【鈴鹿】幽玄の谷尻谷からクラシ北尾根へ
Posted: 2019年5月20日(月) 21:08
【日 付】2019年5月19日(日)
【山 域】鈴鹿中部 クラシ周辺
【天 候】曇り時々雨
【メンバー】sato、山日和
【コース】朝明7:15---8:35大瀞---9:25お金明神---9:45コリカキ場---12:00大滝上ランチ場13:30---13:50クラシ西峰
---14:40ワサビ峠---15:20神崎川本流---16:30根ノ平峠---17:10朝明
早朝の朝明駐車場には強い風が吹いていた。この分だと稜線上は猛烈な風に苛まれそうだ。
気温はさほど低くないのだが風が冷たいのでウインドブレーカーを着て歩き出した。今日は暑いと見込んで半袖
のシャツを選んだのだ。
この日は出版記念会の会場を提供してくれた小松さんを若狭の山に案内する予定だったが、都合がつかなくなり
急遽satoさんとの二人旅となった。
通いなれた中峠を越えて下水晶谷を下る道は、昨夜の雨のおかげでみずみずしい新緑が目に眩しい。
ゆうべは結構降ったのだが、神崎川本流の渡渉点はまったく増水していないどころか普段以下の水量。簡単に石
を飛んで渡ることができた。どんよりとした空の下、残念ながら大瀞の美しい碧色の水は鈍く沈み込むような色
だった。
そのうち晴れてくるだろうと期待した空から雨粒が落ち始めた。雨具を着込む。この後も降ったり止んだり少
し晴れ間が覗いてはすぐに雲に覆われたりと、天候の変化が忙しい日だった。
お金谷からお金明神へ向かう。初めてここを訪れた時は標識もなく、薄い踏み跡を辿って鼻のない天狗のよう
な大岩を探したものの見つけることができなかった。今は道標完備で道も明瞭。迷うことなくお金明神へ導いて
くれるのである。
これは鈴鹿全般に言えることだが、かつてバリハイ(バリエーションハイキング)ルートと呼ばれた好き者だけが
辿った踏み跡が、今では登山道レベルの道になり、標識まで付けられているところが増えた。これは喜ぶべきか
嘆くべきか。
参拝の後はお金峠から谷尻谷へ下る。北谷尻谷と上谷尻谷の二俣がコリカキ場と呼ばれている。
滋賀県側の佐目の人々が谷を遡り、峠を越えてここにたどり着いて参拝前に身を清めた場所なのだろう。
この一帯は鈴鹿を代表する二次林という言葉が最も良く表現された場所である。広大な河岸台地の中をほとんど
勾配もなくゆったりと流れる上谷尻谷の流れは、癒しの谷ということば以外に言い表すのが難しい。
かつては大規模な鉱山があったこの谷には、今でもその当時の遺物が散見される。トロッコのレールや土管、
割れた茶碗や一升瓶など。しかし訪れるたびにその数が減っているような気がする。以前はトロッコの車輪など
もあったはずなのだが。
ここでは期待していなかったヤマシャクヤクもわずかながら見られた。
河岸台地の端の高いところに水流の痕跡を見つけて、こんなところまで増水したのかと優しげな表情の奥に隠さ
れた自然の恐ろしさを想う。
広い谷も終わり、両岸が迫った谷らしい谷になったが登山靴でも歩くのに不自由しない。
谷が90度左折したところに唐突に現れるのが谷尻谷最大の大滝である。これまでほとんど落差のなかったところ
に突然目にするこの滝は、遡行する人を驚かせるのに十分だろう。
優美に流れ落ちる滝の高さは30mほどだろうか。いつものように滝身の左の小ルンゼに取り付き、途中から滝身
に寄って立ち木を拾いながら登るが高度感がある。立ち木もやや乏しいので、足元のチェーンスパイクのグリッ
プが頼もしい。今や高巻きとトラバースの必需品になった感がある。
satoさんも軽い身のこなしで危なげなく登ってきた。彼女は一昨年沢で滑落して足を骨折し、懸命にリハビリし
ながらようやく不安なく登れるようになったということだ。
大滝の落ち口に立てば、上流は再び優しい渓相に戻った。源頭に近い分相応の傾斜はあるものの、林相は広葉
樹オンリーとなり、下流の杉混じりの森と比べて格段に明るいのがいい。
こんなところにまでと驚かされるのが炭焼窯跡だ。ここで炭を焼いてどこまで運んだのだろうか。小さな二俣
の手前に残された窯跡は素晴らしいロケーションで、日本の炭焼窯跡100選に選びたいぐらいである。
水が切れる前にランチタイムとしよう。場所としては満足ではないが、そう悪くはない。
satoさんが支谷の上方に自然のものとは思えない穴を二つ見つけた。何度も来ているのに気付かなかった。坑口
