【白山北方】遥かなる奈良岳 またも届かず
Posted: 2013年5月07日(火) 22:30
【日 付】2013年5月5日(日)
【山 域】白山北方 赤摩木古山(あかまっこやま)1501m
【天 候】晴れ
【コース】開津橋6:10---7:23魚留滝---7:46尾根取付き---9:32 P1185m9:51---11:03赤摩木古山11:18---11:43引き返し点---
12:11赤摩木古山13:38---15:14開津谷---15:50駐車地
上平の道の駅で一夜を過ごそうと思っていたが、桂湖への道のゲートを確認しようとであい橋を渡ると、そこには大きく開け放たれたゲートがあった。これはラッキーだ。ここから漕いで上がるつもりでDOCを積んできたが、2年続けて役に立たなかった。もっとも去年は積雪で使えなかったのだから今年は意味がまったく違う。
完璧に除雪された道を走ればあっという間に境川ダムに到着である。ラッキーなのはいいが、明日が不安になるぐらい道端の雪も消えていた。
車から下りて満点の星空を見上げると、流れ星がひとつ、スーッと尾を引いて北の空へ消えて行った。明日もいい天気だろう。
開津谷の林道入口には金沢ナンバーの車が止まっていた。まさか登山者? ここから山に登ろうと言う人間はあまりまともとは言えないだろう。
昨年取り付いた奈良岳東尾根の末端はとんでもないガケで、雪が導いてくれたことを知る。
開津谷の林道はさすがに地獄の滑り台も消え、ところどころデブリを乗り越しながらも快調に河原まで進むことができた。
谷の方から声が掛かった。先ほどの車の主のようだ。「どこへ行くの?」「山登りです」
向うは両手で釣竿を引くような格好をしている。やはり釣師だった。
雪に覆われた明るい河原を上流へ歩く。2番目の堰堤のあたりで渡渉点を探った。左岸側はずっと雪の河原が続いているが、右岸は堰堤の壁に阻まれている。去年は雪が堆積して落差が小さく、堰堤から飛び降りたことを思い出した。
水量は大したことはないものの、石飛びでこなせるほどではなく、若干靴に浸水させて渡渉完了。少し備えが甘かったようだ。替え靴下を持って来ている心の余裕もあったのだろう。
まさにドピーカンの青空である。後頭部から照り付ける太陽から逃れるために日除けのハットを被る。昔は暑さに滅法強く、どんなにカンカン照りの酷暑でも帽子を被らず歩いて平気だった。最近はあまり暑いと気分が悪くなってしまう。
[attachment=0]P1130396_1.JPG[/attachment]
標高わずか600mほどの谷一面を雪が覆っている。これは予想外だった。いくつかの堰堤を越えるとついに水流も消え、谷は完全に雪渓と化してしまった。これはひょっとしたら行けるかもしれない。
赤摩木古山南東尾根の取付きを確認して開津谷の屈曲部に入る。右カーブのイン側は雪がパックリと口を開けていたのでアウト側を慎重にトラバースする。うず高く積ったデブリを踏んで左カーブを曲がったところが魚留滝だ。ここは地形図の723m標高点の西側。地形図にある滝の表記は間違っている。
[attachment=4]P1130401_1.JPG[/attachment]
そして魚留滝らしき雪の壁を見た瞬間に目論見は潰えた。おそらく足の下10mぐらいのところにある滝つぼから水音が轟いている。雪の壁へは右岸側にわずかに雪が繋がっているが、滝身はほぼ垂直の雪壁である。その上は段差ができているが奥の様子はわからない。雪渓の下へ落ちれば100%助からないだろう。
左岸の巻きルートを探る。5mほどの緩い岩場の上は潅木のブッシュが続いて簡単に上がれそうだ。しかし落ち口の向うがどうなっているのかは不明だ。今日はロープを持っていない。上がれても下りられないのが一番怖い。ここさえ越えれば後は奈良岳へ一直線なのはわかっているが、今目の前にあるリスクと天秤に懸ければ退却以外の選択肢はなかった。
実のところ、この時期にここを越えられる可能性は5%もないだろうと覚悟していた。下の雪渓があまりにも見事に繋がっていたのでつい期待を膨らませてしまっただけなのだ。
南東尾根への取付きに戻って一服。奈良岳は少し遠のいたが天気は上々、ゆっくり行こう。
尾根と言ってもこの末端部分はただの急斜面だ。登り出してすぐにカタクリの群落が出迎えてくれた。まだ花は開いていない。下りてくる頃には満開の可憐な姿を見せてくれるだろう。
それにしても半端ない急傾斜である。何かに掴まっていないと立っていられないほどの斜面をジリジリと4輪駆動で這うように高度を上げる。日当たりのいい南斜面だけに雪はほとんどない。若干のヤブはあるものの、逆にヤブがなければ登れないだろう。
