荒島岳を正面に望むベストポジションにランチ場を設営できた。
固く締まった雪はスコップ無しでは掘ることができない。
登ってきた白い尾根を見下ろすと、昼を過ぎてもほとんど白さが変わっていない。さっきまでバラバラと落ち
ていた霧氷は落ちるのをやめたようだ。気温があまり上がっていないのだう。
ここでのランチタイムは4度目だが、すべて快晴に恵まれている。
広い木無山の山頂台地は地雷原でもある。潅木に覆われた台地は雪の下に穴を隠しており、うっかり踏み込むと
股までごそっと潜ってしまうのである。初めて訪れた時にハマった穴は底まで1m以上あったのを覚えている。
山頂だけを見れば木無山という名前が理解できるのだが、山頂以外はほとんど豊かなブナやミズナラの森に覆わ
れたこの山が、どうして木無山と名付けられたのだろう。ちなみに三角点の名前は朝日前坂だ。
下山は急斜面に備えてツボ足のまま出発。スノーシューを履かなくてもほとんど沈まない雪質である。
歩き出すとすぐに美しいブナ林に変わる。霧氷は多少少なくなったようだが十分な美しさだ。
鞍部に向かって下降して行くと、尾根芯は笹ヤブで覆われている。山頂直下の登りにしてもここにしても、5回目
の通過で笹が出ているのを見るのは初めてである。
登り返した1153mピークからは東へ方向を変える。このピーク東側に広がるブナの台地は素晴らしい。
初めて訪れた時に「木無平」と名付けた場所だが、よく考えればこんなに豊かな森が木無平とは矛盾している。
ここは単にだだっ広い雪原ではなく、浅い谷状が入り組んだ微妙な地形の起伏が連続している。
一日中ボーっとしたくなるような素敵な場所だ。
霧氷の密度は薄くなったが、かえって透明感を増したようで儚い美しさを感じさせてくれた。
このままの状態で下山できれば言うことはないのだが、そんなにうまく行くはずはない。
南の798m標高点へ向かう尾根を途中で東へ振る。そのまま直進すれば長坂谷を渡渉しなければならないからであ
る。東の前坂谷沿いの林道が右岸にあるところへ着地する必要があるのだ。
標高が下がるにつれヤブが出始め、さすがに雪も腐ってきた。
ヤブっぽい植林の尾根を林道に着地。
終わり良ければと言うが、終わりが少々不満でも今日一日の輝きが褪せることはない。
自分の登山人生の中でも最高と言える霧氷の煌めきが残す余韻を胸に、雪の融けた林道を歩いて行った。
山日和
【山 域】奥越 木無山周辺
【天 候】晴れ
【メンバー】sato、山日和
【コース】蛇鏡橋7:00---7:30尾根取付---10:10三角点蛇鏡---12:30木無山14:00---1500:P1153m----17:30蛇鏡橋
蛇鏡岳とはなんともいわくありげな名前である。「福井の山150」と「登ってみねの福井の山」によると昔むかし、
この山の山麓に大蛇の棲む池があり、水面に浮かび上がった大蛇の姿が岩壁に映ったことから岩壁を蛇鏡と呼ぶよ
うになったという。そしてこの池は蛇鏡の池(または蛇池)と呼ばれたらしい。
いつしかこの池はなくなり、ザゼンソウの群落のある湿地になったということだが、今は和泉スキー場に変わって
消えてしまったようだ。
木無山を訪れるのは今回で5回目だが、蛇鏡岳は初めてここを訪れて以来22年振りだ。
今年は積雪が少ない上に雪融けが早く、ヤブが出ていることが予想される。まともに歩くことができるだろうか。
前坂谷の林道入口が除雪されていたので車を止めることができた。ここに止められなければ大枚1000円をはた
いてスキー場の駐車場に止めないといけないところだ。
ここから眺める山稜は真っ白で、今日こそは霧氷を期待できそうである。
今年の積雪状況からすれば長倉谷の林道は雪無しかと思っていたが、意外にも入口からスノーシューを履くこ
とができた。冷え込みのおかげで雪はよく締まっている。
蛇鏡岳への取付きを間違えて隣の尾根を上がりかけてしまった。ここは9年前のスノー衆で使った尾根である。
どこかで見た風景だと気付いたが、元に戻るのも面倒くさく、谷へ下って対岸の尾根に這い上がった。
急斜面だがツボ足ではズボズボと潜る雪は、スノーシューを履けば快適に歩くことができる。ヒールリフターを
効かせれば階段を歩くように高度を稼ぐことができた。
本来の尾根は下部は植林だが、地図にない林道を過ぎれば若いブナと雑木の尾根に変わる。50センチ程度の微々
たる積雪だがヤブもなく快適な尾根歩きだ。右手には雪に覆われた蛇鏡の岩壁が迫ってきた。
スキー場からの尾根の合流点でひと息入れる。先週とは違って、今日は予報通りの快晴だ。
ここから蛇鏡岳への尾根が今日の核心部と言える。雪が付いていれば雪壁状だし、なければヤブを漕がなければ
ならない。今回はほぼ後者である。
できるだけ安全な尾根芯を進むが、かなり厄介なヤブに雪を求めて岩壁側へ逃げる。
ピッケルは持って来たものの、アイゼンではなくチェーンスパイクしか持っていないので、蛇鏡の岩壁側の登行
には緊張させられた。落ちればアウトなので、慎重にステップを切りながら、ピッケルとストックで確実に3点
確保してじりじりと歩を進めた。アイゼンを履いていればもう少し楽ができただろう。
