【奥越】木無山/ブナの森と好展望の山
Posted: 2012年3月05日(月) 22:34
【日 付】 2012/3/3(土)
【山 域】 奥越 木無山 (福井県大野市) 地形図「下山」
【メンバー】 単独
【天 候】 曇りのち晴れ
【ルート】 前坂谷林道入口8:30---尾根取り付き9:25/9:30---ca1040m支尾根のコル11:30/11:40
---ca1130m主稜線12:20---木無山13:40/13:50---ca1100ブナの森14:55/15:15
---903m標高点16:15---長倉谷林道16:35---駐車地17:25
やはり、いつものように目覚まし時計と戦っていたようだ。
クルマの中、意識がはっきりすると6時半だった。
アラームは5時半にセットしておいたのだが、
スヌーズちゃんのしわざで5分おきに鳴るアラームを、そのつど律儀に何回も止めていたような記憶がかすかに残る。
そんなにするならさっさと起きればいいものを、それが起きられない。
もはや、このバトルはワシの倒錯した楽しみのひとつになってしまったというのか。
今日は知らないうちにアラームスイッチを切っていたのではないだけ、まだ救われるように思う。
それより、天気はどうだ。
雨滴のつく窓越しに外を見ると、周囲は視界があるものの、頭上50mから上の山肌は白いガスの中で見えない。
やはり、だまされたのだろうか。
だまされてもいいと思った。
前日、夕方まで何度もピンポイント天気予報を確認していたのだが、
丹後・若狭は雨なのに、この時期に福井県嶺北地方は晴れると言っている。
前後の日は雨なのに、土曜だけは晴れると言っている。
なにやらウソくさい気もするが、ここはひとつだまされてみてもいいかな……と。
行ってみよう、木無山へ。
もしだまされたとしても、蕎麦を食って温泉に入る物見遊山の旅に変更するまでだ。
やっぱりだまされたかな……と思いつつ、
陰鬱な空模様を眺めながらグズグズと朝メシを済ませ、登山口のある朝日前坂に移動を始める。
しかし、登山口に着くころには、ガスの底も上がってきて青空さえ覗き始めた。
よし、いいぞ。
懸念していた駐車場所も、前坂谷林道の入り口部分がちょうど除雪の押し込み場所になっていて、
おあつらえ向きににちょうど1台分のスペースがあった。
クルマを止めて山支度をしていると、すぐ先にあるスキー場から聞こえる音楽が賑やかだ。
[attachment=0]s-R0015669.jpg[/attachment]
さあ、みなさん、お待たせいたしました。
只今から、ちゃんと山に登りますからね。
今日の目的地は木無山。
「きなしやま」と読む。
百名山の荒島岳の東北東、九頭竜湖の朝日市街地の北に位置する1328.6mの山だ。
山名どおり立ち木の無い山頂からの展望は一級品で、木偏に無と書いてブナと読ませるようにブナの森が続く山でもある。
最初からスノーシューを履いて出発。
本日前半は未知のルートということもあってか、身を包む軽い緊張感が心地よい。
前坂谷の林道を進む。
林道上の積雪は1mくらい。
昨日のものらしい釣師の足跡だけが、河原に行ったり戻ったりして続いていたが、
そのうちに途切れてしまい、自分一人だけのトレースになる。
664m標高点の先、ふと視線を感じて左の斜面を見ると、すぐそこにカモシカが一頭、こちらを見ていた。
手を振っても、カメラを向けても、話しかけても、ワシが通り過ぎるのに合わせて首だけまわして、じっとこちらを見ている。
あの落ち着きようは素晴らしいな。
すぐに、尾根の取り付き地点だ。
664m標高点のすぐ北から西~西北西に登り、990mのすぐ南を通って1153mを目掛けて登る。
最初は植林の中の斜面をジグザグを切って登っていく。
ここから比高100mほどが急斜面なので、それを登り切るまでが我慢のしどころだ。
