【奥美濃・飛騨】雪を追いかけて 小白山と三方岩岳
Posted: 2020年3月01日(日) 15:37
【日 付】2020年2月23日(日)
【山 域】奥美濃 石徹白周辺
【天 候】曇り時々小雪
【コース】白山中居神社6:50---8:40越美国境稜線9:00---11:10小白山---12:00ランチ場13:30---15:00稜線分岐
---16:10白山中居神社
郡上地方の晴れの予報を信じて向かった石徹白だったが、夜には星が瞬いていた空から白いものが落ち続けて
いた。朝になっても明るさを取り戻さない、鉛色のどんよりとした空。どうにもモチベーションが上がらないが、
ここまで来たからには行くしかない。
新雪が既に15センチほど積もった林道へ入ると、和田山牧場跡への道を見送って、小白山東尾根への支尾根に
取り付いた。このあたりは植林主体の面白くない林相である。
尾根をそのまま進むとやや遠回りになるので、途中で谷の方へ入り、隣の尾根に乗り換える。
このルートを歩くのは11年ぶりだ。3回目だが、記憶があるような、ないような、なんとなく覚えているよう
な感じである。少し積もったとはいえ、やはり積雪は少なく、ヤブを埋めるにはほど遠い。例年なら雪の下に眠
っているはずの潅木をかき分けながらの登行となる。
杉山の北側で稜線に合流した。小白山東尾根は越美国境稜線でもある。合流点にはガスの中に怪異な姿の巨大
なヒノキが立ち並び、魔界に迷い込んだような印象を受ける。
ここから一旦下って登り返すのだが、鞍部のあたりの地形は実に複雑で面白い。尾根を進むか、浅い谷沿いに
ルートを延ばすか迷うところだ。結局、谷を選んでスノーブリッジを利用しながら進み、再び尾根に乗ると、こ
れまでとは林相が一変して、すっきりとしたブナ林が続いた。
今年は雪が少ないとは言っても、積雪は1mを超えただろうか。南側には小さな雪庇も現れ、小雪の舞うまった
く視界ののない国境稜線を、まるで修行のような登行が続く。
樹林が切れ、面白いことに今度は北側に雪庇ができた真っ白い尾根に、一歩一歩足跡を刻む。
顔を上げても何も見えないので、足元だけを見ながら、目の前から傾斜が消える瞬間を待った。
不意に、スノーシューを履いた足を上げる必要がなくなった。どうやら小白山北峰に着いたようだ。
この山頂は広く、ただでさえどこが山頂なのかわからないような場所なのだが、この状況では皆目見当がつかな
い。すぐそこに見えるはずの、三角点のある南峰もガスの中。行くだけ行ってみようかと、南峰へ向かって進み
だしたが、雪面と空間の境が判然としない。真っ白なガスと雪面を凝視していると、目がおかしくなってしまう。
右手の打波川側はスパッと切れ落ち、左手の俵谷側は通常なら雪庇が発達するか、崩壊してクレバスができてい
るかというところだ。自分の足元がやっと見えるという今の状況では、これ以上前進するのは危険だ。
第一、山頂に立つ意味がない。これまで快晴の山頂に3度立っているのだ。やめよう。
風が強く、ゆっくりとメシも食えないので、少し下ったところで食べることにする。
橋立峠への国境稜線を下り始めたつもりだったが、GPSを見ると福井県側の小尾根に乗っていた。危ない危ない。
登り返して再度確認するが、峠の方向は視界ゼロ。ここは安全策を取って、元来た道を辿る方が得策だ。
少し下った潅木の林でツェルトを張ってランチタイムとする。周りは小ぶりながらも霧氷の森となっていた。
往路のトレースは風と降雪でかなり消えていた。しかし、天候は回復傾向のようで、少し明るくなってきた。
わずかながら青空も覗いている。振り返ると、野伏ヶ岳の山頂が一瞬見えた。
進行方向の視界は徐々に開け、和田山牧場跡や正面の大日ヶ岳、俵谷の下流方面が姿を現す。
往復とは言っても、登りとはまったく違う印象の風景を楽しむことができた。
中居神社へ戻ると、屋根に10センチばかりの新雪を載せた愛車が寒そうに待っていた。
【日 付】2020年2月24日(月)
【山 域】白山北方 三方岩岳
【天 候】快晴
