【伊吹山】笹又より上平寺越の古道を辿って
Posted: 2021年4月19日(月) 20:39
【 日 付 】2021年4月11日(日曜日)
【 山 域 】伊吹山(江美国境)
【メンバー】biwa爺さん, kitayama-walkさん, 山猫
【 天 候 】晴れ
【 ルート 】さざれ石公園9:52〜12:10南東尾根取りつきの駐車場〜12:40カレンフェルトの展望地(ランチ場)13:49〜15:00伊吹山山頂15:26〜15:35伊吹山ドライブウェイ終点〜16:02黒龍さん(鈴岡神社)16:08〜16:19三角点(p1206.3)16:22〜16:41静馬ヶ原〜17:32笹又登山口〜17:58さざれ石公園
伊吹山の南東尾根の上平寺越を越える笹又からの古い道があることを教えてくれたのはbiwa爺さんであった。biwa爺が山中で失くされたストックを探しに行った南東尾根への山行へのrepへのレスのお陰である。
伊吹山の古い地図を見てみる笹又から谷を辿り、標高点602mのあたりから斜面を南東に折り返し、尾根を辿るルートが記されている。「山と高原地図」の伊吹山にも注意深く眺めるとこのルートがうっすらと破線で記されている。このルートは尾根の上部では伊吹山ドライブウェイに塗り替えられてしまっているので、このルートを辿るには伊吹山ドライブウェイが冬季通行止の期間に限られる。
どうせこのルートを辿って伊吹山へのルートを周回するのであれば、静馬ヶ原の雪がなくなり、座禅草が咲く季節がいいと思っていた。伊吹山ドライブウェイが開通するのは今年は4/17のようだ。この週末は最後の機会になるだろう。まずはbiwa爺さんにご都合をお伺いする。4/7(水)の芦倉山で筋肉を酷使されたようだが、日曜日までには回復してくれるでしょうとのこと。kitayama-walk(以下KWさんと略)さんもご同行して下さることとなった。
京都からKWさんの車に乗せていただき、biwa爺さんと菩提寺のPAで8時とかなり遅い待ち合わせの時間に待ち合わせることになったのは、biwa爺さんがメールで6時と記したのを私が8時と読み違えたからであった。KWさんがbiwa爺さんに時間の変更を連絡して下さったお陰でbiwa爺さんを2時間お待たせることにはならずに済んで良かった。
大垣西でインターを降りてR417を北上すると池田山の北側を回り込み、揖斐川の支流である粕川に沿って上流へと向かう。南から長谷川が合流する地点では川合の集落が忽然と現れる。深い山あいの斜面にへばりつくような集落は何とも絵になる光景だ。
新緑が鮮やかな谷間を長谷川の流れに沿って南下する。笹又のさざれ石公園に到着したのは9時半を大きく過ぎて10時近くになっていた。
登山の準備を整えるとまずは喜内谷の河原に下降する。砂礫の多い流れを対岸に渡渉してて、出合から賤野谷へと入る。谷沿いの植林の中には踏み跡が続いているが、果たして古道によるものか作業道かは分からない。
早速にも谷沿いには石垣が現れる。所々に大きな炭焼き釜の跡も現れる。頻繁に渡渉しながら谷を進むが、流れが細く、渡渉の難易度は低い。今の季節だから安心して歩くことが出来るが、もう少し季節が進むとヒルで大変なことになりそうだ。
ようやく植林が終わって谷が自然林になったかと思うと、正面に苔むした古い堰堤が現れる。こんなとことに堰堤が・・・と驚く間も無く、否応なく視線が向かうのは堰堤を越えた右岸にそびえるとてつもなく大きなトチノキの樹だ。丁度、地図の破線の折り返し地点となる標高点602mのあたりだ。
まずはこのトチノキを訪れようと目論見るが、右岸の斜面には一向に踏み跡らしきものは見当たらない。それどころか、落葉も全くないざれた斜面は非常に滑りやすくトラバースが困難なので、一旦は斜面の傾斜が緩くなるまで斜面を登る。トラバース気味に斜面を下降して大樹の下に辿りついた。
地図の破線ルートはここから右岸の急斜面をトラバースして東に進むことになっているが、やはり斜面にはそのような道は明らかではない。進むべき方向に斜面を見上げると斜面にも二本の大きなトチノキがある。特に上方のものは相当に大きそうだ。