気温が高めなので、雪が春山の午後のようなザラメ状になっていて滑りやすい。
こういう雪のときは、一歩ずつ焼結作用を起こさせて足元を固めながら登るのが一番効率がよいが、
それにしても登高に時間がかかる。
今日は、先週のスノー衆のときのような締まった雪質は望むべくもないようだ。
ca800mで傾斜が緩み、植林から自然林に変わった。
まぶしい青空が広がっている。
いいぞ、いいぞ。
今シーズン初のサングラス着用だ。
唇にUVカットのリップクリームを塗り、ついでに鼻の頭にも塗っておく。
これが簡易日焼け止めとしてちょうどいのだ。
尾根は「さあ、どこでも好きなように歩いてちょうだい。」と言わんばかりに広がり、緩い傾斜を登って行く。
スノーシューが20センチくらい潜って、シューの上にザラメ雪が乗ると重いが、気分は上々だ。
のびやかな緩傾斜の尾根を辿り、1153m標高点の南東支尾根にある ca1040mのコルに着いた。
尾根を登っていくと尾根合流点の小ピークに登り着く……というのが一般的な地形のセオリーだが、
ここは尾根を詰めていくと稜線のコルに出るという、面白い地形になっている。
ここから先は、ちょうど10年前に山日和氏と二人で下りルートにとったコースだが、
ブナの森に感心したことの他は、どんなところだったのかあんまりよく覚えていない。
そのぶん新鮮な気分で歩くが、それでも、ブナの森や源頭部の入り組んだ浅い谷など、ところどころ記憶に残っている場所があった。
[attachment=4]s-R0015723.jpg[/attachment]
ca1100mのブナの森からは、1153m標高点の南側をトラバースして、旧和泉村・大野市境界の主稜線に出る。
とたんに風が強くなり、ここで目的地の木無山が見えた。
まだまだ遠いし高く見える。
今12時20分、もう昼メシの時間だぞ。
出発時刻が遅かったこともあるけど、ここまで思ったより時間がかかってしまった。
それにここからあと1時間はかかるだろう。
頂上でうどん鍋を食ってたら下山開始が早くて2時半か。
ちょっと無理やなあ。
どうする、洞吹!
ここらへんでゆっくりうどん鍋を食って帰るのも有りかなと思い始めた矢先、ビビビッと洞吹司令本部から糸電話で命令が届いた。
「モシモシ ホンジツハ キナシヤマノトウチョウヲホンブントスベシ ヨッテ ウドンナベハホウキセヨ」
そうか、命令が出てはしかたがない。
うどん鍋はあきらめて、行動食を口に入れて出発する。
[attachment=3]s-R0015745.jpg[/attachment]
主稜線に出てからは風が強く、雪質もクラスト気味になって、今までより歩行スピードが上がるので有り難い。
それに、何と言っても展望のいい尾根で、周囲の山々の景色が抜群なのが嬉しい。
大きな雪堤の続く稜線を、小気味よく登っていく。
その上の小広い台地には、白い花を咲かせた霧氷の森が広がっていた。
[attachment=2]s-R0015767.jpg[/attachment]
頂上直下でひときわ大きな雪堤に乗り、無木立となった最後の斜面を登って行く。
もうすぐだ。
やがて徐々に傾斜が緩むと、空に丸く描かれた頂稜雪線の向こうに、荒島岳がその重厚な山体を見せた。
来たぞ、木無山。
前回は7年前に別ルートから登りに来たが、どうしても通れない雪稜になった部分があって登頂できていないので、
10年前に次いで、二度目の木無山だ。
[attachment=1]s-R0015815.jpg[/attachment]
ここは眼前に聳える荒島岳を始めとして、経ヶ岳・大長・赤兎など奥越の山々、一段高く堂々たる白山連峰、
願教寺~野伏~小白~枇杷倉・松鞍、そして越美国境稜線は屏風山の尖峰まで、文字通り360度の眺望だ。素晴らしい。
気象予報士さま、疑って悪かったのう。あんたも素晴らしい。
