【奥越】大納越戸谷から秘密の池へ
Posted: 2019年9月10日(火) 21:37
【日 付】2019年9月7日(土)
【山 域】奥越 九頭竜湖左岸域
【天 候】晴れ
【コース】下大納7:10---8:05越戸谷林道終点---12:00夫婦池13:50---14:25越戸谷山---15:35林道---16:35下大納
下大納(しもおおの)は福井県旧和泉村(現在は大野市)の九頭竜ダムにほど近い山中の集落である。
九頭竜川支流の大納川上流には、かつて中竜鉱山という大規模な鉱山があったが、廃鉱になった後アドベンチャ
ーランド中竜というレジャー施設として利用されていた。今ではそれも閉鎖されて、下大納、上大納というふた
つの集落がひっそりと佇んでいる。
このあたりの山には登山道がないので、登るためには積雪期か沢登りかを選択することになる。(敢えてヤブ
を漕ぎたい人は別だが)
積雪期であれば堂ヶ辻山、岩谷山、御伊勢山など、雪のない時は風采の上がらないヤブ山が実に魅力的な雪山に
変身する。沢からのコースは、谷中を歩いている時はともかく、ツメと尾根上は基本的にヤブが待っている。
今回選んだのは越戸谷山(おっとだにやま)。地形図にも谷名のある大納越戸谷を遡行して行くのだが、三角点
があるわけでもなく、もちろん展望が期待されるはずもないこの山を選んだ最大の目的は、山中、正確には谷の
中にある夫婦池という池の存在である。山稜上の池というのはありがちだが、谷の中の池は珍しいのではないだ
ろうか。なお、地形図に記載されている尾根上の池記号は誤りだ。
地形図に記載のない林道を終点まで歩く。ヤブを抜けて谷へ下りるが、平凡を絵に描いたような渓相だ。
今日の目的は池だと割り切って、期待せずに歩くとするか。
ところがしばらく進むと急に空気が変わった。右岸は植林が入っているものの、トチやサワグルミの大木が残
され、谷は苔むした岩と赤っぽい岩床が微妙な落差を作って穏やかに流れている。まるで日本庭園のような様式美
を感じさせる美しい風景がそこにあった。
さらに歩を進めると、いよいよという感じで滝の出迎えを受ける。この谷は傾斜の緩い斜瀑が多く、ぬめりに
注意すれば直登を楽しめるところが多い。
きれいな2段10m滝は登れないこともなさそうだが、上の方が微妙な感じなので自重して右岸のヤブ斜面を上が
り、滝身に向かってトラバース。ドンピシャで落ち口に出る。
谷が右折するところに落ちる10mの直瀑は右の急斜面を巻き上がった。この谷の草付きはいつものようにズル
ズルではなく、チェーンスパイクを履かなくても足場が安定するので助かる。
水量が少なくなってきた。池はどのあたりで現れるのだろうか。
伏流なのか、谷はすっかり水が切れてしまった。支谷の分岐に注意しながら歩いていたつもりだったが、谷の大
きさにつられて越戸谷山へ直登する沢へ入ってしまっていたのに気付いて引き返す。あたりはブナ主体の深い森
に変わっている。目指す本流は傾斜も急で、この先に池のあるような地形が待っているとは想像もできない。
傾斜が緩むと突然ピンクのテープが現われた。越戸谷山から池への踏み跡を示すマーキングのようだ。
テープに従ってブナの森を進むと、池はそこに、あった。
渇水気味で水の色は褐色。お世辞にもきれいな池とは言えないが、雰囲気は非常にいい。
これで水をたっぷりと湛えていれば素晴らしいだろう。まわりは落葉広葉樹の森なので、紅葉や新緑の時期は見
事な景色を見せてくれるに違いない。
一見ひとつに見える池は真ん中で分かれている。これが夫婦池、あるいはメガネ池と呼ばれる所以だろう。水量
が多い時にはひとつの池になることもあるらしい。
