【北アルプス】穴毛谷の女神は今年も微笑んだか
Posted: 2011年5月23日(月) 23:44
【日 付】2011年5月21日(土)
【山 域】北アルプス 笠ヶ岳周辺
【天 候】曇りのち晴れ
【コース】新穂高5:30---6:23穴毛谷第1堰堤---8:21穴毛大滝---8:50大滝上9:10---12:06稜線12:19---
12:34 P2737m 14:05---14:21七ノ沢下降点---15:04大滝上15:19---16:09第1堰堤---16:50新穂高
新穂高の広い無料駐車場には、20台足らずの車がひっそりと止まっているだけだった。
大型連休と夏山シーズンの端境期、山はしばらく静寂の時を迎えているのだろう。
蒲田川に掛かる橋からは、まだ真っ白な稜線が遥かな高さに見えた。
左俣林道を行く。2回目ともなれば、迷うことなく穴毛谷への林道へ導かれた。しかし例の穴毛谷の説明看板
がないのはどうしたことか。あの飛騨森林管理局の芸術作品はどこかからクレームが付いて撤去されてしまっ
たのだろうか。
何を勘違いしたのか、第3堰堤の下で右岸へ渡渉してしまったが、結果的には正解だった。
前回の渡渉点の第1堰堤下を見ると水量が多く、少し苦労しそうな感じだったからだ。
安全な渡渉にはダブルストックが必需品である。流れに入るにせよ、石飛びで渡るにせよ安定感が違う。石飛
びの場合は特にそうだ。
今年は雪が多いと思っていたら、なぜか第1堰堤の上には雪がなく、谷の真ん中を勢い良く水が流れている。
昨年は堰堤の上から雪が繋がり、自由自在に歩けたというのに。おかげで右岸のややこしいトラバースを強い
られてしまった。
ここを記録しておこうとシャッターを押すと、「記録容量がほとんどありません」の表示が。
まだ10枚ほどしか写していないのになぜだ。裏ブタを開けるとそこにはメモリーカードが入っていなかった。ここ
まで内蔵メモリーに記録していたのである。
出鼻を挫かれてしまったが、良く考えれば携帯電話がある。なんせシャープ製のアクオス携帯は1200万画素も
あるのだ。十分過ぎるスペックである。ズームがないのが玉にキズだが無いよりははるかにマシだ。
四ノ沢出合に着いた。圧倒的なデブリである。ここから見上げる笠の稜線は白く煙っている。
今日も天気はあまり期待できないのか。ど真ん中に立つピナクルが圧倒的だ。
穴毛谷の象徴、御神体とも言える岩壁ももう感激は薄い。それより去年に比べて凄まじいばかりのデブリが
目立つ。雪が少なく思えたのは出だしの300mほどだけだった。
四ノ沢出合も五ノ沢出合も、支流からと本流からのデブリが衝突したようにうず高く盛り上がり、谷の真ん中に
雪の山を作っていた。雪崩が落ち着く前にこの谷へ入るのはリスクが高いとしみじみ思う。
穴毛大滝もデブリに邪魔をされてなかなか視界に入らなかった。
滝と対面してみると、去年より小さくなっている・・・のではなくて、積雪量が多いので露出している部分が少な
いのだ。落差40mと言われるこの滝は、昨年は20mぐらいの滝だったが今年は10m余りしか無いように見えた。
恐くて近寄れなかった滝身へもかなり近付くことができた。
[attachment=4]DVC00100_1.JPG[/attachment]
その代わり滝の右側のザイテンタールと呼ばれるルンゼには落石がゴロゴロ、下部では崩落した土で雪面も
茶色になっていた。斜面にはいつ落ちてきてもおかしくない状態で大きな石がいくつも引っ掛かっている。
落石の直撃コースを避けて、五ノ沢出合で装着したアイゼンを効かせて急斜面を登る。対岸の岩壁上部にもと
んでもない雪塊や落ちかけの岩が落下のタイミングを計っているようだ。
帰りの時のために雪渓上の落石の位置を記録しておいた。
大滝上の本流へのトラバース地点を間違えて少し苦労してしまった。記憶はあてにならないものである。
小尾根を乗っ越すともなく、ほとんど高低差のない本谷へ復帰した。ここはひと息入れるには絶好のポイントだ。
本日の目的である六ノ沢が正面に見え、笠への稜線に突き上げている、はずだが上部は雲の中。もうひとつ