時間が押しているのであまり長居ができないのは残念だが、これは起きるのが遅かったワシの自業自得なのだ。
さあ、名残惜しいが下山しよう。
再び直下の霧氷台地まで戻ったところで、行動食の甘栗を食べながら、地形図を見て下山ルートを確認する。
それから少し下ると、下山予定のルートが俯瞰できるところに来たので、再び地形図を出して……
あれっ、無い。
地形図がないっ。
正直な話し、一瞬動揺したが、すぐ気をとりなおした。
しょっちゅう歩いている山なら地形図なしでも大丈夫だが、ここではそうはいかない。
ただ、非常時の押さえとしてGPSがあるし、
最悪GPSがなくても、今日の雪のコンディションなら往路の足跡を辿って元のルートを戻ることは簡単だ。
しかし、やはり地形図は欲しいよね。
さっき見ていたんだから、ここまでの間で落としたのか。
ザックを置いて、空身で探しながら登り返す。
甘栗を食べた場所まで戻ると、やはりそこに落ちていた。
ああよかった。
地図を落とすなどということは、山登りを始めてから20年間で初めてのことだ。
行動食を食べながら、地形図をザックの上に置いて見ていたのが間違いだった。
甘栗の空き袋をザックにしまう時には、地形図を置いていたことなど全く頭になかった。
地形図は絶対に手から離してそこらへんに置いてはいかんのだね。
一安心して景色を眺めながら調子よく下っていると、こんどは不意に胸まで雪の中にストンと落ち込んだ。
なんだ、なんだ。
とっさにストックを持った両手を広げて止めた。
こんなところで雪見風呂に入っているわけにはいかない。
スノーシューを穴の前後に突っ張って這い上がったが、なんと、雪の下が空洞になっている。
底はあるようだが、雪がスカスカで深く、ストックの先も届かない。
穴から少し離れて振り返ると、穴の周りの雪面が少し黒ずんで見える。
これを見抜けなかったワシが未熟だったが、自分で穴から出られる程度で済んでよかった。
これもワシが普段から徳の積立貯金をしている賜物だ。
風の強い稜線を離れて1153mの下のブナの森まで戻ってくると、そこは風もなく、ポカポカとした陽気に包まれていた。
雰囲気のいい森で、テントを持ち上げて泊まりたくなるようなところだ。
ここで、腰をおろして小休止。
うどん鍋に入れるはずだったチクワと梅焼きをサカナにして、ビールを飲む。
ビールが喉にしみてうまい。
今日はほとんど動きっぱなしだったので、ここでの20分の休憩が最長かつ唯一すわった休憩だった。
ca1040mのコルで往路と分かれ、ca1060mから903m標高点へと急降下で南下する。
途中の急斜面で一旦スノーシューを脱着し、903m着は16時15分。
ここは地形図で903mの標高点が描かれているが、等高線をよく数えてみると890m台でしかない。
ここでちょっと考えた。
計画では、ここからこの尾根をさらに南下し、
850m付近で南東の支尾根に乗って、前坂谷林道552mの橋のたもとに降りるつもりだった。
何事もなければたぶん日没までには降りられるだろうけれど、
もし途中で何かトラブルが起きて時間がかかったら、たちまち日が暮れてしまう。
林道着地点の観察を忘れていて、そこがどうなっているかわからないこともあった。
単独だし、日没に追われて焦るとろくなことはないので、
こちらは次回のお楽しみということで、
安全策をとって、勝手がわかっていて早く降りられる長倉谷の林道へ降りることにする。
長倉谷へ下る斜面は、いい雰囲気の広い谷と溝のような小谷を繋いで下ること20分。
途中で太陽は尾根の向こうに隠れてしまい、谷間は薄暗くなったが、申し分のない状態で林道に軟着陸した。
途中3ヵ所にデブリが出ていた長倉谷の林道をスキー場前の県道に出て、スノーシューを脱いだのは17時15分。
きっとこのルート選択でよかったのだと思う。
