【 日 付 】2021年11月3日(水曜日)
【 山 域 】江美国境
【メンバー】山猫、Nさん、Uさん、Hさん
【 天 候 】晴れ時々曇り
【 ルート 】温見親水公園7:48〜9:09カナ山9:14〜9:19夜叉ヶ妹池9:34〜11:35鳥越峠12:46〜13:24鳥越山〜15:12新穂山15:18〜16:14新穂谷山〜16:31新穂峠〜17:20中津又林道
カナ山の山頂直下の夜叉ヶ妹池は山本武人氏による「湖北の山」を紐解くと冒頭のカラー写真の頁にも幽境の池として美しい紅葉の写真と共に紹介されており、否が応でもこの池への憧憬がかき立てられるところだ。
七曲峠から天吉寺山を経て郡界尾根をカナ山まで縦走したのは昨年の12月のこと。山行を計画していたら直前に山日和さんとsatoさんによる鳥越山までの周回のrepがアップされて驚くことになる。山日和さん達が訪れた時の穏やかな初冬の晴天と異なり、我々の山行では夜叉ヶ妹池に到着する頃にはそれまで間断なく降り続いてた冷たい雨が雪となり、半ば寒さに顫えながら雪の舞う幻想的な池を眺めたのだった。
いつかこの郡界尾根を北上する時にはこの夜叉ヶ妹池の周囲の紅葉の美しい季節にと考えていた。ところでこの尾根は現在は米原市と長浜市を隔てる市界尾根となっているが、両者はそれぞれ坂田郡と浅井郡に属していたので郡界尾根と呼んでも差し支えないだろう。
カナ山の西側斜面は植林帯が続くこともあり、山日和さんが登られたようにカナ山にアプローチするのは米原市の姉川側と心に決めていた。こちら側からカナ山にアプローチするメリットは鳥越峠からさら新穂峠に向かって江美国境尾根の縦走が可能となることだ。
前回の山行のメンバーにお誘いのメールをお送りしたところ、Yさんは既にカナ山から鳥越峠までは既に縦走されたので今回はパスということではあったが、この稜線を未踏のNさん、Hさん、Uさんは山行にお付き合い頂けることとなった。
姉川沿いに北上すると周辺の錦繍が見事だ。伊吹山の西麓、大久保集落の手前のあたりでは道路沿いには望遠レンズを対岸の斜面に向けてカメラを構えている人達が数多くいる。この尾根は郡界尾根の末端に位置する七尾山から南東に伸びる尾根であるが、朝陽が錦繍を照らすのを待っているのだろうか。
待ち合わせの温見親水公園の手前でトンネルと抜けると姉川が作る深い谷には両側が見事な錦繍であり、天吉寺山からカナ山にかけての右岸の山肌を朝陽が明るく照らしている。先週末の鈴鹿の錦繍も見事ではあったが、こちらも勝らずとも劣らぬ見事さだ。この稜線を登って行くのかと思うと、否が応でもこの日の山行の期待に胸が膨らむというものだ。
温見親水公園は冬にはまだ早すぎるように思うのだが、すでに冬季閉鎖中であり入れない。姉川にかかる橋を渡ったところに3台ほど車を停めることの出来る道路余地があった。駐車地を確認して公園に戻ろうとすると下山予定の中津俣谷林道に車をデポして、戻ってこられたHさんとNさんが到着する。
ここからは三本の尾根が郡界尾根に向かって伸びている。p718を経てカナ山山頂に直接至る尾根は尾根下部は植林が広がっているが、この尾根は傾斜が最も緩やかであり、躊躇なくこの尾根を選択することにする。姉川の対岸から植林の林に入るとすぐにも古い石垣が現れる。かつては田圃か人の住まいがあったのだろう。北に小さな流れを越えるとすぐに植林の尾根に取りつく。尾根芯には植林の作業道と思われる踏み跡が続いており、所々に馬酔木の小藪が現れるが、難なく通過することが出来る。
植林はca700mあたりで唐突に終わり、いよいよ紅葉の自然林が始まる。尾根上は意外なほど広く切払いされており、一般登山道と変わらないほどの明瞭な道が続いている。まもなく道の両側は一面にシロモジの黄葉が広がり、まるで金色の光の中を歩いていくようだ。「ワァー、綺麗」というHさんの声が繰り返される。
シロモジの黄葉に見惚れるうちに登りのしんどさを感じることなく、気がついたら山頂直下までたどり着いていた。実際、予想していたよりも遥かに登りやすい道があったお陰で登山口からここまで1時間20分ほどというのは上出来だろう。
まずは夜叉ヶ妹池に立ち寄る。この頃には上空には雲が広がり、太陽は雲の陰に隠れてしまっていた。時折、微かな霧が幽界から迷い込んできたかのように足早に尾根を横切って行く。
夜叉ヶ妹池の周囲はやはり見事な紅葉であった。太陽は雲の陰に隠れてしまっていたが、陽射しによる反射がないせいか、池を彩る紅葉のコントラストが明瞭となり、幽境の池の雰囲気を際立たせる。池の中央では角のように突き出た倒木が横たわっているが、果たしていつからあるのだろう。「湖北の山」で山本武人氏により描かれたイラストにおいてもこの倒木が描かれている。
折しもすりガラスのような雲から淡い光が差してきては黄葉を微かに明るく輝かせると、昨年の小雪の舞う池も幻想的ではあったが、池のほとりの樹々が陽光に煌めく美しさは筆舌に尽くしがたい。
