【布引山地】 山登りはこんなにも面白い 味わい深き伊勢の里山に出会う
Posted: 2023年11月06日(月) 19:55
【日付】 2023年10月28日
【山域】 布引山地 錫杖ケ岳西の稜線
【天候】 晴れのち曇り
【メンバー】 Kさん sato
【コース】 芸農町河内北畑~北畑川林道~・501~・592~△724,8
P700~・722~我賀浦川~林道~P
未知の山との出会いは不意に訪れる。冬型の気圧配置の予報となった10月最後の土曜日、
Kさんと錫杖ケ岳西の稜線探索の山歩きにご一緒させていただくことになった。決まったのは前日だった。
三重県の中西部を南北に連なる布引山地。
「ぬのびき」という優美な響きは、山やまが布を引いたように緩やかに連なっている姿に由来するという。
北端の緩やかではなくきりりとした錫杖ケ岳は鈴鹿の山から眺めて、
真ん中辺りの風力発電の風車がたくさん立ち並ぶ青山高原は知識として知ってはいたが、
他にどんな山があるのか地図で確認したことも、どのような風土なのか想像したこともなかった。
地形図を持っていなかったので、地理院地図を開いて予定コースを見てみると、
そこには、「わぁ」と高揚感に包まれる、ちいさな谷がいくつも入り組む複雑で面白い地形が描かれていた。
「稜線のヤブはどうなのか全く分かりません」というKさんのお言葉に、
未知の山域への興味と想像がぱぁっと広がっていった。
登山口は津市芸農町河内北畑。
鈴鹿の南、遠そうだなぁ、と思ったが、我が家から120㎞余りということが分かった。
安濃ダム錫杖湖畔の道を走りながら、ここは平家の落人伝承が残る地域だとKさんが教えてくださる。
錫杖ケ岳柚子木峠登山口の少し先に車を置いて、北畑川に沿った林道を進んで行く。
最初に向かうのは・501。一番楽そうな山頂直下から南に延びる尾根を登ることにする。
路肩には、ほとんど散ってしまっていたが、凛とした花弁にうつくしい夜明けの星空を描くアケボノソウが
ちょこっと残っていて、こころときめく。
眼下を流れる北畑川は、岩盤が発達し、その上を滑らかに流れゆく水は、あっ、と驚くくらいに清澄で、
ちいさな淵は、ラムネの瓶のようなうっとり緑がかった色に煌めき、その透明な光の中に吸い込まれていきそうになる。
薄暗い杉林の中には、かつての田畑の痕跡、丁寧に積み上げた石積みも見られる。
あれこれ見入っている間に、林道歩きの1時間が過ぎていた。
尾根に取りつくと、ちいさな花が出迎えてくれた。センブリだった。
色づき始めた秋の里山で、ふっと出会うセンブリ。すっと淡い紫色の筋の入った白いお花の、
逃げていく秋の空をまっすぐに見つめるような姿に胸がキュッとなる。
・501へは、地図では広い尾根だが、実際は植林の中に大蛇の背中のような痩せた尾根が浮かび上がる面白い地形だった。
「全く分からない」ところに足を踏み入れ、思いもかけない風景に出会えた時のよろこび。
・501から西、南へと延びる津市と亀山市、伊賀市との境の稜線の、最高地点700m余りの未知の里山は、
まさによろこびの連続だった。
稜線は、植林地帯が多かったが、すっきりとした感じで、ヤブもなく道型もあり心地よく一歩が出る。
テープもぶら下がっていてちょこちょこっと歩かれているようだ。
感激したのが、ところどころで広がる自然林の風景。どこも立ち止まって見とれてしまう素晴らしさだった。
ヤマザクラやケヤキの大木が佇む緩やかにうねる清々しい二次林の斜面が描く造形美に、
何度うっとりため息をついただろう。
・592直下の爽やかな森の広場を見下ろすヤマザクラの巨樹の風格あるお姿には目を見張るばかりだった。
お花畑にも出会った。
尾根の登り始めに出迎えてくれたセンブリは、その後も、道中の林床のあちこちに群生していた。
なんと、キッコウハグマの群生も。
キッコウハグマは、昨秋の同じ頃、同じくKさんと大岩谷左俣の杣道を辿り宮指路岳に向かった時に、
