【越前】縫いつがれてきた旅の音 縫いつがれていく旅の音を聞く 旧北陸道越坂越えの両側の尾根を辿る旅 

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sato
記事: 417
登録日時: 2019年2月13日(水) 12:55

【越前】縫いつがれてきた旅の音 縫いつがれていく旅の音を聞く 旧北陸道越坂越えの両側の尾根を辿る旅 

投稿記事 by sato »

【日 付】 2022年8月30日(火)
【山 域】 越前
【天 候】 曇り時々雨
【メンバー】Kさん sato
【コース】 樫曲と越坂の途中~△317.6~越坂峠(仮称)   
      ~△360.2~・271~標高180m森林組合の小屋~林道(北陸道木ノ芽峠越え道)~P


各地で雨の予報だった8月最後の週の火曜日、敦賀方面は午後から雨の予報なのでお昼ごろまでの山歩きに出かけましょう、
と、Kさんが、旧北陸道の越坂越えの両側の尾根を辿る山旅をご提案してくださった。
北陸道木ノ芽峠越え道が通る樫曲と越坂は気になっていた集落だった。そのふたつの集落の裏山の峠を巡る旅。
△362.2の北は3年前に歩いたウツロギ峠からの稜線だ。何度も開いて眺めた地図の見過ごしていた尾根。地形も面白い。
カタ・・カタ・・わたしの中のどこかで、何かが、ちいさな音を奏でるのを感じた。

まずは、△317・6に登ることに。
国道476号線から樫曲集落の東、越坂から流れる川沿いの道に入り、旧北陸道に出て路肩が広くなっている場所に車を停めた。
外に出て見上げた空は、鉛色の雲に覆われていたが、暗さはなかった。お昼まで雨は大丈夫かな。
準備を整え、草が生い茂った斜面を見ながら歩き始める。少し進むと植林地に入る道があり、山中に足を踏み入れた。

もわっとした空気がこもる植林地の坂を登っていくと、シデやアベマキが目立つ二次林に風景が移り変わった。
木々の緑の爽やかさに目を細める。なんていうことのないような風景。でも、自然に笑みがこぼれている風景。
木立の向こうから、ふっと誰かの声が聞こえてきそうな、何気ない雑木林の佇まいにこころがよろこぶ。

送電線下の山頂は伐採地かな。この爽やかな風景が続くことは期待しなかった。
到着しただだっ広い山頂は、伐採地どころか、切られた木々がそのまま放置された殺伐とした地だった。

三角点の標石を確認し、頭上を送電線が走る二次林と植林が混ざるなだらかな尾根を北上し越坂峠へと向かう。
空から早くも雨粒が落ちてきた。
雨の山歩きもまたよろし、と傘をさして歩くと、いつの間にか止んでいた。

建物が見え、車道の通る峠に着いた。石仏は見当たらなかった。
10時と早いが、また雨に降られるかもしれないので、その前にお昼ご飯にすることに。
路肩にリュックを置こうとすると、
二枚のピンク色の花びらが艶やかに煌めく不思議な形のお花が、深緑色の葉っぱの中に浮かんでいた。
ハグロソウと教えていただく。

お花の横にKさんと並んで腰を下ろし、お昼の休憩をしていると、越坂の方から車が来た。
運転手のおじさんは、何だこの人たちは、というお顔をして、わたしたちの前を通り過ぎていった。
おじさんのポカンとしたお顔を見て、なんだか江戸時代の旅人になったような気分に。
1000年以上もの年月の間、いろいろな姿の人々が、峠越えの途中、ひと休みしていた場所に、
今、わたしたちは座っているのだ、という感慨に包まれる。
休憩を終え、ハグロソウに出発のごあいさつをと覗き込むと、
雨粒に濡れ、翳りと艶やかさを帯びた光を放つピンク色の花びらの奥に、この道を行き来した人びとの眼差しを感じた。

