【 日 付 】2021年11月13日(土曜日)
【 山 域 】南越前
【メンバー】山猫、家内、Nさん、Hさん、Uさん
【 天 候 】曇りのち晴れ
【 ルート 】魚見峠10:32〜10:52岩谷山〜11:27武周ヶ池12:50〜12:54野見ヶ岳〜14:17牧谷峠〜15:09日野山15:36〜16:13室堂〜16:55日野山登山者駐車場
紅葉に囲まれた山上の池は格別の趣がある・・・前回に訪れたカナ山の夜叉ヶ妹池の他にも紅葉の時期に訪れてみたいと思う山上の池がもう一つあった。野見ヶ岳の山頂のすぐ近くにある武周ヶ池だ。前回、夜叉ヶ妹池から江美国境稜線を新穂峠まで縦走したメンバー達に連絡すると、皆さんの都合もよく、この池を訪れることにする。
この池は近くの魚見峠(岩谷峠)まで県道が通じており、峠からアプローチが良いのはいいが、わざわざ南越前まで出かけて行くのに野見ヶ岳のピストン往復ではさすがにもの足りない。車をデポして越前富士として知られる日野山まで縦走することにする。
我が家は土曜日は次男が学校があるので出発が遅くならざるを得ない。Nさんが敦賀まで迎えに来て頂けることになり、サンダーバードで敦賀に向かう。驚いたことにサンダーバードは前日の時点で指定席に空席が二つしか残っていなかった。どうやら北陸のずわいガニが解禁になったところで北陸に旅行する人が多いらしい。
京都から滋賀の一帯はすっかり晴れており、比良や野坂は山肌が紅葉しているが、稜線の上の方は既に冬枯れとなっている。標高は700〜800mあたりがその境界となっているように思われる。
Nさんと敦賀でお会いすると、今朝方までかなりの氷雨が降っていたとのこと。敦賀から北に向かうと北の方では雨雲が広がっているようだ。南条の駅でHさん, Uさんに落ち合うと、まずは下山予定の日野山の登山者用の駐車場に向かう。このあたりではどこからでも日野山の秀麗は山容を仰ぎ見ることが出来る。標高が800mに近い日野山も山頂のあたりは冬枯れているようだ。
南の方角には上谷山が見えるが、その上空はすっきりとした晴れ空が広がっている。天気予報では午後は晴れの予報なので、晴天が広がってくることを期待したいところだ。魚見峠に向かうと県道からは随所で好展望が広がり、野見ヶ岳の山肌の錦繍が見事だ。これから辿る縦走路で出会う紅葉の樹林への期待に胸が膨らむ。
魚見峠は標高は600mほどあり、かなり高いところまで登ってゆく。魚見峠に着くと、既に車が3台停められていた。登山口からはすぐにも紅葉の自然林となる。右手にはすぐ近くの唐木岳が見えるが、その彼方では部子山が白くなった山頂を見せている。雨上がりのせいだろうか、朝までの雨に濡れた枯葉からは雨上がり特有の匂いが立ち上ってくる。
幅広い登山道はすぐに二俣に分かれる。岩谷山の山頂を踏むべく尾根道を進む。岩谷山の小さな山頂広場は樹林に囲まれて眺望はない。尾根を先に進むと尾根の両側にはブナの高木が立ち並び、美しいプロムナードとなっている。ブナの樹々には意外と葉が残っているのが嬉しい。
やがて武周ヶ池に至ると池のほとりでは紅葉したカエデが一帯を真紅に染めている。池の水面から生える水草の緑色がこの時期にはひときわ瑞々しく感じられる。武周ヶ池は山上にある池のご多分にもれず雨乞の池であり、干魃の時でも水が枯れることはなかったいう。案内板の説明によるとこの地方ではカジカのことをブシと呼ぶそうだが、雨雲がこの山上の池にブシを運んだという伝説があり、「ブシが棲む池」が訛って武周ヶ池となったらしい。黒々とした水を湛える池は神秘的であり、龍神信仰の対象に相応しい風格が漂うように思われた。
