【奥美濃】天地有情 憧憬の蕎麦粒山沢山旅
Posted: 2021年7月22日(木) 10:04
【日 付】 2021年7月17日(土)
【山 域】 奥美濃
【メンバー】 山日和さん sato
【天 候】 晴れ
【ルート】 坂内広瀬大谷川二俣少し手前~廃林道~みやま谷~蕎麦粒山~南西尾根
~P
「今日もよろしくおねがいします。」
お山の神様にご挨拶をして一歩を踏み出す。すんなりと二歩目も出る。
大丈夫だ。夢見ていた、見果てぬ夢かな、とも思っていた沢山旅。
胸の中で小さく灯り続けていた光が、ぱっと明るくなる。
谷間に鳴り響く水音を聞きながら、草ヤブの中に細い踏み跡が残るばかりとなった廃林道を進んでいく。
夜露を含み生き生きとした緑の葉っぱで覆われたかつての道。踏み跡を飾るのはキツネノボタン。
きれいな紫色のお花、白いお花も咲いている。伐採した木を運ぶための道だったのだろうか。
役割りを終え、草木やお花に飾られ、静かに山へと戻っていく途中のこの道はなんだかうれしそうだ。
そして、その道を歩いているわたしはなんだか楽しい。
ゆるりと東に曲がり水の音が近くなり、大谷川の清冽な流れが目に飛び込んだ時は胸が高鳴った。
枝谷から流れ落ちる小さな滝ひとつひとつも、凛としたうつくしさがあり見入ってしまう。
ヤグルマソウの群落、サワグルミの林にわぁっとよろこび、気が付くと、二俣を通り越していた。
ちゃんと地図を見ていなかったからだと反省するが、
灌木をかき分け、まだ着かないと、ふうふう言いながら歩くと思っていたのになぁ、と可笑しくなる。
目に飛び込んできたのは、明るい自然林と柔らかな流れだった。
蕎麦粒山の東側をくるりと囲み大谷川へと流れるみやま谷。
憧憬のお山の、夢見た谷の、秘密の表情の始まりは、どこまでも穏やかで平和だった。
荒々しい岩肌の下、その先の向きを変えたところにはどんな風景が広がっているのだろう。
びっくりするくらい透明な水を眺め、この水が見てきた風景をうっとりと想う。
木漏れ陽が降り注ぐ煌めく谷の中をゆらりゆらりと遡っていくと、両岸に岩壁が迫り、きゅっと流れが細くなった。
かわいいミニチュアゴルジュ。淵は足が届くかどうか。左側をそろそろとへつる。流木に助けられ通過。
出来たぁ、と無邪気な子供のようにうれしくなる。この先、流れが活発に。次々と現れる小滝にこころが躍る。
標高780mの二俣、核心部の手前で休憩。
左足に、心配していたのとは違う痛み、靴擦れができてしまいピリピリ痛みを覚えるが力は入る。
胸の中の灯も光り輝いている。うん、大丈夫だ。
連瀑帯に入っても自然林に囲まれた谷は明るく、流れ落ちる滝は力強さと優美さにあふれていた。
まんまるの淵にまっすぐに流れ落ちる滝、段状の岩盤の上をさらさらと流れる滝、
ある滝はひと筋に、ある滝はいく筋にも広がり・・・。標高差200m弱の間に架かる様々な表情の滝。
そのひとつひとつが蕎麦粒山の祈りのように思える。
大丈夫かなぁ、と、からだが迷った滝は巻き、大丈夫、と感じた滝は一歩ずつ登っていく。
今、ここ、目の前の風景をからだいっぱいで味わう。
ひと際大きな滝が現れた。傍らには守り神のようなサワグルミ。
最後の滝だ。真下に立つと、黒い岩盤の上を勢いよく滑り落ちてくるまっ白な水飛沫の中に吸い込まれていきそうだ。
左岸に上がり、少し流れから離れると、空気が変わった。