木無山、いい山だった。
洞吹(どうすい)
【山 域】 奥越 木無山 (福井県大野市) 地形図「下山」
【メンバー】 単独
【天 候】 曇りのち晴れ
【ルート】 前坂谷林道入口8:30---尾根取り付き9:25/9:30---ca1040m支尾根のコル11:30/11:40
---ca1130m主稜線12:20---木無山13:40/13:50---ca1100ブナの森14:55/15:15
---903m標高点16:15---長倉谷林道16:35---駐車地17:25
やはり、いつものように目覚まし時計と戦っていたようだ。
クルマの中、意識がはっきりすると6時半だった。
アラームは5時半にセットしておいたのだが、
スヌーズちゃんのしわざで5分おきに鳴るアラームを、そのつど律儀に何回も止めていたような記憶がかすかに残る。
そんなにするならさっさと起きればいいものを、それが起きられない。
もはや、このバトルはワシの倒錯した楽しみのひとつになってしまったというのか。
今日は知らないうちにアラームスイッチを切っていたのではないだけ、まだ救われるように思う。
それより、天気はどうだ。
雨滴のつく窓越しに外を見ると、周囲は視界があるものの、頭上50mから上の山肌は白いガスの中で見えない。
やはり、だまされたのだろうか。
だまされてもいいと思った。
前日、夕方まで何度もピンポイント天気予報を確認していたのだが、
丹後・若狭は雨なのに、この時期に福井県嶺北地方は晴れると言っている。
前後の日は雨なのに、土曜だけは晴れると言っている。
なにやらウソくさい気もするが、ここはひとつだまされてみてもいいかな……と。
行ってみよう、木無山へ。
もしだまされたとしても、蕎麦を食って温泉に入る物見遊山の旅に変更するまでだ。
やっぱりだまされたかな……と思いつつ、
陰鬱な空模様を眺めながらグズグズと朝メシを済ませ、登山口のある朝日前坂に移動を始める。
しかし、登山口に着くころには、ガスの底も上がってきて青空さえ覗き始めた。
よし、いいぞ。
懸念していた駐車場所も、前坂谷林道の入り口部分がちょうど除雪の押し込み場所になっていて、
おあつらえ向きににちょうど1台分のスペースがあった。
クルマを止めて山支度をしていると、すぐ先にあるスキー場から聞こえる音楽が賑やかだ。
[attachment=0]s-R0015669.jpg[/attachment]
さあ、みなさん、お待たせいたしました。
只今から、ちゃんと山に登りますからね。
今日の目的地は木無山。
「きなしやま」と読む。
百名山の荒島岳の東北東、九頭竜湖の朝日市街地の北に位置する1328.6mの山だ。
山名どおり立ち木の無い山頂からの展望は一級品で、木偏に無と書いてブナと読ませるようにブナの森が続く山でもある。
最初からスノーシューを履いて出発。
本日前半は未知のルートということもあってか、身を包む軽い緊張感が心地よい。
前坂谷の林道を進む。
林道上の積雪は1mくらい。
昨日のものらしい釣師の足跡だけが、河原に行ったり戻ったりして続いていたが、
そのうちに途切れてしまい、自分一人だけのトレースになる。
664m標高点の先、ふと視線を感じて左の斜面を見ると、すぐそこにカモシカが一頭、こちらを見ていた。
手を振っても、カメラを向けても、話しかけても、ワシが通り過ぎるのに合わせて首だけまわして、じっとこちらを見ている。
あの落ち着きようは素晴らしいな。
すぐに、尾根の取り付き地点だ。
664m標高点のすぐ北から西~西北西に登り、990mのすぐ南を通って1153mを目掛けて登る。
最初は植林の中の斜面をジグザグを切って登っていく。
ここから比高100mほどが急斜面なので、それを登り切るまでが我慢のしどころだ。
気温が高めなので、雪が春山の午後のようなザラメ状になっていて滑りやすい。
