【 日 付 】2021年5月30日(日曜日)
【 山 域 】京都北山
【メンバー】Kitayamawalkさん、satoさん、KKさん、山猫、家内、keikokuさんと3名のご友人達(途中、天狗峠の手前まで)
【 天 候 】晴れ
【 ルート 】岩屋谷出合8:42〜9:16久多上の町登山口〜11:04三国岳13:25〜15:32天狗岳15:40〜16:43p927 17:01〜18:16岩屋谷出合
この数年、毎年この時期になると北山の芦生演習林の周辺を訪れることが多い。今回はkitayamawalk(以下KW)さんとbiwa爺さんとご一緒に三国岳を目指すつもりだったのだが、直前になってbiwa爺さんから体調不良とのご連絡を頂く。しかしKWさんがお声を掛けられてKKさんとsatoさん、それからkeikokusさんもご一緒して下さることになった。
集合場所の坊村の市民センターの駐車場は多くの登山者で賑わっている。はるばる愛知から来られたkeikokuさんは三人のご友人を伴っておられた。登山口には車のスペースがあまりないので、まずは三台の車に分乗して久多川の上流を目指す。
久多の流域はすぐ東隣の針畑川沿いと同様、四季折々にアプローチの山村風景が美しいところだ。広い河岸段丘の田んぼからはゲコゲコと蛙の合唱が聞こえてくる。家族総出で田植えを準備をしておられる一家がおられる。長閑な景色に微笑ましさを感じながら上流へと進む。
ミゴ谷の入口近くの道路余地に私の車を停めて出合までkitayamawalkさんの車に乗せて頂く。岩屋谷と滝谷の出合にが近づくと、その手前に停められている赤い車がある。出合には確かに二台の車が停められており、付近には駐車の余地がなさそうだ。手前の道路余地に車を停めて出発する。
岩屋谷に沿って歩き始めると、川沿いにはトチノキの大樹が五葉の葉を大きく広げている。谷に満ち溢れる新緑の透過光がこの時期ならではの清冽さを感じさせてくれる。keikokuさんとそのご友人達一行にニノ岩屋をご案内すべく沢を渡渉して右岸の斜面を登る。
岩屋から早速にもkeikokuさんのお友達のNさんの脚にヒルが取り付いていたようだ。岩屋の近くで取りつかれたのだろう。先週の小野村割岳への山行で私は大きなヒルに吸血され、傷の疼きから2〜3日前にようやく解放されたばかりだが、Nさんも同じ日、南アルプスの池口岳でヒルにやられたらしい。
三ノ岩屋も登山道から外れて、谷を回り込む必要がある。岩屋の上流では谷の左岸の斜面にトチノキの大樹が聳えている。帰宅後に草川啓三さんの『森の巨人たち』を紐解くとやはりこの樹のことが紹介されており、「隠れた名木であろう」と記されていた。
急斜面を登って樹下を訪れる。ふと足元をみると靴をよじ登ってくる大きなヒルがいることに気がついた。家内の足元にもヒルがよじ登ろうとしていた。ここはヒルの多発地帯のようだ。再び登山道に戻ると、しばらくは九十九折りの急登となる。尾根に乗ったところでヒルのチェックをかねて一息つくと、Nさんの裾にヒルが一匹へばりついていた。Nさんにヒルさがりのジョニーを差し出すと足元にふんだんにふりかけられる。
三国岳から岩屋谷に下るの尾根は何度も降ってはいるが、登りに使うのは初めてだ。いつもは山行の終盤で急ぎ足に尾根を下降してしまっていることが多い。この日はゆっくりとした登りのせいもあり、ホオノキやブナの大樹の佇まいを確認しながら光沢を放つイワカガミの葉の間を登ってゆく。keikokuさん普段登られることが多い鈴鹿の山々とは林相がまるで異なるように思われるらしい。シロモジが少ないせいかもしれないとのこと、普段見慣れない樹があることには気がつきやすいが、見慣れた樹がないことにはなかなか気がつきにくいものだ。右手の谷からは終始、涼しい風が吹き上がっては登りで火照った体を冷やしてくれるのが嬉しい。
やがて尾根には一本の大杉が現れる。この尾根を急ぎ足に下降していてもこの大杉は呼び止められるような気がして、足を止めては見上げることになる。下から樹を見上げると筋骨を想起させる隆々とした樹幹に改めて力強い存在感を感じる。
大杉を後にするとまもなく尾根の傾斜も緩やかになり、三国岳に到着する。三国岳山頂では比較的真新しい高島トレイルの標柱には削られた痕がある。どうやら熊の仕業のようだ。ここでも見上げるとホオノキの白い花が咲いている。山頂の周りにある樹はコシアブラであることをkeikokuさんが教えてくださる。葉をよくよくみると特徴的な五出複葉をしている。鈴鹿では葉に手が届くようなコシアブラには滅多に遭遇しないとのことだ。
山頂周辺の源頭を気ままに散策すると大きなトチノキの大樹が満開の花を咲かせている。樹の下に数多く落ちている小さな白い花を拾い上げるとkeikokuさんは「トチノキの花ってこんなに小さいのか」と感心する。確かにホオノキの大きな花と違い、集合花を形成するトチノキの小さな花の一つ一つは驚くほど小さく、そして生き物のように繊細だ。