モチベーションが上がらない。
何も見えないなら笠まで行っても意味ないなと、やめる言い訳を考えている自分がいる。
六ノ沢へ取り付くには本流を少し下らなければならない。その本流は穴毛大滝の落ち口に向かって急激に落
ち込んでいる。正直、気持ちの悪い下りである。下の方に少し穏やかな水流が見えているのがわずかな救いだ。
雪渓の端を伝って六ノ沢出合に着いた時にはホッとした。が、のんびりしてはいられない。
ここから標高差700mの急峻な雪渓登りが待っているのだ。
[attachment=3]DVC00091_1.JPG[/attachment]
足が重い。どれぐらい上がったかと振り向いて見下ろしても、さっきからいくらも高度を稼いでいない。
焼岳から西穂、奥穂への稜線が徐々に見える体積を増やし、その奥に霞沢も頭を出している。
休むにしても適当な場所はなかなかなく、岩が露出したところへ近付けば例外なくシュルンドが口を開けている。
それでも猫の額ほどの休憩場所を探しながら、少しずつ体を持ち上げて行った。
右手にピッケル、左手には極端に短くセットしたストックというスタイルで、3点確保しながら進む。雪が緩み気味
なのがいいのか悪いのか。足元はアイゼンを置いただけでは決まらず、滑らないためには2~3回ステップを切る
必要がある。これがジワジワと体力を消耗させていく。
雪渓のど真ん中にクレバスができている箇所もいくつかあり、下だけ見て歩いているとクレバスにぶち当たって
しまう。常に顔を上げて、落石にも目配りしながら歩かないといけない。雪の上の落石は音もなく降ってくるのだ。
もうやめて下りようかとふと見上げたら、雪庇の奥に青空が光っていた。これは登って来いということか。
モチベーションメーターは一気に振り切れた。
[attachment=2]DVC00086_1.JPG[/attachment]
とにかく一歩、また一歩。強烈な傾斜となった六ノ沢源頭部にステップを刻む。このまま直上すれば雪庇に阻ま
れて稜線に出られないので、左に斜上しながら雪庇の切れ目を目指す。
稜線が頭の高さまで来た。よっこらしょと体を持ち上げて稜線に立つ。双六谷の向うから黒部五郎や薬師が出
迎えてくれた。槍・穂高の稜線の展望は言わずもがなである。
予定よりずいぶん時間がかかってしまった。しかしまだ笠に行けない時間ではない。標高差も150mほど残す
ばかりで距離もそう大したことはない。
が、笠に向かう体力が残っていなかった。正確には「気力が」かもしれないが。
笠の山頂に立っても劇的に景色が変わるわけでもなし、穴毛の谷底ではまったく期待もしていなかった青空が
頭上に広がっている。ここで十分だ。
抜戸岩を過ぎて東の2737mピークまで移動して店を広げる。登りの途中から半袖Tシャツ1枚で十分だったが、
まるで夏のようなカンカン照りで半袖でも暑いぐらいだ。寝不足のせいかあまり気分が良くない。
草の上に寝っ転がって目を瞑る。防水が利かなくなって中までずぶ濡れの靴を脱ぐとさっぱりした。
このGARMONTの登山靴には面白い注意書きが付いている。
「These boots will take you farther than you think.」この文章が「warning」として書いてあるのだ。
「使用上の注意」ではなく「警告」なのである。さすがイタリア人、シャレが利いている。しかしなかなか思うより
遠くに連れて行ってくれないのは自分の力の無さのせいか。
[attachment=1]RIMG0019_1.JPG[/attachment]
笠をあきらめたら時間は余裕たっぷりだ。下りは3時間も見れば十分だろう。眼下には六ノ沢右俣の緩斜面が
魅力的な広がりを見せる。滑り降りたい衝動に駆られるが、グッと我慢して2753mピークの手前まで尾根を進ん
だ。ここから七ノ沢へ下りようというプランだ。
七ノ沢源頭は六ノ沢と大差ない斜度を持っている。アイゼンがビシッと利かず、安易に足を置くとズルズル滑り
出してしまう。腰を落として慎重にステップを刻むが、足を滑らして転倒してしまった。