こういう雪のときは、一歩ずつ焼結作用を起こさせて足元を固めながら登るのが一番効率がよいが、
それにしても登高に時間がかかる。
今日は、先週のスノー衆のときのような締まった雪質は望むべくもないようだ。
ca800mで傾斜が緩み、植林から自然林に変わった。
まぶしい青空が広がっている。
いいぞ、いいぞ。
今シーズン初のサングラス着用だ。
唇にUVカットのリップクリームを塗り、ついでに鼻の頭にも塗っておく。
これが簡易日焼け止めとしてちょうどいのだ。
尾根は「さあ、どこでも好きなように歩いてちょうだい。」と言わんばかりに広がり、緩い傾斜を登って行く。
スノーシューが20センチくらい潜って、シューの上にザラメ雪が乗ると重いが、気分は上々だ。
のびやかな緩傾斜の尾根を辿り、1153m標高点の南東支尾根にある ca1040mのコルに着いた。
尾根を登っていくと尾根合流点の小ピークに登り着く……というのが一般的な地形のセオリーだが、
ここは尾根を詰めていくと稜線のコルに出るという、面白い地形になっている。
ここから先は、ちょうど10年前に山日和氏と二人で下りルートにとったコースだが、
ブナの森に感心したことの他は、どんなところだったのかあんまりよく覚えていない。
そのぶん新鮮な気分で歩くが、それでも、ブナの森や源頭部の入り組んだ浅い谷など、ところどころ記憶に残っている場所があった。
[attachment=4]s-R0015723.jpg[/attachment]
ca1100mのブナの森からは、1153m標高点の南側をトラバースして、旧和泉村・大野市境界の主稜線に出る。
とたんに風が強くなり、ここで目的地の木無山が見えた。
まだまだ遠いし高く見える。
今12時20分、もう昼メシの時間だぞ。
出発時刻が遅かったこともあるけど、ここまで思ったより時間がかかってしまった。
それにここからあと1時間はかかるだろう。
頂上でうどん鍋を食ってたら下山開始が早くて2時半か。
ちょっと無理やなあ。
どうする、洞吹!
ここらへんでゆっくりうどん鍋を食って帰るのも有りかなと思い始めた矢先、ビビビッと洞吹司令本部から糸電話で命令が届いた。
「モシモシ ホンジツハ キナシヤマノトウチョウヲホンブントスベシ ヨッテ ウドンナベハホウキセヨ」
そうか、命令が出てはしかたがない。
うどん鍋はあきらめて、行動食を口に入れて出発する。
[attachment=3]s-R0015745.jpg[/attachment]
主稜線に出てからは風が強く、雪質もクラスト気味になって、今までより歩行スピードが上がるので有り難い。
それに、何と言っても展望のいい尾根で、周囲の山々の景色が抜群なのが嬉しい。
大きな雪堤の続く稜線を、小気味よく登っていく。
その上の小広い台地には、白い花を咲かせた霧氷の森が広がっていた。
[attachment=2]s-R0015767.jpg[/attachment]
頂上直下でひときわ大きな雪堤に乗り、無木立となった最後の斜面を登って行く。
もうすぐだ。
やがて徐々に傾斜が緩むと、空に丸く描かれた頂稜雪線の向こうに、荒島岳がその重厚な山体を見せた。
来たぞ、木無山。
前回は7年前に別ルートから登りに来たが、どうしても通れない雪稜になった部分があって登頂できていないので、
10年前に次いで、二度目の木無山だ。
[attachment=1]s-R0015815.jpg[/attachment]
ここは眼前に聳える荒島岳を始めとして、経ヶ岳・大長・赤兎など奥越の山々、一段高く堂々たる白山連峰、
願教寺~野伏~小白~枇杷倉・松鞍、そして越美国境稜線は屏風山の尖峰まで、文字通り360度の眺望だ。素晴らしい。
気象予報士さま、疑って悪かったのう。あんたも素晴らしい。
時間が押しているのであまり長居ができないのは残念だが、これは起きるのが遅かったワシの自業自得なのだ。