トチノキを目指して鹿道と思われるトレースを頼りに斜面をトラバースする。やがて大きなトチノキに近づくと徐々にトレースが明らかになり、その先の急斜面をトラバースするバンドが目に入る。
あたかもこのトチノキが道標の役割を果たしているかのようであるが、よくよく考えて見るとこれらのトチノキを目にした者が自ずとその樹下に足を運ぶことになるのは不思議ではない。ここを通る多くの旅人の心を捉えてきたのだろう。
この斜面のトチノキは根元の近くから多く枝分かれしおり、その太い支幹の一つ一つが大樹の風格を備えている。先程の堰堤のトチノキが均整のとれた樹形を示しているのに対し、斜面の上部のトチノキは大きく曲がった支幹が不思議な躍動感を見せてくれるのであった。これらのトチノキの大樹に出会えただけでも、この古道探しの山行の甲斐があったというものだ。
トチノキを過ぎると再び植林の斜面のトラバースとなるが、途端に明瞭な道となり、道沿いにはオレンジ色のテープまで現れる。尾根が近づき斜面が緩やかになると自然林となり、掘割の道が現れた。
尾根芯に出ると古道は大きくカーブして、緩やかに尾根を登ってゆく。残念ながら快適な尾根道は長くは続かない。突然、尾根に散乱する多くのゴミが現れたかと思うと、ドライブウェイに設けられた駐車地に飛び出した。標高830m地点との標識がある地点だ。彼方には純白の白山が見える。左手の山頂部にわずかに雪をまとった山は能郷白山だろうか。
まずはドライブウェイを辿って、芭蕉の句碑がある展望地に出る。ドライブウェイが山頂まで通じる前の終点であったところだ。ドライブウェイの周囲では樹々が黄色い小さな花を枝先にいっぱい咲かせている。檀香梅のようだ。
ここからは南東尾根に取り付く。歩き始めると尾根には次々とカタクリの花が現れる。少し登ったところで石灰岩の敷かれた古いトラバース道を探り当てることが出来たので、榧の藪に煩われることのなく斜面を緩やかに登ることが出来る。古道が尾根芯に戻ったところでカレンフェルトの岩地となり、眼下にドライブウェイ、正面に霊仙山の眺望が広がる。好展望を望みながら、ランチ休憩をとることにする。
白菜菜ときのこ類、豆腐と豚肉の塩麹漬けでトマト鍋を調理し、鍋の後半はきしめんを投入する。料理をしている間に若いトレラン・スタイルの男性が降りてくる。さざれ石公園から登山道を登り、下山は賤野谷の左岸尾根、喜内谷との間の尾根を下降する予定らしい。のんびりと鍋を楽しむ瞬く間に1時間以上の時間が過ぎる。
カレンフェルトを後にca1100mの台地に上がると途端に山毛欅の樹林となる。訪れる度に伊吹山にこんな山毛欅の林があることに新鮮な驚きを感じるところだ。湖北の山で見るような大樹はないものの、なだらかな起伏と樹々の間の程よい間隔に心地よさを覚える。台地状のピークを越えると広い尾根には小さな池が現れる。
前回、夏に辿った時には池の周りは曇りだったこともあり薄暗く、樹林の中を気まぐれに通り過ぎる霧のせいで幻想的な雰囲気だったのだが、この日の樹林は非常に明るい。山頂直下の登りになると山毛欅の樹林は唐突に姿を消す。灌木帯が現れたかと思うと徳彦霊神と記された小さな石の祠が現れる。
山頂の周囲は防鹿ネットが張られていることを心配していたが、まだ張られておらず、容易に山頂の周回路に入ることが出来た。山頂には人影が見えるが、この時期は山頂周回路をたどる人はいないようだ。
山頂の一等三角点を訪ね、ヤマトタケルの石像を拝む。ヤマトタケルの前で写真を撮ろうとすると単独行の男性が通りがかるので三人揃って写真を撮って頂いた。
山頂からは国見峠を経て虎子山へと至る北尾根を望む。金糞岳の北には左千方、三周ヶ岳、美濃俣から笹ヶ峰へと続く越美国境の山々、高丸を望み、その右手遠方には再び白山を望む。
中央登山道を下ってドライブウェイの終点の駐車場に下降すると、数台の車がある。ドライブウェイの開業に向けて準備をしておられるようだ。駐車場の直下にはドライブウェイには通行には支障はない程度ではあるが、わずかに雪が残っている。次の週末の開通までには除雪されるのだろう。