ゆっくりと滑り出す。雪面の薄い雪の層に乗った形で雪ごと滑って行くが、いつでも止まれそうなスピードで恐さ
はなかった。足でブレーキをかけて立ち上がり、横に避けると幅1m、長さ50m、厚さ5センチ程度の雪の層はま
るで生き物のようにゆっくりと斜面を滑り落ちて行った。
[attachment=0]RIMG0024_1.JPG[/attachment]
両側を露岩に挟まれたところに来た。おそらく無雪期は滝場なのだろう。横一文字にクレバスが開いている。
どうしたものかと岩の上から偵察すると、クレバスの中をS字状に雪が繋がっていた。これを利用して踏み抜か
ないように慎重に通過。クレバスの対岸に這い上がった。やれやれだ。
ここから先は見た目にも斜度が緩んで安全地帯に入った。こうなれば滑るしかない。尻セードグッズを出して
豪快に滑る。本谷の出合まで問題なく滑ることができた。
本谷と七ノ沢の出合から大滝上の休み場は目と鼻の先だ。本谷からは真新しいアイゼンの跡が下りて来て
いた。
休み場からザイテンタールを眺めると、落石の配置が明らかに朝とは違っている。新たな落石があったようだ。
これだから春先の谷は油断できない。
慎重に見極めて大滝下まで下り、アイゼンを外した。ここからはハイパースライディング走法にバトンタッチで
ある。
スケーティングしながら下れば見る見る間に堰堤が近付いてくる。しかしここでミスジャッジを犯してしまった。
右岸のトラバース地点を過ぎてそのまま左岸を下りてしまったのだ。
どこかで渡れるだろうという甘い読みもあった。だが無傷で渡れそうな場所は見つからなかった。
仕方がない。覚悟を決めて水の中に入る。ヒザまでと高をくくっていたら股の下まで浸かってしまった。やらなく
てもいいアトラクションを必ずやってしまうのは性なのか。冷たい雪融け水も、上がってしまえばジワーッと温か
さが戻ってきて気持ちがいい。それにしても5月の北アルプスでパンツまで濡らすとは思わなかった。
登りで見落としたのかと思った例の看板はやはりなかった。穴毛の女神様もすこし寂しい思いをしているかも
しれない。
山日和
【山 域】北アルプス 笠ヶ岳周辺
【天 候】曇りのち晴れ
【コース】新穂高5:30---6:23穴毛谷第1堰堤---8:21穴毛大滝---8:50大滝上9:10---12:06稜線12:19---
12:34 P2737m 14:05---14:21七ノ沢下降点---15:04大滝上15:19---16:09第1堰堤---16:50新穂高
新穂高の広い無料駐車場には、20台足らずの車がひっそりと止まっているだけだった。
大型連休と夏山シーズンの端境期、山はしばらく静寂の時を迎えているのだろう。
蒲田川に掛かる橋からは、まだ真っ白な稜線が遥かな高さに見えた。
左俣林道を行く。2回目ともなれば、迷うことなく穴毛谷への林道へ導かれた。しかし例の穴毛谷の説明看板
がないのはどうしたことか。あの飛騨森林管理局の芸術作品はどこかからクレームが付いて撤去されてしまっ
たのだろうか。
何を勘違いしたのか、第3堰堤の下で右岸へ渡渉してしまったが、結果的には正解だった。
前回の渡渉点の第1堰堤下を見ると水量が多く、少し苦労しそうな感じだったからだ。
安全な渡渉にはダブルストックが必需品である。流れに入るにせよ、石飛びで渡るにせよ安定感が違う。石飛
びの場合は特にそうだ。
今年は雪が多いと思っていたら、なぜか第1堰堤の上には雪がなく、谷の真ん中を勢い良く水が流れている。
昨年は堰堤の上から雪が繋がり、自由自在に歩けたというのに。おかげで右岸のややこしいトラバースを強い
られてしまった。
ここを記録しておこうとシャッターを押すと、「記録容量がほとんどありません」の表示が。
まだ10枚ほどしか写していないのになぜだ。裏ブタを開けるとそこにはメモリーカードが入っていなかった。ここ
まで内蔵メモリーに記録していたのである。
出鼻を挫かれてしまったが、良く考えれば携帯電話がある。なんせシャープ製のアクオス携帯は1200万画素も
あるのだ。十分過ぎるスペックである。ズームがないのが玉にキズだが無いよりははるかにマシだ。