さあ、名残惜しいが下山しよう。
再び直下の霧氷台地まで戻ったところで、行動食の甘栗を食べながら、地形図を見て下山ルートを確認する。
それから少し下ると、下山予定のルートが俯瞰できるところに来たので、再び地形図を出して……
あれっ、無い。
地形図がないっ。
正直な話し、一瞬動揺したが、すぐ気をとりなおした。
しょっちゅう歩いている山なら地形図なしでも大丈夫だが、ここではそうはいかない。
ただ、非常時の押さえとしてGPSがあるし、
最悪GPSがなくても、今日の雪のコンディションなら往路の足跡を辿って元のルートを戻ることは簡単だ。
しかし、やはり地形図は欲しいよね。
さっき見ていたんだから、ここまでの間で落としたのか。
ザックを置いて、空身で探しながら登り返す。
甘栗を食べた場所まで戻ると、やはりそこに落ちていた。
ああよかった。
地図を落とすなどということは、山登りを始めてから20年間で初めてのことだ。
行動食を食べながら、地形図をザックの上に置いて見ていたのが間違いだった。
甘栗の空き袋をザックにしまう時には、地形図を置いていたことなど全く頭になかった。
地形図は絶対に手から離してそこらへんに置いてはいかんのだね。
一安心して景色を眺めながら調子よく下っていると、こんどは不意に胸まで雪の中にストンと落ち込んだ。
なんだ、なんだ。
とっさにストックを持った両手を広げて止めた。
こんなところで雪見風呂に入っているわけにはいかない。
スノーシューを穴の前後に突っ張って這い上がったが、なんと、雪の下が空洞になっている。
底はあるようだが、雪がスカスカで深く、ストックの先も届かない。
穴から少し離れて振り返ると、穴の周りの雪面が少し黒ずんで見える。
これを見抜けなかったワシが未熟だったが、自分で穴から出られる程度で済んでよかった。
これもワシが普段から徳の積立貯金をしている賜物だ。
風の強い稜線を離れて1153mの下のブナの森まで戻ってくると、そこは風もなく、ポカポカとした陽気に包まれていた。
雰囲気のいい森で、テントを持ち上げて泊まりたくなるようなところだ。
ここで、腰をおろして小休止。
うどん鍋に入れるはずだったチクワと梅焼きをサカナにして、ビールを飲む。
ビールが喉にしみてうまい。
今日はほとんど動きっぱなしだったので、ここでの20分の休憩が最長かつ唯一すわった休憩だった。
ca1040mのコルで往路と分かれ、ca1060mから903m標高点へと急降下で南下する。
途中の急斜面で一旦スノーシューを脱着し、903m着は16時15分。
ここは地形図で903mの標高点が描かれているが、等高線をよく数えてみると890m台でしかない。
ここでちょっと考えた。
計画では、ここからこの尾根をさらに南下し、
850m付近で南東の支尾根に乗って、前坂谷林道552mの橋のたもとに降りるつもりだった。
何事もなければたぶん日没までには降りられるだろうけれど、
もし途中で何かトラブルが起きて時間がかかったら、たちまち日が暮れてしまう。
林道着地点の観察を忘れていて、そこがどうなっているかわからないこともあった。
単独だし、日没に追われて焦るとろくなことはないので、
こちらは次回のお楽しみということで、
安全策をとって、勝手がわかっていて早く降りられる長倉谷の林道へ降りることにする。
長倉谷へ下る斜面は、いい雰囲気の広い谷と溝のような小谷を繋いで下ること20分。
途中で太陽は尾根の向こうに隠れてしまい、谷間は薄暗くなったが、申し分のない状態で林道に軟着陸した。
途中3ヵ所にデブリが出ていた長倉谷の林道をスキー場前の県道に出て、スノーシューを脱いだのは17時15分。
きっとこのルート選択でよかったのだと思う。
木無山、いい山だった。
洞吹(どうすい)
アラームは5時半にセットしておいたのだが、