緑の木々と岩と水が織り成す絶妙の世界。まさに祈りの世界がわたしたちの前に展開していた。
そのまま、流れを左に見て、蕎麦粒山の鼓動を感じながら、一歩を味わいながら、滝の上の世界へと近づいていく。
登り着くと、そこは静謐さを湛えた緑の楽園だった。苔むした岩の間の流れもやさしい。
流れがふわりと向きを変えていくところ。ここはブナとトチのゆたかな森だった。
幾重にも折り重なるブナの葉の間から、こぼれ落ちる光を受け、煌めくせせらぎを眺めながら、
まだ先は長いが、ほっこりとしたお昼のひと時を過ごす。
木立の奥からは、トチの巨木が静かにわたしたちを見つめていた。
緩やかだった谷が傾斜を増してきた。食後でからだが重いが気持ちは弾んでいる。
この水の源は?どきどきしながら細くなっていく流れを遡っていく。
どこまで登ったのだろう。最初の一滴はゴロゴロ重なった石の間からじんわりとしみ出ていた。
見たかった蕎麦粒山から生まれたお水。
手を後ろに回し、少し下で汲んだ水の詰まったボトルをリュックの上からそっとなで、うん、うんと頷く。
水が切れるといよいよ谷は急こう配に。立ち止まる度に振り返り、凛々しいお姿の小蕎麦粒山に力をいただく。
最後は、やっぱりシャクナゲのヤブだった。
なかなか前に進めずため息をつきながらも、やっぱりシャクナゲでなければね、と楽しむ。
稜線に辿り着けば楽になるかな、と思ったが甘かった。微かに踏み跡が残っているものの枝が邪魔をして歩きにくい。
と、その時、さぁっと爽やかな風が背中を押してくれた。
からだに籠っていた熱がすっと引き、背筋が伸びる。山頂まであともう少し。そう、もう少ししかない。
「到着。」と山日和さんの声。
ぽん、と飛び出したことにびっくりすると同時に「わぁ」と歓声を上げ、へなへなとなる。
もくもくと白い雲が湧き上がった青い空、幾重にも連なる深緑の山。その真ん中に、静かに、穏やかに佇む蕎麦粒山。
辿り着いたてっぺんは、平和な空気に満たされたまあるい世界だった。
15時20分。
沢装備を外し、ヒルを取り払い、でんと腰をおろしてから50分になろうとしていた。
もう、出発しなければならない。重い腰を上げ、散らかした荷物を片付ける。
ここからは広瀬の造園屋さんが数年をかけて整えてくださった登山道。
登りでは問題なかった膝の痛みをかばいながら、たったかと下っていく山日和さんを追いかける。
印象に残っているブナが見えた。・1075手前、昨冬、水の風景を思い描いた場所だ。
窪地は少し前までは水を湛えた池だったのだろう。草で覆われた窪地の中に浮かぶ、涙の形の湿地を見て確信する。
ここまで順調に歩けたが、この先ササヤブが濃くなり、道を失うところも。ヤブをかき分け進んでいく。
湧谷山との分岐1000mピークに着くと、左に明瞭な道が見えほっとする。
健やかなブナが立ち並ぶ気持ちのいい道。緑の葉っぱの向こうから、蕎麦粒山がじっと見つめている。
時間が気になり足早になってしまうのが残念だ。
大谷川に出た。あぁ着いた、と、ばちゃばちゃ渡り、急ぎ足で駐車地に向かう。
なんとか18時までに下れた。
「またヒルが付いている!」
夢見た沢山旅のフィナーレ。
川の流れを見つめながら輝く一日を振り返り、しみじみとした気持ちに包まれる予定が、ヒルか、と笑ってしまう。
車に積もうとリュックを持ち上げ、あっ、と気づく。憧憬の山旅は限りなく続いていくのだと。
明日、蕎麦粒山のお水で淹れたコーヒーを味わいながら、地図を眺め、わたしは何を想い描くのだろう。
