【鈴鹿】核心部は闇の中 佐目子谷から黒尾山周回
Posted: 2011年10月05日(水) 19:08
【日 付】2011年10月2日(日)
【山 域】鈴鹿中部 佐目子谷川周辺
【天 候】曇りのち晴れ
【コース】佐目子谷橋7:01---8:12ハチノス谷出合8:30---9:32青淵9:50---11:33クチクマ谷出合---12:08熊ノ戸平入口13:22---
13:29銚子---15:00銚子ヶ口西端---16:39黒尾山---17:15 P616m---18:00ダム湖畔---19:14 P616m---20:05萱尾
---20:17駐車地
佐目子谷橋の付近ではなにやら大掛かりな工事が行われていた。時間が早いのでまだ人影はない。わずかに残された駐車ス
ペースに車を止める。
今日は13年振りの佐目子谷。イブネ・クラシ・銚子のトライアングルの真ん中の熊ノ戸平(西尾本ではイブネを指すと書かれている)
から銚子ヶ口、黒尾山へ長駆縦走してここへ戻ってくるというプランだ。
最後の下山ルートがポイントだが、伊勢幹線の送電線が走っているので巡視路が必ずあるだろうという読みである。
佐目子谷左岸の道を辿って入渓、すぐに広河原に出る。広大な「河原」の入口の岩には遭難死した登山者の慰霊プレートが埋め
込まれていた。
坦々とした河原歩きの後やや川幅が狭まり、左岸の岩壁には古い桟道のアングルの残骸が残されていた。
先が長いのでなるべく水を避けて歩く。今日は久し振りにヘルメットもスパッツも無しだ。水温は低そうなのでネオプレーンのソックス
だけは履いている。
崩落した岩塊を過ぎると左からハチノス谷が合流する。この入口の狭い谷の少し奥に姫ヶ滝がある。ザックを降ろして滝見物に向
かった。50mばかり進んだところで急激に左折した谷の頭上遥かから姫ヶ滝は落ちていた。繊細にして優美。鈴鹿でもトップクラス
の美しい滝だろう。
[attachment=3]_1030066_1.JPG[/attachment]
本流に戻って遡行を続ける。この谷の特徴は「平凡」と「長い」のふた言で言い表すことができる。谷筋は時折小さな落差やナメが
見られるものの、感心するぐらい何ごとも起こらない。沢屋ならあくびが出てしまいそうな谷だが、佐目峠へ抜ける道として捉えれば
歩き甲斐のあるルートだと言える。
珍しくゴルジュっぽい地形が現れた。通称青淵と呼ばれているところだ。5mほどの小滝が不似合いなほど大きく深い釜に落ち込
み、その水流は煮えたぎるように白く泡立っている。小ぶりながらも気持ちが引き締まる雰囲気の場所である。ここは右手の岩棚か
ら簡単に巻いて滝の上に抜けた。
[attachment=0]_1030093_1.JPG[/attachment]
ほとんど高度を上げる感のなかった谷もようやく傾斜が出だした。少しは沢登りの気分も出るというものだ。
右から左から次々と支谷が流れ込む。そして目的の熊ノ戸平へ向かうクチクマ谷が右岸から合流した。
10年以上前の冬だったろうか、洞吹氏とフジキリ谷の登山口でバッタリ出会ったことがあった。
お互い目的地はタイジョウ。それぞれ予定していたルートで上り、山頂で合流することにして別れた。
タイジョウで再会後、私のプランに乗ってもらい、一旦佐目子谷へ下り、この谷をイブネへ上がろうとしたのだが、いかんせん冬の谷
に登山靴では辛く、途中で左岸の尾根に乗ってイブネへ到達したのだった。
出発してしばらくはどんよりとした空模様だったが、予報通り日が差してきた。ほんの少し前まで夏の暑さが続いていたのがウソ
のように涼しい。あっという間に日差しが恋しい季節に移り変わってしまったようだ。
クチクマ谷はさすがに傾斜が強く、本流よりは沢登りらしい。小滝をいくつかこなして行けば忽ち源流の装いとなった。
岩が堆積した流れの向うに、明らかにここまでと違う匂いがした。あの先にはもう傾斜がない。熊ノ戸平の入口なのだろう。
逸る心を抑えて岩塊を踏み越えて行くと、そこには想像もしなかった風景が待っていた。正確に言えば人の記録で情報を仕入れて
いたので、想像もしなかったというのはウソかもしれない。しかし実際に見た現実は想像を凌駕していたとは言えるだろう。
