【湖西】「遠い国境で静かに輝きを放つ切なくて愛しい山」白谷~乗鞍岳~国境
Posted: 2021年2月04日(木) 22:57
【山行日】2021年1月31日(日)
【山域】湖西マキノ・乗鞍岳周辺
【天候】くもり
【メンバー】MKさん、Kちゃん、タイラ、アオバ*ト
【ルート】
7:50マキノ町白谷集落の北(県道とマキノ林道の出合より県道が東へカーブする辺り)、
10:20県境稜線(・779)、電波塔、11:45乗鞍岳、11:55~12:50乗鞍岳北端、
13:45~14:10乗鞍北尾根分岐、15:30国境スノーパーク
前日から未明にかけて降雪のあった1月最後の日曜日、マキノの白谷集落の奥から、国境の乗鞍岳を目指しました。
数年前に連れられて行ったときのおぼろげな記憶をたどり、情景を思い浮かべつつ、ルートを描いてみた。
国境のスキー場から登れば、あるいは在原から登れば、楽に稜線に上がることができる。
でもやっぱり白谷のこの尾根だ。心に思い浮かぶ情景は、マキノの山が一望できる展望台地と迷路のようなかわいらしいブナの森。
しかし、車を停めて、末端より上を眺めてため息をつく。こんな急だったかな。こんな冴えない植林だったかな。
そしてこの雪の少なさよ。少し上がってヤブに阻まれたらお手上げだ。
けど、もうスキー場に駐車代を払って車2台置いてきた。観念して少し左に回り込んで取り付く。
スノーシューを斜面にたたきつけるように踏んで遮二無二登る。枝につかまり倒木を乗り越える。
地図にない林道の低い法面を跨ぎ、なんだここまで林道上がって来てたのかと忌々しく思いながら、
ムキになって尾根芯を登る。
なんだかんだ言いながら足を動かしているうちに、振り返ると枝越しに奥琵琶が見えてきた。
いい尾根になって来たねと言われて、内心ほっとする。
気にかかっていたもう一段上の急坂は、美しいブナ林。
雪も締まって、いいね、いいね、キレイだねと、はしゃいでいるうちに、
いちめん真っ白の雪に覆われた展望台地に着いた。まだ誰にも踏まれていない白い台地。 さっきの冴えない取り付きからは信じられないような光景が広がった。
マキノの白い山並みが、アルプスの雪山みたいに見えた。
小さなくぼみが作り出す雪原のうねり。
鉛色の空からかすかに射す太陽の光が、氷のしずくを湛えた小さな木々の梢を、
キラキラときらめかせていた。 夢中になって写真を撮って、皆のあとを追う。
尾根がふくらみ、華奢だけれど濃密なブナの木立が迷路のような森を作り出す。
雪をもっさりかぶって、ブナの中にこっそり混じった杉の木は、時期遅れのクリスマスツリー。
しんとした森は、ゆるやかにカーブを描きながら谷の源頭を巻いて知らずと稜線へ上がって行く。
鉛色の空の向こうに小さく電波塔が見えた。
雪を蹴散らして森の稜線を駆け降りては登り、また駆け降りては登る。
いつしか世界は変わり、荒涼としたこの世の果てのような雪原に立っていた。
小さく見えていた電波塔は、圧倒的な威圧感を持って目の前に迫った。 どんよりとした空の下、巨大な電波塔に立ち向かう蟻のように小さな皆の後ろ姿は、
この世の果てでさまよい、見えない敵と戦う、物語の中の戦士たちのようだった。
電波塔を越えて、遮るもののない展望地に飛び出す。くすんだトーンのパノラマが、静かに押し寄せてくる。
こんなにすごい眺めだったんだ。世界の果てにいるはずなのに、世界の真ん中にいるような、すべてがここにあるような、
そんなすばらしい眺めだった。
山頂の四角い建造物は、完全に雪に覆われてはいなかった。灰色の打ち捨てられたコンクリートの塊。
不思議といたたまれない気持ちは湧いてこなかった。何も知らない、さらりとした風が吹き抜けていった。
