【山行日】2021年2月28日(日)
【山域】湖北・下谷山(・971)周辺
【天候】晴れ
【メンバー】タイラ、アオバ*ト
【ルート】中河内6:20、大音波、下谷山11:40、下谷山北のタワ12:10~13:10、
音波山、栃ノ木、中河内16:40
久しぶりに下谷山へ行ってみようと思った。雪の南尾根を登ってブナの森に会いに行こうと思った。
中河内から菅並に向かう県道の半明ゲートの辺りまで除雪されていないだろうかと期待したが、甘い考えだった。
いつものところに車を停める。誰かに会わないかなと思ったが誰もいなかった。
雪は締まっていてぜんぜん沈まないけれど、スノーシューはいて歩き始める。
極力、スノーシューはかない派のタイラさんはツボ足で後ろを歩いて来る。
しばらくの間いろんな足跡が錯綜しているが、ほとんどは地元の方たちのものか。
一人分、きのうのものと思われるスノーシューの跡があったが、大黒山の北尾根に向かって消えた。ここからは誰の足跡もない。
途中、ショガ谷の尾を見上げるが、かなりヤブが出ていてここへ降りてくるのは難しそうだ。
半明まで来ると住居跡に大雪原が広がっている。
かわいらしい六体のお地蔵さんは、最初にあった場所から少し離れた場所に移されたように記憶していたが、
雪に埋もれてどこにいるかわからなかった。
程なくして、ゲートまでやって来て、嫌な予感。やっぱり大音波川の出合手前で雪崩れている。
その先の川がカーブするところも斜めっていて、どちらもほんの短い区間だけれど、寿命が縮まりそうだった。
法面の鉄柵が途切れるところまで来ると、いったん道幅は広くなって、ほっと一息つく。
南尾根には、夏も冬も、いつもここから取り付いていた。
見上げると、雪は少なくて地肌が露出しているところもあったが、そのままスノーシューで登る。
尾根芯に乗るまで標高差100ちょっと。このルート、むずかしいところは何もないけれど、ここがいちばんの難所か。
急過ぎて途中でスノーシュー外れたり、雪が切れたところで落ち葉に滑ったり、軟弱な私たちにはけっこう難儀だった。
傾斜が緩んで尾根に乗ると快適そのもの。けもののように樹林の合間を縫って、点標「大音波」に着く。
突如として、背丈が高くてすらりとした美しいブナの森に包まれる。ここに来ると何か、里と森の結界のような空気を感じるのだった。
空高く見上げると、ブナの精のかけらがハラハラと舞い落ちてくる。ひとしきり、ぐるりを歩き回ってはシャッターを切り、北へ下る。
ヤブの出始めたやせ尾根をやり過ごして、小さなコルから登って行くと上谷山が見えた。上谷は今日も賑わっているのだろうか。
次のピークで小休止して、西への尾根を見送り、再びやせ尾根をドキドキしながら通過すると尾根はたおやかに広がり、
えも言われぬほど美しいブナの森が現れる。大音波のブナの台地に続いて、南尾根第二の聖なるブナの森。
ここに来たくて、滑り台のような県道をトラバースして、転がり落ちそうな急斜面を登ってきた。
東から緩やかに上がってくる下谷川の源流と尾根が出会って織りなす美しい造形。
陽の光を受けて、白い雪の上に映し出されるいくつものブナの影。目の前に繰り広げられる光景に立ち止まってうっとりする。
再びコルから登り始めると、樹林の背丈が低くなり、右手に下谷山が間近に見えてくる。
地味な山容だけれど、誰もが言うように直下の複雑な地形は魅力的だ。
いよいよ南尾根最後のピークに立つ。こんなに心躍る場所はそんなにないと思う。
どのあたりに滑り込もうか、ほんとうにワクワクするような場所だ。
ここから下った「タワ」のような鞍部で琵琶湖側から二つ、日本海側から一つ、合計三つの谷が稜線と出合っている。
南尾根もここで出合っているから、結局、三つの谷の源頭と三つの尾根の末端(うち二つは分水嶺としてつながって行くけれど)が、
この「タワ」のような場所で出合っている。
南尾根は稜線(分水嶺)に出合った後も左手を伸ばして、少しの間、稜線と並行する二重稜線を形成し,
絶妙のカーブを描く音波川の源流に吸い込まれてゆく。
と、これは私の勝手な解釈だけれど、理屈はさておき、とにかくここはすてきな場所だ。
山頂の北側、美土呂川の源流部はブナの原生林が残されている。山頂へ向かうと360°のパノラマ。
ひとしきり眺めたら、「出会いのタワ」へと戻る。
大きなブナの木のたもとに、タイラさんにベンチをつくってもらい、お昼にする。
少し風があるけど、きょうは思いの外、いい日和になった。
もう一度ぐるりの写真を撮って、稜線を緩やかに北へ登って行く。
どこまでも続くブナのトレイルを夢見心地で歩く。
音波山に着くまで幸せな時間が流れた。
音波山に着いたら、たくさんの踏み跡が現れて、やや現実に引き戻される。
程なくして、噂に聞いた風力測定器がにわかに聳え立っている。山肌が掘り起こされ、ブナの木があちこちで伐採されていた。
いたたまれない気持ちで足早に通り過ぎる。
最後の送電線の鉄塔の下で、歩いてきた長い稜線を振り返る。時は流れ、もう半日前にすら戻れない。
もう一度会いたいと思った時、また会いに来ることはできるだろうか。
心の奥から沸き起こってくる感傷的な気持を押しやるように、誰かの踏み跡を無心に踏んで栃ノ木の国道へ下った。
アオバ*ト
追記:明日はスノー衆ですね。地形図を見ると、なんともすてきなコース取り。
いいなぁと思いながら、仕事柄一年でいちばんの繁忙期、遠くへ出向くことができません。
みなさん楽しんできてくださいね。山日和さま、またいつかよろしくお願いいたします。