岩陰にひっそりと咲いているのを見つけ、名前を教えていただいたお花。
五角形?の葉が亀の甲羅、白いお花がヤクの尾の毛で作ったハグマという飾り物に似ているという
物語を感じるちいさなお花だ。
地図を見てワクワクした、いくつもの浅い谷が複雑に入り組み、稜線がどう繋がっているのか分からなくなりそうな
△724.8と700mピークとの間の複雑な地形は、植林地帯で地形の妙を楽しむにはちょっと風情に欠けていたけれど、
なるほど南北の谷の源流はこうなっているのか、とふむふむ頷く面白さだった。
亀山、津、伊賀市境の740mピーク周辺は、見上げる高さの見事なアセビの森。
クネクネとよじれた赤茶色の幹の間を縫いながら、迷路に踏み込んだような気分になる。
・722周辺の地形もワクワクしていたが、ここも植林地帯。
でも、こんな地形があるのだと知ったことが何よりうれしいのだ。
さらに、キッコウハグマとセンブリの群生に出会えるなんて。
稜線は南に続いていくが下る時間となった。
・722で稜線を外れ、くるりと北東の尾根に向かい、枝分かれした右の尾根を下っていく。
この細い尾根は、谷に降り立つまで清々しい雑木林が続いていた。我賀浦川もしっとり情趣を感じる谷だった。
何だか得をしたような気分になる。
最後の林道歩きは、出会った風景の数々が頭の中をくるくると駆け巡り、忙しかった。
秋の日は釣瓶落とし。Kさんとお別れして、いきなり暗くなった湖周道路を北上していると、
東の空におおきなまあるいお月さまが顔を出していた。
山吹色の光に照らされて、東や西の山並みが黒く浮かんで見える。
あの黒いお山には、どんな輝きが秘められているのだろう。
まんまるのようでちょこっと欠けている十四夜のお月さまと黒く光る山並みを、
横目でちらちらと眺めながら、未知の風景を夢見てしまう。
山登りはこんなにも面白い。
今日も、Kさんから、地図を読む面白さ、想像し創造する愉しさを感じさせていただいた一日だった。
sato
【山域】 布引山地 錫杖ケ岳西の稜線
【天候】 晴れのち曇り
【メンバー】 Kさん sato
【コース】 芸農町河内北畑~北畑川林道~・501~・592~△724,8
P700~・722~我賀浦川~林道~P
未知の山との出会いは不意に訪れる。冬型の気圧配置の予報となった10月最後の土曜日、
Kさんと錫杖ケ岳西の稜線探索の山歩きにご一緒させていただくことになった。決まったのは前日だった。
三重県の中西部を南北に連なる布引山地。
「ぬのびき」という優美な響きは、山やまが布を引いたように緩やかに連なっている姿に由来するという。
北端の緩やかではなくきりりとした錫杖ケ岳は鈴鹿の山から眺めて、
真ん中辺りの風力発電の風車がたくさん立ち並ぶ青山高原は知識として知ってはいたが、
他にどんな山があるのか地図で確認したことも、どのような風土なのか想像したこともなかった。
地形図を持っていなかったので、地理院地図を開いて予定コースを見てみると、
そこには、「わぁ」と高揚感に包まれる、ちいさな谷がいくつも入り組む複雑で面白い地形が描かれていた。
「稜線のヤブはどうなのか全く分かりません」というKさんのお言葉に、
未知の山域への興味と想像がぱぁっと広がっていった。
登山口は津市芸農町河内北畑。
鈴鹿の南、遠そうだなぁ、と思ったが、我が家から120㎞余りということが分かった。
安濃ダム錫杖湖畔の道を走りながら、ここは平家の落人伝承が残る地域だとKさんが教えてくださる。
錫杖ケ岳柚子木峠登山口の少し先に車を置いて、北畑川に沿った林道を進んで行く。
最初に向かうのは・501。一番楽そうな山頂直下から南に延びる尾根を登ることにする。
路肩には、ほとんど散ってしまっていたが、凛とした花弁にうつくしい夜明けの星空を描くアケボノソウが
ちょこっと残っていて、こころときめく。