何度も訪れているイブネ・クラシ・銚子のど真ん中にこんな桃源郷があるとはずっと知らなかった。
今でこそ自由に歩けるが、昔は背丈を遥かに越すササ薮の中、微かな踏み跡を追ってルートを外さないように必死でここへ下りる
なんて考えもしなかったのである。
平の入口は広々としており、あたりはブナ林が広がっていた。銚子の山頂はすぐ左上だ。銚子ヶ口への縦走路に入るにはここか
ら上がるのだが、しばらくこの源流を楽しんでみよう。
まったくの平流となった谷は、激しく蛇行を繰り返しながら「イ・ク・チョ」トライアングルの中を進む。
足元はまるで簡易舗装のようなナメ床が続き、さらさらと水が流れている。進むにつれ杉の木が増えて入口のような林相は望めな
いが、いいところであることには変わりがない。
適当なところで引き返して入口のブナ林に戻った。ここはランチ場としては申し分のないロケーションだ。谷間でありながら周りの山
との標高差がほとんどないので底抜けに明るい。
予定より30分ばかり時間が掛かり過ぎたがまずは腰を降ろそう。ビールも程よく冷えている。もう暖かい麺類が恋しい季節になった。
[attachment=2]_1030177_1.JPG[/attachment]
靴を履き替えて5分も登れば銚子の山頂だ。谷を挟んでイブネとクラシのダイナミックな高原状の台地が目の前に広がる。かつて
イブネ劇場と名付けられた通りのワイドな眺めを見るのも久し振りだ。
北へ向かう縦走路に入る。2人パーティーがやって来た。ひとりはウィンドブレーカーを着て、もうひとりは半袖短パンという出で立
ちである。体感温度には個人差があるものだが、これはまた極端な2人組だ。
シャレではないが、今日は調子がいいのか銚子ヶ口もそう遠くに感じない。快調に縦走路を歩く。舟窪付近のブナ林はなかなか
いい。舟窪の倒れたブナの古木はあたり前だが相変わらず寝そべっていた。
大峠を過ぎて銚子ヶ口山頂への道と別れ、黒尾山への尾根に乗ると、これまでのテープ満載の道から一転して、ほとんどマーキ
ングのないさわやかな踏み跡に変わった。
Ca1050mピークあたりから、霊仙、御池、藤原、竜、釈迦と続く鈴鹿主脈の山々がダイナミックな展望を見せてくれた。
ここも10年以上前、須谷川からの下山路として一度使った尾根であるが、その時の記憶は疎林のプロムナードがあったことだけ
だ。黒尾山までハイペースで距離を稼ごうと目論んでいたが、やがて記憶にない岩場と崩壊寸前のやせ尾根が行く手を阻んだ。
そう言えば鈴鹿屈指のバリ尾根だと思ったような気もする。
やせ尾根と急下降・急登の繰り返しでいい加減うんざりしたところで971mピークに到達。プロムナードはここからだった。これまでの
悪路から一転して樹林の散歩道。まさに地獄から天国である。
[attachment=1]_1030248_1.JPG[/attachment]
気持ち良く到着した黒尾山は、下から見上げる雄姿とは違って、半分植林の魅力のない山頂だ。
前回は北東尾根から腰越谷へ下りたので、ここから先は未知のルートである。なんとか闇下を回避できる時間だろう。
861mピークで左折、次のポイントはCa750mの尾根分岐だ。ここは直進方向にやたらいい道が続いており、テープも花盛りだった。
これが大滝神社から黒尾山へのメインルートなのだろう。向かうべき西方向はプチ岩稜となっており、踏み跡も直進方向より格段に
薄い。確実性を選ぶなら多少遠回りでも大滝神社へ下りるという選択肢はあった。それを選べないのが悲しいところ。ふたつ続いた
岩場を過ぎるとまずまずの道に変わってホッとする。
最大のポイントは送電線が尾根とクロスするところである。ひとつ目の鉄塔を過ぎ、ふたつ目の鉄塔の手前に見慣れた巡視路の
標識があり、左を指し示していた。「よしっ」ひとりで小さくガッツポーズ。これでもらったも同然だ。(と、その時は確信していた。)
ここまで来れば距離も標高差も微々たるものだ。勇躍左への道へ踏み出した。やがて尾根のど真ん中にシカ除けネットが現れた。
巡視路としてあまりいい道とは言えない。それでも標識は確実に下山できることを示唆している。
次の鉄塔に着いた。ところが進行方向には次の鉄塔を示す標識がない。とにかくこのまま進めば大丈夫だろうと気に留めずに下