ドライブウェイを下ってp1206.3ピークの手前の広場に出る。無線禁止とあるのは車で無線の機材をここまで運んで、ここで無線交信を楽しむ方がおられるからだろう。
まずは黒龍社とも呼ばれる鈴岡神社の跡地を訪ねる。踏み跡の不明瞭な裸地をトラバースすると笹原の間に刈り払いのされた明瞭な道が現れ、すぐに石碑が立ち並ぶ神社跡に出る。四拾回登拝記念、五拾回登拝記念と刻まれた石柱が建てられている。かつては盛んにここに登拝された方がおられたようだが、果たしてどこから登られたのだろう。今となってはここに辿り着くのはドライブウェイを使わない限りは容易ではないだろう。
問題はここからであった。折角なので小ピークの三角点を踏みたいと思うのだが、ここで完全に道は途絶えてしまっている。山頂までは多少の踏み跡があるものとばかり期待していたが、考えが甘かったようだ。
濃密な熊笹の藪の中に鹿道を探りあてて笹薮を進むがかすかな鹿道もすぐに不明瞭となる。山頂まではあとはわずかに50mほどの筈であるが、濃密な笹薮と格闘する羽目に陥る。やがて唐突に笹薮は終わり、低木に囲まれた小高い隆起の上に小さな三角点の標石を見つける。この三角点の点名は元地というらしい。
ここから振り返る伊吹山の姿は普段みる景色と異なって、見慣れない山容に思われた。下山は斜面の北西側の笹薮のない灌木帯を歩く。ほとんど藪をこぐことなく、呆気ないほど容易にドライブウェイに戻ることが出来る。
わずかにドライブウェイを歩いて静馬ヶ原の斜面に出ると、biwa爺さんとkitayama-walkさんに先に行ってもらい、座禅草を探す。p1149の南側斜面には座禅草は見当たらなかったが、静馬ヶ原からのトラバース道に入ると登山道の周囲に数多くの座禅草が咲いている。中には盛りを過ぎたと思われる花もある一方で、まだ地面から顔を出しばかりと思われるものもあった。座禅草は湿地に咲いているのだが、乾燥した斜面に咲くのは珍しい。夕陽を浴びて艶やかな光沢を放つ臙脂色の苞が何とも印象的だった。
座禅草の咲く範囲は意外と狭く、同じような斜面が続くのだがすぐに座禅草の姿は見られなくなる。トラバース道を辿るとまもなくBさんとKWさんに追いつく。先ほどの三角点ピークから北東に伸びる尾根を乗り越えると笹又への急下降が始まる。
ここは人が多く通る道なのだろう。急斜面につづら折りの明瞭な道がうまくつけられている。登山道沿いには数多くのヒトリシズカの花が咲いている。やがて斜度が緩やかになると防鹿柵の扉を開けて、舗装された林道に出る。周辺には段々畑が広がり、数人の人たちが畑仕事をされておられた。
地図を確認すると、駐車場まではまだまだ距離がある。KWさんは一人で舗装路をかけ下りて行かれる。駐車場に戻って車で迎えに来て下さるつもりだろう。
舗装路を下って行くと林道の間をショートカットする道がある。迎えに来てくれるKWさんとすれ違う可能性があるので、biwa爺さんの姿が見える範囲で急ぎ足で近道を辿る。さざれ石公園に下降すると桜が満開であったが、桜の花見は諦めて急いで駐車場に降りるとKWさんに出会うことが出来た。KWさんは最後まで舗装林道を走って降りられたそうだが、林道はかなり斜面を大きく巻いているので、それほどの時間差にはならなかったようだ。
古道と大トチ、南東尾根の展望とぶな林、藪漕ぎの三角点探しに最後は座禅草と充実した山行であった。下山後はさざれ石公園を出発し、池田温泉に向かう。狭い山あいを抜けて濃尾平野に出るとあたりは急速に薄暗くなっていった。
下山後、KWさんから青山舎から出版されている草川啓三さんの本にトチノキのことが書かれていることを教えていただく。我が家のキッチンのカウンターのいつも手を伸ばせばすぐ届くところに同氏の伊吹山案内を並べているのだが、改めてこの本を紐解くと、上平寺越のルートとトチノキのことが記されている。予習不足が否めないが、事前情報なく山中でトチノキの巨木と出遭うのも格別の感動があるように思う。
