【 日 付 】2021年3月14日(日曜日)
【 山 域 】奥越
【メンバー】山猫、家内
【 天 候 】曇りのち晴れ
【 ルート 】前坂谷林道入口8:01〜10:05蛇鏡山10:12〜12:01木無山12:25〜13;37p993〜14:53駐車地
先月の上谷山〜三国岳の山行の後半で家内が脚の付け根に痛みを生じたので、今回は距離の短めの山でなおかつ雪が十分にある山・・・という条件で山行先を考えることなる。思い浮かんだのは先週のスノー衆において、徳平山の手間で、白山の左手の方角を眺めながらあれが木無山と山日和導師が教えて下さった山だ。その瞬間、他の選択肢は全く考えられなくなるほど、この木無山はまさに格好の山に思われた。
この山は以前にスノー衆が開催されたところらしい。やぶこぎのサイト内を検索しても上がってこなかったのだが、今回のスノー衆のクロオさんのレスのお陰で2015/2/28の山行だったことを知り、おど+さんの詳細なrepにたどり着くことが出来る。
早朝、中部縦貫自動車道を越前大野に向かうと、大野盆地の上は晴れ渡っているものの、銀杏峰、経ヶ岳、荒島岳といった大野盆地を取り巻く山々ないずれも雲の中だ。美濃街道を進むと、荒島岳の登山口には多くの車が停められており、勝原スキー場跡地を登っていく登山者が多いようだ。丁度、登り始める登山者が多い時間なのだろう。
和泉スキー場への案内を頼りに九頭龍川を上流へと辿る。スキー場の手前の前坂谷林道の入口は除雪されており、車2〜3台分のスペースがあった。準備を整えると蛇鏡橋を渡ってスキー場に向かう車道を歩き始める。スキー場がオープンする時間帯なのだろう。ひっきりなしにスキー場へ向かう車が通る。三重ナンバーの車もあったが、東海北陸自動車道を北上すると意外と近いのかもしれない。
谷の正面には蛇鏡山の広々とした雪の斜面が見える。スキー場の手前のヘアピンカープから長倉谷の林道へと入る。除雪された車道の周囲には1m近くは雪が積もっているので、ここに林道があるということを知らなければ単に雪原が広がっているようにしか見えないだろう。
最初に現れる谷を奥に進むとすぐに沢に進路を遮られるので、右岸の尾根に取り付く。少し登ったところで、706mの標高点に向かっているつもりがゲレンデに向かう尾根を登っていることに気がつく。ゲレンデの縁に沿って尾根が続いているようなので、尾根をこのまま辿り、蛇鏡山(△1121.2)に登るコース取りに変更する。
ゲレンデからは強風のためにリフトの運行を中止する旨の放送が聞こえる。ゲレンデが近づくとその外を歩くのだが、尾根がリフトの下に出てしまう。どうやら隣の尾根を辿るのが正解だったようだ。幸いリフトは止まっている。リフトの下はゲレンデではないので、スキーヤーに遭遇する心配はない。すぐにリフトの下から出て右手の尾根に乗ると、我々がリフトの下から出るのを待っていたかのようにすぐにもリフトが動き始めた。
スキー場の脇の尾根は二次林ではあろうが、快適な自然林の樹林が続く。足元を見るとわずかに薄雪が積もっている。昨夜はこのあたりは雪だったようだ。背後には雲の下から朝陽に輝く大きな山が姿を現す。先週に縦走したばかりの大日ヶ岳だった。
やがて穏やかな自然林の尾根の行く手には蛇鏡山への急峻な尾根が近づいてくる。尾根の上の方は雲の中だが、樹々には微かに霧氷がついているようだ。尾根は登るにつれて急に斜度を増し、まもなく険阻な痩せ尾根となる。尾根芯は所々で雪が切れて藪が露出しているが、藪を避けて右側の雪の急斜面に踏み込むことはあり得ない。急斜面は大きな岩の下でいくつもの雪割れが生じており、雪割れを乗り越えられない可能性もあるだろう。尾根から下向きにせり出した低木をぐいと掴んで藪を正面突破する。
