【鈴鹿】登谷からボロボロの尾根をイハイガ岳へ
Posted: 2019年6月24日(月) 20:04
【日 付】2019年6月22日(土)
【山 域】鈴鹿中部 イハイガ岳周辺
【天 候】曇りのち晴れ
【メンバー】sato、山日和
【コース】割谷橋8:40---10:05ゴルジュ入口---12:30イハイガ岳北コル---13:00イハイガ岳14:35---15:30向山---17:05駐車地
甲津畑の先で出発の準備をしていると、不意打ちのように雨が降り始めた。話が違うぞ。
思わず顔を見合わせて笑ってしまうような土砂降りに、車の中で10分ほど息をひそめているとやがて雨は
上がった。今のはいったい何だったのだろう。
本日の沢は鈴鹿でもほとんど記録の見られない甲津畑の奥、和南川の上流に位置する登谷である。
メジャーな山域において記録が少ないというのはあまり面白くないということの裏返しだ。16年前に一度
遡行したことがあるが、最初の滝と源頭の崩壊地以外ほとんど記憶にないのがその証拠と言えるだろう。
しかしそんな悪印象はなかったはずなので、もう一度確かめてみよう。
入口の橋には割谷橋と刻まれたプレートがある。実は登谷ではなく割谷なのか。
登谷の出典は「鈴鹿の山と谷」だが、その真相はわからない。
平凡な河原を歩いて古びた堰堤を巻くと下からいい道が続いていた。前回はどうだったのかまったく覚
えていない。黒い送水管が谷沿いに延び、最初の滝の上が取水口になっていたことだけは鮮明に覚えてい
る。この滝は胸のあたりまで水に浸かれば取り付けそうだったが、水が冷たいのであっさりと巻いた。
今日もヒザ上程度までにしておこう。
靴にヒルならぬ体長1センチにも満たないような小さなカエルが張り付いているのに気が付いて微笑んでし
まった。今日は絶好のヒル日和のようだ。チェックを怠らずにできるだけ献血を避けたいものである。
この谷は黒い水成岩なので、日が当たらないと暗い印象が強い。それに加えて下部は常緑樹林なのでな
おさらである。これが花崗岩の谷なら少々天気が悪くても気分的に明るくなるのだが。それでも記憶の彼
方に飛んでしまっていた渓相はそれほど悪くない。意外に美しいナメが多く、滝の少なさを補ってくれる。
左岸からきれいな滝の落ちる支流の出合で休憩。本流は両岸が切り立ってゴルジュの様相を呈してきた。
深く刻まれた谷の奥には右から小滝が落ちているのが見える。真夏なら全身水に浸かってチャレンジした
いところだ。右から巻き上がるが、谷へ復帰する下りが少し嫌らしく、スリングを繋いでずり下りた。
その先にもゴルジュの突き当りに5mほどの滝が落ちている。右岸をへつって滝の前まで行ってみるが
取り付く島もない。ゴルジュの入口まで戻ってルートを探る。
左のバンドが行けそうにも見えたが、あまりにもホールドが乏しそうでリスクが高い。
チェーンスパイクを履いて右岸の斜面を嫌らしいトラバースで上がると、なんとはっきりした踏み跡が現
われた。これを利用して滝上へ。落ち口から下を見てみると、バンドから上がってくるところはホールド
の無さそうなツルツルの岩だった。無理をしなくて正解だ。
どうやら登谷の核心部は終了したようで、一転してやさしい渓相へと変わった。
谷の両側には小広い台地が点在し、炭焼窯跡や作業小屋があったような跡も見える。さっきの道はここへ
通じる仕事道だったのだろう。鈴鹿の多くの(特に滋賀県側の)谷ではどこまで遡ってもこういう山仕事の
痕跡を見ることができる。炭を担いで険しい谷沿いの道を歩くのも大変だっただろう。
最後の二俣を左に取るといよいよ源頭である。地形図でみればわかるように、この谷の源頭部は崩壊地
記号が取り巻いている。実際に目にする風景は鈴鹿離れしたもので、崩壊壁の上に残る岩塔を見ていると、
アルブスの沢の源頭部と勘違いしそうだ。谷の右側は黒い砂礫、左側は赤茶けた岩と、谷を挟んではっき
り分かれているのが面白い。
ツルベ谷へ乗り越す鞍部までは簡単に辿り着いた。問題はここからだ。
イハイガ岳と向山を結ぶこの尾根は何回か歩いたことがある。しかし前に歩いてから10年以上は経ってい
る。その時でも尾根筋の崩壊が進んでかなり際どい状態になっていた記憶がある。あの時よりさらに悪く
なっているはずだ。
砂礫の中に点々と咲く名も知らぬ黄色い花が、まるでアルブスの高山植物のようで愛らしい。
そんな眺めとは裏腹にこれから進む尾根は険悪な表情を見せていた。掴んだら剥がれる脆い岩をだましだ
まし押え込み、足元はチェーンスパイクの爪を効かせて崩れないように忍び足でじりじりと進む。
