- 国会議事堂とドナウ川
ブダペストは年末に寒波が来て一時雪が降ったものの,新年以降目立った寒波もなく,近郊の山でも先週末の雨で雪があらかた融けてしまった.前年の冬は記録的な暖冬で冬がなかったと言っていたが,今年もこのままいくと記録的な暖冬に終わるかもしれない.ハンガリーに比べるとはるかな南方に住んでいる日本人にとってはありがたい天候である.ちなみにイタリア北部からこちらに来ているジョバンニ君はクリスマス休暇の帰省中にスキーをしようと思っていたらしいが,イタリアの山も雪がなくてできなかったとこぼしていた.
昨年のクリスマス(12月25日)にバス・トラムの1ヶ月定期券を買った.この定期券,日本のように区間が指定されているわけではなくて,ブダペスト市内の地下鉄,バス,トラムに乗り放題なのである.値段は10,500フォリント(日本円で約5000円).ブダペスト市内の地下鉄,バス,トラムのチケット料金は均一で,1回券が350フォリントなので,1日に1回乗り物を使うとほぼ元が取れる勘定になる.乗り物を乗り継ぐごとに乗車券が必要なので,この定期券はすごく割安である.乗り物の乗車券はこのほかに回数券,1日券,7日券などがあり,いずれも1回券を買うよりはずっと割安になるので,ブダペストに来る予定のある人にはこれらのフリー乗車券を買って観光されることをお勧めする.
これまではアパートから職場まで片道40分歩いて通勤していたのだが,定期券があるのに歩いて通うほどストイックな性格でもないので,あっさりと電車通勤に切り替えてしまった.アパートから職場まで直通のトラムやバスがないので,中間で1回乗り継ぐことになる.そのため,通勤だけで1日に4回乗り物を使うことになる.職場では朝から晩までコンピュータの前に座りっぱなしなので,最近はほとんど運動しなくなってしまった.そんなことで週末の低山歩きは貴重な運動の機会なのだが,先週末は土日とも雨が降って行かれずじまい.2週間ぶりの山歩きになった.
【 日 付 】2015年1月17日(土)
【 山 域 】ブダペスト・ブダ丘陵
【メンバー】単独
【 天 候 】曇り
【 ルート 】 アパート6:50 --- 63番バス終点(Nagykovacsi Kowatsch) 8:00 --- 9:10 P559 Nagy-Kopasz山 --- 10:05 No. 794バス停留所 --- 10:55 Paty --- 12:10 Biatorbagy鉄道駅 --- 13時頃 アパート
今日は久しぶりの山歩きなので気合が入って6時に目覚ましをかけたら,その前に目が覚めてしまった.そんなことでまだ暗い7時前にアパートを出発,トラムとバスを乗り継いて8時には登山口のNagykovacsi Kowatsch村に着いた.この村に来るのはこれで3回目なのだが,静かで落ち着いたいい村だ.バス停の近くで小さな野外マーケットをやっていたので,そこで昼食用のパンを調達する.市場のおじさんもいい感じだ.
- 野外市場
ブダペストの現在の人口は約170万人だが,漸減傾向にある.これは実際に人口が減っているわけではなく,ブダペストの住居費の高騰を避けて周辺の町に人々が分散化しているからである.Nagykovacsi Kowatsch村もブダペストのベッドタウンの一つだが,確かに自然が豊かで住むにはいいところだと思う.しかし,郊外に土地を買えるような人たちは中流階級以上なので,結局,ブダペストは,移動できない貧乏な人たちとブダペストに邸宅を構えることができる超お金持ちの両極端の人たちが住む街になってきている.
歩き始めると木々の幹や大枝が裂けたり折れたりしているのが目立つ.これは昨年12月初めのアイスストーム(氷嵐)によるものだ.zippさんが指摘した通り,強風によって着氷した木が折れたもののようだ.山を歩いているとこのアイスストームによる樹木破損の被害がハンガリー全土で非常に大きいものであったことがわかる.ハンガリー人に聞いてみるとこのような甚大な被害はそう頻繁にあることではないという.幸い,この出来事から1ヶ月以上経ち,トレイルコース上の倒木はきれいに整理されていて,歩きに支障はなかった.このようなトレイルコースの整備は,ブダペストではブダペスト市がやっているようだが,かなりの費用がかかっているのだろう.
- アイスストームで裂けた木
1時間ほどで今日の最高峰Nagy-Kopasz山559mに着く.なにせこの辺りはすべてのっぺりしているのであまり登ったという感じはないんだけども.この頂上には5階建ほどの立派な木製の展望台があり,一人の男性が食料を広げて休んでいた.挨拶をして展望台に登る.建物の古さから見て共産主義時代に建てられたものだろう.おそらくトレイルコースも共産主義時代に整備されたものではないか.共産主義時代がすべて悪いことばかりだったわけではないというハンガリー人もいるが,確かにその通りなのだろうと思う.