りて行くと、見えるはずのない国道とその脇の工事現場が目に飛び込んできた。いつの間にか佐目子谷橋の袂へ落ちる尾根を下
っていたのだ。
もう国道まで50mほどの標高差しかない。なんとかなるだろうと立ち木を頼りに急傾斜の尾根を辿ると目の前に現れたのは・・・・
絶望的なコンクリートのガケとネットフェンス。尾根の末端は橋の際のダム湖に落ち込んで下を窺うことすらできない。国道まで10m
の場所だが、どう考えても出られそうもないトラップに捕まってしまった。あたりにはまだ工事の人影があちこちにあり、エンジン音も
響いている。
左の急斜面を下りてダム湖畔に立つ。対岸が駐車地だ。水はなく、泥田のような地面が続いていた。少し近付いたが、くるぶしまで
沈むような泥で覆われている。既に完全に日は暮れた。巡視路があるはずの東側へは完全なガケで遮られて進みようがない。
腹をくくって登り返すことを決意した。ヘッドランプを付けて4つん這い状態で下りてきた急斜面を戻る。
悪いことに足が攣りかけてきた。早速秘薬を飲もうとするが、水分がほとんどない。残り少ないお茶をひと口含んで流し込む。
口の中が乾いてカラカラになり気持ちが悪い。ザックからBCCAのアメを取り出して、唾液の強制分泌を計った。ほどよい酸味が唾液
を誘って作戦成功だ。
アドレナリンが出まくっているせいかさほど疲れは感じない。350mの標高差を登り切って、萱尾への尾根が分岐するP616mに辿り
着いた。これで帰れる。
しかしこの尾根も完璧な道があるわけではない。ヘッドランプの限られた視界の中で正しいルートを辿るのはそう簡単ではない。
途中で少し迷走したが、とにかく西へ西へ。よく手入れされた植林帯の杣道が出てきた時にはホッとした。
最後はコンクリートの階段を下りて萱尾の集落へ。ヘッドライトを光らせてトボトボと歩く人の姿を見て、対向車のドライバーはさぞ驚
いたことだろう。
佐目子谷橋を渡って車に戻った時には工事の人影もなく、あたりはひっそりと静まり返っていた。
考えてみれば、13年前の佐目子谷も同じような下山時間だった。あの時と今も同じく、最大にして唯一の関心事は温泉の時間に
間に合うかどうかだけだ。
山日和
【山 域】鈴鹿中部 佐目子谷川周辺
【天 候】曇りのち晴れ
【コース】佐目子谷橋7:01---8:12ハチノス谷出合8:30---9:32青淵9:50---11:33クチクマ谷出合---12:08熊ノ戸平入口13:22---
13:29銚子---15:00銚子ヶ口西端---16:39黒尾山---17:15 P616m---18:00ダム湖畔---19:14 P616m---20:05萱尾
---20:17駐車地
佐目子谷橋の付近ではなにやら大掛かりな工事が行われていた。時間が早いのでまだ人影はない。わずかに残された駐車ス
ペースに車を止める。
今日は13年振りの佐目子谷。イブネ・クラシ・銚子のトライアングルの真ん中の熊ノ戸平(西尾本ではイブネを指すと書かれている)
から銚子ヶ口、黒尾山へ長駆縦走してここへ戻ってくるというプランだ。
最後の下山ルートがポイントだが、伊勢幹線の送電線が走っているので巡視路が必ずあるだろうという読みである。
佐目子谷左岸の道を辿って入渓、すぐに広河原に出る。広大な「河原」の入口の岩には遭難死した登山者の慰霊プレートが埋め
込まれていた。
坦々とした河原歩きの後やや川幅が狭まり、左岸の岩壁には古い桟道のアングルの残骸が残されていた。
先が長いのでなるべく水を避けて歩く。今日は久し振りにヘルメットもスパッツも無しだ。水温は低そうなのでネオプレーンのソックス
だけは履いている。
崩落した岩塊を過ぎると左からハチノス谷が合流する。この入口の狭い谷の少し奥に姫ヶ滝がある。ザックを降ろして滝見物に向
かった。50mばかり進んだところで急激に左折した谷の頭上遥かから姫ヶ滝は落ちていた。繊細にして優美。鈴鹿でもトップクラス
の美しい滝だろう。
[attachment=3]_1030066_1.JPG[/attachment]
本流に戻って遡行を続ける。この谷の特徴は「平凡」と「長い」のふた言で言い表すことができる。谷筋は時折小さな落差やナメが