とにかく岩がボロボロで、思い切って体重をかけることは不可能。足を滑らせればサヨナラである。
穂高のジャンダルムの岩稜の方がよほど安全だと言えるだろう。なんとか安全地帯まで辿り着いて大きく
息を吐いた。緊張で口がカラカラだ。satoさんも確実な足取りでこの難関を切り抜けてくれた。頼もしい
限りである。イハイガ岳の山頂はすぐ上だ。
沢装束を解いているとスパッツの中のズボンが血に染まっている。しかも両足ともだ。やはりこの付近
はヒルの巣窟。無傷で済むとも思っていなかったが、4か所献血してしまった。
satoも3か所やられたようだが気にする風でもない。夏に鈴鹿へ行く以上はこれもご愛敬である。
ここからは綿向山が指呼の間で、山頂に多くの人影が見える。東には雨乞岳からタイジョウへの稜線が
長く横たわる。谷の源頭に差し掛かったあたりから晴れ間が出てきて、それなりに眺望を楽しむことがで
きたのが幸いだ。
向山を経て登谷の右岸尾根を下りるためには先ほどの鞍部まで戻らなければならない。
登ってきたルートをそのまま戻るのはご免蒙りたいと言うより不可能である。
樹林帯の安全地帯から少しシビアなトラバースで戻って、右手の小尾根に入ったところで一旦谷に下りる
ことにした。谷底から10mほど上がれば先ほどの鞍部。最低限の労力で済んだ。
鞍部の北側斜面から見た核心部はとても登れそうに見えない。先にここから眺めていたら取付くのをやめ
ていただろう。
Ca930mの向山を経て北へ伸びる尾根は、典型的な鈴鹿の尾根と言った感じで、平凡だが悪くはないと
いう印象だ。多少ヤブで不明瞭なところがあるものの、概ね歩きやすい尾根と言えるだろう。
向山手前のコルのあたりは洞吹さんやSHIGEKIさんもお気に入りの場所。
久し振りに訪れてみると、それほどでもないと感じたのは感覚のハードルが上がっているせいだろうか。
Ca770mの尾根がやたら広がったところでは直進せずに、右側の尾根に乗り換える必要があることは学
習済だ。ひのあたりから林相は杉の植林に変わるが、よく手入れされていて明るいのが救いである。
最後は2番目の鉄塔の先から巡視路を下ると堰堤上の河原へ難なく着地した。
今日はこれからパナスタへ出陣だ。温泉でさっぱりしてからスタジアム入りするつもりだったが下山が遅
くなってしまった。キックオフにギリギリ間に合うだろうか。
山日和
【山 域】鈴鹿中部 イハイガ岳周辺
【天 候】曇りのち晴れ
【メンバー】sato、山日和
【コース】割谷橋8:40---10:05ゴルジュ入口---12:30イハイガ岳北コル---13:00イハイガ岳14:35---15:30向山---17:05駐車地
甲津畑の先で出発の準備をしていると、不意打ちのように雨が降り始めた。話が違うぞ。
思わず顔を見合わせて笑ってしまうような土砂降りに、車の中で10分ほど息をひそめているとやがて雨は
上がった。今のはいったい何だったのだろう。
本日の沢は鈴鹿でもほとんど記録の見られない甲津畑の奥、和南川の上流に位置する登谷である。
メジャーな山域において記録が少ないというのはあまり面白くないということの裏返しだ。16年前に一度
遡行したことがあるが、最初の滝と源頭の崩壊地以外ほとんど記憶にないのがその証拠と言えるだろう。
しかしそんな悪印象はなかったはずなので、もう一度確かめてみよう。
入口の橋には割谷橋と刻まれたプレートがある。実は登谷ではなく割谷なのか。
登谷の出典は「鈴鹿の山と谷」だが、その真相はわからない。
平凡な河原を歩いて古びた堰堤を巻くと下からいい道が続いていた。前回はどうだったのかまったく覚
えていない。黒い送水管が谷沿いに延び、最初の滝の上が取水口になっていたことだけは鮮明に覚えてい
る。この滝は胸のあたりまで水に浸かれば取り付けそうだったが、水が冷たいのであっさりと巻いた。
今日もヒザ上程度までにしておこう。
靴にヒルならぬ体長1センチにも満たないような小さなカエルが張り付いているのに気が付いて微笑んでし
まった。今日は絶好のヒル日和のようだ。チェックを怠らずにできるだけ献血を避けたいものである。
この谷は黒い水成岩なので、日が当たらないと暗い印象が強い。それに加えて下部は常緑樹林なのでな
おさらである。これが花崗岩の谷なら少々天気が悪くても気分的に明るくなるのだが。それでも記憶の彼
方に飛んでしまっていた渓相はそれほど悪くない。意外に美しいナメが多く、滝の少なさを補ってくれる。
左岸からきれいな滝の落ちる支流の出合で休憩。本流は両岸が切り立ってゴルジュの様相を呈してきた。