【コース】トヨタ自然学校8:00---8:25馬狩料金所---10:00蓮如台上---11:30三角点横谷1586.3m---12:30三方岩岳
14:15---15:35蓮如台上---16:25トヨタ自然学校
昨日の天気はいったい何だったのかと思うような、抜けるような青い空が頭上に広がっていた。
白川郷のトヨタ自然学校前には数台の車が止まっていた。この時期には山スキーヤーで賑わう山だが、今年は少
ないようである。
除雪されていないホワイトロードの馬狩料金所への道はまだ除雪されていない。真新しいスキーとスノーシュー
のトレースを辿る。途中で道の左側から突然大人数のトレースが現れ、しばらくすると右の方へ消えて行った。
自然学校のスノーシュー体験ツアーのものだろう。
白谷の橋に立つと、谷の奥に純白の稜線が見えた。野谷荘司山方面の雪稜だ。白川村は昨日一日雪が降ってい
たのだろう。真っ白な衣装を纏った稜線は、神々しいばかりに朝の光を受けて輝いていた。
モチベーションを下げる要素は何もないはずなのに、昨日の疲労が残っているようで、心が浮き立つような気
持ちになれない。まっさらな雪面に自分のトレースを刻む喜びを味わいたいはずなのに、今日は先行者のトレー
スがありがたい。
こんな好条件の日に、どこまで頑張ってやめようかと考えている自分がいる。情けない話である。
それでも、ゆっくりながら一歩ずつ足を進めれば高度は稼げるものだ。背後で見守る猿ヶ馬場や籾糠山、端正
な三角錐が天を突く三ヶ辻山等の展望に励まされて、1586.3mの三角点に着いた。
ここまで来れば、三方岩岳まではわずかな標高差を残すのみだ。
その名の通り、三方を岩壁に護られた山頂は迫力がある。そこから馬狩荘司山を経て野谷荘司山へ続く稜線に
は大きな雪庇が張り出していた。野谷荘司山から大窪へ下る白谷右岸尾根は樹林がなく、たかだか1700mの山と
は思えない、鋭い刃物のような輝きを放つ雪稜が続いている。
白谷側の斜面は真っ白な雪の襞の陰影が美しく、吸い込まれるように見入ってしまった。
この高度まで上がると、ブナに代わってダケカンバとオオシラビソが森の主役になる。オオシラビソの葉先に
は小さなつららがぶら下がったり、氷の玉で飾られたりと、見ているだけでも面白い。
一旦下った鞍部から先は、無木立ちの雪面が続く。正面に聳える飛騨岩が来るものを拒むように立ちはだかっ
ている。ここから見る三方岩岳の山頂は、どこから取り付くのだろうと思わせる。
積雪期にここへ来るのは3度目である。しかし、前の2回はいずれもGWの残雪期。真冬に訪れるのは初めてだ。
ただでさえ雪の白さが違う上に、新雪のデコレーションで飾られた山は、以前とは比べ物にならないほど美しい。
加賀岩下のトラバースはトレースがきっちりと付けられていて、何の不安もない。この場所のためにアイゼン
とピッケルを用意して来たが、スノーシューとストックで十分だった。雪がカチカチになった残雪期の方が恐い
かもしれない。
トラバースを終えて、いよいよ山頂への最後の登り。背の低いオオシラビソを縫いながら頂稜に立った。
360度の展望が取り囲む。笈ヶ岳、大笠山、奈良岳、見越山、大門山、猿ヶ山、登りで見守ってくれた庄川右岸
の山々、三方崩山、そして白山。心躍る白い風景に包まれて、途中でやめなくて良かったと心底思った。
快晴、微風。岩の陰に腰を降ろす。すぐ脇は雪庇ギリギリのラインだ。ストックで雪面を突くと、スポッと突き
抜けて空間が見えた。
先行者はすでに下山して、レストラン三方岩は貸切である。昨日の雪と風の中、ツェルトを張って飲むビール
でも美味いと感じるのだから、このシチュエーションで飲むビールが美味くないはずがない。
予定では野谷荘司山へ周回するつもりだったが、もうここで十分だ。二日続けての往復コースになってしまった
が、たまにはこういうこともあるだろう。
下山はトレースのないところを選んでガンガン下る。午後の斜光線を受けて、白い山襞は登りの時とは違う表