見られるものの、感心するぐらい何ごとも起こらない。沢屋ならあくびが出てしまいそうな谷だが、佐目峠へ抜ける道として捉えれば
歩き甲斐のあるルートだと言える。
珍しくゴルジュっぽい地形が現れた。通称青淵と呼ばれているところだ。5mほどの小滝が不似合いなほど大きく深い釜に落ち込
み、その水流は煮えたぎるように白く泡立っている。小ぶりながらも気持ちが引き締まる雰囲気の場所である。ここは右手の岩棚か
ら簡単に巻いて滝の上に抜けた。
[attachment=0]_1030093_1.JPG[/attachment]
ほとんど高度を上げる感のなかった谷もようやく傾斜が出だした。少しは沢登りの気分も出るというものだ。
右から左から次々と支谷が流れ込む。そして目的の熊ノ戸平へ向かうクチクマ谷が右岸から合流した。
10年以上前の冬だったろうか、洞吹氏とフジキリ谷の登山口でバッタリ出会ったことがあった。
お互い目的地はタイジョウ。それぞれ予定していたルートで上り、山頂で合流することにして別れた。
タイジョウで再会後、私のプランに乗ってもらい、一旦佐目子谷へ下り、この谷をイブネへ上がろうとしたのだが、いかんせん冬の谷
に登山靴では辛く、途中で左岸の尾根に乗ってイブネへ到達したのだった。
出発してしばらくはどんよりとした空模様だったが、予報通り日が差してきた。ほんの少し前まで夏の暑さが続いていたのがウソ
のように涼しい。あっという間に日差しが恋しい季節に移り変わってしまったようだ。
クチクマ谷はさすがに傾斜が強く、本流よりは沢登りらしい。小滝をいくつかこなして行けば忽ち源流の装いとなった。
岩が堆積した流れの向うに、明らかにここまでと違う匂いがした。あの先にはもう傾斜がない。熊ノ戸平の入口なのだろう。
逸る心を抑えて岩塊を踏み越えて行くと、そこには想像もしなかった風景が待っていた。正確に言えば人の記録で情報を仕入れて
いたので、想像もしなかったというのはウソかもしれない。しかし実際に見た現実は想像を凌駕していたとは言えるだろう。
何度も訪れているイブネ・クラシ・銚子のど真ん中にこんな桃源郷があるとはずっと知らなかった。
今でこそ自由に歩けるが、昔は背丈を遥かに越すササ薮の中、微かな踏み跡を追ってルートを外さないように必死でここへ下りる
なんて考えもしなかったのである。
平の入口は広々としており、あたりはブナ林が広がっていた。銚子の山頂はすぐ左上だ。銚子ヶ口への縦走路に入るにはここか
ら上がるのだが、しばらくこの源流を楽しんでみよう。
まったくの平流となった谷は、激しく蛇行を繰り返しながら「イ・ク・チョ」トライアングルの中を進む。
足元はまるで簡易舗装のようなナメ床が続き、さらさらと水が流れている。進むにつれ杉の木が増えて入口のような林相は望めな
いが、いいところであることには変わりがない。
適当なところで引き返して入口のブナ林に戻った。ここはランチ場としては申し分のないロケーションだ。谷間でありながら周りの山
との標高差がほとんどないので底抜けに明るい。
予定より30分ばかり時間が掛かり過ぎたがまずは腰を降ろそう。ビールも程よく冷えている。もう暖かい麺類が恋しい季節になった。
[attachment=2]_1030177_1.JPG[/attachment]
靴を履き替えて5分も登れば銚子の山頂だ。谷を挟んでイブネとクラシのダイナミックな高原状の台地が目の前に広がる。かつて
イブネ劇場と名付けられた通りのワイドな眺めを見るのも久し振りだ。
北へ向かう縦走路に入る。2人パーティーがやって来た。ひとりはウィンドブレーカーを着て、もうひとりは半袖短パンという出で立
ちである。体感温度には個人差があるものだが、これはまた極端な2人組だ。
シャレではないが、今日は調子がいいのか銚子ヶ口もそう遠くに感じない。快調に縦走路を歩く。舟窪付近のブナ林はなかなか
いい。舟窪の倒れたブナの古木はあたり前だが相変わらず寝そべっていた。
大峠を過ぎて銚子ヶ口山頂への道と別れ、黒尾山への尾根に乗ると、これまでのテープ満載の道から一転して、ほとんどマーキ
ングのないさわやかな踏み跡に変わった。
Ca1050mピークあたりから、霊仙、御池、藤原、竜、釈迦と続く鈴鹿主脈の山々がダイナミックな展望を見せてくれた。