深く刻まれた谷の奥には右から小滝が落ちているのが見える。真夏なら全身水に浸かってチャレンジした
いところだ。右から巻き上がるが、谷へ復帰する下りが少し嫌らしく、スリングを繋いでずり下りた。
その先にもゴルジュの突き当りに5mほどの滝が落ちている。右岸をへつって滝の前まで行ってみるが
取り付く島もない。ゴルジュの入口まで戻ってルートを探る。
左のバンドが行けそうにも見えたが、あまりにもホールドが乏しそうでリスクが高い。
チェーンスパイクを履いて右岸の斜面を嫌らしいトラバースで上がると、なんとはっきりした踏み跡が現
われた。これを利用して滝上へ。落ち口から下を見てみると、バンドから上がってくるところはホールド
の無さそうなツルツルの岩だった。無理をしなくて正解だ。
どうやら登谷の核心部は終了したようで、一転してやさしい渓相へと変わった。
谷の両側には小広い台地が点在し、炭焼窯跡や作業小屋があったような跡も見える。さっきの道はここへ
通じる仕事道だったのだろう。鈴鹿の多くの(特に滋賀県側の)谷ではどこまで遡ってもこういう山仕事の
痕跡を見ることができる。炭を担いで険しい谷沿いの道を歩くのも大変だっただろう。
最後の二俣を左に取るといよいよ源頭である。地形図でみればわかるように、この谷の源頭部は崩壊地
記号が取り巻いている。実際に目にする風景は鈴鹿離れしたもので、崩壊壁の上に残る岩塔を見ていると、
アルブスの沢の源頭部と勘違いしそうだ。谷の右側は黒い砂礫、左側は赤茶けた岩と、谷を挟んではっき
り分かれているのが面白い。
ツルベ谷へ乗り越す鞍部までは簡単に辿り着いた。問題はここからだ。
イハイガ岳と向山を結ぶこの尾根は何回か歩いたことがある。しかし前に歩いてから10年以上は経ってい
る。その時でも尾根筋の崩壊が進んでかなり際どい状態になっていた記憶がある。あの時よりさらに悪く
なっているはずだ。
砂礫の中に点々と咲く名も知らぬ黄色い花が、まるでアルブスの高山植物のようで愛らしい。
そんな眺めとは裏腹にこれから進む尾根は険悪な表情を見せていた。掴んだら剥がれる脆い岩をだましだ
まし押え込み、足元はチェーンスパイクの爪を効かせて崩れないように忍び足でじりじりと進む。
とにかく岩がボロボロで、思い切って体重をかけることは不可能。足を滑らせればサヨナラである。
穂高のジャンダルムの岩稜の方がよほど安全だと言えるだろう。なんとか安全地帯まで辿り着いて大きく
息を吐いた。緊張で口がカラカラだ。satoさんも確実な足取りでこの難関を切り抜けてくれた。頼もしい
限りである。イハイガ岳の山頂はすぐ上だ。
沢装束を解いているとスパッツの中のズボンが血に染まっている。しかも両足ともだ。やはりこの付近
はヒルの巣窟。無傷で済むとも思っていなかったが、4か所献血してしまった。
satoも3か所やられたようだが気にする風でもない。夏に鈴鹿へ行く以上はこれもご愛敬である。
ここからは綿向山が指呼の間で、山頂に多くの人影が見える。東には雨乞岳からタイジョウへの稜線が
長く横たわる。谷の源頭に差し掛かったあたりから晴れ間が出てきて、それなりに眺望を楽しむことがで
きたのが幸いだ。
向山を経て登谷の右岸尾根を下りるためには先ほどの鞍部まで戻らなければならない。
登ってきたルートをそのまま戻るのはご免蒙りたいと言うより不可能である。
樹林帯の安全地帯から少しシビアなトラバースで戻って、右手の小尾根に入ったところで一旦谷に下りる
ことにした。谷底から10mほど上がれば先ほどの鞍部。最低限の労力で済んだ。
鞍部の北側斜面から見た核心部はとても登れそうに見えない。先にここから眺めていたら取付くのをやめ
ていただろう。
Ca930mの向山を経て北へ伸びる尾根は、典型的な鈴鹿の尾根と言った感じで、平凡だが悪くはないと
いう印象だ。多少ヤブで不明瞭なところがあるものの、概ね歩きやすい尾根と言えるだろう。
向山手前のコルのあたりは洞吹さんやSHIGEKIさんもお気に入りの場所。
久し振りに訪れてみると、それほどでもないと感じたのは感覚のハードルが上がっているせいだろうか。
Ca770mの尾根がやたら広がったところでは直進せずに、右側の尾根に乗り換える必要があることは学
習済だ。ひのあたりから林相は杉の植林に変わるが、よく手入れされていて明るいのが救いである。
最後は2番目の鉄塔の先から巡視路を下ると堰堤上の河原へ難なく着地した。
今日はこれからパナスタへ出陣だ。温泉でさっぱりしてからスタジアム入りするつもりだったが下山が遅
くなってしまった。キックオフにギリギリ間に合うだろうか。
山日和