【江美国境】 輝く峰に向かった先で見えたもの 金糞岳
Posted: 2021年1月02日(土) 09:33
【日 付】 2020年12月29日(火)
【山 域】 江美国境
【天 候】 晴れ
【メンバー】 夫、sato
【コース】 坂内広瀬鳥越林道路肩~・1039~金糞岳~・1039~・849手前の850mピーク~・603~車道~駐車地
あっ、と声をあげ、ブレーキを踏み、胸をなでおろす。危うく雪の中につっこむところだった。
坂内大草履から浅又川沿いの鳥越林道に入っても除雪されていたので、どこまでも通れるような気分になっていた。
夫と席を交換して、バックですれ違い場所まで戻ってもらう。雪のある細い道のバック運転は苦手。ひとりでなくてよかったと思う。
日曜日、大ダワの山頂から眺めた金糞岳の、水晶のように透明で冷たく熱い輝きが胸に突き刺さった。
わたしの中では二月に訪れる山。でも、あの煌めきがまぶたの裏で燃え上がっている。
30日には寒波が来る。出かけるなら火曜日。
山頂までは厳しいだろうけど、光り輝く北尾根に乗り、近づけるところまで近づこうと計画していると、
実家に泊りにいく予定が中止になった夫が、一緒に登ろうと言ってくれた。ふたりだとこころ強い。
ありがとう、じゃあ運転はわたしがするね、とえらそうに言ったのだが、早速頼ってしまうわたしだった。
イビデンの発電所?の傍に車を停め、スノーシューを履き、雪の積もった道をぼこっぼこっと音を立てながら進んでいく。
出発時間は7時20分。この時間にこんなに潜るのだから、帰りは車道歩きはしたくないな、と早くも思う。
北尾根に乗るにはどの尾根がいいのだろう。あまり下から取り付くと、山頂まで遠い。
でも、少しでも長く壮観な景色を味わいながら登りたい。お気に入りの台地、・1039にとどく尾根を辿ることに決める。
20分あまりで取り付く尾根の入り口の谷に着き、もこもこと雪の積もった林道を登っていく。ジグザグになるところで道を離れ尾根に入る。
雪質は変わらず。しばらくわたしが先頭を歩く。雪は重いけれど、こころは軽やか。まぶたの裏の煌めきが、足を前に踏み出させてくれる。
標高800mあたりで傾斜が増すと、50mで交代しながら登っていく。
尾根が広くなり、青空に手が届くのでは、と思った時、ブナが立ち並ぶつるりとした台地にでた。
思わず周囲を見渡し、人の歩いた痕跡がないのを確認し、ほっとため息をつく。
時計を見ると10時前。うれしいことに雪質も変わった。わたしの足元からは、輝く雪稜が山頂へと延びていく。
目の前に広がるのは、夢でも憧れでもない。今、という現実だけ。いつの間にか、まぶたの裏の煌めきも消えていた。
ここからは、お互い思い思いに登る。
春のような陽気に、絵に描いたような風景。二年前も同じことを呟いていたなぁ、と懐かしくなる。
夫は相変わらず山座同定に忙しい。
なんて穏やかな輝きに満ちているのだろう。ふっと現実から離れそうになる。
奥美濃の山やま、どこまでも白い白山、御嶽、乗鞍、北アルプス、中央、南アルプスまでも望みながら、
夢のような尾根を、今、歩いているのだが、光り輝くこの尾根、この山を中心に、
うつくしい真理の世界が展開している、曼荼羅のような世界に足を踏み入れた気分になる。
まっしろな白倉の頭が存在感を増してくる。負けじと白い三角点ピークが目の前まで近づく。
一歩一歩踏みしめながら越え、もうひと登りすると、見覚えのある木が目に飛び込んだ。
ふぅと息を整え、最後の数歩の感触をかみしめ、凹凸のない滑らかな山頂にそっと足跡を刻みこむ。
「金糞岳」と書かれた赤いプレートのかかった木に近づいたその時、南から風が吹いてきて、何かを囁くように頬をなでる。
振り向くと、柔らかな陽射しを浴びてしっとりと光る、わたしの暮らす近江の風景がそこに在った。
泣き出したくなるようなやさしい風景だった。大ダワの山頂で感じた「カミ」。
神が宿るのは「どこか」でも、「ここ」だけでもないのだ。風に乗って金糞岳の神様の笑う声が聞こえたような気がした。