山頂の北東のジャンクション・ピークでランチ休憩にする。このピークから南東の斜面では蛇谷ヶ峰から武奈ヶ岳を望むことが出来る。昨日の山行で摘んできた蕨とセセリ、舞茸を用いてアヒージョを作る。料理の後半はここにライスを投入してリゾットを作る。
再び三国岳の山頂に戻るとp936までは混合林の鬱蒼とした樹林が続く尾根を辿る。p936を過ぎると伐採の跡なのだろうが、一気に展望が開け、東側にはイチゴ谷の向こうに蓬莱山から武奈ヶ岳に至るまでの比良の眺望が視界に飛び込んでくる。
展望地を少し先に進むと尾根の北側は緩斜面に広々とした美しい樹林が広がっている。草原状の広い尾根の周囲ではヤマボウシ、サワフタギ、カマツカの花々が午後の光を浴びて白い輝きを放っている。相変らず由良川の源流の大谷の方からは涼しい風が吹き上がってくる。
このあたりでは道のすぐ傍らで咲いている数株の猿面海老根を見かけることができる。猿面海老根の花は果たして猿の顔を想起するかどうかは別として、正面からみるとまるでこちらに話しかけるような、或いは笑いかけるような実に豊かな表情を見せてくれる花だ。おそらくは先週あたりが花期の盛りだったのだろう。既に勢いを失って色褪せているものもあったが、出遭えただけで嬉しいものだ。
残園ながら中には花茎がその根元近くから失われているものも散見する。鹿に食べられてしまったのだろう。KKさんによると昔は経ヶ岳の近くでも数多く見かけたらしいが、いまやすっかり失われてしまったとのこと。この尾根の少ない株も来年以降、いつまで咲き続けられるか、花の命が永遠にに引き継がれていくことを願うばかりだ。
登山道の脇の苔むした倒木の陰を覗き込むと、身を潜めるように咲いている数株の花に出会う。写真を撮ろうと屈み込むと上からsatoさんの鋭敏な感性が紡ぐ言葉に心打たれた。「朽ち果てゆく者の傍らで生命を謳歌する者達、こうして命が受け継がれていくんだ〜!」彼女の言葉を聞いた途端、この森の中の生命体が目に見えない無数の糸で有機的に繋がってるように思われるのだった。
keikokuさん達一行は夕方までに愛知に帰らなければならない方がいらっしゃるとのことで、柔らかい木漏れ日が落ちる美しい樹林の中でお別れすることになる。
天狗峠への分岐となるジャンクション・ピークのあたりから尾根は倒木でかなり荒れている。ここに数年ぶりに来られたkitayamawalkさんは倒木によって以前とはかなり様相が異なってしまったことに驚かれておられた。それでも吊尾根のほぼ中間地点にある3本の太い支幹を有するシンボリックな台杉が健在なのは嬉しいことだ。
天狗峠の帰路で再びこの大きな台杉に通りがかると、「以前はここによじ登ったんだけどな〜」と言いながらKWさんが樹によじ登ろうとされる。私も何度もこの樹の前を通り過ぎながら、樹によじ登ろうと思ったことはなかったが思わず樹に登ってみる。KWさんもまるで少年のように目を輝かせながらすぐに反対側から登ってこらるのだった。
分岐に戻るとてp921にかけて細尾根となり、小さなアップダウンを繰りかえす。p921に至ると、ピークの周りではサラサドウダンがほぼ満開だ。他では全くと言ってもいいほど見かけないのだが、不思議なことにこの山頂一帯のみサラサドウダンの花が咲いている。谷から間断なく吹き上がってくる風に無数の小さな花々は風鈴のように涼しげに揺れていた。
p927から尾根を東に進むと斜面の北側には何本かの迫力のある台杉が現れる。滝谷右岸尾根に入ると尾根は東側に展望が開けており、比良の稜線の好展望が続く。その手前には経ヶ岳からイチゴ谷山を経てp909に至るなだらかな尾根が見える。この尾根も草川啓三さんの本でその魅力を知ったのだが、ブナやトチノキの大樹が立ち並ぶ魅力的なところで、四季折々に魅力的なところだ。
やがてca830で尾根を直角に曲がり、p829を目指す。p829の小さな広場の北側にはニスがすっかり剥落し、数字も読めなくなってしまった小さなプレートが架けられていた。このピークを過ぎると、途端に急に藪っぽい植林となる。細尾根の尾根芯には脱落してすっかり用をなさなくなった防鹿ネットが散乱している。やがて尾根芯は繁茂する藪のせいで歩きにくい箇所が多く、左側の植林の斜面をトラバース気味に歩くことを余儀なくされる。
しかし、尾根を下降するにつれ急に広々とした快適な自然林が広がるようになる。折しも樹林の中には夕陽が差し込み、林の中の樹幹を黄金色に輝かせる。やがて太陽が雲の陰に陰に隠れたのだろうか、樹々の輝きが失くなると急に夕刻の薄暮の中に入ったようだ。
尾根を末端まで辿ると急峻な崖となるので、末端の小ピークの手前で鹿道と思われる踏み跡を辿って滝谷の右岸の河原に下降する。対岸に渡渉するとすぐに岩屋谷との出合にたどり着く。
皆さんとお別れするのが名残り惜しいところであったが、子供達の夕食があるので車を取りに行くとご挨拶して帰路につく。多くの大樹、好展望、そして花にも恵まれ充実した山行であった。