早くもどきどきし始める。
sato
【山 域】 奥美濃
【メンバー】 山日和さん sato
【天 候】 晴れ
【ルート】 坂内広瀬大谷川二俣少し手前~廃林道~みやま谷~蕎麦粒山~南西尾根
~P
「今日もよろしくおねがいします。」
お山の神様にご挨拶をして一歩を踏み出す。すんなりと二歩目も出る。
大丈夫だ。夢見ていた、見果てぬ夢かな、とも思っていた沢山旅。
胸の中で小さく灯り続けていた光が、ぱっと明るくなる。
谷間に鳴り響く水音を聞きながら、草ヤブの中に細い踏み跡が残るばかりとなった廃林道を進んでいく。
夜露を含み生き生きとした緑の葉っぱで覆われたかつての道。踏み跡を飾るのはキツネノボタン。
きれいな紫色のお花、白いお花も咲いている。伐採した木を運ぶための道だったのだろうか。
役割りを終え、草木やお花に飾られ、静かに山へと戻っていく途中のこの道はなんだかうれしそうだ。
そして、その道を歩いているわたしはなんだか楽しい。
ゆるりと東に曲がり水の音が近くなり、大谷川の清冽な流れが目に飛び込んだ時は胸が高鳴った。
枝谷から流れ落ちる小さな滝ひとつひとつも、凛としたうつくしさがあり見入ってしまう。
ヤグルマソウの群落、サワグルミの林にわぁっとよろこび、気が付くと、二俣を通り越していた。
ちゃんと地図を見ていなかったからだと反省するが、
灌木をかき分け、まだ着かないと、ふうふう言いながら歩くと思っていたのになぁ、と可笑しくなる。
目に飛び込んできたのは、明るい自然林と柔らかな流れだった。
蕎麦粒山の東側をくるりと囲み大谷川へと流れるみやま谷。
憧憬のお山の、夢見た谷の、秘密の表情の始まりは、どこまでも穏やかで平和だった。
荒々しい岩肌の下、その先の向きを変えたところにはどんな風景が広がっているのだろう。
びっくりするくらい透明な水を眺め、この水が見てきた風景をうっとりと想う。
木漏れ陽が降り注ぐ煌めく谷の中をゆらりゆらりと遡っていくと、両岸に岩壁が迫り、きゅっと流れが細くなった。
かわいいミニチュアゴルジュ。淵は足が届くかどうか。左側をそろそろとへつる。流木に助けられ通過。
出来たぁ、と無邪気な子供のようにうれしくなる。この先、流れが活発に。次々と現れる小滝にこころが躍る。
標高780mの二俣、核心部の手前で休憩。
左足に、心配していたのとは違う痛み、靴擦れができてしまいピリピリ痛みを覚えるが力は入る。
胸の中の灯も光り輝いている。うん、大丈夫だ。
連瀑帯に入っても自然林に囲まれた谷は明るく、流れ落ちる滝は力強さと優美さにあふれていた。
まんまるの淵にまっすぐに流れ落ちる滝、段状の岩盤の上をさらさらと流れる滝、
ある滝はひと筋に、ある滝はいく筋にも広がり・・・。標高差200m弱の間に架かる様々な表情の滝。
そのひとつひとつが蕎麦粒山の祈りのように思える。
大丈夫かなぁ、と、からだが迷った滝は巻き、大丈夫、と感じた滝は一歩ずつ登っていく。
今、ここ、目の前の風景をからだいっぱいで味わう。
ひと際大きな滝が現れた。傍らには守り神のようなサワグルミ。
最後の滝だ。真下に立つと、黒い岩盤の上を勢いよく滑り落ちてくるまっ白な水飛沫の中に吸い込まれていきそうだ。
左岸に上がり、少し流れから離れると、空気が変わった。
緑の木々と岩と水が織り成す絶妙の世界。まさに祈りの世界がわたしたちの前に展開していた。
