先日,福寿草を見に鍋尻山に登った時に鍋尻山の西側に顕著な谷がある事に気付いた。ゴルジュの谷である。このようなゴルジュの谷には登る事も降る事も出来ない険悪な滝が潜んでいる事が多い。帰宅して調べてみると大きな滝はなく,ロープなしでも登る事ができるようだ。沢屋の悲しい習性で気になった谷は行ってみないと気が済まない。
【 日 付 】2021年4月21日(水)
【 山 域 】鈴鹿北部・鍋尻山
【メンバー】単独
【 天 候 】快晴
【 ルート】 河内風穴 8:40 --- 10:38 林道 --- 10:50 杉集落 --- 11:43 桃原(もばら)集落--- 12:45 車道 --- 13:26 駐車地
河内風穴前の有料駐車場に車を止め,準備をしていると隣の「風緑」という喫茶店のおかみさんらしい人に声を掛けられる。
「山登り?そっちに停めるとお金を取られるよ。この店は今日は休みなんで,ここに停めていいよ。」
好意は素直に受ける性格なので,早速場所を移動する。お店のご主人らしい人。
「どこに行くの?」
エチガ谷を登るというと,
「昔,鍋尻山で道迷いした人が谷に降りようとして滑落して,捜索に入った消防の人が滑落死した事があるから,気をつけてね。」
と心配そうな様子。
- 入渓点付近
風穴に向かう道からエチガ谷をみると,水量が多い。風穴の手前で道の清掃をしているおじさんに出会う。
「どこへ行くの?風穴に行かなくても入場料はもらうように言われているんだけどねえ。」
とのことだったが,そのまま見逃してくれた。この人もエチガ谷に入るというと心配そうな顔をしている。帰宅してから調べてみると,昔の遭難の記憶が根強いようで,集落全体の感情としてあまり歓迎していないようだ。
ちなみに,「鈴鹿の山と谷」でも風穴に行かなくても入場料を取られると書いてあるが,少々やりすぎな気がする。
- イカリソウ
風穴の手前で谷に下りるとあれだけたくさん流れていた水がなくなり,涸れ沢になった。おそらく地下水脈があるのだろう。地形図通り両岸は切り立って,ゴルジュになっている。確かに道迷いして谷に降りようとするのは自殺行為だろう。沢に入ってすぐに登ることのできない10mほどの滝がある。左岸を少し登ると巻き道があった。鹿の通る道なのか,あるいは人の道なのか?
ちなみにこのところずっと沢登りはご無沙汰である。前回が昨年6月の熊野の沢だったので,ほぼ1年ぶりの沢歩きである。久しぶりすぎて足元がおぼつかない。頭がフラフラするような気がする。慣れるまでは慎重に歩くことにしよう。
この後は巻くような滝はなく,岩は乾いていてフリクションもいいので,すべて直登する事ができた。遠くから見ると難しそうな滝でも,近くで見るとそれなりにホールドがあるものだ。そのようなホールドを見つけ出して登ってみると,意外に簡単に登れたりする。1年前からボルダリングをやっているが,昔に比べて滝登りは上手くなっているのだろうか。手指の保持力は間違いなくアップしているので,多少は登攀力が向上しているかもしれない。やっぱり沢登りは天然のアスレチックのようで楽しい。
1時間も歩くと両側の斜面が緩くなる。ゴルジュを抜けたようだ。水流も戻ってきた。水の流れていない谷は音もなく,不気味なだけである。やっぱり,谷は水が流れている方がいい。春の日差しが谷に降り注ぎ,新緑が綺麗だ。イカリソウやイチリンソウらしい春の花が咲いている。
- 登る事のできない枯れ滝
- 気持ちのいい沢
- イチリンソウ
- 杉集落
穴ぼこのある枯れ滝を登ると谷は平流となり,炭焼き窯跡が散見されるようになる。このあたりの山里の生活圏に入ったようだ。両側が杉の植林となり,しばらくすると保月から降ってきている林道に出る。ここは前回も歩いた道だ。林道を西進するとしばらくで杉集落につく。葉桜になりかけた桜が咲いているが,2,3軒ある家はすでに廃屋になっている。
- 気持ちのいい沢
ここを右折し,杣道に入る。昔はよく歩かれた道のようで,道型ははっきり残っているが,長い間人が歩いた形跡はない。杉の植林の下にヤマシャクヤクが2株あるが,まだ蕾だった。
