【 日 付 】2023年3月14日
【 山 域 】大峰山脈
【メンバー】tsubo
【 天 候 】快晴
【 ルート 】白谷トンネル東口7:00~8:00行仙岳8:25~10:35笠捨山10:55~12:00地蔵岳~13:12笠捨山13:37~15:30行仙岳~16:15白谷トンネル東口
国道425号線の冬季通行止めが解除になった。それなら大峰南部の行仙岳から笠捨山に行こう。でも、それだけだと物足りないからその先の地蔵岳まで行こう。
行仙岳へはNTTの巡視路から登る、鉄の階段の多い道だ。
登山口近くに路駐して準備をしていると1台の車が上がってきて、私の車の先でUターンして、そばに止まった。見ると春日部ナンバーだ。平日のこんなマイナーな山にわざわざ埼玉から登りに来るのだろうか?びっくりしていると、車から同年配の男性が下りてきた。
「平日の同じ時間に登る人がいるなんてびっくりしました。わざわざ埼玉から来たんですか?」
「今は和歌山に住んでいるんです。」とその男性は答えた。
準備ができた私は先に歩き始めた。
大峰奥駈道。昔からの修験の山だ。
熊野から吉野へ、あるいは吉野から熊野へ。
私は那智山青岸渡寺の奥駈で何度か歩かせていただいた。
3月には青岸渡寺から本宮大社まで、4月は本宮から玉置神社までを1日で歩く。
5月は玉置山から1泊で深仙の宿まで歩き、太古の辻から前鬼に下る。9月に釈迦ヶ岳から2泊で吉野まで歩く。途中の山上ヶ岳は今でも女人禁制なので、女性は大普賢岳からいったん和佐又ヒュッテに下って泊まり、翌朝サポートの車で女人結界門の五番関まで送ってもらい、山上ヶ岳に泊った男性と合流して吉野まで歩くのだ。
初めて参加させていただいたのは2000年の4月。この笠捨山あたりを初めて歩いたのは2003年の5月、雨の奥駈だった。
5月の奥駈は泊る小屋が小さいから希望してもなかなか参加できない。奥駈に参加して4年目のこの時、5月の奥駈に参加することができた。だが、変形性膝関節症になって膝が悪く、薬を飲みながらの参加できつかった。
体調が良くても、小さなアップダウンの多いこの5月の奥駈が一番厳しく思う。
奥駈道に出てすぐに行仙岳に着く。快晴の空だが、やはり春だ。遠くは霞んでいる。
釈迦ヶ岳も霞んで見えた。
朝食を終えるころ、二人連れが登って来た。ご主人は先ほど登山口で会った方だった。単独かと思ったがご夫婦で登っていらしたのだ。
しばらくおしゃべりする。「和歌山には仕事で来られたんですか?」
すると・・・
ご主人が退職したので二人で山三昧の日々だそうだが、冬の間暖かいところに行こうということになって和歌山市のウィークリーマンションを3ヶ月借りたそうだ。電化製品や布団もついて、3ヶ月借りるなら1ヶ月6万円で借りられるとのこと。
そこを拠点にして和歌山、大阪、奈良、三重あたりの山を登っているそうだ。
「こっちの山はあまり来たことなかったし、和歌山は温かいし、静かだし。冬はいいですね。」
と話す。
私は目が点になった。しばらくぽかんと口を開けたままだった。考えたこともないようなことだったが、確かに・・・
その後はしばらく、夏は北海道のウィークリーマンションを借りてもいいかななどと妄想しながら歩く。
足元にバイカオウレンが咲いている。南紀の山ではこの季節よく見かける花だ。だが、この山で花が咲いているとは思っていなかったので嬉しくなった。
さらに、バイカオウレンが群生になって咲いている。1畳半くらいの広さだろうが、こんなにたくさんのバイカオウレンを見るのは初めてだ。
人気の山なら多くの人の目に触れるだろう。だが、この季節にここを歩く人は少ない。大峰南部の山は単独で登られることは少なく、奥駈で歩く人が多い。奥駈する人はまだこの時期はほとんどいない。大峰北部の山に雪が無くなる4月末あたりからだろう。
ほとんど人の目に触れることなく咲いているバイカオウレン。愛しい気持ちになる。
10時半過ぎに笠捨山に着く。先ほどより霞が薄くなってきた。
釈迦ヶ岳の右に大普賢岳の頭が見える。大台ヶ原方面も朝よりくっきりしてきた。
ここで予定より時間がかかったことがわかる。地蔵岳を往復する時間を考える。だいぶ日が長くなってきたから問題ないだろう。
あのご夫婦が来たら写真を撮ってもらおうと思ったが、あまりゆっくりしていられないのでセルフで撮って出発する。
笠捨山の下りは急だった。ここを登り返すのかと思うともう引き返そうかと思う。
でも、奥駈道は修行の道なのだ。楽なルンルンの山歩きではない。もう少し頑張ろう。
周りは自然林から人工林に変わる。暗くなる。気持ちも暗くなる。行こうか戻ろうか迷いながら進む。
あまりの寂しさに西行法師が笠を捨てて逃げたというのが笠捨山の名前の由来らしいが、わかる気がする。
鉄塔の下に着く。明るく見晴らしがいい。ここまでにしようか・・・
でも、せめて槍ヶ岳までは行こう。
小さなピークを越える。足元には数輪のバイカオウレンが咲いている。励ましてくれているようだ。ありがとう。
鞍部に「第十七靡槍ヶ岳」の立札がある。ほっとする。ここまででいいと思って般若心経を唱える。
ここでスマホのアプリで場所を確認すると、槍ヶ岳はもう超えていて地蔵岳との鞍部だとわかる。地蔵岳のピークはすぐそこだ。よし、行こう。
この先は鎖場だ。ザックとストックを置いてカメラだけ持って登る。
登りは鎖に頼らず木の根や岩を掴みながら登る。
ピークに着いた。小さなお地蔵様に手を合わせてもう一度般若心経を唱える。
「ありがとうございました。」
下りは鎖を掴んで慎重に下る。ザックのところに戻る。
笠捨山の登りは下りで感じたほど急ではなかった。
山頂に着く。さっきより釈迦ヶ岳がくっきり見える。
ほっとする。お湯を沸かして遅めの昼食にする。
戻りながら、たくさんのバイカオウレンをゆっくり眺める。
行仙岳にもまた登る。
朝よりくっきりした青空の向こうに釈迦ヶ岳とそこに続く奥駈道が見える。
きつかった青岸渡寺の奥駈に参加した時のことをいろいろ思い出す。
登山を再開した私にとって原点となる山歩きだ。
一見冬枯れの山のようだが、バイカオウレンが咲き、アセビも小さな蕾をつけていた。
枝の先には新芽がついている。
もう大峰の山にも春が来たようだ。