- 巨大な穴
【 日 付 】2022年3月24日(水)
【メンバー】単独
【 天 候 】薄曇り
【 ルート】6:45 JR余呉駅前 == 椿坂隧道北口7:14 --- 8:56 大黒山 --- 11:28 妙理山 12:19 --- 14:23 六所神社 --- 14:53 洞寿院 --- 洞寿院前バス停 15:38 == 15:59 JR余呉駅前
JR余呉駅前に着くと,暗かった空がようやく薄明るくなってきた。始発バスの時刻までまだ2時間ほどもある。自宅から余呉駅前まで2時間半と考え,余裕をみてバス時刻の30分前に着くように計画したのだが,予定出発時刻の30分も前に自宅を出てしまった。結局,自宅から2時間弱しかかからなかった。
車中泊ブームのおかげで,最近のミニバンは車中泊用に様々な装備を備えている。座席を倒すだけで,ほぼフラットなベッドに早変わりするのだ。最近のナビはテレビも見放題だし,車内で快適に過ごすのに不自由はない。朝食代わりのバナナを頬張ったり,トイレに行ったりしている間に2時間はあっという間に過ぎた。
6時45分発余呉駅始発の余呉バスの乗客は当然のように私一人だった。気さくな年配の運転手の方と世間話に花が咲く。椿坂トンネルから菅並に歩いて抜けるというと驚いていたが,「午後からは菅並の路線を運転するから,うまくいけば帰りにまた合うよ」ということだった。降りるときに「気をつけて。あとでまた会いましょう。」と言って送り出してくれた。
- ブナ林
椿坂隧道を抜けると路肩にはまだ1m近くの積雪がある。中河内方面に100mほど歩き,大黒山から北西に降りている緩やかな尾根の末端に取り付く。取り付きの手前でスノーシューを履く。もう雪は賞味期限切れかと心配していたが,杞憂だった。この取り付きの標高が450mほどあるので,標高892mの大黒山まで450m程度登るだけである。
最初はいつものように低木がうるさい。クロモジやリョウブは私でも判別できるが,その他の潅木は樹肌からは何の樹なのかわからない。高木はナラ類が多い。ここら辺の標高だとコナラなのか,あるいはミズナラなのか。少し標高を上げると背後に江越国境の稜線が見え始める。西には福井県側の標高600m前後の緩やかな稜線が見え始め,登るにつれてその稜線は目線より下になっていく。歩きやすそうな稜線だ。
- 椿坂隧道北口付近取付き
標高700mを越えるとブナが出始め,それとともに潅木が消えて歩きやすくなった。800mを越えるとブナが主体の森になる。このあたりのブナは鈴鹿のブナとは違って大木が多い。なんやかや言ってもやはりブナ林の雰囲気はいい。昨夜降った雨はこの辺りでは雪になったようで,水気の多い新雪が雪上のゴミを覆って白くなっている。
- 横山岳
大黒山の頂上は広々としていて,雪はまだ2m近くありそうだ。美しいブナ林である。山日和さんがこの辺りのブナ林を好む理由がわかるような気がする。
ここから東に伸びる尾根も魅力的で,行ってみたい誘惑にかられるが,この時点でまだ下山時刻の計算ができないので,自重しておこう。また次の機会があったら行ってみたいものだ。
- 大黒山山頂
南側に緩やかに伸びている尾根をのんびりと下っていく。さながらブナ回廊である。地形図では幾つかのアップダウンがあるようだが,いずれも緩やかな斜面で気にならない。南側はるか向こうにはこれから行く妙理山が雄大な山容を見せている。
- 東妙理山のブナ林
P795を少し下ると妙理山への最後の登り。地形図では尾根地形がはっきりせず,どこを登るのかよくわからない。適当に目の前の斜面を登るが,地形図にあるように急登である。雪が緩んできていることもあって,スノーシューでも滑ってしまう。我慢して50mほどの標高差を登りきると,妙理山西尾根に出,そこからなだらかな斜面を登ると妙理山山頂だった。ここもブナ林の美しいところだ。
- 妙理山から安蔵山を眺める
北西風を避けようと南東側に少し降りてから昼食にする。東側には安蔵山が指呼の距離に,その奥に左千方,三国岳,さらにその奥に三周が岳など越美国境の山々が見えている。安蔵山もブナの美しい山ということなので,機会があれば一度登ってみたいものだ。
ここからの菅並への下りは一度歩いたことがあり,安心して降りることができる。やはりブナ回廊である。ブナを眺めながらゆるゆると降りていく。東妙理山山頂もブナの美しいところだ。左側に常に見えている安蔵山がだんだんと見上げるようになり,山容が大きく,巨大になっていく。
ふと気がつくと雪から飛び出た潅木の枝先に黄色い花が。マンサクだ。春一番に咲く花。その近くにはヤナギと思われる綿毛をまとった冬芽がずいぶん膨らんでいる。植物たちはもうすっかり春の準備を始めているようだ。
- マンサクの花
標高400mあたりで掘割状の杣道が現れ,350mあたりで雪が途切れたので,スノーシューを脱いでチェーンスパイクに履き替える。杣道はもう通る人もいないようで倒木に遮られて歩きにくい。六所神社近くの林道に着地。妙理山山頂から約2時間だった。六所神社にお参りし,今日の山行の無事を報告,感謝する。
バスの時間までにまだ1時間ほどあるので,近くの洞寿院を見学に行く。曹洞宗のお寺のようだ。境内は狭いが,現役で修行に使われている禅寺のようだ。
3時38分に予定通り余呉交通のバスがやってくる。朝の運転手さんだった。お互いに目で笑顔を送りあう。乗り込むと,「まだ駅前に車が置いてあったんで心配したよ」,「最終便にも載っていなかったら遭難届けを出さないといけないと思っていたよ」と嬉しそうに冗談もでてくる。ありがたいことだ。
乗客はやはりずっと私一人。車内では朝にも増して世間話に花が咲き,短い時間で運転手さんの経歴や年齢まですべて聞き出してしまった。余呉駅前では「また利用してね」と送り出してくれた。こんなことがあると,公共交通機関を利用した山行も悪くないなと思ってしまう。
ちなみに余呉バスは,2008年に湖国バスから余呉町内の路線を引き継いで設立された会社のようで,路線バスは柳ヶ瀬線と丹生線の2路線しかない。余呉町内の地元の足になっているようだが,乗客は少ないようで経営も大変だろう。こういう不採算路線を維持していてくれるからこそ我々もバスを利用した山歩きができるというものだ。できれば頑張って存続してもらいたい。