△360.2までも同じような植生の尾根だった。
細い木々に囲まれた山頂に立つと、何にも思い出せないことに、「えっ?」とうろたえた。
3年前、田尻から塩買い道と旧北陸道を味わう8の字歩きの山旅に出かけ、最後東に曲がる地点がこの山頂だった。
それまでの道のりで出会った風景の数かずは記憶に刻まれている。
驚きと感動が続いたので、この地味な山頂は印象に残らなかったのか。
輝く山旅の記憶からこぼれてしまった地に、ふたたび訪れることが出来てよかったと思う。

ここからは、谷が入り組みくねくねした尾根を南に下っていく。古くから歩かれていたのだなぁ、と感じる尾根。
でも、気になっていた田結と越坂を結ぶ峠道は分からなかった。石仏もなかった。
越前海岸の集落では塩作りが盛んだった。越坂は北陸道木ノ芽峠越え道沿いの集落。峠道は存在したはずだが。

標高180mあたりの尾根が広がった台地には森林組合の小屋が立ち、スギの苗が植樹されていた。
左の尾根に入り、樫曲集落からの林道、830年から明治の時代まで、
北陸と京、江戸を繋ぐ重要な道だった北陸道木ノ芽峠越え道に着地した。

路肩に咲く野の花を観察しながら駐車地に戻る。
白いお花はアキカラマツ、黄色いお花はキンミズヒキ。今までも見てきたのだろうけれど、意識していなかった花ばな。
どちらも目を近づけて見ると、ちいさなお花ひとつひとつ、ほんとうにうつくしい。
ひとつの花が語る真実の世界に耳を傾ける。見ているようで見ていなかったものの多さを花からも教えてもらう。

「すごい」と歓声をあげるような風景には出会わなかったが、
お会いできるかな、と、淡い期待をしていた石仏も、そこにはなかったが、
空からは、ひと時、雨粒がぽつぽつおちてきたが、
道中、ふわりとどこかから来て、ふわりとどこかへと向かっていく、
カタ・・カタ・・という心地よい音が胸の中で響いているのを感じながらの、何とも言えないうれしさに満ちた山旅だった。
カタ・・カタ・・、心地よい音に酔いながら家路についた。

家に帰り、地図を眺めていると、音は高鳴りとなった。
頭の中に、もう何年前か分からなくなってしまったころからの、わたしが見てきた風景、わたしの感じた風景、
そして未知の風景が、万華鏡のようにクルクルと繋がり幾重にも重なり、様ざまな色彩を放ちながら映し出されていった。
道中響いていた音、それは、わたしの中で縫いつがれてきた旅の音、縫いつがれていく旅の音だった。
あるくみるきく、みるきくあるく、きくあるくみる・・・、限りなく続いていくわたしの旅を感じた。
いつか山に登れなくなっても続いていく旅の音を感じた。

sato
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グー(伊勢山上住人)
記事: 2223
登録日時: 2011年2月20日(日) 10:10
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Re: 【越前】縫いつがれてきた旅の音 縫いつがれていく旅の音を聞く 旧北陸道越坂越えの両側の尾根を辿る旅 

投稿記事 by グー(伊勢山上住人) »

satoさん、こんばんは。satoワールド満開ですね。
この名文にコメをつける勇気のある者はちょっといないかな。
前回の「【比良】ちいさくなったおおきな背中を追いながら 母と山登り 蛇谷ヶ峰」も、
しばらくコメントが付かず「ここはグーの出番かな」と腰を上げかけたらコメが付いて、
グーの出番が消滅しました。


なんていうことのないような風景。でも、自然に笑みがこぼれている風景。

自分の心情にピタッと添う風景がありますよね。
いつまでもそこに佇んでいたいと思う場所が。

木立の向こうから、ふっと誰かの声が聞こえてきそうな、何気ない雑木林の佇まいにこころがよろこぶ。

そう!「クマさんが座っていてくれないかな」と期待なんかして。

雨の山歩きもまたよろし、と傘をさして歩くと、いつの間にか止んでいた。

傘を差しての山歩きもグーは好きです。
雨具を着ての山登りはグー大嫌いです。

△360.2までも同じような植生の尾根だった。
細い木々に囲まれた山頂に立つと、何にも思い出せないことに、「えっ?」とうろたえた。


そうなんですか。グーはうろたえることは決してありません。
「ナニも思い出せないこと」はグーにとってごく普通のことなんです。

カタ・・カタ・・という心地よい音が胸の中で響いているのを感じながらの、何とも言えないうれしさに満ちた山旅だった。

何の音なんだろう?
機を織る音かな?
絵巻物が展開する音かな?
走馬燈って音が出るのだろうか?

