【 日 付 】2023年2月23日(木曜日)
【 山 域 】江越国境
【メンバー】山猫、Hさん、Nさん、Mさん
【 天 候 】雪のち曇りのち晴れ
【 ルート 】中河内8:15〜10:07ジャンクション・ピーク〜ca710m10:11〜11:29ca620m(ランチ)12:31〜13:12河内山〜13:57庄野嶺越〜14:38中河内14:41
先日の八飯から音波山への山行以来、その先への下谷山の方へ延伸されていた林道が気になってい。この日は中河内から大音波を経て下谷山に登る山行計画を考える。
朝、自宅を出る時にはポツリポツリと小雨が降り始める。すぐに止むだろうと期待したが、京都駅から新幹線に乗り込むと本降りの雨に変わる。丁度、高気圧の間の気圧の谷が日本列島を通過しており、南から流れ込む湿った空気と上空の寒気のせいで天気が不安定になっているのだろう。米原で北陸本線に乗り継いで、木之本を過ぎると雨は雪に変わる。
余呉の駅にHさんが迎えに来てくださる。余呉のあたりは全く積雪が見られない。この時期でこの状態ということは今年はかなり雪が少ないのだろう。椿坂峠が近づくと途端にあたりは一面の雪景色となり、着雪した樹々が美しい。豪雪で知られる中河内は昨年のこの時期は道路沿いは雪の壁となっていたが、今年はわずかばかりだ。中河内の県道に入り、除雪終了地点に車を停める。積雪した県道の上には数日前のものと思われるいくつかのスノーシューのトレースがある。少なくとも二つは山日和さんとsatoさんのものだろう。
程なくしてNさんとMさんが到着される。Nさんは予定のコースに難色を示されるので、代替案として河内山への山行を提案させて頂く。勿論、このコースは咄嗟に思いついたものではなく、以前より積雪期に計画していた山行の一つだ。しかも展望が期待されるコースではないので、雪の降る日の山行にはうってつけのコースだろう。
まずは国道を歩いて網谷川の左岸の尾根の末端まで北上する。国道はひっきりなしに車が北に向かう。いずれも余呉国際スキー場に向かうのだろう。網谷川の左岸には小さな水道の施設があり、その裏手から尾根に取り付く。尾根の末端は植林となっているが、すぐに植林は終わる。植林を過ぎて自然林に入ると足元の雪は降り積もったばかりの柔らかい新雪となるので、ここでスノーシューを装着する。
雪化粧を施された自然林の樹々は美しい。尾根はそれほどの急登もなく、緩やかに高度を上げてゆく。地図を見てみると国境稜線まで3kmほどの間に稼ぐ標高はわずかに100mほどしかない。標高600mを越えると尾根には随所でブナが現れるようになる。ブナの樹影が美しいからだろうか、雪化粧の樹々がより一層、華やかに感じられる。
一際、立派なブナの樹に惹かれ足を止めると、三角点△637.6mのピークのあたりだった。地図では一つのピークのように記されているが、北側からの上ってくる谷の源頭が山頂に緩やかな襞を刻んでおり、GPSで確認すると三角点があるのは源頭を挟んで東側の小ピークであった。三角点ピークに立ち寄ると立派な主のようなブナの樹が箒のような枝を広げている。この三角点の点名は空谷というらしい。
三角点を後に尾根を北上する。ブナの回廊が続いてくれることを期待していたが、リョウブなどの低木が密生するようになる。迷宮のようにひしめく低木の藪の薄い箇所を探して進んてゆく。Ca630mで尾根が大きく左に曲がる手前、斜面の北側に展望が広がる。低く垂れ込める雲の下では谷間の着雪した樹々が一面の銀白色を見せている。
送電線鉄塔が近づき、その手前のca630mの小ピークは樹木のない好展望のピークとなっている。雪の下から灌木が顔を覗かせているが、無雪期は藪で覆われているのだろう。生憎、周囲は雪雲の中であり、展望は望むべくもない。樹林をわずかに進むと送電線鉄塔に出る。ようやく雪は止みつつあるようだが、鉄塔の周囲はまだガスに霞んでいる。
江越国境稜線まではひと登りだ。国境稜線にたどり着くと尾根は広々とした台地状となり、南から上ってくる網谷川の源頭が複雑な襞を刻んでいる。ちなみにコースで辿ることになる江越国境稜線は以前Hさんと歩いたことがある。山行記録を振り返ると2020年の1月のことであった。