【 山 域 】伊吹山(江美国境)
【メンバー】biwa爺さん, kitayama-walkさん, 山猫
【 天 候 】晴れ
【 ルート 】さざれ石公園9:52〜12:10南東尾根取りつきの駐車場〜12:40カレンフェルトの展望地(ランチ場)13:49〜15:00伊吹山山頂15:26〜15:35伊吹山ドライブウェイ終点〜16:02黒龍さん(鈴岡神社)16:08〜16:19三角点(p1206.3)16:22〜16:41静馬ヶ原〜17:32笹又登山口〜17:58さざれ石公園
伊吹山の南東尾根の上平寺越を越える笹又からの古い道があることを教えてくれたのはbiwa爺さんであった。biwa爺が山中で失くされたストックを探しに行った南東尾根への山行へのrepへのレスのお陰である。
伊吹山の古い地図を見てみる笹又から谷を辿り、標高点602mのあたりから斜面を南東に折り返し、尾根を辿るルートが記されている。「山と高原地図」の伊吹山にも注意深く眺めるとこのルートがうっすらと破線で記されている。このルートは尾根の上部では伊吹山ドライブウェイに塗り替えられてしまっているので、このルートを辿るには伊吹山ドライブウェイが冬季通行止の期間に限られる。
どうせこのルートを辿って伊吹山へのルートを周回するのであれば、静馬ヶ原の雪がなくなり、座禅草が咲く季節がいいと思っていた。伊吹山ドライブウェイが開通するのは今年は4/17のようだ。この週末は最後の機会になるだろう。まずはbiwa爺さんにご都合をお伺いする。4/7(水)の芦倉山で筋肉を酷使されたようだが、日曜日までには回復してくれるでしょうとのこと。kitayama-walk(以下KWさんと略)さんもご同行して下さることとなった。
京都からKWさんの車に乗せていただき、biwa爺さんと菩提寺のPAで8時とかなり遅い待ち合わせの時間に待ち合わせることになったのは、biwa爺さんがメールで6時と記したのを私が8時と読み違えたからであった。KWさんがbiwa爺さんに時間の変更を連絡して下さったお陰でbiwa爺さんを2時間お待たせることにはならずに済んで良かった。
大垣西でインターを降りてR417を北上すると池田山の北側を回り込み、揖斐川の支流である粕川に沿って上流へと向かう。南から長谷川が合流する地点では川合の集落が忽然と現れる。深い山あいの斜面にへばりつくような集落は何とも絵になる光景だ。
新緑が鮮やかな谷間を長谷川の流れに沿って南下する。笹又のさざれ石公園に到着したのは9時半を大きく過ぎて10時近くになっていた。
登山の準備を整えるとまずは喜内谷の河原に下降する。砂礫の多い流れを対岸に渡渉してて、出合から賤野谷へと入る。谷沿いの植林の中には踏み跡が続いているが、果たして古道によるものか作業道かは分からない。
早速にも谷沿いには石垣が現れる。所々に大きな炭焼き釜の跡も現れる。頻繁に渡渉しながら谷を進むが、流れが細く、渡渉の難易度は低い。今の季節だから安心して歩くことが出来るが、もう少し季節が進むとヒルで大変なことになりそうだ。
ようやく植林が終わって谷が自然林になったかと思うと、正面に苔むした古い堰堤が現れる。こんなとことに堰堤が・・・と驚く間も無く、否応なく視線が向かうのは堰堤を越えた右岸にそびえるとてつもなく大きなトチノキの樹だ。丁度、地図の破線の折り返し地点となる標高点602mのあたりだ。
まずはこのトチノキを訪れようと目論見るが、右岸の斜面には一向に踏み跡らしきものは見当たらない。それどころか、落葉も全くないざれた斜面は非常に滑りやすくトラバースが困難なので、一旦は斜面の傾斜が緩くなるまで斜面を登る。トラバース気味に斜面を下降して大樹の下に辿りついた。
地図の破線ルートはここから右岸の急斜面をトラバースして東に進むことになっているが、やはり斜面にはそのような道は明らかではない。進むべき方向に斜面を見上げると斜面にも二本の大きなトチノキがある。特に上方のものは相当に大きそうだ。