- 桃原集落
杣道に沿って歩いて行くと桃原(もばら)集落。この辺りの山村の中では大きな集落のようだ。すでに廃村になっているのかと思ったら車を2,3台見かけ,人の姿もある。日当たりのいいところで昼食にしようと道端に座ったら,前の家から70歳代と思われる男性が出てきて
「もう遅いわあ」。
何が遅いのかと思ったら目の前に立派な枝垂れ桜があった。おそらくこの枝垂れ桜を観に来る人もいるのだろう。この家に住んでいるということだった。やっぱり廃村ではなかった。奥で奥さんと思われる女性の声もしている。
桃原は昔スキー場があったようで,確かになだらかな斜面はファミリースキーに適したところだったろう。道端の看板に「桃源郷」と書いてある。桃原だけに確かに桃源郷なのだろう。北向き斜面ではあるが,日当たりのいい台地状になっており,静かでいいところだ。
桃原から地形図の破線道を芹川へ降りたが,長年誰も歩いていないようで,わずかに道型が確認できる程度の道だった。車道に出てから満開のシャガを見ながら3キロの道を河内風穴まで戻った。駐車地の「風緑」に戻るとちょうどおかみさんが店の準備のために到着したので,お礼を言うことができた。今度来ることがあったら店にお邪魔したいものだ。
一昨年の暮れから,山歩きではなく里歩きを始めて,人々の暮らしを見ながら歩くのも悪くないと思うようになった。今回は久しぶりの沢歩きを楽しむとともに,廃村巡りをしながら昔の山村の暮らしを偲ぶことができた贅沢な1日だった。
先日,福寿草を見に鍋尻山に登った時に鍋尻山の西側に顕著な谷がある事に気付いた。ゴルジュの谷である。このようなゴルジュの谷には登る事も降る事も出来ない険悪な滝が潜んでいる事が多い。帰宅して調べてみると大きな滝はなく,ロープなしでも登る事ができるようだ。沢屋の悲しい習性で気になった谷は行ってみないと気が済まない。
【 日 付 】2021年4月21日(水)
【 山 域 】鈴鹿北部・鍋尻山
【メンバー】単独
【 天 候 】快晴
【 ルート】 河内風穴 8:40 --- 10:38 林道 --- 10:50 杉集落 --- 11:43 桃原(もばら)集落--- 12:45 車道 --- 13:26 駐車地
河内風穴前の有料駐車場に車を止め,準備をしていると隣の「風緑」という喫茶店のおかみさんらしい人に声を掛けられる。
「山登り?そっちに停めるとお金を取られるよ。この店は今日は休みなんで,ここに停めていいよ。」
好意は素直に受ける性格なので,早速場所を移動する。お店のご主人らしい人。
「どこに行くの?」
エチガ谷を登るというと,
「昔,鍋尻山で道迷いした人が谷に降りようとして滑落して,捜索に入った消防の人が滑落死した事があるから,気をつけてね。」
と心配そうな様子。
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風穴に向かう道からエチガ谷をみると,水量が多い。風穴の手前で道の清掃をしているおじさんに出会う。
「どこへ行くの?風穴に行かなくても入場料はもらうように言われているんだけどねえ。」
とのことだったが,そのまま見逃してくれた。この人もエチガ谷に入るというと心配そうな顔をしている。帰宅してから調べてみると,昔の遭難の記憶が根強いようで,集落全体の感情としてあまり歓迎していないようだ。
ちなみに,「鈴鹿の山と谷」でも風穴に行かなくても入場料を取られると書いてあるが,少々やりすぎな気がする。
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風穴の手前で谷に下りるとあれだけたくさん流れていた水がなくなり,涸れ沢になった。おそらく地下水脈があるのだろう。地形図通り両岸は切り立って,ゴルジュになっている。確かに道迷いして谷に降りようとするのは自殺行為だろう。沢に入ってすぐに登ることのできない10mほどの滝がある。左岸を少し登ると巻き道があった。鹿の通る道なのか,あるいは人の道なのか?