夜叉ヶ妹池でのんびりと時間を過ごした後はいよいよカナ山から郡界尾根を北上する。登りの尾根と同様、シロモジの黄葉の樹林が続くが、カエデやミズナラの紅葉した広葉樹も多く目立つ。尾根には明瞭とまではいえないものの踏み跡が続いている。テープ類が頻繁にあるのはルートがわかりやすいという点ではいいのだが、場所によっては5mほどの間隔でピンクテープがつけられている箇所もあり、流石にこれだけ多いと尾根の黄葉を眺めるのに目障りに思われる。
次の小ピークp1052は東側に大きく展望が開け、目の前にはブンゲンが大きな山容を広げている。遠くから見ると地味なピークの山に思われるが、実際には西麓の甲津原に向かって大きく山裾を広げる山だ。ブンゲンの左手に視線を移すと彼方に冠雪した御嶽山、さらにその左手には乗鞍の姿も見えている。
p1071に向かうと尾根には笹が増えて急にシロモジの姿が少なくなってゆく。あたりには徐々に紅葉したブナの樹々も目立つようになったかと思えば、p1071を越えた次のピークのあたりからは見事なまでのブナの高木からなる美林が始まった。折しも上空の雲が切れて太陽が現れたのだろう、林の中には柔らかな暖色系の透過光が降り注ぐ。「綺麗!」「素晴らしい!」・・・皆の歓声が美林の中に延々と木霊して行く。
ブナの紅葉に見惚れながらもほぼ予想したコースタイムで歩けているようだ。登山道はp1054は西側に巻いて行く。鳥越峠に到着するといよいよ目の前には金糞岳を望み、さらに南北に好展望が広がる。早速にもランチの用意に取り掛かり、鳥越峠の石標の陰で風を避けて調理をする。
滋賀県側は通行止めとなっているが岐阜県側から登ってきたのだろう車が2台停められいた。自転車に乗ったサイクリストも2名ほど登ってこられる。
ランチを終えてハーブティーと共に差し入れのおやつを戴くといよいよ後半の江美国境の山旅の開始だ。遠くでは琵琶湖が午後の陽光を反射して金色の光を放って輝いていた。
国境尾根を進むとこちらでも早速にもブナの美林が広がるようになる。鳥越山への鞍部に向かって下降して行くと向こうから男女二人のペアが登ってくる。私の姿を見るや否や「山猫さんですか?」とお声がけ頂く。ヤマレコ・ユーザーのsimonさんであった。「滅多に人と会うとは思えぬこの稜線でお会いするとは」と吃驚。
鳥越山から先もブナの美林が続く。まるで大聖堂をさせるような壮麗な樹林においては色とりどりの透過光は聖堂の窓を装飾するステンドグラスを想起させる。そよ風が紅葉した木の葉を揺らすとキラキラと透過光が音を立てて梢から落ちてくるかの様だ。左手には樹間から金糞岳の雄大な山容を眺めながら尾根を北上する。
P1001で尾根が大きく東に向きを転じると途端にブナは少なくなり北側から植林が登ってくる。新穂山に登り返すと、新穂山の山頂からは北側に展望が開けており、錦繍に染まる湧谷山、蕎麦粒山の彼方には能郷白山、大ダワの彼方には高丸(黒壁)、三周ヶ岳と越美国境の山々が見えている。
新穂山から南下する再びシロモジの樹林となり、色づいた夕陽を浴びてシロモジの黄葉は琥珀色に染まっている。
鞍部を越えてp1010に登り返すとその先に待っていたのは圧巻のブナの回廊であった。なだらかなピークにかけて端整な樹影のブナの高木が立ち並ぶ様は美しいプロムナードさながらだ。
ブナの美林の中、夕陽による琥珀色の透過光を浴びながら最後のピーク新穂谷山に到着する。
新穂谷山からは再び夕陽を浴びて琥珀色に輝くシロモジを眺めながら新穂峠へと下ってゆく。
新穂峠では真新しく風格のある黒い石標が設置されていた。峠からはしばらくは深い掘割の古道が続いており、古道を辿ることが出来るものかと期待したが、残念ながらすぐにも古道は不明瞭になる。
谷筋は正面から差し込む黄金色の夕陽で満たされていたが、谷を下るにつれてすぐにも太陽は山の陰に隠れてしまう。地理院の地図においては破線は谷筋を下降して行くがピンクテープのつけられた踏み跡は谷筋を離れて尾根の方に向かっている。左手には小さな滝が現れたところで、谷に下降することを提案するが、いざ谷に下降してみるとその先は急峻なV字谷となっているのが見えたので、急斜面を登り返して斜面のトラバース道を辿ることにする。
道はすぐにも新穂峠の北側から下降してくる尾根道と合流し、尾根上には歩きやすい道が現れた。薄暗い植林の谷筋に降っゆくとすぐにも林道となり、一同はホッと安堵したようだ。中津又谷林道のかなり奥まで車をデポしに行って下さったHさんとNさんのお陰で、林道を下り始めるとすぐにもNさんの車が目に入る。あたりは急速に夜の帳が降りてくるのだった。
Nさんの車で南の空で瞬く一番星を眺めながらスタート地点に戻る。改めてこの日の充実した山行の喜びを分かち合いつつ、皆さんとお別れした。