再び尾根芯に雪が現れると藪こぎからは解放されるものの、急傾斜のためにさらなる緊張を強いられる。幸い、スノーシューが程よく雪に食い込んでくれる。一歩一歩、慎重にステップを刻み込みながら登ってゆく。二週間前のような硬く締まった雪質であればアイゼンとピッケル無くしては到底登れないところであっただろう。
尾根の上部で再び雪が切れる。尾根芯の藪の中には鹿のものと思われる微かな踏み跡があるようだ。薄い踏み跡に沿って、低木の藪を掴んでよじ登る。樹々はよく見ると透明な氷がついているものが多い。霧氷ではなく、雨氷だ。過冷却された雨が冷たい樹に吹き付けられて結氷したものらしい。樹木のない尾根からは背後には滝波山から平家岳へと至る越美国境の稜線の好展望が広がる。しかし残念ながら急斜面の藪こぎと登攀に必死で、展望や雨氷を楽しむ余裕はない。
当初は反時計回りの周回を考えこの尾根を下降することを考えていたが、この尾根はあまりにも急峻であり、下降には適さないだろう。当山行の前に山日和さんからコース取りのアドバイスを頂き、時計回りの周回にしたことは様々な意味で正解であった。
最後の藪を越えるとようやく足元の傾斜が緩くなるのがわかる。ようやく一息ついて、周囲の好展望を見渡す余裕が出来る。いつしか、雲も上がり、雲の合間から陽光が溢れ始める。わずかに登るとなだらかな小さなピークに出る。GPSで確認するとここが蛇鏡山であった。
蛇鏡山からはそれまでのスリリングな尾根からは一転、樹林の緩やかな尾根が続いている。雲の中から現れた樹木はしっかりと真っ白な霧氷を纏っている。雪の上には薄っすらと新雪が積もっており、久しぶりの新雪の感触が心地よい。次のピーク、ca1150mは蛇鏡山より標高が高く、樹のない好展望のピークだ。三角点を設置するならこちらのピークの方が適切のようにも思える。蒼穹を見上げながら純白のピークを目指す。
東側には小白山、野伏ヶ岳がすっきりとした姿を見せる。滝波山、平家岳を振り返ると、これらの山々には遠目にもわかる霧氷がついているのがわかる。
霧氷の回廊の先には雲の中から木無山の山頂、そして白山が一瞬、姿を見せる。
次のca1170mとの間の小さなコルは二重尾根となり、尾根の間は樹木のない船窪地形となっている。船窪の小さな雪原に下降して霧氷の大樹に取り囲まれながら、雲が通り過ぎるのを待つ。以前のスノー衆では丁度、このあたりで稜線に出たところだろう。
ブナの疎林が広がる広々とした斜面を登り始めると、次々と光の波が現れ、ca1150mのピークから辿ってきた霧氷の尾根の上を高速で通り過ぎてゆく。
ca1170mの細長い台地状のピークに乗るとブナの巨樹の回廊となる。樹々の霧氷はさらにスケールアップする。雲の合間から光がさすと、樹林の中は陽光に煌めく霧氷のせいであたかも豪奢な照明をつけたようだ。
霧氷の樹林を抜けるといよいよ木無山への最後の登りとなる。背後に見える鋭鋒は屏風山だろうか、彼方には姥ヶ岳から能郷白山へと続く山並みが雲の中から姿を見せる。
いつしか木無山にかかる雲はすっかり晴れて、山頂部には木無山の字の如く、木の無い純白の雪稜が姿を見せる。スノー衆においても山頂部を見上げた参加者の方々から歓声が上がったことは想像に難くない。
東側には大きく張り出した雪庇には所々で大きな雪割れを生じている。雪庇の尾根からは東側に大日ヶ岳の彼方には御嶽山が見える。先週末、赤樽山から徳平山への縦走から眺めた時に比べかなり山が白くなったように思えるのは、おそらく昨日、降雪があったのだろう。隣の荒島岳もようやく雲がとれて、白い頂きを見せる。
