ブダペストは北緯47度に位置し,北海道の北端よりもさらに北である.このため,こちらに来る前はどのくらい寒くなるのかと戦々恐々.寒さに備えて-25℃対応の冬山用シュラフを持参したくらいである.実際に12月初めに日最高気温が0℃近くまで下がり,毎日鉛色の空に覆われた時にはいよいよこれからが本格的な冬だと不安におののいたものである.ところが,不思議なことに気温はその後持ち直し,ここ1週間の日最高気温は5〜10℃.18日からは青空が広がり,19日の最高気温は10℃を上回った.日本は大雪だと聞くが,どうもシベリア寒気団がヨーロッパに向かわず,日本に向かったらしい.このような穏やかな気候は今後1週間は続きそうで,ブダペストは雪のない穏やかなクリスマスを迎えることになりそうである.
9月にこちらに来て,11月下旬までは週末は仕事の関係であちこち出かけていたし,それ以降は本格的な冬になって山歩きどころではないと思っていた.しかし,現状を見ると気候は思っていたほど厳しくはなく,防寒さえしっかりしていれば冬山装備がなくても低山ハイク程度はできそうである.もうすぐクリスマス休暇で職場には誰もいなくなるし,そんな時に誰もいない職場で毎日仕事をするのもつまらない.何日かに1回くらいはハイキングに行くのも精神衛生上悪くないだろう.そんなことを考えているうちに山を歩きたい気分がふつふつとわいてきた.以前にも書いたが,ハンガリーの最高点はわずか1014mである.しかし,ブダペスト市内にも標高500m程度の丘はあるし,山はなくても歩くことはできるのである.そこで,日本にあるような2.5万分の1の地形図はハンガリーにもあるのかどうか気になった.ネットで調べてみると簡単に見つかった.しかも,ネット販売で購入できるようだ.ついでにショッピングセンターの本屋の地図コーナーでハイキング地図を探してみると,あったあった.「山と高原地図」のような2.5万分の1のハイキング地図が売っているのである.しかも,ご丁寧にハイキングルートが赤線で示されている.このような地図がハンガリーの主要な高原地帯(といってもただの丘なのだが)を網羅するように作られていた.早速,ブダペストの裏山であるブダ山地のハイキング地図を買い,ハイキングに行くことにした.ところで,ルートの赤線にいろいろなマークが付いているけど,これはなんなんだろうね.
- ハンガリーで売られているハイキング地図
【 日 付 】2014年12月19日(金)
【 山 域 】ブダペスト・ヤーノシュ山(標高527m)
【メンバー】単独
【 天 候 】晴れ
【 ルート 】トラム61番終点 9:35 --- 10:50 P454(ナジハーツ山)--- 11:40 P527(ヤーノシュ山) --- 12:30 昼食 13:20 --- 14:50ブダエルス
朝,目が覚めると時計はもう7時を回っている.「寝過ごした」と思ったが,外はまだ暗いのである.なにせ今は1年で最も昼が短くて,日の出が朝7時半,日の入りが4時前.太陽が出ている時間が1日で9時間半しかない.メスティンでご飯を炊いて,炊きたてのご飯に生卵をまぶし,キムチで簡単に朝食を済ませる.最近は寝ぼけまなこでもちゃんとご飯が炊けるのだ.9時前にアパートを出,20分ほどかけてカールセールマン広場まで歩き,そこでトラムの61番に乗る.
ブダペストはもともとブダとペストがドナウ川を挟んで別々の街であり,この二つの街が合併してブダペストになっている.南北に流れるドナウ川の東がペスト,西がブダである.ペストの街が平坦であるのに対し,ブダは緩やかな丘陵地になっている.一般的にペスト側はダウンタウンであり,平均的な収入の人たちや,場所によっては低所得者層の人たちが住んでいる.一部には治安の悪いところもある.ブダ側は文字通り山の手で,高所得者層が住む地域である.ちなみに私のアパートはブダ側の端,ドナウ川のすぐ近くで,職場はブダ丘陵の中腹にある.といっても,私の職場には金持ちは一人もいなくて,皆ペスト側や市外から通っている人たちばかりであるが.ブダの治安は日本と同じくらい良くて,夜中に歩いても危険なことはない.
今日はトラム61番でブダ丘陵の西北へ行き,ここから南下して歩けるところまで歩こうという計画である.この丘陵の周囲は住宅地になっており,どこに降りてもアパートに戻るバスはつかまるはずなのだ.トラム61番終点のHûvösvölgyは浅葱色の駅舎が素敵な落ち着いた駅だ.郊外へのバスの発着点にもなっている.