立ち木のない白い岩壁は長倉谷へ一気に切れ落ちて痛快な高度感だ。そのはるか奥には越美国境稜線の山々が
並ぶ。
尾根芯の傾斜が緩むと雪が繋がって、1121.2mの三角点蛇鏡に到着。ようやく緊張が溶ける一瞬を迎えた。
「福井の山150」によれば蛇鏡岳の山頂はここではなく、次のCa1140mピークらしい。
ここから霧氷の回廊が始まった。木という木にびっしりと付いた霧氷は風が強かったのか、よく発達して5セ
ンチ以上の板状になっている。
蛇鏡岳の最高点では見事な展望が開けた。荒島岳の雄姿の左に見える縫ヶ原山の方が気になるのは私だけだ
ろうか。見わたす山々はすべて白く、今日はどこへ行っても霧氷祭を楽しめそうだ。
山頂を過ぎると徐々に太いブナが現れ始める。1098m標高点のあたりに広がる雪原はまったく素晴らしい。
ゆったりと広がる雪の原に立つ白装束のブナたち。まるで霧氷のラビリンスに迷い込んだようだ。
再び尾根の形がはっきりと現れるところへの登りは笹ヤブが出てすっきりしない。2月の木無山では考えられ
ない状態だ。
笹の障害物を乗り越えて尾根に立てば霧氷の回廊の続編が始まる。これほど白い森を見るのは初めてかもしれ
ない。9年前のスノー衆の時も見事な霧氷の森だったが繊細な印象だった。今日の霧氷はそれを遥かに凌駕して
いる。空の青とわずかに見える木の幹の茶色以外は白一色の世界に包まれた。
一昨日の雨はここでは新雪だったようで、パウダーに覆われた純白の雪面は美しい。
降り注ぐ日差しで霧氷が落ち始めている。普通はパラパラと落ちる霧氷も発達し過ぎて、雪面にドスンという
音を響かせるありさまだ。これに直撃されたらたまらない。美しい霧氷も一歩間違えれば凶器になりかねないの
である。
1162mを標高点を過ぎて木無山頂への登りにかかる。
後ろで悲鳴が上がったので驚いて振り向くと、satoさんが穴にハマっていた。右足が宙ぶらりんでもがいている。
ザックを外してなんとか脱出。思わぬところで雪面の下に空洞ができているので油断できない。
いつもなら雪庇が発達して風上側が雪の片斜面になっている山頂直下の登りは様相が違っていた。雪庇どころ
かヤブが出て、傾斜の緩い風上側の雪を繋いで進むありさまである。
スノーシューを外すという点だけは同じだが、美しい雪庇を眺めながらアイゼンとピッケルで山頂へ飛び出すと
いうクライマックスは些か冴えないものになってしまった。
しかし、辿り着いた木無山1328.5mの山頂は極上の空間だ。遮るもののない展望はまさに360度。残念ながら白山
方面は雲がかかって見えないが、石徹白の山の入口の小白山と大日ヶ岳から南はすべて手中にできる。
蛇鏡岳付近では吹いていた風も弱まり、荒島岳を正面に望むベストポジションにランチ場を設営できた。
固く締まった雪はスコップ無しでは掘ることができない。
登ってきた白い尾根を見下ろすと、昼を過ぎてもほとんど白さが変わっていない。さっきまでバラバラと落ち
ていた霧氷は落ちるのをやめたようだ。気温があまり上がっていないのだう。
ここでのランチタイムは4度目だが、すべて快晴に恵まれている。
広い木無山の山頂台地は地雷原でもある。潅木に覆われた台地は雪の下に穴を隠しており、うっかり踏み込むと
股までごそっと潜ってしまうのである。初めて訪れた時にハマった穴は底まで1m以上あったのを覚えている。
山頂だけを見れば木無山という名前が理解できるのだが、山頂以外はほとんど豊かなブナやミズナラの森に覆わ
れたこの山が、どうして木無山と名付けられたのだろう。ちなみに三角点の名前は朝日前坂だ。
下山は急斜面に備えてツボ足のまま出発。スノーシューを履かなくてもほとんど沈まない雪質である。
歩き出すとすぐに美しいブナ林に変わる。霧氷は多少少なくなったようだが十分な美しさだ。
鞍部に向かって下降して行くと、尾根芯は笹ヤブで覆われている。山頂直下の登りにしてもここにしても、5回目
の通過で笹が出ているのを見るのは初めてである。
登り返した1153mピークからは東へ方向を変える。このピーク東側に広がるブナの台地は素晴らしい。
初めて訪れた時に「木無平」と名付けた場所だが、よく考えればこんなに豊かな森が木無平とは矛盾している。
ここは単にだだっ広い雪原ではなく、浅い谷状が入り組んだ微妙な地形の起伏が連続している。
一日中ボーっとしたくなるような素敵な場所だ。
霧氷の密度は薄くなったが、かえって透明感を増したようで儚い美しさを感じさせてくれた。
このままの状態で下山できれば言うことはないのだが、そんなにうまく行くはずはない。
南の798m標高点へ向かう尾根を途中で東へ振る。そのまま直進すれば長坂谷を渡渉しなければならないからであ
る。東の前坂谷沿いの林道が右岸にあるところへ着地する必要があるのだ。
標高が下がるにつれヤブが出始め、さすがに雪も腐ってきた。
ヤブっぽい植林の尾根を林道に着地。
終わり良ければと言うが、終わりが少々不満でも今日一日の輝きが褪せることはない。
自分の登山人生の中でも最高と言える霧氷の煌めきが残す余韻を胸に、雪の融けた林道を歩いて行った。
山日和