ちなみにこのところずっと沢登りはご無沙汰である。前回が昨年6月の熊野の沢だったので,ほぼ1年ぶりの沢歩きである。久しぶりすぎて足元がおぼつかない。頭がフラフラするような気がする。慣れるまでは慎重に歩くことにしよう。
この後は巻くような滝はなく,岩は乾いていてフリクションもいいので,すべて直登する事ができた。遠くから見ると難しそうな滝でも,近くで見るとそれなりにホールドがあるものだ。そのようなホールドを見つけ出して登ってみると,意外に簡単に登れたりする。1年前からボルダリングをやっているが,昔に比べて滝登りは上手くなっているのだろうか。手指の保持力は間違いなくアップしているので,多少は登攀力が向上しているかもしれない。やっぱり沢登りは天然のアスレチックのようで楽しい。
1時間も歩くと両側の斜面が緩くなる。ゴルジュを抜けたようだ。水流も戻ってきた。水の流れていない谷は音もなく,不気味なだけである。やっぱり,谷は水が流れている方がいい。春の日差しが谷に降り注ぎ,新緑が綺麗だ。イカリソウやイチリンソウらしい春の花が咲いている。
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[attachment=4]P4210023.jpg[/attachment]
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穴ぼこのある枯れ滝を登ると谷は平流となり,炭焼き窯跡が散見されるようになる。このあたりの山里の生活圏に入ったようだ。両側が杉の植林となり,しばらくすると保月から降ってきている林道に出る。ここは前回も歩いた道だ。林道を西進するとしばらくで杉集落につく。葉桜になりかけた桜が咲いているが,2,3軒ある家はすでに廃屋になっている。
[attachment=1]P4210049.jpg[/attachment]
ここを右折し,杣道に入る。昔はよく歩かれた道のようで,道型ははっきり残っているが,長い間人が歩いた形跡はない。杉の植林の下にヤマシャクヤクが2株あるが,まだ蕾だった。
[attachment=0]P4210054.jpg[/attachment]
杣道に沿って歩いて行くと桃原(もばら)集落。この辺りの山村の中では大きな集落のようだ。すでに廃村になっているのかと思ったら車を2,3台見かけ,人の姿もある。日当たりのいいところで昼食にしようと道端に座ったら,前の家から70歳代と思われる男性が出てきて
「もう遅いわあ」。
何が遅いのかと思ったら目の前に立派な枝垂れ桜があった。おそらくこの枝垂れ桜を観に来る人もいるのだろう。この家に住んでいるということだった。やっぱり廃村ではなかった。奥で奥さんと思われる女性の声もしている。
桃原は昔スキー場があったようで,確かになだらかな斜面はファミリースキーに適したところだったろう。道端の看板に「桃源郷」と書いてある。桃原だけに確かに桃源郷なのだろう。北向き斜面ではあるが,日当たりのいい台地状になっており,静かでいいところだ。
桃原から地形図の破線道を芹川へ降りたが,長年誰も歩いていないようで,わずかに道型が確認できる程度の道だった。車道に出てから満開のシャガを見ながら3キロの道を河内風穴まで戻った。駐車地の「風緑」に戻るとちょうどおかみさんが店の準備のために到着したので,お礼を言うことができた。今度来ることがあったら店にお邪魔したいものだ。
一昨年の暮れから,山歩きではなく里歩きを始めて,人々の暮らしを見ながら歩くのも悪くないと思うようになった。今回は久しぶりの沢歩きを楽しむとともに,廃村巡りをしながら昔の山村の暮らしを偲ぶことができた贅沢な1日だった。