雪庇の張り出した美しい雪稜が流れるように伸びてゆく。雪稜の向こうには、優美な岩籠山。 乗鞍岳山頂の北の端、雪稜が緩やかにカーブして落ちてゆく斜面にスコップでベンチを作ってお昼にする。 正面には、懐かしさの詰まった湖北の山々。なんてすてきな場所だろう。
なごり惜しみつつ店じまいして、極上の斜面を駆け降りる。微かな樹氷をまとった木々の梢が風に光る。 梢のむこうに端正な横顔の野坂岳が見えてくる。 MKさんが、急ぐともったいないよと言う。
立ち止まって雲が流れるのを待つ。雲の切れ間からまばゆい光が降り注ぐ。振り返って、乗鞍岳の東面を仰ぎ見る。 光と影の、きみのイーストフェイスが、心に突き刺さる。どんなに醜い無機質な塊を背中に埋め込まれていようとも、
きみのすばらしさは変わらない。きみは、すべてのものを物語のようにやさしく包み込んで、静かに語りかけてくる。
スキー場へと下る分岐点までやって来た。なごり惜しくて、さらに北の鉄塔まで行ってみた。
そうか、ここから岩籠山は見えなかったんだと思い返しつつ、分岐へ戻る。
足元はクリームのようなたっぷりの雪。今ごろ広がってきた青空。見下ろす尾根はすてきなブナ林。
さっきランチしたばっかりだけど、もういっぺんスコップ出して店開き。
こんなすてきな日、また出会えるだろうか。
すてきなブナ林に誘われて、いつのまにか違う尾根を降りている。
延々とトラバースののち、急斜面ころがり落ちて小さな流れに着地。
嬉々として谷間を登り返して正規のルートに戻る。
もう、思い残すことはないよ。
ボーダーたちの楽しそうな声を背中に受けてゲレンデを横切る。
スノーパークで無邪気に雪とたわむれる子どもたちの姿がきらきらと眩しかった。
追記:帰ってから、グーさんの芦原岳のレポを拝見して、あ!!!と思いました。
グーさんも、かつてsatoさんも、この白谷の尾根を登られたのですね。
みんなどこかで知らないうちにつながっているなぁと思いました。
アオバ*ト
【山域】湖西マキノ・乗鞍岳周辺
【天候】くもり
【メンバー】MKさん、Kちゃん、タイラ、アオバ*ト
【ルート】
7:50マキノ町白谷集落の北(県道とマキノ林道の出合より県道が東へカーブする辺り)、
10:20県境稜線(・779)、電波塔、11:45乗鞍岳、11:55~12:50乗鞍岳北端、
13:45~14:10乗鞍北尾根分岐、15:30国境スノーパーク
前日から未明にかけて降雪のあった1月最後の日曜日、マキノの白谷集落の奥から、国境の乗鞍岳を目指しました。
数年前に連れられて行ったときのおぼろげな記憶をたどり、情景を思い浮かべつつ、ルートを描いてみた。
国境のスキー場から登れば、あるいは在原から登れば、楽に稜線に上がることができる。
でもやっぱり白谷のこの尾根だ。心に思い浮かぶ情景は、マキノの山が一望できる展望台地と迷路のようなかわいらしいブナの森。
しかし、車を停めて、末端より上を眺めてため息をつく。こんな急だったかな。こんな冴えない植林だったかな。
そしてこの雪の少なさよ。少し上がってヤブに阻まれたらお手上げだ。
けど、もうスキー場に駐車代を払って車2台置いてきた。観念して少し左に回り込んで取り付く。
スノーシューを斜面にたたきつけるように踏んで遮二無二登る。枝につかまり倒木を乗り越える。
地図にない林道の低い法面を跨ぎ、なんだここまで林道上がって来てたのかと忌々しく思いながら、
ムキになって尾根芯を登る。
なんだかんだ言いながら足を動かしているうちに、振り返ると枝越しに奥琵琶が見えてきた。
いい尾根になって来たねと言われて、内心ほっとする。
気にかかっていたもう一段上の急坂は、美しいブナ林。
雪も締まって、いいね、いいね、キレイだねと、はしゃいでいるうちに、
