【 日 付 】2019年12月21日(土曜日)
【 山 域 】 湖北
【メンバー】山猫単独
【 天 候 】曇り
【 ルート 】上丹生バス停9:54〜11.18七七頭ヶ岳11:37〜12:40点標椿坂(p710.3)〜13:45妙理山〜15:20大黒山〜15:45椿坂峠〜16:18椿坂バス停
久しぶりに関西で過ごすことが出来る週末を迎える。この日は家内が車を使うので公共の交通機関を使っての単独行という条件で山行先を考えることになる。七々頭ヶ岳から大黒山への縦走を試みることにする。
京都駅を8時丁度に出発する新快速で木之本に9時23分に到着すると、すぐに菅並の洞寿院行きのバスに接続する。周囲の路面はすっかり濡れている。おそらく今朝方までは雨が降っていたのだろう。蒼空が広がってはいるものの雲の高さが低い。バスが丹生に差し掛かると、正面には横山岳が見える筈ではあるが、横山岳はおろか右手の墓谷山も山頂の上の方はすっかり雲の中だ。午後には天気が晴れることを期待するほかない。
上丹生でバスを降りる。唯一の乗客であった私に運転手は「七々頭ヶ岳ですね。下山はあちら側ですか?」と尋ねる。私との会話でバスの出発が遅れることを懸念する理由もないのだろう。
「いえ、妙理山を越えて、椿坂へ向かう予定です」
「それはえらいハードやな〜」
大黒山まで行く予定という余計なことは言わなかったが・・・
上丹生から七々頭ヶ岳に登るには川沿いに少し北上したところに登山口があるのだが、七々頭ヶ岳から南へと伸びる尾根の末端から取り付くことにする。妙理山を経て大黒山へと延々と続く尾根を歩くのであれば、その末端から歩いてみようというのがその心であるが、単なる阿呆のなせる業と思われても致し方ない。
上丹生からはすぐ北側に旧い小学校の木造校舎が見える。廃校となった丹生小学校の校舎らしい。趣のある木造の校舎を右手に見ながら摺墨への細い道へと入る。杉の植林地の急登・・・取付きを過ぎて尾根が緩やかになるとすぐにも歩きやすい自然林となりが広がる。尾根上には踏み跡もテープ類もなく、ほとんど人が歩くことはないのだろう。p343.7のあたりになるとユズリハなどの灌木が尾根上には密生している。やがて摺墨の方から植林が上がってくると、尾根上には踏み跡とテープが現れた。
上丹生から登ってくる一般登山道と合流すると尾根の勾配はきつくなるが、明瞭な登山道は歩きやすく、俄然、スピードアップする。山頂のあたりは雲に覆われたままであるが、登るにつれて徐々に雲の高さも上がって行くようだ。山頂が近づき、いよいよ雲の中に入っていくかと思いきや、頭上でみるみるうちに雲が薄くなる。樹高の高い山毛欅の梢の彼方に蒼空が見え始めると、青い霧がかかっているかのような幻想的な光景が頭上に広がる。
七々頭ヶ岳の山頂は数多くの倒木、それも山毛欅の樹々の間にある杉の樹が倒れているものが多い。山頂には西林寺という名の小さなお堂がある。お堂の扉は半開のままなので、閉めようと試みるもビクとも動かない。お堂の説明によると中には観音像があるらしいのだが、その姿は見当たらない。
七々頭ヶ岳の山頂から北側にはわずかばかりの範囲ではあるが、樹高の高い山毛欅の美林が広がっている。降り始めてトレッキング・ポールを忘れてきたことに気がつき、再び山頂に取りに戻る。るり池を訪ねようと思っていたのだが、地図をよくよく見るとるり池は山頂から西側の尾根を下ったところにあることを知る。後の行程を考えるとここでるり池に寄り道をしなかったのは正解だったかもしれない。
北側斜面を下るとすぐにも山毛欅の林は植林に変わり、左手に廃林道が現れる。使われなくなって久しいと思われる林道は完全に藪化している。辛うじて薄い踏み跡が林道の藪の中に続いている。しばらくすると林道上の藪はなくなり、なだらかな尾根の上を快適に進むことが出来るようになる。植林地から自然林の林へと変わると明るい尾根の雰囲気は悪くない。
新谷山の北側のピークが近づくと林道は再び薄暗い植林地へと入っていく。林道が大きくカーブする地点に差し掛かると林道から分岐する支線がある。GPSと地図を確認すると妙理山の南尾根、正確には点標「椿坂」へと向かう尾根への分岐に到達したことを知る。
地図に記されていないこの林道も藪化が著しい。先ほどの林道と異なり、藪化した林道には踏み跡も見当たらない。果たして林道がどこへと続いているかわからないので尾根筋を辿り、標高点760mのピークへと登ってみる。しかしピークのすぐ西側からその先の尾根を目指して林道は続いているようだ。尾根芯は濃密な藪で容易に進めるようなものではないので、とりあえず行けるところまでと思って林道を進んでみる。林道が終点にたどり着いたところでGPSを確認すると710.3m峰の三角点であった。点標椿坂と呼ばれる地点だ。
この点標はなぜか尾根上の坂の途中であり、わずかな隆起もない。勿論、山名標も何もなく、三角点の石標も見当たらなかった。林道の終点からは北に伸びる自然林の尾根上にかすかな踏み跡があり、浅い掘割の古道が続いている。落葉した樹々の間からはいよいよ正面に妙理山が大きく迫る。幸いにも樹林の中の藪は大したことはないようだ。しかし、この先に待ち構えている問題は藪ではなかった。