そのまま、流れを左に見て、蕎麦粒山の鼓動を感じながら、一歩を味わいながら、滝の上の世界へと近づいていく。
登り着くと、そこは静謐さを湛えた緑の楽園だった。苔むした岩の間の流れもやさしい。
流れがふわりと向きを変えていくところ。ここはブナとトチのゆたかな森だった。
幾重にも折り重なるブナの葉の間から、こぼれ落ちる光を受け、煌めくせせらぎを眺めながら、
まだ先は長いが、ほっこりとしたお昼のひと時を過ごす。
木立の奥からは、トチの巨木が静かにわたしたちを見つめていた。
緩やかだった谷が傾斜を増してきた。食後でからだが重いが気持ちは弾んでいる。
この水の源は?どきどきしながら細くなっていく流れを遡っていく。
どこまで登ったのだろう。最初の一滴はゴロゴロ重なった石の間からじんわりとしみ出ていた。
見たかった蕎麦粒山から生まれたお水。
手を後ろに回し、少し下で汲んだ水の詰まったボトルをリュックの上からそっとなで、うん、うんと頷く。
水が切れるといよいよ谷は急こう配に。立ち止まる度に振り返り、凛々しいお姿の小蕎麦粒山に力をいただく。
最後は、やっぱりシャクナゲのヤブだった。
なかなか前に進めずため息をつきながらも、やっぱりシャクナゲでなければね、と楽しむ。
稜線に辿り着けば楽になるかな、と思ったが甘かった。微かに踏み跡が残っているものの枝が邪魔をして歩きにくい。
と、その時、さぁっと爽やかな風が背中を押してくれた。
からだに籠っていた熱がすっと引き、背筋が伸びる。山頂まであともう少し。そう、もう少ししかない。
「到着。」と山日和さんの声。
ぽん、と飛び出したことにびっくりすると同時に「わぁ」と歓声を上げ、へなへなとなる。
もくもくと白い雲が湧き上がった青い空、幾重にも連なる深緑の山。その真ん中に、静かに、穏やかに佇む蕎麦粒山。
辿り着いたてっぺんは、平和な空気に満たされたまあるい世界だった。
15時20分。
沢装備を外し、ヒルを取り払い、でんと腰をおろしてから50分になろうとしていた。
もう、出発しなければならない。重い腰を上げ、散らかした荷物を片付ける。
ここからは広瀬の造園屋さんが数年をかけて整えてくださった登山道。
登りでは問題なかった膝の痛みをかばいながら、たったかと下っていく山日和さんを追いかける。
印象に残っているブナが見えた。・1075手前、昨冬、水の風景を思い描いた場所だ。
窪地は少し前までは水を湛えた池だったのだろう。草で覆われた窪地の中に浮かぶ、涙の形の湿地を見て確信する。
ここまで順調に歩けたが、この先ササヤブが濃くなり、道を失うところも。ヤブをかき分け進んでいく。
湧谷山との分岐1000mピークに着くと、左に明瞭な道が見えほっとする。
健やかなブナが立ち並ぶ気持ちのいい道。緑の葉っぱの向こうから、蕎麦粒山がじっと見つめている。
時間が気になり足早になってしまうのが残念だ。
大谷川に出た。あぁ着いた、と、ばちゃばちゃ渡り、急ぎ足で駐車地に向かう。
なんとか18時までに下れた。
「またヒルが付いている!」
夢見た沢山旅のフィナーレ。
川の流れを見つめながら輝く一日を振り返り、しみじみとした気持ちに包まれる予定が、ヒルか、と笑ってしまう。
車に積もうとリュックを持ち上げ、あっ、と気づく。憧憬の山旅は限りなく続いていくのだと。
明日、蕎麦粒山のお水で淹れたコーヒーを味わいながら、地図を眺め、わたしは何を想い描くのだろう。
早くもどきどきし始める。
sato