あまりにも遠くまで見渡せて、あまりにも穏やかな陽気なので、ぽけっ、と出来ない夫も、今日は食後のんびりとしている。
それでも時間が気になるのか、12時35分になると、さぁ行こうと立ち上がる。
絶景を楽しみながらの下り。登りの時より潜るが、心地よい傾斜が続くので、すたすたと進める。
どの尾根を下ろうかと話しているうちに・1211を過ぎ、・1039に。
時間には余裕がある。車道を出来るだけ歩かないのは、と地図を見る。車を停めたのは浅又川に入って一つ目の谷の近く。
・849の手前の850mピークから・603の尾根を下ってみよう、と考えが一致する。
△981・6から先は初めてだ。
雑然とした二次林になり、ブナ林とはお別れかな、とさみしく思うと、清々しいブナ林が現れ、ぱぁっとこころに光が射し込む。
痩せ尾根が出てきて、よしっ、とうれしくなる。未知の稜線歩きはわくわく面白い。
でも、標高が下がるにつれ雪がどんどん重くなり、ペースが落ちていく。
15時15分。若いブナに囲まれた850mピークで北尾根とお別れをする。
登り返しはしたくないので、小さな枝分かれをする尾根を、GPSで確認しながらゆっくりと下っていく。
進む尾根は、地図では分からなかったが、急こう配の岩の多い痩せ尾根だった。
ズボズボと潜るのでなかなか進まない。ため息が出るが、こういうのもなければね、と面白がる。
・603から先は、450mの小山に登るのをやめて、左の尾根に入り、谷に出る。
16時30分。愛車に到着。帰りも運転はわたしがする。
川上の集落が見えた時、「今度は末端から登る?」と夫が聞いてくる。「そういうこだわりはないよ」と笑って答える。
八草トンネルに入る前、今日辿った北尾根を見上げる。
静かに微笑む金糞岳を胸に感じ、穏やかな気持ちのわたしがここにいた。
年明け、どこかの山で、白く輝く金糞岳を見つめた時、何を思うのだろう。
そして、これからも、あちこちの山を歩き、あちこちの山を眺め、あれこれとこころを動かされるのだろうな、と可笑しくなり、
あれこれ思う自分を抱きしめたくなった。
sato
【山 域】 江美国境
【天 候】 晴れ
【メンバー】 夫、sato
【コース】 坂内広瀬鳥越林道路肩~・1039~金糞岳~・1039~・849手前の850mピーク~・603~車道~駐車地
あっ、と声をあげ、ブレーキを踏み、胸をなでおろす。危うく雪の中につっこむところだった。
坂内大草履から浅又川沿いの鳥越林道に入っても除雪されていたので、どこまでも通れるような気分になっていた。
夫と席を交換して、バックですれ違い場所まで戻ってもらう。雪のある細い道のバック運転は苦手。ひとりでなくてよかったと思う。
日曜日、大ダワの山頂から眺めた金糞岳の、水晶のように透明で冷たく熱い輝きが胸に突き刺さった。
わたしの中では二月に訪れる山。でも、あの煌めきがまぶたの裏で燃え上がっている。
30日には寒波が来る。出かけるなら火曜日。
山頂までは厳しいだろうけど、光り輝く北尾根に乗り、近づけるところまで近づこうと計画していると、
実家に泊りにいく予定が中止になった夫が、一緒に登ろうと言ってくれた。ふたりだとこころ強い。
ありがとう、じゃあ運転はわたしがするね、とえらそうに言ったのだが、早速頼ってしまうわたしだった。
イビデンの発電所?の傍に車を停め、スノーシューを履き、雪の積もった道をぼこっぼこっと音を立てながら進んでいく。
出発時間は7時20分。この時間にこんなに潜るのだから、帰りは車道歩きはしたくないな、と早くも思う。
北尾根に乗るにはどの尾根がいいのだろう。あまり下から取り付くと、山頂まで遠い。
でも、少しでも長く壮観な景色を味わいながら登りたい。お気に入りの台地、・1039にとどく尾根を辿ることに決める。
20分あまりで取り付く尾根の入り口の谷に着き、もこもこと雪の積もった林道を登っていく。ジグザグになるところで道を離れ尾根に入る。
雪質は変わらず。しばらくわたしが先頭を歩く。雪は重いけれど、こころは軽やか。まぶたの裏の煌めきが、足を前に踏み出させてくれる。