池の東側では登山道に沿ってブナの大樹が立ち並び、その下の龍神の文字が刻まれた石碑の周りでランチを調理する。ランチを楽しむ間にも雲の合間から明るい光が差し、池の周囲の紅葉の木々を明るく輝かせ始めたかと思うと上空の雲がみるみるうちに晴れてゆく。
青空が広がってゆくにつれ池にも蒼空を映す青い水面が広がってゆく。気がつくと1時間半近くも池の周りでゆっくりしていた。
池を後に出発すると、すぐに送電線鉄塔のある野見ヶ岳に達する。山頂には送電線鉄塔があるが、周囲は灌木の藪が広がっており展望は得られない。野見ヶ岳から先は歩く人が少ないのだろう。急に道は細くなり、ところどころで踏み跡も薄い。既に落葉した樹々のせいで、秋の透明な陽射しがふんだんに差し込む尾根は明るいが、葉が生い茂る季節は鬱蒼とした雰囲気が予想される。
次の三角点ピークに登りかえす。点名は坂ノ谷と云うらしい。標高は716.6mであり、野見ヶ岳よりわずかにこちらの方が標高が高い。
牧谷峠に向かって高度を下げてゆくと、斜面の左手から植林が登ってくる。植林の中の薄暗い牧谷峠は朝倉街道と呼ばれる古道が越えている。お地蔵様はなかったが苔むした経塚が歴史ある峠の風格を物語る。
峠から登り返すと再び明るい自然林の尾根となり、随所で上谷山、三国岳、笹ヶ峰といった江越から越美国境の山々のパノラマが広がる。上空には先ほどまでの曇り空が信じられないほどにすっかり雲が霧散し、すっきりとした秋空が広がっている。
日野山の三角点のある山頂広場からは眺望は意外と限られており、越美国境の山々が見える程度だ。平坦な台地状の山頂を先に進むと立派な祠が現れる。奥の院と呼ばれるところらしい。わずかに尾根を下ると突如として越前平野の大展望が広がった。
- 辿ってきた縦走路と彼方に越美の山々
白山は相変わらず雲の中、部子山の左肩からは冠雪した荒島岳が顔を覗かせている。右手の姥ヶ岳、能郷白山に至るまで南越の山々が一望のもとだ。
折しもご夫婦と思しきカップルが荒谷からのルートを登ってこられたので集合写真を撮って頂く。「どちらから?」と聞かれるので「京都と滋賀から」とお答えすると「なんでわざわざこの日野山へ」と驚かれる。この日野山だけを登りに来た訳ではないことをご説明するとご納得されたようだ。物好きだと思われた感があるが「ようこそ福井へ」と歓迎して下さった。
下山は幅広い道が続いてはいるが、枯葉の下では滑りやすい岩盤が続いており、非常に歩きにくい。尾根沿いにも道があるので斜面をトラバースして、尾根道に入るがこちらは傾斜が急であり、さらに歩きにくい。この尾根は「比丘尼転ばし」と呼ばれる道であり、下りに使うのは賢策ではなかったようだ。
道の正面からは夕陽が差し込み、黄金色に輝くコアジサイに囲まれながら下降してゆく。室堂と呼ばれる小屋を過ぎると林道が現れるが、林道を辿るのは遠回りらしい。歩きやすいと言い難い古道を降りる。
日野神社に辿りつくと境内のケヤキの大樹が山行の労を労ってくれる。神社を出て西の空を見上げると残照を映して雲が美しいローズピンクに輝いている。振り返ると日野山の上には月が出ていた。Nさんの車の回収にはHさんが行って下さることになり、JRの南条駅までUさんが送って下さる。
敦賀からのサンダーバードはやはり残席がほとんどない。家内とは通路を挟んだ席となる。車内でビールを傾けたいところではあったが、ビールは列車に乗る前に待合室で開けることにする。指定席車両のほとんどは団体旅行客で占められていた。静かな山上の紅葉の池で過ごした贅沢な時間の余韻に浸りながらグラスを傾けるのは帰宅までお預けだ。