Ca950mあたりまで頑張れば普通に歩けるようになると踏んでいた。地形図は正直で、等高線の間隔が開くとブナ林も勢いを増し、喘ぐように地面を這っていた歩みも途端に鼻唄混じりとなる。
1185mあたりのブナ林はまったく見事というしかない。4mクラスもちらほら見られるブナの純林は、その適度な間隔と木々の佇まい、そして控え目に開けた雪の台地との配置が芸術的ですらある。今シーズンも多くのブナ林を見てきたが、これは間違いなく上位にランクされるべきものだろう。
ブナの間から大笠山から奈良岳の真っ白い雪稜が眩しい。頭上に覆い被さるような赤摩木古山の山頂部は黒々とした壁の上にあった。
[attachment=3]P1130439_1.JPG[/attachment]
右手の尾根へ回り込んで上を目指すと、遮るもののない展望が開けた。ブナオ峠の台地の奥に猿ヶ山の雄大な姿。庄川を挟んで対峙するのは人形山、三ヶ辻山、猿ヶ馬場山、籾糠山といった飛越の名山達だ。
そして大笠山の左には意外に控えめな笈ヶ岳。更にその奥には白山の本峰が頭を出している。
ダケカンバの点在する快適な雪尾根を辿って加越国境稜線に立った。2年前、西赤尾のゲートからブナオ峠、大門山を経てここに到達した。歩く距離はその時の方が遥かに長かったが、今日の方が疲れているのは最初の激登りが堪えているせいだろうか。
主稜線には真新しいトレースがあった。テント泊縦走者だろう。そのトレースを辿って赤摩木古山頂へ向かう。
[attachment=2]パノラマ 4_1_1.JPG[/attachment]
赤摩木古山は稜線上の通過点に過ぎないような地味な山頂だ。時間は11時過ぎ。微妙な時間だが、ここから見る見越山、奈良岳は意外に近く思えた。意を決して足を踏み出す。
山頂から鞍部へは強烈な下りで始まる。帰りはここを登り返すのかと思うとげんなりである。
鞍部から二つ目のピークで見越山を見上げた時にあきらめた。一方通行で奈良岳から下山できるのなら頑張れないことはないだろう。しかし奈良岳東尾根の仙人岩のトラバース、去年目前にして開津谷へ逃げた地点が通過できる保証はない。
この重い足を引き摺って奈良岳まで行けたとしても、再び赤摩木古山へ戻って来れるのは5時を回っているかもしれない。アップダウンの多い雪稜の連続に心が折れてしまった。今年もまた奈良岳はお預けだ。
踵を返して再び赤摩木古山へ戻る。小広い南側の小ピークに陣取ってランチとしよう。
ここはこれまでに記述してきたすべての眺めを楽しめる絶好の展望台だ。ひときわ黒々とした仙人岩が雪に覆われた山々の中で異彩を放っている。あの稜線を踏破できる日は来るのだろうか。
靴を脱いで渡渉で濡れた足を解放してやる。なんという気持ち良さだろう。快晴、無風。
目的は達成できなかったが、この眺めの中で飲むビールは格別の味わいだ。
食後はあまりの気持ち良さに久し振りに昼寝までしてしまった。
[attachment=1]P1130478_1_1.JPG[/attachment]
起き上がると青空にも翳りが出てきた。白山はすでに雲の中。天気は下降線のようである。
下りは眼下に広がる開津谷右支流源頭のカールへ飛び込もう。崩れた雪庇の切れ目から斜面に飛び降りた。シートを取り出して超ロング滑走のスタートだ。あっという間に景色が後ろへ飛んで行く。何百m滑っただろう。傾斜がなくなったカールの底から見上げる稜線はもう遥かに遠い。
1300mラインで左へトラバースして元の尾根に復帰。再び極上のブナ林を愛でながら歩いた。
牛歩のようなペースでしか登れなかった急斜面も下りとなれば速い。ストックをしまって立ち木、ササの懸垂下降法でぐいぐい下る。
予想通りカタクリは満開だった。急傾斜の不安定な足場で写真を撮ろうとカメラを構えていたらそのまま5mほど滑落してしまった。油断大敵である。こんなところで無理して撮らなくてももっと下の方に撮りやすい群落があるのに。
ほどなく開津谷の雪河原に着地。渡渉も後のことを考える必要もなく、委細構わずじゃぶじゃぶと渡る。このまま曇って行くかに見えた空にはまた青みが増している。振り返れば白無垢の奈良岳が見降ろしていた。
またここを訪れる理由ができた。そう心の中で呟きながらデブリだらけの林道を戻った。
山日和
【山 域】白山北方 赤摩木古山(あかまっこやま)1501m
【天 候】晴れ
【コース】開津橋6:10---7:23魚留滝---7:46尾根取付き---9:32 P1185m9:51---11:03赤摩木古山11:18---11:43引き返し点---