西側斜面の樹林は霧氷が真っ白である。このあたりが霧氷のクライマックスだろう。時間は昼前、この時間までこれだけの霧氷が残っているのが驚きだ。パラパラと霧氷の落下が始まっているが、それでも十分すぎるくらいに霧氷が残っている。もう少しすると霧氷が一気に落下する時間が到来するのだろうが、よくぞ我々がここに到着するまで残っていてくれたものだと思う。この霧氷の壮麗な樹林を通過してしまうのが勿体なくて、なかなか尾根を先に進むことが出来ない。
- 尾根を振り返って
いよいよ樹林が切れたところで、山頂までの最後の雪稜を一気に登り詰める。山頂に立った瞬間、白山、そして経ヶ岳、赤兎山、大長山の展望が一気に視界に飛び込む。樹の一切ない360度の大展望が広がる。しかし、山頂に立った途端に強烈な風が吹いている。この山頂部に樹が育たないのは経ヶ岳や荒島岳と同様、ここも日本海側から九頭竜川に沿って吹き込む風の通り道であり、雪の下には風衝草原が広がっているのだろう。
山頂の東側の小さな雪庇の下に回り込むと風の影に入ったのだろう。先程までの強風が嘘のように風は微塵も感じられなくなる。立山を左手に眺めながら、目の前に広がる霧氷の樹林を前にランチ休憩をとる。
下山はp1153へのコルに向かって下降する。鞍部に下ると霧氷は急に消える。p1153から南東の緩斜面に下降すると、樹木のないだだっ広い平地が現れる。尾根伝いに南下すると、ブナの大樹の疎林の広がるなだらかな斜面にはいく筋もの小さな源頭が襞を刻んでいる。地図では表現されない複雑な地形は歩いているうちに刻々と風景が変化してゆく。やがて尾根は急速に収束し、ca1060mにかけて緩やかな登り返しとなる。
尾根の西側からは蛇鏡山から木無山へと午前中に歩いた稜線を一望することが出来る。尾根の東側にはもとより霧氷はほとんどついていないのであるが、ここからは木無山の山頂にわずかに霧氷を認めるばかりだ。南尾根の西側斜面の大きく発達した霧氷も今頃は落下してしまった頃だろうか。
ca1060からはスノー衆で辿られた南に延びる尾根を下降することも考えられたが、p993から南に延びる急下降の尾根を下降することにする。どうもスノー衆のルートでは最後にアトラクションがあるように思うのは気のせいだろうか。
ここからは植林の急下降となり早々に雪が切れるので、スノーシューを脱いで下降する。痩せ尾根の急下降ではあるが、足場は豊富にあり、無理な下降ではない。やがて尾根の下部で傾斜がゆるかな二次林になると雪が現れ、再びスノーシューを履く。ca710mの南東に突き出す尾根を目がけて植林の中を下降してゆくと、忽然と雪の平地の中に池が現れる。
池は驚くほど澄んだ透明な水を湛えており、風もないのに水面にはさざ波が立っている。どうやら滾々と水が湧き出しているようだ。池というより泉と呼ぶのが適切なのだろう。雪の中にあって微睡から醒めた瞳のような輝きを放つその泉は山行の終章に清冽な印象を与えてくれるのだった。
あとは緩やかに尾根伝いに下るだけだ。無事に林道に着地すると前坂谷の左岸へと橋を渡る。前坂谷の右岸にも細い林道が続いているようだった。あとはわずかに林道を歩いて、debrisを越えることもなく駐車地に帰還する。車に戻ると時間は15時前、車外温度は12℃となっていた。
山行距離はtotalで10km少々で7時間近くと、普段よりはかなり時間をかけて歩いたことになる。山行の充足感は距離や時間、そして山の知名度とは全く相関しないものだとよく思うが、まさにその好例とも云うべき山行であった。改めて、この山を教えて下さり、また山行前に的確なアドバイスを下さった山日和導師に深謝である。それにしても、この素晴らしい山が世にほとんど知られていないことが不思議だが、あと十年もすると人口に膾炙するようになるのだろうか。
ところで山行の翌日のこと、家内が車に乗り込むとその液晶の上を大きなマダニが這っていたらしい。この山中でダニに取り付かれるとは予想
だにしていなかった。油断大敵である。