- トラム61番の終着駅
ここはまたブダ丘陵に登る子供鉄道の発着点でもある.子供鉄道というのは,電車の運転手以外の仕事を10〜14歳の子供が行っている鉄道のことで,1950年代に共産党の主導でつくられたものだという.いまでも運営は子供によって行われている.これが今でも存続しているということは,市民がそれなりの存在意義を見つけているということなのだろう.ただし,乗客はそれほど多くはなさそうで,赤字経営なのだとは思う.
子供鉄道の線路下を通り抜け,遊歩道に入る.遊歩道入口の木に地図で見たマークがペイントしてある.なるほど,このマークと地図を見比べながら歩くと目的のコースを行くことができるわけね.日本で日本語が読めない人はまずいないが,ハンガリーのようなヨーロッパの真ん中にある国ではハンガリー語を解さない私のような外国人も少なからずいるのだろう.そのような人たちへの工夫だろうが,よくできていると思った.ブダ山地には遊歩道が網の目のように張り巡らされており,また目印になるような地形の変化も少ないので,このような道標がなければ迷いやすいのだろうと思う.
- 遊歩道看板
- コースのマーク
まずはP454(ナジハーツ山)を目指してみる.緩やかな斜面を登っていく.この辺りヨーロッパナラを主体とした二次林で,葉が落ちた後なので明るくて気持ちがいい.天気予報通り快晴で,風も弱く絶好のハイキング日和だ.うっすらと汗をかいてきたので,ダウンを脱ぐ.頂上近くに丸い穴の空いた扉があったので,避難小屋だろうと思って中を覗いていくことにした.しかし,穴から風が吹き出しており,動物の声がしたので開けるのをやめにする.ハンガリーの山はほとんどが石灰岩で,山の下は空洞になっているはず.おそらく,未公開の鍾乳洞の入り口なのだろう.動物の声はコウモリだろうか.なんにしても危うきに近寄らないに越したことはない.
- 鍾乳洞入り口?
P454には立派な展望台があり,周囲を見渡すことができた.周りはなだらかな丘になっており,麓は住宅地だ.周りの木の枝の多くが比較的最近折れたように見えるのは,先日,着氷した時に折れたものだろうか.展望台の上はそれなりに風が吹いており,汗をかいた身体の体温を奪うので,写真を撮っただけでおいとますることにする.
- P454からの眺め
ここからは一旦高度を下げ,ブダペスト最高峰のヤーノシュ山527mを目指す.最高峰といっても車道が通っており,比較的近くまで住宅地が広がっているのだ.日本で言えば神戸の六甲山を歩いているようなものだろう.頂上には立派な展望台があったが,扉が閉まっていて入れない.しようがないのでそのまま歩き続けることにする.
- ヤーノシュ山展望台
遊歩道を歩いていくと倒木が道をふさいでいる.道型はあるので,遊歩道には間違い無いだろうとそのまま歩いていくとだんだん倒木が多くなってやぶこぎ状態になってきた.こんなところでやぶこぎをするとは思わなかった.「遊歩道だったらちゃんと整備しろよな,ブダペスト市」と心の中で毒づきながらいくも,そのうち歩けなくなったので別の遊歩道にトラバースすることにする.歩いていくと,数名の作業員が遊歩道の倒木の除去作業をしていた.さっきから聞こえていたチェーンソーの音はこれだったのね.どうも先日の着氷で倒れた倒木のようだ.それにしても氷がついただけで,こんなに木が折れるものなのだろうか.
もう12時も過ぎたので,陽だまりで切り倒した木に腰掛けて持ってきたサンドイッチを頬張る.しばらく木の上に横になってうつらうつらする.空は抜けるような青空で,ポカポカ陽気.とてもヨーロッパの冬とは思えない天気だ.
- よく整備された遊歩道
あとは降りるだけと思ったのだが,その後が意外に長い.のっぺりとした丘なので,歩けど歩けどちっとも標高が下がらないのだ.そのうちマークも無くなる.どうも,右折するべきところをまっすぐ歩いてきたみたいだ.また倒木が道をふさぎ始め,道も不明瞭になってくる.お得意の道迷いだ.ハンガリーくんだりまで来てまた道迷いするとは.幸い,下には住宅地が見えているので,このまま降ればどこかには出るだろう.倒木をかき分けて下っていくと,住宅地の金網に出た.幸い鍵はかかっていなかったので,金網の扉を開け,鍵のかかっていない表門から道に出る.空き家だったようだ.あとはそのまま住宅地を降りるとバス停に出た.予定の着地地点よりは若干ずれているが,ほぼ予定通りの地点に着地したようだ.この時期,4時には暗くなるので闇下にならなくてよかった.
久しぶりの山歩き,楽しい1日だった.このまま好天が続くようだったらまたどこかを歩いてこようかと思う.