のようにも見えるが、平坦部の鉱山からずいぶん離れているし、あの大滝を越えて来るのは大変だ。食後に探索
してみると、穴は1mほどの深さしかなかった。試掘した痕だったのだろうか。
一人で歩いていると見逃していたものがたくさんあるのかもしれない。
クラシの山頂部までわずかな標高差を残すのみだが、やはりビールを飲んだ後の登りは足が重い。
この谷の源頭部の風景は独特のものがある。今までのトチやサワグルミに代わってブナが主役となるのだが、そ
の先に見える山頂部には樹林がない。谷筋はよく掘り込まれた古道のように山上台地へ吸い込まれて行く。その
道に風に吹かれて落ちたヤマツツジの花びらが散り敷かれて美しい。
山上台地は予想通りの烈風が吹き荒れていた。立っていてもよろめいてしまうほどの風だ。かつては背丈を超
す笹原だったここも、一面に苔の絨毯が敷き詰められた見晴らしのいい場所になった。
すぐに退散してクラシ北尾根に入る。この尾根の上部のブナ林はなかなかいい。太い木はないものの、尾根上と
東斜面に広がるブナの森はあたりに漂うガスの間から浮かび上がって、幽玄とも言える雰囲気を醸し出している。
鈴鹿を代表するバリ尾根だったクラシ北尾根も登山道レベルの道になってしまった。
とは言え、クラジャン(クラシのジャンダルム)と呼ばれるピークを始めとする急なアップダウンと切れ落ちた尾
根は気が抜けない。その尾根に彩りを添えてくれたのがシャクナゲだ。今年は裏年という話だが、結構見事な花
付きで目を楽しませてくれている。
イワカガミの可憐な花も満開で、バリ尾根を歩く楽しみにもうひとつの楽しみを与えてくれた。
ワサビ峠からオゾ谷を下って、神崎川沿いの道をタケ谷出合へ。少し寄り道してヤマシャク群生地を見に行っ
たが空振りに終わってしまった。
川の対岸には来週のオフ会の開催地である「鈴鹿の上高地」が見えている。今回はどれぐらいのメンバーが集ま
ってくれるだろうか。ここを訪れたことのないsatoさんの要望で、あえて会場には寄らず根ノ平峠へ向かった。
初めての鈴鹿の上高地は当日の楽しみに取っておきたいようだ。
天気の悪い日には悪い日なりの楽しみ方ができる登り方がある。
山頂や展望を目的とする山では味わえない喜びが心に深く刻まれた一日だった。
山日和
【山 域】鈴鹿中部 クラシ周辺
【天 候】曇り時々雨
【メンバー】sato、山日和
【コース】朝明7:15---8:35大瀞---9:25お金明神---9:45コリカキ場---12:00大滝上ランチ場13:30---13:50クラシ西峰
---14:40ワサビ峠---15:20神崎川本流---16:30根ノ平峠---17:10朝明
早朝の朝明駐車場には強い風が吹いていた。この分だと稜線上は猛烈な風に苛まれそうだ。
気温はさほど低くないのだが風が冷たいのでウインドブレーカーを着て歩き出した。今日は暑いと見込んで半袖
のシャツを選んだのだ。
この日は出版記念会の会場を提供してくれた小松さんを若狭の山に案内する予定だったが、都合がつかなくなり
急遽satoさんとの二人旅となった。
通いなれた中峠を越えて下水晶谷を下る道は、昨夜の雨のおかげでみずみずしい新緑が目に眩しい。
ゆうべは結構降ったのだが、神崎川本流の渡渉点はまったく増水していないどころか普段以下の水量。簡単に石
を飛んで渡ることができた。どんよりとした空の下、残念ながら大瀞の美しい碧色の水は鈍く沈み込むような色
だった。
そのうち晴れてくるだろうと期待した空から雨粒が落ち始めた。雨具を着込む。この後も降ったり止んだり少
し晴れ間が覗いてはすぐに雲に覆われたりと、天候の変化が忙しい日だった。
お金谷からお金明神へ向かう。初めてここを訪れた時は標識もなく、薄い踏み跡を辿って鼻のない天狗のよう
な大岩を探したものの見つけることができなかった。今は道標完備で道も明瞭。迷うことなくお金明神へ導いて
くれるのである。
これは鈴鹿全般に言えることだが、かつてバリハイ(バリエーションハイキング)ルートと呼ばれた好き者だけが
辿った踏み跡が、今では登山道レベルの道になり、標識まで付けられているところが増えた。これは喜ぶべきか
嘆くべきか。
参拝の後はお金峠から谷尻谷へ下る。北谷尻谷と上谷尻谷の二俣がコリカキ場と呼ばれている。
滋賀県側の佐目の人々が谷を遡り、峠を越えてここにたどり着いて参拝前に身を清めた場所なのだろう。