四ノ沢出合に着いた。圧倒的なデブリである。ここから見上げる笠の稜線は白く煙っている。
今日も天気はあまり期待できないのか。ど真ん中に立つピナクルが圧倒的だ。
穴毛谷の象徴、御神体とも言える岩壁ももう感激は薄い。それより去年に比べて凄まじいばかりのデブリが
目立つ。雪が少なく思えたのは出だしの300mほどだけだった。
四ノ沢出合も五ノ沢出合も、支流からと本流からのデブリが衝突したようにうず高く盛り上がり、谷の真ん中に
雪の山を作っていた。雪崩が落ち着く前にこの谷へ入るのはリスクが高いとしみじみ思う。
穴毛大滝もデブリに邪魔をされてなかなか視界に入らなかった。
滝と対面してみると、去年より小さくなっている・・・のではなくて、積雪量が多いので露出している部分が少な
いのだ。落差40mと言われるこの滝は、昨年は20mぐらいの滝だったが今年は10m余りしか無いように見えた。
恐くて近寄れなかった滝身へもかなり近付くことができた。
[attachment=4]DVC00100_1.JPG[/attachment]
その代わり滝の右側のザイテンタールと呼ばれるルンゼには落石がゴロゴロ、下部では崩落した土で雪面も
茶色になっていた。斜面にはいつ落ちてきてもおかしくない状態で大きな石がいくつも引っ掛かっている。
落石の直撃コースを避けて、五ノ沢出合で装着したアイゼンを効かせて急斜面を登る。対岸の岩壁上部にもと
んでもない雪塊や落ちかけの岩が落下のタイミングを計っているようだ。
帰りの時のために雪渓上の落石の位置を記録しておいた。
大滝上の本流へのトラバース地点を間違えて少し苦労してしまった。記憶はあてにならないものである。
小尾根を乗っ越すともなく、ほとんど高低差のない本谷へ復帰した。ここはひと息入れるには絶好のポイントだ。
本日の目的である六ノ沢が正面に見え、笠への稜線に突き上げている、はずだが上部は雲の中。もうひとつ
モチベーションが上がらない。
何も見えないなら笠まで行っても意味ないなと、やめる言い訳を考えている自分がいる。
六ノ沢へ取り付くには本流を少し下らなければならない。その本流は穴毛大滝の落ち口に向かって急激に落
ち込んでいる。正直、気持ちの悪い下りである。下の方に少し穏やかな水流が見えているのがわずかな救いだ。
雪渓の端を伝って六ノ沢出合に着いた時にはホッとした。が、のんびりしてはいられない。
ここから標高差700mの急峻な雪渓登りが待っているのだ。
[attachment=3]DVC00091_1.JPG[/attachment]
足が重い。どれぐらい上がったかと振り向いて見下ろしても、さっきからいくらも高度を稼いでいない。
焼岳から西穂、奥穂への稜線が徐々に見える体積を増やし、その奥に霞沢も頭を出している。
休むにしても適当な場所はなかなかなく、岩が露出したところへ近付けば例外なくシュルンドが口を開けている。
それでも猫の額ほどの休憩場所を探しながら、少しずつ体を持ち上げて行った。
右手にピッケル、左手には極端に短くセットしたストックというスタイルで、3点確保しながら進む。雪が緩み気味
なのがいいのか悪いのか。足元はアイゼンを置いただけでは決まらず、滑らないためには2~3回ステップを切る
必要がある。これがジワジワと体力を消耗させていく。
雪渓のど真ん中にクレバスができている箇所もいくつかあり、下だけ見て歩いているとクレバスにぶち当たって
しまう。常に顔を上げて、落石にも目配りしながら歩かないといけない。雪の上の落石は音もなく降ってくるのだ。
もうやめて下りようかとふと見上げたら、雪庇の奥に青空が光っていた。これは登って来いということか。
モチベーションメーターは一気に振り切れた。
[attachment=2]DVC00086_1.JPG[/attachment]
とにかく一歩、また一歩。強烈な傾斜となった六ノ沢源頭部にステップを刻む。このまま直上すれば雪庇に阻ま
れて稜線に出られないので、左に斜上しながら雪庇の切れ目を目指す。
稜線が頭の高さまで来た。よっこらしょと体を持ち上げて稜線に立つ。双六谷の向うから黒部五郎や薬師が出