小さな鞍部を過ぎて、妙理山への登りに差し掛かると東側にはわずかに雪を纏った横山岳、その右手には金糞岳を大きく望む。しかし、景色を愉しんでいる余裕はなかった。
程なく尾根上には相当数の倒木が現れる。勿論、それまでも倒木はそれなりの頻度ではあったのだが、この尾根の倒木の数は半端ではない。倒れているのはほとんどが杉の樹であり、必ず尾根の東側から倒れている。尾根上の杉の樹が全て倒れたのではないかと思うほどだ。杉の葉が枯れきっていないところから推測すると昨年の台風21号によるものだろう。一本や二本であれば潜るか跨いで倒木を越えるのにさほど難儀はしないが、数本が折り重なって倒れているのを目にすると倒木を越える気も失せる。
倒木を避けるために尾根の西側斜面をトラバースするが、当然ながら藪漕ぎを余儀無くされる。尾根がある程度の広さがあるならばよいのだが、基本的にこの尾根は細尾根である。低木の幹や枝を掴みながら斜面をトラバースすることになる。
尾根の上部に登るにつれ、尾根は少しづつ広がる。しかし、豪雪のせいであろう、低木の幹は地面とほぼ水平に生えるようになるとますます藪が鬱陶しい。しかし、見上げると妙理山への稜線はもうすぐだ。
稜線に出るとそれまでの尾根の困難が嘘のように下生のない山毛欅の樹林が広がり、樹高の高い山毛欅の樹林は広々として壮麗な回廊を形成する。まるで山の神がくれたご褒美のようである。薄雪が積もるなだらかな尾根を歩いて妙理山の山頂に辿り着く。
樹間からは遠くに大黒山が見える。手前のピークは鯉谷だろう。果たしてあそこまでたどり着くのどれほどの時間を要するのだろうかと思うほど遠くに感じられる。
西尾根の分岐を過ぎると鯉谷への鞍部をめがけて急下降となる。鞍部からの緩やかに尾根にも随所に山毛欅の美林が現れる。なんとも贅沢な尾根だ。樹間からは右手に白く冠雪した江美国境の山々が見える。安蔵山から蛇行しながら伸びる稜線の先を視線で追うと左千方のピークにたどり着く。北の方角で大きな山容を誇るのは上谷山だろう。
鯉谷からは前回、大黒山を縦走した時の記憶が新しい。鯉谷のピークの西側には好展望の送電線鉄塔の広場があるが、立ち寄るのを諦めることにする。妙理山への倒木地獄で時間を消費し過ぎたようだ。おそらく大黒山から椿坂に下ると夕方のバスの時間にギリギリだろう。
鯉谷の北側にも送電線の鉄塔広場があり、目の前に大黒山を望む。とはいえまだまだ近いとはいえない距離感がある。左手には先日辿った乗鞍岳から岩籠山への稜線、そしてその右手には敦賀湾が乳白色の空の色を映している。
大黒山には丈の低い熊笹が繁茂する細い尾根を辿る。大黒山の手前で尾根が広がるようになると、再び樹高の高い山毛欅の樹林が続く。大黒山の山頂にかけて壮麗な樹林の中を登って行くのはこの変化に富んだ山行の最終章に相応しい高揚感を味わう。山頂直下では登山道に再び薄雪が現れる。
大黒山の山頂からは椿坂のバスの時間までおよそ1時間、のんびりしている余裕はない。西尾根をトラバースしながら下る道に入ると、正面に妙理山を大きく望む。北斜面にはうっすらと雪が積もっており、南側から眺めた姿と印象を異にする。
椿坂峠までの急坂に入ると正面には野坂の山々を望みながら下る。左手にひときわ白く冠雪した山が目に入るが、大御影山から三重嶽のあたりだろう。野坂岳の上空のあたりで、空の一角がうっすらと紅をさしたかのように薄紅色に輝いている。
椿坂峠に下ると石組みの奥にお地蔵様がひっそりと鎮座しておられる。かりかけ地蔵との案内が傍にある。かつての北国街道が越えた峠である。実に多くの人が道中の安全を祈願したことだろう。さて椿坂から出るバスの時間が徐々に迫る。ますは急ぎ足で旧国道を下る。
鯉谷からの下山口に達すると前回、大黒山から下山した際の情景を思い出す。椿坂の集落を目の前にしながらバスに間に合わないと諦めたこと、そしてタクシーを呼ぼうとスマホを取り出した瞬間に余呉のスキー場帰りの車が泊まってくれて私を木之本の駅まで乗せていってくれたことを。この日は流石にそのような幸運は出来事は起らなかった。先日の若丹国境尾根で運を使い果たしたのかもしれない。
椿坂のバス停には無事、バスの時刻の6分程前にたどり着く。椿坂の集落は旧北国街道沿いに集落が広がり、旧街道の宿場町の面影を残すところだ。予定時刻の直前になって小さなバスが到着すると余呉駅まで運んでくれる。
余呉駅では次のJRまでは30分ほど待たねばならない。暮れなずむ余呉湖まで散歩してみる。余呉湖の北縁に小さな内湖があり、余呉湖のほとりからは内湖の湖面の向こうに煌々と明かりを灯す余呉駅の彼方に七々頭ヶ岳を望むだった。
十二月ももうすぐ終わりだというのに降雪の気配はない。しかし今回の山行はつくづく積雪がなくて良かったと思う。妙理山の南尾根の倒木地獄は積雪した状態ではさらに難易度が増したことだろう。果たして自分はもう一度この尾根を辿ることがあるだろうか?どなたか行かれる強者がおられたら是非repを。