ブダペストは北緯47度に位置し,北海道の北端よりもさらに北である.このため,こちらに来る前はどのくらい寒くなるのかと戦々恐々.寒さに備えて-25℃対応の冬山用シュラフを持参したくらいである.実際に12月初めに日最高気温が0℃近くまで下がり,毎日鉛色の空に覆われた時にはいよいよこれからが本格的な冬だと不安におののいたものである.ところが,不思議なことに気温はその後持ち直し,ここ1週間の日最高気温は5〜10℃.18日からは青空が広がり,19日の最高気温は10℃を上回った.日本は大雪だと聞くが,どうもシベリア寒気団がヨーロッパに向かわず,日本に向かったらしい.このような穏やかな気候は今後1週間は続きそうで,ブダペストは雪のない穏やかなクリスマスを迎えることになりそうである.
9月にこちらに来て,11月下旬までは週末は仕事の関係であちこち出かけていたし,それ以降は本格的な冬になって山歩きどころではないと思っていた.しかし,現状を見ると気候は思っていたほど厳しくはなく,防寒さえしっかりしていれば冬山装備がなくても低山ハイク程度はできそうである.もうすぐクリスマス休暇で職場には誰もいなくなるし,そんな時に誰もいない職場で毎日仕事をするのもつまらない.何日かに1回くらいはハイキングに行くのも精神衛生上悪くないだろう.そんなことを考えているうちに山を歩きたい気分がふつふつとわいてきた.以前にも書いたが,ハンガリーの最高点はわずか1014mである.しかし,ブダペスト市内にも標高500m程度の丘はあるし,山はなくても歩くことはできるのである.そこで,日本にあるような2.5万分の1の地形図はハンガリーにもあるのかどうか気になった.ネットで調べてみると簡単に見つかった.しかも,ネット販売で購入できるようだ.ついでにショッピングセンターの本屋の地図コーナーでハイキング地図を探してみると,あったあった.「山と高原地図」のような2.5万分の1のハイキング地図が売っているのである.しかも,ご丁寧にハイキングルートが赤線で示されている.このような地図がハンガリーの主要な高原地帯(といってもただの丘なのだが)を網羅するように作られていた.早速,ブダペストの裏山であるブダ山地のハイキング地図を買い,ハイキングに行くことにした.ところで,ルートの赤線にいろいろなマークが付いているけど,これはなんなんだろうね.
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【 日 付 】2014年12月19日(金)
【 山 域 】ブダペスト・ヤーノシュ山(標高527m)
【メンバー】単独
【 天 候 】晴れ
【 ルート 】トラム61番終点 9:35 --- 10:50 P454(ナジハーツ山)--- 11:40 P527(ヤーノシュ山) --- 12:30 昼食 13:20 --- 14:50ブダエルス
朝,目が覚めると時計はもう7時を回っている.「寝過ごした」と思ったが,外はまだ暗いのである.なにせ今は1年で最も昼が短くて,日の出が朝7時半,日の入りが4時前.太陽が出ている時間が1日で9時間半しかない.メスティンでご飯を炊いて,炊きたてのご飯に生卵をまぶし,キムチで簡単に朝食を済ませる.最近は寝ぼけまなこでもちゃんとご飯が炊けるのだ.9時前にアパートを出,20分ほどかけてカールセールマン広場まで歩き,そこでトラムの61番に乗る.
ブダペストはもともとブダとペストがドナウ川を挟んで別々の街であり,この二つの街が合併してブダペストになっている.南北に流れるドナウ川の東がペスト,西がブダである.ペストの街が平坦であるのに対し,ブダは緩やかな丘陵地になっている.一般的にペスト側はダウンタウンであり,平均的な収入の人たちや,場所によっては低所得者層の人たちが住んでいる.一部には治安の悪いところもある.ブダ側は文字通り山の手で,高所得者層が住む地域である.ちなみに私のアパートはブダ側の端,ドナウ川のすぐ近くで,職場はブダ丘陵の中腹にある.といっても,私の職場には金持ちは一人もいなくて,皆ペスト側や市外から通っている人たちばかりであるが.ブダの治安は日本と同じくらい良くて,夜中に歩いても危険なことはない.
今日はトラム61番でブダ丘陵の西北へ行き,ここから南下して歩けるところまで歩こうという計画である.この丘陵の周囲は住宅地になっており,どこに降りてもアパートに戻るバスはつかまるはずなのだ.トラム61番終点のHûvösvölgyは浅葱色の駅舎が素敵な落ち着いた駅だ.郊外へのバスの発着点にもなっている.
[attachment=7]P1080815.jpg[/attachment]
ここはまたブダ丘陵に登る子供鉄道の発着点でもある.子供鉄道というのは,電車の運転手以外の仕事を10〜14歳の子供が行っている鉄道のことで,1950年代に共産党の主導でつくられたものだという.いまでも運営は子供によって行われている.これが今でも存続しているということは,市民がそれなりの存在意義を見つけているということなのだろう.ただし,乗客はそれほど多くはなさそうで,赤字経営なのだとは思う.