眼下を流れる北畑川は、岩盤が発達し、その上を滑らかに流れゆく水は、あっ、と驚くくらいに清澄で、
ちいさな淵は、ラムネの瓶のようなうっとり緑がかった色に煌めき、その透明な光の中に吸い込まれていきそうになる。
薄暗い杉林の中には、かつての田畑の痕跡、丁寧に積み上げた石積みも見られる。
あれこれ見入っている間に、林道歩きの1時間が過ぎていた。
尾根に取りつくと、ちいさな花が出迎えてくれた。センブリだった。
色づき始めた秋の里山で、ふっと出会うセンブリ。すっと淡い紫色の筋の入った白いお花の、
逃げていく秋の空をまっすぐに見つめるような姿に胸がキュッとなる。
・501へは、地図では広い尾根だが、実際は植林の中に大蛇の背中のような痩せた尾根が浮かび上がる面白い地形だった。
「全く分からない」ところに足を踏み入れ、思いもかけない風景に出会えた時のよろこび。
・501から西、南へと延びる津市と亀山市、伊賀市との境の稜線の、最高地点700m余りの未知の里山は、
まさによろこびの連続だった。
稜線は、植林地帯が多かったが、すっきりとした感じで、ヤブもなく道型もあり心地よく一歩が出る。
テープもぶら下がっていてちょこちょこっと歩かれているようだ。
感激したのが、ところどころで広がる自然林の風景。どこも立ち止まって見とれてしまう素晴らしさだった。
ヤマザクラやケヤキの大木が佇む緩やかにうねる清々しい二次林の斜面が描く造形美に、
何度うっとりため息をついただろう。
・592直下の爽やかな森の広場を見下ろすヤマザクラの巨樹の風格あるお姿には目を見張るばかりだった。
お花畑にも出会った。
尾根の登り始めに出迎えてくれたセンブリは、その後も、道中の林床のあちこちに群生していた。
なんと、キッコウハグマの群生も。
キッコウハグマは、昨秋の同じ頃、同じくKさんと大岩谷左俣の杣道を辿り宮指路岳に向かった時に、
岩陰にひっそりと咲いているのを見つけ、名前を教えていただいたお花。
五角形?の葉が亀の甲羅、白いお花がヤクの尾の毛で作ったハグマという飾り物に似ているという
物語を感じるちいさなお花だ。
地図を見てワクワクした、いくつもの浅い谷が複雑に入り組み、稜線がどう繋がっているのか分からなくなりそうな
△724.8と700mピークとの間の複雑な地形は、植林地帯で地形の妙を楽しむにはちょっと風情に欠けていたけれど、
なるほど南北の谷の源流はこうなっているのか、とふむふむ頷く面白さだった。
亀山、津、伊賀市境の740mピーク周辺は、見上げる高さの見事なアセビの森。
クネクネとよじれた赤茶色の幹の間を縫いながら、迷路に踏み込んだような気分になる。
・722周辺の地形もワクワクしていたが、ここも植林地帯。
でも、こんな地形があるのだと知ったことが何よりうれしいのだ。
さらに、キッコウハグマとセンブリの群生に出会えるなんて。
稜線は南に続いていくが下る時間となった。
・722で稜線を外れ、くるりと北東の尾根に向かい、枝分かれした右の尾根を下っていく。
この細い尾根は、谷に降り立つまで清々しい雑木林が続いていた。我賀浦川もしっとり情趣を感じる谷だった。
何だか得をしたような気分になる。
最後の林道歩きは、出会った風景の数々が頭の中をくるくると駆け巡り、忙しかった。
秋の日は釣瓶落とし。Kさんとお別れして、いきなり暗くなった湖周道路を北上していると、
東の空におおきなまあるいお月さまが顔を出していた。
山吹色の光に照らされて、東や西の山並みが黒く浮かんで見える。
あの黒いお山には、どんな輝きが秘められているのだろう。
まんまるのようでちょこっと欠けている十四夜のお月さまと黒く光る山並みを、
横目でちらちらと眺めながら、未知の風景を夢見てしまう。
山登りはこんなにも面白い。
今日も、Kさんから、地図を読む面白さ、想像し創造する愉しさを感じさせていただいた一日だった。
sato