万華鏡のようにクルクルと繋がり幾重にも重なり、様ざまな色彩を放ちながら映し出されていった。

万華鏡の音でしたか。

わたしの中で縫いつがれてきた旅の音、縫いつがれていく旅の音だった。

こんな名作が読めるなんてヤブネット万才ですね。山日和さん。



                   グー(伊勢山上住人)
sato
記事: 417
登録日時: 2019年2月13日(水) 12:55

Re: 【越前】縫いつがれてきた旅の音 縫いつがれていく旅の音を聞く 旧北陸道越坂越えの両側の尾根を辿る旅 

投稿記事 by sato »

ぐーさま

こんにちは。
私も、ぐーさんワールドを興味津々楽しんでいます!でも、お話する勇気がなくて。
ぐーさん、私のことを気にかけ、話しかけてくださりありがとうございます。
ちょっと緊張?していますが、ぐーさんとお話しできます(笑)。

ぐーさんの「自分の心情にピタッと添う風景」というお言葉。
風景って何なのだろう。ぼんやり考え続けていることのひとつです。
風景とは、目にうつる景色、目にうつるその場の様子やありさま、というけれど、見え方、感じ方は人それぞれ。
わたしというひとりの人間でも、その時の心情、その時の視線で、見え方が違ったりする。
この日は、山を歩きながら、目に映る風景に折り重なる風景を感じていました。
ふだんは忘れている積み重ねてきた経験、記憶、そして常々感じていること、考えていることが、
目の前に展開している風景と響き合い、わたしの風景として見ているのだなぁ、と感じました。
それを何かに例えていうなら、万華鏡のような風景でした。
最高標高地点が360mの集落の裏山の、半日のちいさな山歩きから、広く深い世界を感じました。

Kさんからは、地図を見て山歩きの面白さと見つける楽しさを学ばせていただいております。
一枚のペラリとした紙地図は、視点によって、様ざまな風景、世界が描き出されるのだなぁ、としみじみと感じます。
Kさんとご一緒しながら、Kさんが気づかせてくださった山という世界の奥深さ、山から繋がっていく世界の広さを感じていました。

山に暮らすクマさん。ブナの木の上でお昼寝したり、ドングリをむしゃむしゃ食べたりするクマさんを想像するのは楽しいですね。
ひとりで山を歩いている時、ふっと、森のくまさんを口ずさんでいたりします(笑)。でも、会いませんように、と祈っています。
何度か突撃をくらい(すぐ横と通り抜けましたが)怖いです。

グーさんは、傘をさしての山歩きもお好きなのですね。
雨に濡れた緑の木々は、生き生きと色鮮やかに見えます。紅葉の頃は、より深みを帯びて。
霧にけぶる山は、一本一本の木の物語る声が聞こえるような。
晴れた日には内に潜めている透明な声を感じます。
実際は、雨の休みの日、なかなか出かけようという気分にはならないのですが・・・。

私にとって、旅の思い出は宝物ですが、忘れてしまってもいい、思い出せなくてもいい、と思っています。
記憶に残っていなくても、わたしという存在に刻まれているのだ、と思っています。
なので、写真もほとんど撮らず、山行記録を残そうとも思わないのですが、
言葉に書き留めたい、言葉を紡ぎたいという衝動に駆られる時があり、そんな時、こうして紡いでいます。
紡ぎたくても紡げない時も多いのですが・・・。
この時は、驚きと感動の8の字山旅を味わわせてくださったKさんとご一緒でしたので、
「感動しました」と申し上げておきながら、思い出せない自分にちょっとうろたえてしまいました。

私も、やぶこぎネットで、みなさまの「わたしの山登り」という名の作品を、楽しませていただいております!

sato
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