トチノキを目指して鹿道と思われるトレースを頼りに斜面をトラバースする。やがて大きなトチノキに近づくと徐々にトレースが明らかになり、その先の急斜面をトラバースするバンドが目に入る。
あたかもこのトチノキが道標の役割を果たしているかのようであるが、よくよく考えて見るとこれらのトチノキを目にした者が自ずとその樹下に足を運ぶことになるのは不思議ではない。ここを通る多くの旅人の心を捉えてきたのだろう。
この斜面のトチノキは根元の近くから多く枝分かれしおり、その太い支幹の一つ一つが大樹の風格を備えている。先程の堰堤のトチノキが均整のとれた樹形を示しているのに対し、斜面の上部のトチノキは大きく曲がった支幹が不思議な躍動感を見せてくれるのであった。これらのトチノキの大樹に出会えただけでも、この古道探しの山行の甲斐があったというものだ。
トチノキを過ぎると再び植林の斜面のトラバースとなるが、途端に明瞭な道となり、道沿いにはオレンジ色のテープまで現れる。尾根が近づき斜面が緩やかになると自然林となり、掘割の道が現れた。
尾根芯に出ると古道は大きくカーブして、緩やかに尾根を登ってゆく。残念ながら快適な尾根道は長くは続かない。突然、尾根に散乱する多くのゴミが現れたかと思うと、ドライブウェイに設けられた駐車地に飛び出した。標高830m地点との標識がある地点だ。彼方には純白の白山が見える。左手の山頂部にわずかに雪をまとった山は能郷白山だろうか。
まずはドライブウェイを辿って、芭蕉の句碑がある展望地に出る。ドライブウェイが山頂まで通じる前の終点であったところだ。ドライブウェイの周囲では樹々が黄色い小さな花を枝先にいっぱい咲かせている。檀香梅のようだ。
ここからは南東尾根に取り付く。歩き始めると尾根には次々とカタクリの花が現れる。少し登ったところで石灰岩の敷かれた古いトラバース道を探り当てることが出来たので、榧の藪に煩われることのなく斜面を緩やかに登ることが出来る。古道が尾根芯に戻ったところでカレンフェルトの岩地となり、眼下にドライブウェイ、正面に霊仙山の眺望が広がる。好展望を望みながら、ランチ休憩をとることにする。
白菜菜ときのこ類、豆腐と豚肉の塩麹漬けでトマト鍋を調理し、鍋の後半はきしめんを投入する。料理をしている間に若いトレラン・スタイルの男性が降りてくる。さざれ石公園から登山道を登り、下山は賤野谷の左岸尾根、喜内谷との間の尾根を下降する予定らしい。のんびりと鍋を楽しむ瞬く間に1時間以上の時間が過ぎる。
カレンフェルトを後にca1100mの台地に上がると途端に山毛欅の樹林となる。訪れる度に伊吹山にこんな山毛欅の林があることに新鮮な驚きを感じるところだ。湖北の山で見るような大樹はないものの、なだらかな起伏と樹々の間の程よい間隔に心地よさを覚える。台地状のピークを越えると広い尾根には小さな池が現れる。
前回、夏に辿った時には池の周りは曇りだったこともあり薄暗く、樹林の中を気まぐれに通り過ぎる霧のせいで幻想的な雰囲気だったのだが、この日の樹林は非常に明るい。山頂直下の登りになると山毛欅の樹林は唐突に姿を消す。灌木帯が現れたかと思うと徳彦霊神と記された小さな石の祠が現れる。
山頂の周囲は防鹿ネットが張られていることを心配していたが、まだ張られておらず、容易に山頂の周回路に入ることが出来た。山頂には人影が見えるが、この時期は山頂周回路をたどる人はいないようだ。
山頂の一等三角点を訪ね、ヤマトタケルの石像を拝む。ヤマトタケルの前で写真を撮ろうとすると単独行の男性が通りがかるので三人揃って写真を撮って頂いた。
山頂からは国見峠を経て虎子山へと至る北尾根を望む。金糞岳の北には左千方、三周ヶ岳、美濃俣から笹ヶ峰へと続く越美国境の山々、高丸を望み、その右手遠方には再び白山を望む。
中央登山道を下ってドライブウェイの終点の駐車場に下降すると、数台の車がある。ドライブウェイの開業に向けて準備をしておられるようだ。駐車場の直下にはドライブウェイには通行には支障はない程度ではあるが、わずかに雪が残っている。次の週末の開通までには除雪されるのだろう。