標高800mあたりで傾斜が増すと、50mで交代しながら登っていく。
尾根が広くなり、青空に手が届くのでは、と思った時、ブナが立ち並ぶつるりとした台地にでた。
思わず周囲を見渡し、人の歩いた痕跡がないのを確認し、ほっとため息をつく。
時計を見ると10時前。うれしいことに雪質も変わった。わたしの足元からは、輝く雪稜が山頂へと延びていく。
目の前に広がるのは、夢でも憧れでもない。今、という現実だけ。いつの間にか、まぶたの裏の煌めきも消えていた。
ここからは、お互い思い思いに登る。
春のような陽気に、絵に描いたような風景。二年前も同じことを呟いていたなぁ、と懐かしくなる。
夫は相変わらず山座同定に忙しい。
なんて穏やかな輝きに満ちているのだろう。ふっと現実から離れそうになる。
奥美濃の山やま、どこまでも白い白山、御嶽、乗鞍、北アルプス、中央、南アルプスまでも望みながら、
夢のような尾根を、今、歩いているのだが、光り輝くこの尾根、この山を中心に、
うつくしい真理の世界が展開している、曼荼羅のような世界に足を踏み入れた気分になる。
まっしろな白倉の頭が存在感を増してくる。負けじと白い三角点ピークが目の前まで近づく。
一歩一歩踏みしめながら越え、もうひと登りすると、見覚えのある木が目に飛び込んだ。
ふぅと息を整え、最後の数歩の感触をかみしめ、凹凸のない滑らかな山頂にそっと足跡を刻みこむ。
「金糞岳」と書かれた赤いプレートのかかった木に近づいたその時、南から風が吹いてきて、何かを囁くように頬をなでる。
振り向くと、柔らかな陽射しを浴びてしっとりと光る、わたしの暮らす近江の風景がそこに在った。
泣き出したくなるようなやさしい風景だった。大ダワの山頂で感じた「カミ」。
神が宿るのは「どこか」でも、「ここ」だけでもないのだ。風に乗って金糞岳の神様の笑う声が聞こえたような気がした。
あまりにも遠くまで見渡せて、あまりにも穏やかな陽気なので、ぽけっ、と出来ない夫も、今日は食後のんびりとしている。
それでも時間が気になるのか、12時35分になると、さぁ行こうと立ち上がる。
絶景を楽しみながらの下り。登りの時より潜るが、心地よい傾斜が続くので、すたすたと進める。
どの尾根を下ろうかと話しているうちに・1211を過ぎ、・1039に。
時間には余裕がある。車道を出来るだけ歩かないのは、と地図を見る。車を停めたのは浅又川に入って一つ目の谷の近く。
・849の手前の850mピークから・603の尾根を下ってみよう、と考えが一致する。
△981・6から先は初めてだ。
雑然とした二次林になり、ブナ林とはお別れかな、とさみしく思うと、清々しいブナ林が現れ、ぱぁっとこころに光が射し込む。
痩せ尾根が出てきて、よしっ、とうれしくなる。未知の稜線歩きはわくわく面白い。
でも、標高が下がるにつれ雪がどんどん重くなり、ペースが落ちていく。
15時15分。若いブナに囲まれた850mピークで北尾根とお別れをする。
登り返しはしたくないので、小さな枝分かれをする尾根を、GPSで確認しながらゆっくりと下っていく。
進む尾根は、地図では分からなかったが、急こう配の岩の多い痩せ尾根だった。
ズボズボと潜るのでなかなか進まない。ため息が出るが、こういうのもなければね、と面白がる。
・603から先は、450mの小山に登るのをやめて、左の尾根に入り、谷に出る。
16時30分。愛車に到着。帰りも運転はわたしがする。
川上の集落が見えた時、「今度は末端から登る?」と夫が聞いてくる。「そういうこだわりはないよ」と笑って答える。
八草トンネルに入る前、今日辿った北尾根を見上げる。
静かに微笑む金糞岳を胸に感じ、穏やかな気持ちのわたしがここにいた。
年明け、どこかの山で、白く輝く金糞岳を見つめた時、何を思うのだろう。
そして、これからも、あちこちの山を歩き、あちこちの山を眺め、あれこれとこころを動かされるのだろうな、と可笑しくなり、
あれこれ思う自分を抱きしめたくなった。
sato