子供鉄道の線路下を通り抜け,遊歩道に入る.遊歩道入口の木に地図で見たマークがペイントしてある.なるほど,このマークと地図を見比べながら歩くと目的のコースを行くことができるわけね.日本で日本語が読めない人はまずいないが,ハンガリーのようなヨーロッパの真ん中にある国ではハンガリー語を解さない私のような外国人も少なからずいるのだろう.そのような人たちへの工夫だろうが,よくできていると思った.ブダ山地には遊歩道が網の目のように張り巡らされており,また目印になるような地形の変化も少ないので,このような道標がなければ迷いやすいのだろうと思う.
[attachment=6]P1080820.jpg[/attachment]
[attachment=5]P1080821.jpg[/attachment]
まずはP454(ナジハーツ山)を目指してみる.緩やかな斜面を登っていく.この辺りヨーロッパナラを主体とした二次林で,葉が落ちた後なので明るくて気持ちがいい.天気予報通り快晴で,風も弱く絶好のハイキング日和だ.うっすらと汗をかいてきたので,ダウンを脱ぐ.頂上近くに丸い穴の空いた扉があったので,避難小屋だろうと思って中を覗いていくことにした.しかし,穴から風が吹き出しており,動物の声がしたので開けるのをやめにする.ハンガリーの山はほとんどが石灰岩で,山の下は空洞になっているはず.おそらく,未公開の鍾乳洞の入り口なのだろう.動物の声はコウモリだろうか.なんにしても危うきに近寄らないに越したことはない.
[attachment=4]P1080833.jpg[/attachment]
P454には立派な展望台があり,周囲を見渡すことができた.周りはなだらかな丘になっており,麓は住宅地だ.周りの木の枝の多くが比較的最近折れたように見えるのは,先日,着氷した時に折れたものだろうか.展望台の上はそれなりに風が吹いており,汗をかいた身体の体温を奪うので,写真を撮っただけでおいとますることにする.
[attachment=3]P1080837.jpg[/attachment]
ここからは一旦高度を下げ,ブダペスト最高峰のヤーノシュ山527mを目指す.最高峰といっても車道が通っており,比較的近くまで住宅地が広がっているのだ.日本で言えば神戸の六甲山を歩いているようなものだろう.頂上には立派な展望台があったが,扉が閉まっていて入れない.しようがないのでそのまま歩き続けることにする.
[attachment=2]P1080857.jpg[/attachment]
遊歩道を歩いていくと倒木が道をふさいでいる.道型はあるので,遊歩道には間違い無いだろうとそのまま歩いていくとだんだん倒木が多くなってやぶこぎ状態になってきた.こんなところでやぶこぎをするとは思わなかった.「遊歩道だったらちゃんと整備しろよな,ブダペスト市」と心の中で毒づきながらいくも,そのうち歩けなくなったので別の遊歩道にトラバースすることにする.歩いていくと,数名の作業員が遊歩道の倒木の除去作業をしていた.さっきから聞こえていたチェーンソーの音はこれだったのね.どうも先日の着氷で倒れた倒木のようだ.それにしても氷がついただけで,こんなに木が折れるものなのだろうか.
もう12時も過ぎたので,陽だまりで切り倒した木に腰掛けて持ってきたサンドイッチを頬張る.しばらく木の上に横になってうつらうつらする.空は抜けるような青空で,ポカポカ陽気.とてもヨーロッパの冬とは思えない天気だ.
[attachment=1]P1080861.jpg[/attachment]
あとは降りるだけと思ったのだが,その後が意外に長い.のっぺりとした丘なので,歩けど歩けどちっとも標高が下がらないのだ.そのうちマークも無くなる.どうも,右折するべきところをまっすぐ歩いてきたみたいだ.また倒木が道をふさぎ始め,道も不明瞭になってくる.お得意の道迷いだ.ハンガリーくんだりまで来てまた道迷いするとは.幸い,下には住宅地が見えているので,このまま降ればどこかには出るだろう.倒木をかき分けて下っていくと,住宅地の金網に出た.幸い鍵はかかっていなかったので,金網の扉を開け,鍵のかかっていない表門から道に出る.空き家だったようだ.あとはそのまま住宅地を降りるとバス停に出た.予定の着地地点よりは若干ずれているが,ほぼ予定通りの地点に着地したようだ.この時期,4時には暗くなるので闇下にならなくてよかった.
久しぶりの山歩き,楽しい1日だった.このまま好天が続くようだったらまたどこかを歩いてこようかと思う.