迎えてくれた。槍・穂高の稜線の展望は言わずもがなである。
予定よりずいぶん時間がかかってしまった。しかしまだ笠に行けない時間ではない。標高差も150mほど残す
ばかりで距離もそう大したことはない。
が、笠に向かう体力が残っていなかった。正確には「気力が」かもしれないが。
笠の山頂に立っても劇的に景色が変わるわけでもなし、穴毛の谷底ではまったく期待もしていなかった青空が
頭上に広がっている。ここで十分だ。
抜戸岩を過ぎて東の2737mピークまで移動して店を広げる。登りの途中から半袖Tシャツ1枚で十分だったが、
まるで夏のようなカンカン照りで半袖でも暑いぐらいだ。寝不足のせいかあまり気分が良くない。
草の上に寝っ転がって目を瞑る。防水が利かなくなって中までずぶ濡れの靴を脱ぐとさっぱりした。
このGARMONTの登山靴には面白い注意書きが付いている。
「These boots will take you farther than you think.」この文章が「warning」として書いてあるのだ。
「使用上の注意」ではなく「警告」なのである。さすがイタリア人、シャレが利いている。しかしなかなか思うより
遠くに連れて行ってくれないのは自分の力の無さのせいか。
[attachment=1]RIMG0019_1.JPG[/attachment]
笠をあきらめたら時間は余裕たっぷりだ。下りは3時間も見れば十分だろう。眼下には六ノ沢右俣の緩斜面が
魅力的な広がりを見せる。滑り降りたい衝動に駆られるが、グッと我慢して2753mピークの手前まで尾根を進ん
だ。ここから七ノ沢へ下りようというプランだ。
七ノ沢源頭は六ノ沢と大差ない斜度を持っている。アイゼンがビシッと利かず、安易に足を置くとズルズル滑り
出してしまう。腰を落として慎重にステップを刻むが、足を滑らして転倒してしまった。
ゆっくりと滑り出す。雪面の薄い雪の層に乗った形で雪ごと滑って行くが、いつでも止まれそうなスピードで恐さ
はなかった。足でブレーキをかけて立ち上がり、横に避けると幅1m、長さ50m、厚さ5センチ程度の雪の層はま
るで生き物のようにゆっくりと斜面を滑り落ちて行った。
[attachment=0]RIMG0024_1.JPG[/attachment]
両側を露岩に挟まれたところに来た。おそらく無雪期は滝場なのだろう。横一文字にクレバスが開いている。
どうしたものかと岩の上から偵察すると、クレバスの中をS字状に雪が繋がっていた。これを利用して踏み抜か
ないように慎重に通過。クレバスの対岸に這い上がった。やれやれだ。
ここから先は見た目にも斜度が緩んで安全地帯に入った。こうなれば滑るしかない。尻セードグッズを出して
豪快に滑る。本谷の出合まで問題なく滑ることができた。
本谷と七ノ沢の出合から大滝上の休み場は目と鼻の先だ。本谷からは真新しいアイゼンの跡が下りて来て
いた。
休み場からザイテンタールを眺めると、落石の配置が明らかに朝とは違っている。新たな落石があったようだ。
これだから春先の谷は油断できない。
慎重に見極めて大滝下まで下り、アイゼンを外した。ここからはハイパースライディング走法にバトンタッチで
ある。
スケーティングしながら下れば見る見る間に堰堤が近付いてくる。しかしここでミスジャッジを犯してしまった。
右岸のトラバース地点を過ぎてそのまま左岸を下りてしまったのだ。
どこかで渡れるだろうという甘い読みもあった。だが無傷で渡れそうな場所は見つからなかった。
仕方がない。覚悟を決めて水の中に入る。ヒザまでと高をくくっていたら股の下まで浸かってしまった。やらなく
てもいいアトラクションを必ずやってしまうのは性なのか。冷たい雪融け水も、上がってしまえばジワーッと温か
さが戻ってきて気持ちがいい。それにしても5月の北アルプスでパンツまで濡らすとは思わなかった。
登りで見落としたのかと思った例の看板はやはりなかった。穴毛の女神様もすこし寂しい思いをしているかも
しれない。
山日和
新穂高の広い無料駐車場には、20台足らずの車がひっそりと止まっているだけだった。