起伏の少ない国境稜線には複雑な地形が続く。通常は最も高度の高い尾根が主稜線の筈なのだが、この稜線にはその原則が通用しないようだ。尾根を南下するとテープも続いているのでそのまま直進するが、右手の高度の低い尾根が国境稜線だったようだ。すぐ右手の谷の源頭部に下降して尾根を乗り換える。p608を過ぎると次のピークの東側には送電線鉄塔があり、抜群の展望地となっている。周囲の山肌の樹々からはすでに雪が消えつつあるようだ。
前回の山行においてもHさんと共にランチをした場所であるが、残念ながらこの日は風がある。ここでのランチを諦めて先に進むことにする。送電線鉄塔の下には明瞭な巡視路があり、次の送電線鉄塔に向かって尾根を直進しそうになるところであるが、前回にその過ちを侵した記憶のおかげでここは大きく分岐する尾根に入ることができる。
尾根を辿ると疎林の広がる緩やかな二重尾根が広がる。尾根の間に降りてみると風もなく、ここでランチをすることにした。前日の夜に大きな仕事があり、食材を手に入れる時間がなかったので、この日はガーリックをおリープオイルで炒めてブラックオリーブと焼豚の丼ぶりを料理する。アルコール・ストーヴは気温が低いせいか火力が上がらず、調理するに時間がかかってしまった。
料理をしているうちに上空に青空が広がり始める。食後の後はコーヒーを淹れ、皆さんから差し入れして頂いたお菓子を頂戴する。気がつくと1時間ほどゆっくりしていた。気がつくと周囲の樹々から朝の雪化粧がすっかり消えている。
ランチの場所を後にして尾根を南下すると、尾根は細尾根となり、尾根上には頻繁に低木の藪が現れる。夏道は尾根の西側をトラバースするようについている思われるが、雪のせいでしばしば夏道は不明瞭だ。
小さなピークが続くがピークを越えるたびに東側から緩やかな源頭が上ってくる。空にはところどころに雲はあるもののすっかり青空が広がり、陽光が雪の上に繊細な樹々のシルエット描く。高気圧と共に南から温暖な空気が上空に入り込んだのだろう。午後の空気はかなり暖かく感じられる。
再び送電線鉄塔を過ぎると河内山にかけていよいよブナの高木の純林となる。このあたりの樹林の壮麗さは今回の山行におけるまさにハイライトと言えるだろう。この河内山は盛夏の季節にも訪れたことがあるが、雪の上に冬の柔らかい陽射しが描く美しいシルエットを眺めながらの山行はこの季節の晴天ならではの悦びだ。
気がつくとブナの樹が悉く樹肌が濡れている。言葉を換えると、樹肌が濡れているのはブナの樹のみだ。ブナは樹肌の表面を水が流れやすい構造になっていると聞いたことがあるが、ブナ特有の樹肌に発育する地位類もこの特質によるものなのだろう。
河内山の山頂に到着すると忽然と数日前のものと思われるスノーシューのトレースが現れる。どうやら中河内から登って来られたようだ。河内山を越えると若木ではあるが尾根上にはブナの回廊が続く。尾根からは左手に音波山方面の高時川源流の山並みが見える。尾根の彼方でわずかに下谷山が頭を見せている。
庄野嶺越からは明瞭な堀割の古道が現れる。以前、西側の池河内から河内山を周回した時にも下山は背丈よりも深く掘り込まれた堀割の古道を降った覚えがあるのだが、しばらくはこの古道が庄野嶺越のものであることを失念していた。庄野嶺越の分岐には宇宙との交信設備のような旧郵政省の古い装荷線輪の遺構があるのだが、ここをスルーしてしまったのは迂闊だった。尾根のca590mはなだらかな台地状の小ピークとなっており、東側からは高時川流域の谷の彼方に上谷山とその右手には左千方が白い頂を見せていた。
歩きやすい古道を辿ると下りは早い。最後は無事に広峯神社の裏手に着地する。神社の境内には見事な欅の大樹に圧倒される。鳥居の脇では主のような欅の大樹が我々を見送ってくれた。
駐車地に戻るとすぐ傍にはもう一台車が停められている。積雪した県道を向こうから犬を連れてスノーシューを履いた女性がやってくる。車の主であったが、なんと犬の散歩をしておられたようだ。
帰路は再びHさんに余呉の駅まで送って頂き、湖西線経由で京都に向かう。琵琶湖の上空はすっかり蒼空が広がり、湖面の彼方には御池岳や霊仙山のシルエットが綺麗に見えている。車窓の右手の比良の稜線の上にも淡く色づいた夕空が広がっていた。心なしか数日前より比良の稜線の雪は少なくなったように思われた。