- 立派な展望台
- 展望台から見たアイスストームの被害
一通り写真を撮った後,山頂らしくない山頂を辞し,さらに歩いていく.しばらく歩くと車が頻繁に通る車道に出た.794番系統のバスも通るようだ.車道を横切り歩いていくと,高さ2mほどもある金属製のフェンスがあり,人間はフェンスの横に設けられたはしごを登って中に入るようになっている.鹿などの動物よけなのだろうか.そういえばこの辺りは固有の生物が生息し,自然保護地区になっていると聞いたことがある.出口にも同様のフェンスとハシゴがあったが,その距離は歩いて30分以上あった.おそらく相当広い領域にフェンスを張っているようだ.まあ,自分の家の周りを常にフェンスで囲んでしまうような人たちだから,こんなフェンスを張るのもお手の物なのだろうが.
- フェンスとハシゴ
Patyという小さい村を過ぎしばらく行くと牧草地に出るのだが,ここでトレイルコースを見失ってしまった.後で考えるとコースは林地を行くように作られているのだが,間違って牧草地に入り込んでしまったらしい.真南に向かえば目的地のBiatorbagy村に着くことはわかっているので,あえてトレイルコースを探すことはせず,コンパスを片手に方向だけ外さないようにして,牧草地や収穫後のデントコーン畑を突っ切って歩いていく.遠くの方に牛がのんびりと草を食んでいるのが見える.トレイルコースに再合流したのは目的地のBiatorbagy村のすぐ手前だった.Biatorbagy村には鉄道駅があり,ここから30分ほどでブダペストに帰ることができる.時計を見るとまだ12時だった.ほとんど休憩なしで歩いてきたとはいえ,ちょっと早すぎるかと思ったが,ほとんどアップダウンのないコースなので,距離的には20キロほども歩いているだろう.久しぶりの山歩きで,足も疲れてきたので,ここら辺で終了することにした.
駅の券売所でブダペスト行きの切符を買うと,すぐに電車がやってきてほとんど待つこともなく車中の人となった.ブダペスト手前のKellenfoldという駅で降り,ここから地下鉄とトラムを乗り継いでアパートに帰った.予定より早く帰り着いたので,近くのキラーイ温泉へ汗を流しに行く.キラーイ温泉はアパートから歩いて5分.ブダペストは市内に50か所ほども日帰り温泉がある温泉天国で,ヨーロッパ各地から観光客が訪れる.数あるブダペストの温泉の中でも昔のトルコ風浴槽を残しているのはこのキラーイ温泉とルダシュ温泉の2ヶ所のみだ.私は最近は銭湯代りにこの温泉を利用している.アパートはシャワーのみなので温泉にどっぷりとつかれるのは日本人にはありがたい.正真正銘の温泉で,掛け流しになっている.お湯は透明,飲むとやや鉄分の味がするが,具体的な泉質名はわからない.一応,飲用可になっているが,以前一度飲んだ後に軽くお腹を壊したので,それ以後は飲まないようにしている.温泉でなくても,ヨーロッパの水はほとんどが硬水なので,お腹を壊しやすい人は飲まないほうがいいかもしれない.
キラーイ温泉の更衣所は去年までは個室だけだったのだが,久しぶりに行ってみるとロッカーもできていた.クリスマス休暇の時に観光客が押し寄せて,長い入場待ちの列ができていたので,それを解消するために急遽ロッカーを設置したのかもしれない.料金は去年までは一律2400フォリントだったのだが,今年からはロッカーが2300フォリント,個室が2600フォリントになっていた.
温泉から帰った後,夕方7時から始まるバレエ公演「オネーギン」を見に国立オペラハウスへ行く.2013年末にベルリンからハンガリー国立バレエ団にプリンシパルとして移籍してきた中村祥子さんが主役のタチアナを演じるのだ.中村祥子さんはバレエに詳しい人は知らない人がないほど有名な方なのだそうで,海外で活躍している日本人バレリーナとしては最も有名な人らしい.私はブダペストに来てから初めて名前を知ったのだけど.席はいつもの4階の天井桟敷席で1200フォリント(約500円).天井桟敷でももっとも舞台に近い席なのだが,目の前の大きなスポットライトが邪魔をして,手すりに座って見ないと舞台が見えない席だ.中村祥子さんの舞台なんて日本ではまず見ることができないし,そんな舞台をわずか500円の入場料で見ることができるというのはブダペストにいるからこその贅沢というものだろう.
- ハンガリー国立オペラハウス
彼女の身長は174 cm.日本人女性としては目立つ身長だが,西洋人バレリーナの中にはいると平均的身長である.しかし,さすがに動きは際立って美しく,優雅ですっかり見入ってしまった.日本人の手足の短さを補うために,人並み以上に努力した結果なのだろう.もちろん生まれながらの才能もあるのだろうが.こちらではミュージカル,オペラなどをよく見に行くのだが,どちらも言葉の壁があって100%楽しむというわけにはいかない.クラシック音楽はいまいちよくわからないし.その点バレエは言葉がなくて視覚で楽しむことができるので,もっとも理解しやすい舞台芸術かもしれない.
山歩き,温泉,バレエ鑑賞と盛りだくさんの1日で,密度の濃い時間を過ごすことができた.ブダペストにいる時間もあと1ヶ月とちょっとになった.おそらくあっという間に過ぎてしまうのだろうが,心残りがないように一瞬一瞬を大切に過ごしていこうと思っている.
↓職場の若手で夕食を食べに行きました.一人だけイタリア人,後は全員ハンガリー人です.