水の干上がった岸辺はヌタ場のような湿地に無数の動物の足跡が付けられている。人間にとってもパラダイスの
ようなここは、動物の楽園にもなっているのかもしれない。
のんびりとランチタイムを楽しんだ後は、先ほどのテープを辿って越戸谷山の山頂を目指す。
小尾根を巻くように付けられた道はしっかり刈り開かれており、脇のヤブを見るとこの道がなければ通行困難だ
ろうということが容易に想像できる。
主尾根に出ると日当たりのせいか、ヤブが勢いを増して道がわかりにくくなった。
越戸谷山の山頂はまったく特徴のない平坦なブナ林の中。林床は笹ヤブで腰を降ろせる場所もない。
これだけ下生えのあるブナ林は最近あまりお目にかかっていないので新鮮だ。
いつも下生えのないスッキリしたブナ林を楽しんでいるのだが、これが本来のブナの極相林の姿なのだろう。
下山は北西に伸びる尾根を伝ってワサ谷の林道の支線に出る。下り出しは尾根の形が定まらず、背丈を超すよ
うなササの中では方向を特定しにくいのだが、うるさいほど付けられたピンクのテープが進むべき方向を示して
くれた。
尾根が形をはっきりさせると下生えがなくなり、登山道レベルと言ってもいい道となった。
と同時に件のテープがまったく姿を消した。なるほど、迷いようのないところでは付けず、方向の定まらないと
ころでは頻繁に付けるというわけだ。やみくもにテープを付けたがるマニアの仕事ではないと見てとれた。
この尾根のブナ林は実に素晴らしく、このブナ林を歩くだけでもこの山に登る価値があると思わせる。
もうすぐ林道というところで道を外してしまったのか、植林の中のヤブに突っ込んでしまったが、ほどなく廃道
寸前の林道に飛び出した。最後に画竜点睛を欠いたという感じである。
ここからは長い林道歩きだが、眼下を流れるワサ谷の瀬音を聞きながら、印象深い風景の連続だった今日の山を
反芻するにはちょうどいいエピローグだろう。
山日和
【山 域】奥越 九頭竜湖左岸域
【天 候】晴れ
【コース】下大納7:10---8:05越戸谷林道終点---12:00夫婦池13:50---14:25越戸谷山---15:35林道---16:35下大納
下大納(しもおおの)は福井県旧和泉村(現在は大野市)の九頭竜ダムにほど近い山中の集落である。
九頭竜川支流の大納川上流には、かつて中竜鉱山という大規模な鉱山があったが、廃鉱になった後アドベンチャ
ーランド中竜というレジャー施設として利用されていた。今ではそれも閉鎖されて、下大納、上大納というふた
つの集落がひっそりと佇んでいる。
このあたりの山には登山道がないので、登るためには積雪期か沢登りかを選択することになる。(敢えてヤブ
を漕ぎたい人は別だが)
積雪期であれば堂ヶ辻山、岩谷山、御伊勢山など、雪のない時は風采の上がらないヤブ山が実に魅力的な雪山に
変身する。沢からのコースは、谷中を歩いている時はともかく、ツメと尾根上は基本的にヤブが待っている。
今回選んだのは越戸谷山(おっとだにやま)。地形図にも谷名のある大納越戸谷を遡行して行くのだが、三角点
があるわけでもなく、もちろん展望が期待されるはずもないこの山を選んだ最大の目的は、山中、正確には谷の
中にある夫婦池という池の存在である。山稜上の池というのはありがちだが、谷の中の池は珍しいのではないだ
ろうか。なお、地形図に記載されている尾根上の池記号は誤りだ。
地形図に記載のない林道を終点まで歩く。ヤブを抜けて谷へ下りるが、平凡を絵に描いたような渓相だ。
今日の目的は池だと割り切って、期待せずに歩くとするか。
ところがしばらく進むと急に空気が変わった。右岸は植林が入っているものの、トチやサワグルミの大木が残