この一帯は鈴鹿を代表する二次林という言葉が最も良く表現された場所である。広大な河岸台地の中をほとんど
勾配もなくゆったりと流れる上谷尻谷の流れは、癒しの谷ということば以外に言い表すのが難しい。
かつては大規模な鉱山があったこの谷には、今でもその当時の遺物が散見される。トロッコのレールや土管、
割れた茶碗や一升瓶など。しかし訪れるたびにその数が減っているような気がする。以前はトロッコの車輪など
もあったはずなのだが。
ここでは期待していなかったヤマシャクヤクもわずかながら見られた。
河岸台地の端の高いところに水流の痕跡を見つけて、こんなところまで増水したのかと優しげな表情の奥に隠さ
れた自然の恐ろしさを想う。
広い谷も終わり、両岸が迫った谷らしい谷になったが登山靴でも歩くのに不自由しない。
谷が90度左折したところに唐突に現れるのが谷尻谷最大の大滝である。これまでほとんど落差のなかったところ
に突然目にするこの滝は、遡行する人を驚かせるのに十分だろう。
優美に流れ落ちる滝の高さは30mほどだろうか。いつものように滝身の左の小ルンゼに取り付き、途中から滝身
に寄って立ち木を拾いながら登るが高度感がある。立ち木もやや乏しいので、足元のチェーンスパイクのグリッ
プが頼もしい。今や高巻きとトラバースの必需品になった感がある。
satoさんも軽い身のこなしで危なげなく登ってきた。彼女は一昨年沢で滑落して足を骨折し、懸命にリハビリし
ながらようやく不安なく登れるようになったということだ。
大滝の落ち口に立てば、上流は再び優しい渓相に戻った。源頭に近い分相応の傾斜はあるものの、林相は広葉
樹オンリーとなり、下流の杉混じりの森と比べて格段に明るいのがいい。
こんなところにまでと驚かされるのが炭焼窯跡だ。ここで炭を焼いてどこまで運んだのだろうか。小さな二俣
の手前に残された窯跡は素晴らしいロケーションで、日本の炭焼窯跡100選に選びたいぐらいである。
水が切れる前にランチタイムとしよう。場所としては満足ではないが、そう悪くはない。
satoさんが支谷の上方に自然のものとは思えない穴を二つ見つけた。何度も来ているのに気付かなかった。坑口
のようにも見えるが、平坦部の鉱山からずいぶん離れているし、あの大滝を越えて来るのは大変だ。食後に探索
してみると、穴は1mほどの深さしかなかった。試掘した痕だったのだろうか。
一人で歩いていると見逃していたものがたくさんあるのかもしれない。
クラシの山頂部までわずかな標高差を残すのみだが、やはりビールを飲んだ後の登りは足が重い。
この谷の源頭部の風景は独特のものがある。今までのトチやサワグルミに代わってブナが主役となるのだが、そ
の先に見える山頂部には樹林がない。谷筋はよく掘り込まれた古道のように山上台地へ吸い込まれて行く。その
道に風に吹かれて落ちたヤマツツジの花びらが散り敷かれて美しい。
山上台地は予想通りの烈風が吹き荒れていた。立っていてもよろめいてしまうほどの風だ。かつては背丈を超
す笹原だったここも、一面に苔の絨毯が敷き詰められた見晴らしのいい場所になった。
すぐに退散してクラシ北尾根に入る。この尾根の上部のブナ林はなかなかいい。太い木はないものの、尾根上と
東斜面に広がるブナの森はあたりに漂うガスの間から浮かび上がって、幽玄とも言える雰囲気を醸し出している。
鈴鹿を代表するバリ尾根だったクラシ北尾根も登山道レベルの道になってしまった。
とは言え、クラジャン(クラシのジャンダルム)と呼ばれるピークを始めとする急なアップダウンと切れ落ちた尾
根は気が抜けない。その尾根に彩りを添えてくれたのがシャクナゲだ。今年は裏年という話だが、結構見事な花
付きで目を楽しませてくれている。
イワカガミの可憐な花も満開で、バリ尾根を歩く楽しみにもうひとつの楽しみを与えてくれた。
ワサビ峠からオゾ谷を下って、神崎川沿いの道をタケ谷出合へ。少し寄り道してヤマシャク群生地を見に行っ
たが空振りに終わってしまった。
川の対岸には来週のオフ会の開催地である「鈴鹿の上高地」が見えている。今回はどれぐらいのメンバーが集ま
ってくれるだろうか。ここを訪れたことのないsatoさんの要望で、あえて会場には寄らず根ノ平峠へ向かった。
初めての鈴鹿の上高地は当日の楽しみに取っておきたいようだ。
天気の悪い日には悪い日なりの楽しみ方ができる登り方がある。
山頂や展望を目的とする山では味わえない喜びが心に深く刻まれた一日だった。
山日和