いちめん真っ白の雪に覆われた展望台地に着いた。まだ誰にも踏まれていない白い台地。 さっきの冴えない取り付きからは信じられないような光景が広がった。
マキノの白い山並みが、アルプスの雪山みたいに見えた。
小さなくぼみが作り出す雪原のうねり。
鉛色の空からかすかに射す太陽の光が、氷のしずくを湛えた小さな木々の梢を、
キラキラときらめかせていた。 夢中になって写真を撮って、皆のあとを追う。
尾根がふくらみ、華奢だけれど濃密なブナの木立が迷路のような森を作り出す。
雪をもっさりかぶって、ブナの中にこっそり混じった杉の木は、時期遅れのクリスマスツリー。
しんとした森は、ゆるやかにカーブを描きながら谷の源頭を巻いて知らずと稜線へ上がって行く。
鉛色の空の向こうに小さく電波塔が見えた。
雪を蹴散らして森の稜線を駆け降りては登り、また駆け降りては登る。
いつしか世界は変わり、荒涼としたこの世の果てのような雪原に立っていた。
小さく見えていた電波塔は、圧倒的な威圧感を持って目の前に迫った。 どんよりとした空の下、巨大な電波塔に立ち向かう蟻のように小さな皆の後ろ姿は、
この世の果てでさまよい、見えない敵と戦う、物語の中の戦士たちのようだった。
電波塔を越えて、遮るもののない展望地に飛び出す。くすんだトーンのパノラマが、静かに押し寄せてくる。
こんなにすごい眺めだったんだ。世界の果てにいるはずなのに、世界の真ん中にいるような、すべてがここにあるような、
そんなすばらしい眺めだった。
山頂の四角い建造物は、完全に雪に覆われてはいなかった。灰色の打ち捨てられたコンクリートの塊。
不思議といたたまれない気持ちは湧いてこなかった。何も知らない、さらりとした風が吹き抜けていった。
雪庇の張り出した美しい雪稜が流れるように伸びてゆく。雪稜の向こうには、優美な岩籠山。 乗鞍岳山頂の北の端、雪稜が緩やかにカーブして落ちてゆく斜面にスコップでベンチを作ってお昼にする。 正面には、懐かしさの詰まった湖北の山々。なんてすてきな場所だろう。
なごり惜しみつつ店じまいして、極上の斜面を駆け降りる。微かな樹氷をまとった木々の梢が風に光る。 梢のむこうに端正な横顔の野坂岳が見えてくる。 MKさんが、急ぐともったいないよと言う。
立ち止まって雲が流れるのを待つ。雲の切れ間からまばゆい光が降り注ぐ。振り返って、乗鞍岳の東面を仰ぎ見る。 光と影の、きみのイーストフェイスが、心に突き刺さる。どんなに醜い無機質な塊を背中に埋め込まれていようとも、
きみのすばらしさは変わらない。きみは、すべてのものを物語のようにやさしく包み込んで、静かに語りかけてくる。
スキー場へと下る分岐点までやって来た。なごり惜しくて、さらに北の鉄塔まで行ってみた。
そうか、ここから岩籠山は見えなかったんだと思い返しつつ、分岐へ戻る。
足元はクリームのようなたっぷりの雪。今ごろ広がってきた青空。見下ろす尾根はすてきなブナ林。
さっきランチしたばっかりだけど、もういっぺんスコップ出して店開き。
こんなすてきな日、また出会えるだろうか。
すてきなブナ林に誘われて、いつのまにか違う尾根を降りている。
延々とトラバースののち、急斜面ころがり落ちて小さな流れに着地。
嬉々として谷間を登り返して正規のルートに戻る。
もう、思い残すことはないよ。
ボーダーたちの楽しそうな声を背中に受けてゲレンデを横切る。
スノーパークで無邪気に雪とたわむれる子どもたちの姿がきらきらと眩しかった。
追記:帰ってから、グーさんの芦原岳のレポを拝見して、あ!!!と思いました。
グーさんも、かつてsatoさんも、この白谷の尾根を登られたのですね。
みんなどこかで知らないうちにつながっているなぁと思いました。
アオバ*ト