情を見せてくれた。振り返れば逆光の下、一直線に延びる自分だけのトレースが愛おしく見えた。
山日和
【山 域】奥美濃 石徹白周辺
【天 候】曇り時々小雪
【コース】白山中居神社6:50---8:40越美国境稜線9:00---11:10小白山---12:00ランチ場13:30---15:00稜線分岐
---16:10白山中居神社
郡上地方の晴れの予報を信じて向かった石徹白だったが、夜には星が瞬いていた空から白いものが落ち続けて
いた。朝になっても明るさを取り戻さない、鉛色のどんよりとした空。どうにもモチベーションが上がらないが、
ここまで来たからには行くしかない。
新雪が既に15センチほど積もった林道へ入ると、和田山牧場跡への道を見送って、小白山東尾根への支尾根に
取り付いた。このあたりは植林主体の面白くない林相である。
尾根をそのまま進むとやや遠回りになるので、途中で谷の方へ入り、隣の尾根に乗り換える。
このルートを歩くのは11年ぶりだ。3回目だが、記憶があるような、ないような、なんとなく覚えているよう
な感じである。少し積もったとはいえ、やはり積雪は少なく、ヤブを埋めるにはほど遠い。例年なら雪の下に眠
っているはずの潅木をかき分けながらの登行となる。
杉山の北側で稜線に合流した。小白山東尾根は越美国境稜線でもある。合流点にはガスの中に怪異な姿の巨大
なヒノキが立ち並び、魔界に迷い込んだような印象を受ける。
ここから一旦下って登り返すのだが、鞍部のあたりの地形は実に複雑で面白い。尾根を進むか、浅い谷沿いに
ルートを延ばすか迷うところだ。結局、谷を選んでスノーブリッジを利用しながら進み、再び尾根に乗ると、こ
れまでとは林相が一変して、すっきりとしたブナ林が続いた。
今年は雪が少ないとは言っても、積雪は1mを超えただろうか。南側には小さな雪庇も現れ、小雪の舞うまった
く視界ののない国境稜線を、まるで修行のような登行が続く。
樹林が切れ、面白いことに今度は北側に雪庇ができた真っ白い尾根に、一歩一歩足跡を刻む。
顔を上げても何も見えないので、足元だけを見ながら、目の前から傾斜が消える瞬間を待った。
不意に、スノーシューを履いた足を上げる必要がなくなった。どうやら小白山北峰に着いたようだ。
この山頂は広く、ただでさえどこが山頂なのかわからないような場所なのだが、この状況では皆目見当がつかな
い。すぐそこに見えるはずの、三角点のある南峰もガスの中。行くだけ行ってみようかと、南峰へ向かって進み
だしたが、雪面と空間の境が判然としない。真っ白なガスと雪面を凝視していると、目がおかしくなってしまう。
右手の打波川側はスパッと切れ落ち、左手の俵谷側は通常なら雪庇が発達するか、崩壊してクレバスができてい
るかというところだ。自分の足元がやっと見えるという今の状況では、これ以上前進するのは危険だ。
第一、山頂に立つ意味がない。これまで快晴の山頂に3度立っているのだ。やめよう。
風が強く、ゆっくりとメシも食えないので、少し下ったところで食べることにする。
橋立峠への国境稜線を下り始めたつもりだったが、GPSを見ると福井県側の小尾根に乗っていた。危ない危ない。
登り返して再度確認するが、峠の方向は視界ゼロ。ここは安全策を取って、元来た道を辿る方が得策だ。
少し下った潅木の林でツェルトを張ってランチタイムとする。周りは小ぶりながらも霧氷の森となっていた。
往路のトレースは風と降雪でかなり消えていた。しかし、天候は回復傾向のようで、少し明るくなってきた。
わずかながら青空も覗いている。振り返ると、野伏ヶ岳の山頂が一瞬見えた。
進行方向の視界は徐々に開け、和田山牧場跡や正面の大日ヶ岳、俵谷の下流方面が姿を現す。
往復とは言っても、登りとはまったく違う印象の風景を楽しむことができた。
中居神社へ戻ると、屋根に10センチばかりの新雪を載せた愛車が寒そうに待っていた。
【日 付】2020年2月24日(月)
【山 域】白山北方 三方岩岳
【天 候】快晴