ドライブウェイを下ってp1206.3ピークの手前の広場に出る。無線禁止とあるのは車で無線の機材をここまで運んで、ここで無線交信を楽しむ方がおられるからだろう。
まずは黒龍社とも呼ばれる鈴岡神社の跡地を訪ねる。踏み跡の不明瞭な裸地をトラバースすると笹原の間に刈り払いのされた明瞭な道が現れ、すぐに石碑が立ち並ぶ神社跡に出る。四拾回登拝記念、五拾回登拝記念と刻まれた石柱が建てられている。かつては盛んにここに登拝された方がおられたようだが、果たしてどこから登られたのだろう。今となってはここに辿り着くのはドライブウェイを使わない限りは容易ではないだろう。
問題はここからであった。折角なので小ピークの三角点を踏みたいと思うのだが、ここで完全に道は途絶えてしまっている。山頂までは多少の踏み跡があるものとばかり期待していたが、考えが甘かったようだ。
濃密な熊笹の藪の中に鹿道を探りあてて笹薮を進むがかすかな鹿道もすぐに不明瞭となる。山頂まではあとはわずかに50mほどの筈であるが、濃密な笹薮と格闘する羽目に陥る。やがて唐突に笹薮は終わり、低木に囲まれた小高い隆起の上に小さな三角点の標石を見つける。この三角点の点名は元地というらしい。
ここから振り返る伊吹山の姿は普段みる景色と異なって、見慣れない山容に思われた。下山は斜面の北西側の笹薮のない灌木帯を歩く。ほとんど藪をこぐことなく、呆気ないほど容易にドライブウェイに戻ることが出来る。
わずかにドライブウェイを歩いて静馬ヶ原の斜面に出ると、biwa爺さんとkitayama-walkさんに先に行ってもらい、座禅草を探す。p1149の南側斜面には座禅草は見当たらなかったが、静馬ヶ原からのトラバース道に入ると登山道の周囲に数多くの座禅草が咲いている。中には盛りを過ぎたと思われる花もある一方で、まだ地面から顔を出しばかりと思われるものもあった。座禅草は湿地に咲いているのだが、乾燥した斜面に咲くのは珍しい。夕陽を浴びて艶やかな光沢を放つ臙脂色の苞が何とも印象的だった。
座禅草の咲く範囲は意外と狭く、同じような斜面が続くのだがすぐに座禅草の姿は見られなくなる。トラバース道を辿るとまもなくBさんとKWさんに追いつく。先ほどの三角点ピークから北東に伸びる尾根を乗り越えると笹又への急下降が始まる。
ここは人が多く通る道なのだろう。急斜面につづら折りの明瞭な道がうまくつけられている。登山道沿いには数多くのヒトリシズカの花が咲いている。やがて斜度が緩やかになると防鹿柵の扉を開けて、舗装された林道に出る。周辺には段々畑が広がり、数人の人たちが畑仕事をされておられた。
地図を確認すると、駐車場まではまだまだ距離がある。KWさんは一人で舗装路をかけ下りて行かれる。駐車場に戻って車で迎えに来て下さるつもりだろう。
舗装路を下って行くと林道の間をショートカットする道がある。迎えに来てくれるKWさんとすれ違う可能性があるので、biwa爺さんの姿が見える範囲で急ぎ足で近道を辿る。さざれ石公園に下降すると桜が満開であったが、桜の花見は諦めて急いで駐車場に降りるとKWさんに出会うことが出来た。KWさんは最後まで舗装林道を走って降りられたそうだが、林道はかなり斜面を大きく巻いているので、それほどの時間差にはならなかったようだ。
古道と大トチ、南東尾根の展望とぶな林、藪漕ぎの三角点探しに最後は座禅草と充実した山行であった。下山後はさざれ石公園を出発し、池田温泉に向かう。狭い山あいを抜けて濃尾平野に出るとあたりは急速に薄暗くなっていった。
下山後、KWさんから青山舎から出版されている草川啓三さんの本にトチノキのことが書かれていることを教えていただく。我が家のキッチンのカウンターのいつも手を伸ばせばすぐ届くところに同氏の伊吹山案内を並べているのだが、改めてこの本を紐解くと、上平寺越のルートとトチノキのことが記されている。予習不足が否めないが、事前情報なく山中でトチノキの巨木と出遭うのも格別の感動があるように思う。