ここも10年以上前、須谷川からの下山路として一度使った尾根であるが、その時の記憶は疎林のプロムナードがあったことだけ
だ。黒尾山までハイペースで距離を稼ごうと目論んでいたが、やがて記憶にない岩場と崩壊寸前のやせ尾根が行く手を阻んだ。
そう言えば鈴鹿屈指のバリ尾根だと思ったような気もする。
やせ尾根と急下降・急登の繰り返しでいい加減うんざりしたところで971mピークに到達。プロムナードはここからだった。これまでの
悪路から一転して樹林の散歩道。まさに地獄から天国である。
[attachment=1]_1030248_1.JPG[/attachment]
気持ち良く到着した黒尾山は、下から見上げる雄姿とは違って、半分植林の魅力のない山頂だ。
前回は北東尾根から腰越谷へ下りたので、ここから先は未知のルートである。なんとか闇下を回避できる時間だろう。
861mピークで左折、次のポイントはCa750mの尾根分岐だ。ここは直進方向にやたらいい道が続いており、テープも花盛りだった。
これが大滝神社から黒尾山へのメインルートなのだろう。向かうべき西方向はプチ岩稜となっており、踏み跡も直進方向より格段に
薄い。確実性を選ぶなら多少遠回りでも大滝神社へ下りるという選択肢はあった。それを選べないのが悲しいところ。ふたつ続いた
岩場を過ぎるとまずまずの道に変わってホッとする。
最大のポイントは送電線が尾根とクロスするところである。ひとつ目の鉄塔を過ぎ、ふたつ目の鉄塔の手前に見慣れた巡視路の
標識があり、左を指し示していた。「よしっ」ひとりで小さくガッツポーズ。これでもらったも同然だ。(と、その時は確信していた。)
ここまで来れば距離も標高差も微々たるものだ。勇躍左への道へ踏み出した。やがて尾根のど真ん中にシカ除けネットが現れた。
巡視路としてあまりいい道とは言えない。それでも標識は確実に下山できることを示唆している。
次の鉄塔に着いた。ところが進行方向には次の鉄塔を示す標識がない。とにかくこのまま進めば大丈夫だろうと気に留めずに下
りて行くと、見えるはずのない国道とその脇の工事現場が目に飛び込んできた。いつの間にか佐目子谷橋の袂へ落ちる尾根を下
っていたのだ。
もう国道まで50mほどの標高差しかない。なんとかなるだろうと立ち木を頼りに急傾斜の尾根を辿ると目の前に現れたのは・・・・
絶望的なコンクリートのガケとネットフェンス。尾根の末端は橋の際のダム湖に落ち込んで下を窺うことすらできない。国道まで10m
の場所だが、どう考えても出られそうもないトラップに捕まってしまった。あたりにはまだ工事の人影があちこちにあり、エンジン音も
響いている。
左の急斜面を下りてダム湖畔に立つ。対岸が駐車地だ。水はなく、泥田のような地面が続いていた。少し近付いたが、くるぶしまで
沈むような泥で覆われている。既に完全に日は暮れた。巡視路があるはずの東側へは完全なガケで遮られて進みようがない。
腹をくくって登り返すことを決意した。ヘッドランプを付けて4つん這い状態で下りてきた急斜面を戻る。
悪いことに足が攣りかけてきた。早速秘薬を飲もうとするが、水分がほとんどない。残り少ないお茶をひと口含んで流し込む。
口の中が乾いてカラカラになり気持ちが悪い。ザックからBCCAのアメを取り出して、唾液の強制分泌を計った。ほどよい酸味が唾液
を誘って作戦成功だ。
アドレナリンが出まくっているせいかさほど疲れは感じない。350mの標高差を登り切って、萱尾への尾根が分岐するP616mに辿り
着いた。これで帰れる。
しかしこの尾根も完璧な道があるわけではない。ヘッドランプの限られた視界の中で正しいルートを辿るのはそう簡単ではない。
途中で少し迷走したが、とにかく西へ西へ。よく手入れされた植林帯の杣道が出てきた時にはホッとした。
最後はコンクリートの階段を下りて萱尾の集落へ。ヘッドライトを光らせてトボトボと歩く人の姿を見て、対向車のドライバーはさぞ驚
いたことだろう。
佐目子谷橋を渡って車に戻った時には工事の人影もなく、あたりはひっそりと静まり返っていた。
考えてみれば、13年前の佐目子谷も同じような下山時間だった。あの時と今も同じく、最大にして唯一の関心事は温泉の時間に
間に合うかどうかだけだ。
山日和
【コース】---20:17駐車地