され、谷は苔むした岩と赤っぽい岩床が微妙な落差を作って穏やかに流れている。まるで日本庭園のような様式美
を感じさせる美しい風景がそこにあった。
さらに歩を進めると、いよいよという感じで滝の出迎えを受ける。この谷は傾斜の緩い斜瀑が多く、ぬめりに
注意すれば直登を楽しめるところが多い。
きれいな2段10m滝は登れないこともなさそうだが、上の方が微妙な感じなので自重して右岸のヤブ斜面を上が
り、滝身に向かってトラバース。ドンピシャで落ち口に出る。
谷が右折するところに落ちる10mの直瀑は右の急斜面を巻き上がった。この谷の草付きはいつものようにズル
ズルではなく、チェーンスパイクを履かなくても足場が安定するので助かる。
水量が少なくなってきた。池はどのあたりで現れるのだろうか。
伏流なのか、谷はすっかり水が切れてしまった。支谷の分岐に注意しながら歩いていたつもりだったが、谷の大
きさにつられて越戸谷山へ直登する沢へ入ってしまっていたのに気付いて引き返す。あたりはブナ主体の深い森
に変わっている。目指す本流は傾斜も急で、この先に池のあるような地形が待っているとは想像もできない。
傾斜が緩むと突然ピンクのテープが現われた。越戸谷山から池への踏み跡を示すマーキングのようだ。
テープに従ってブナの森を進むと、池はそこに、あった。
渇水気味で水の色は褐色。お世辞にもきれいな池とは言えないが、雰囲気は非常にいい。
これで水をたっぷりと湛えていれば素晴らしいだろう。まわりは落葉広葉樹の森なので、紅葉や新緑の時期は見
事な景色を見せてくれるに違いない。
一見ひとつに見える池は真ん中で分かれている。これが夫婦池、あるいはメガネ池と呼ばれる所以だろう。水量
が多い時にはひとつの池になることもあるらしい。
水の干上がった岸辺はヌタ場のような湿地に無数の動物の足跡が付けられている。人間にとってもパラダイスの
ようなここは、動物の楽園にもなっているのかもしれない。
のんびりとランチタイムを楽しんだ後は、先ほどのテープを辿って越戸谷山の山頂を目指す。
小尾根を巻くように付けられた道はしっかり刈り開かれており、脇のヤブを見るとこの道がなければ通行困難だ
ろうということが容易に想像できる。
主尾根に出ると日当たりのせいか、ヤブが勢いを増して道がわかりにくくなった。
越戸谷山の山頂はまったく特徴のない平坦なブナ林の中。林床は笹ヤブで腰を降ろせる場所もない。
これだけ下生えのあるブナ林は最近あまりお目にかかっていないので新鮮だ。
いつも下生えのないスッキリしたブナ林を楽しんでいるのだが、これが本来のブナの極相林の姿なのだろう。
下山は北西に伸びる尾根を伝ってワサ谷の林道の支線に出る。下り出しは尾根の形が定まらず、背丈を超すよ
うなササの中では方向を特定しにくいのだが、うるさいほど付けられたピンクのテープが進むべき方向を示して
くれた。
尾根が形をはっきりさせると下生えがなくなり、登山道レベルと言ってもいい道となった。
と同時に件のテープがまったく姿を消した。なるほど、迷いようのないところでは付けず、方向の定まらないと
ころでは頻繁に付けるというわけだ。やみくもにテープを付けたがるマニアの仕事ではないと見てとれた。
この尾根のブナ林は実に素晴らしく、このブナ林を歩くだけでもこの山に登る価値があると思わせる。
もうすぐ林道というところで道を外してしまったのか、植林の中のヤブに突っ込んでしまったが、ほどなく廃道
寸前の林道に飛び出した。最後に画竜点睛を欠いたという感じである。
ここからは長い林道歩きだが、眼下を流れるワサ谷の瀬音を聞きながら、印象深い風景の連続だった今日の山を
反芻するにはちょうどいいエピローグだろう。
山日和