【コース】トヨタ自然学校8:00---8:25馬狩料金所---10:00蓮如台上---11:30三角点横谷1586.3m---12:30三方岩岳
14:15---15:35蓮如台上---16:25トヨタ自然学校
昨日の天気はいったい何だったのかと思うような、抜けるような青い空が頭上に広がっていた。
白川郷のトヨタ自然学校前には数台の車が止まっていた。この時期には山スキーヤーで賑わう山だが、今年は少
ないようである。
除雪されていないホワイトロードの馬狩料金所への道はまだ除雪されていない。真新しいスキーとスノーシュー
のトレースを辿る。途中で道の左側から突然大人数のトレースが現れ、しばらくすると右の方へ消えて行った。
自然学校のスノーシュー体験ツアーのものだろう。
白谷の橋に立つと、谷の奥に純白の稜線が見えた。野谷荘司山方面の雪稜だ。白川村は昨日一日雪が降ってい
たのだろう。真っ白な衣装を纏った稜線は、神々しいばかりに朝の光を受けて輝いていた。
モチベーションを下げる要素は何もないはずなのに、昨日の疲労が残っているようで、心が浮き立つような気
持ちになれない。まっさらな雪面に自分のトレースを刻む喜びを味わいたいはずなのに、今日は先行者のトレー
スがありがたい。
こんな好条件の日に、どこまで頑張ってやめようかと考えている自分がいる。情けない話である。
それでも、ゆっくりながら一歩ずつ足を進めれば高度は稼げるものだ。背後で見守る猿ヶ馬場や籾糠山、端正
な三角錐が天を突く三ヶ辻山等の展望に励まされて、1586.3mの三角点に着いた。
ここまで来れば、三方岩岳まではわずかな標高差を残すのみだ。
その名の通り、三方を岩壁に護られた山頂は迫力がある。そこから馬狩荘司山を経て野谷荘司山へ続く稜線に
は大きな雪庇が張り出していた。野谷荘司山から大窪へ下る白谷右岸尾根は樹林がなく、たかだか1700mの山と
は思えない、鋭い刃物のような輝きを放つ雪稜が続いている。
白谷側の斜面は真っ白な雪の襞の陰影が美しく、吸い込まれるように見入ってしまった。
この高度まで上がると、ブナに代わってダケカンバとオオシラビソが森の主役になる。オオシラビソの葉先に
は小さなつららがぶら下がったり、氷の玉で飾られたりと、見ているだけでも面白い。
一旦下った鞍部から先は、無木立ちの雪面が続く。正面に聳える飛騨岩が来るものを拒むように立ちはだかっ
ている。ここから見る三方岩岳の山頂は、どこから取り付くのだろうと思わせる。
積雪期にここへ来るのは3度目である。しかし、前の2回はいずれもGWの残雪期。真冬に訪れるのは初めてだ。
ただでさえ雪の白さが違う上に、新雪のデコレーションで飾られた山は、以前とは比べ物にならないほど美しい。
加賀岩下のトラバースはトレースがきっちりと付けられていて、何の不安もない。この場所のためにアイゼン
とピッケルを用意して来たが、スノーシューとストックで十分だった。雪がカチカチになった残雪期の方が恐い
かもしれない。
トラバースを終えて、いよいよ山頂への最後の登り。背の低いオオシラビソを縫いながら頂稜に立った。
360度の展望が取り囲む。笈ヶ岳、大笠山、奈良岳、見越山、大門山、猿ヶ山、登りで見守ってくれた庄川右岸
の山々、三方崩山、そして白山。心躍る白い風景に包まれて、途中でやめなくて良かったと心底思った。
快晴、微風。岩の陰に腰を降ろす。すぐ脇は雪庇ギリギリのラインだ。ストックで雪面を突くと、スポッと突き
抜けて空間が見えた。
先行者はすでに下山して、レストラン三方岩は貸切である。昨日の雪と風の中、ツェルトを張って飲むビール
でも美味いと感じるのだから、このシチュエーションで飲むビールが美味くないはずがない。
予定では野谷荘司山へ周回するつもりだったが、もうここで十分だ。二日続けての往復コースになってしまった
が、たまにはこういうこともあるだろう。
下山はトレースのないところを選んでガンガン下る。午後の斜光線を受けて、白い山襞は登りの時とは違う表
情を見せてくれた。振り返れば逆光の下、一直線に延びる自分だけのトレースが愛おしく見えた。
山日和