12:11赤摩木古山13:38---15:14開津谷---15:50駐車地
上平の道の駅で一夜を過ごそうと思っていたが、桂湖への道のゲートを確認しようとであい橋を渡ると、そこには大きく開け放たれたゲートがあった。これはラッキーだ。ここから漕いで上がるつもりでDOCを積んできたが、2年続けて役に立たなかった。もっとも去年は積雪で使えなかったのだから今年は意味がまったく違う。
完璧に除雪された道を走ればあっという間に境川ダムに到着である。ラッキーなのはいいが、明日が不安になるぐらい道端の雪も消えていた。
車から下りて満点の星空を見上げると、流れ星がひとつ、スーッと尾を引いて北の空へ消えて行った。明日もいい天気だろう。
開津谷の林道入口には金沢ナンバーの車が止まっていた。まさか登山者? ここから山に登ろうと言う人間はあまりまともとは言えないだろう。
昨年取り付いた奈良岳東尾根の末端はとんでもないガケで、雪が導いてくれたことを知る。
開津谷の林道はさすがに地獄の滑り台も消え、ところどころデブリを乗り越しながらも快調に河原まで進むことができた。
谷の方から声が掛かった。先ほどの車の主のようだ。「どこへ行くの?」「山登りです」
向うは両手で釣竿を引くような格好をしている。やはり釣師だった。
雪に覆われた明るい河原を上流へ歩く。2番目の堰堤のあたりで渡渉点を探った。左岸側はずっと雪の河原が続いているが、右岸は堰堤の壁に阻まれている。去年は雪が堆積して落差が小さく、堰堤から飛び降りたことを思い出した。
水量は大したことはないものの、石飛びでこなせるほどではなく、若干靴に浸水させて渡渉完了。少し備えが甘かったようだ。替え靴下を持って来ている心の余裕もあったのだろう。
まさにドピーカンの青空である。後頭部から照り付ける太陽から逃れるために日除けのハットを被る。昔は暑さに滅法強く、どんなにカンカン照りの酷暑でも帽子を被らず歩いて平気だった。最近はあまり暑いと気分が悪くなってしまう。
[attachment=0]P1130396_1.JPG[/attachment]
標高わずか600mほどの谷一面を雪が覆っている。これは予想外だった。いくつかの堰堤を越えるとついに水流も消え、谷は完全に雪渓と化してしまった。これはひょっとしたら行けるかもしれない。
赤摩木古山南東尾根の取付きを確認して開津谷の屈曲部に入る。右カーブのイン側は雪がパックリと口を開けていたのでアウト側を慎重にトラバースする。うず高く積ったデブリを踏んで左カーブを曲がったところが魚留滝だ。ここは地形図の723m標高点の西側。地形図にある滝の表記は間違っている。
[attachment=4]P1130401_1.JPG[/attachment]
そして魚留滝らしき雪の壁を見た瞬間に目論見は潰えた。おそらく足の下10mぐらいのところにある滝つぼから水音が轟いている。雪の壁へは右岸側にわずかに雪が繋がっているが、滝身はほぼ垂直の雪壁である。その上は段差ができているが奥の様子はわからない。雪渓の下へ落ちれば100%助からないだろう。
左岸の巻きルートを探る。5mほどの緩い岩場の上は潅木のブッシュが続いて簡単に上がれそうだ。しかし落ち口の向うがどうなっているのかは不明だ。今日はロープを持っていない。上がれても下りられないのが一番怖い。ここさえ越えれば後は奈良岳へ一直線なのはわかっているが、今目の前にあるリスクと天秤に懸ければ退却以外の選択肢はなかった。
実のところ、この時期にここを越えられる可能性は5%もないだろうと覚悟していた。下の雪渓があまりにも見事に繋がっていたのでつい期待を膨らませてしまっただけなのだ。
南東尾根への取付きに戻って一服。奈良岳は少し遠のいたが天気は上々、ゆっくり行こう。
尾根と言ってもこの末端部分はただの急斜面だ。登り出してすぐにカタクリの群落が出迎えてくれた。まだ花は開いていない。下りてくる頃には満開の可憐な姿を見せてくれるだろう。
それにしても半端ない急傾斜である。何かに掴まっていないと立っていられないほどの斜面をジリジリと4輪駆動で這うように高度を上げる。日当たりのいい南斜面だけに雪はほとんどない。若干のヤブはあるものの、逆にヤブがなければ登れないだろう。
Ca950mあたりまで頑張れば普通に歩けるようになると踏んでいた。地形図は正直で、等高線の間隔が開くとブナ林も勢いを増し、喘ぐように地面を這っていた歩みも途端に鼻唄混じりとなる。
1185mあたりのブナ林はまったく見事というしかない。4mクラスもちらほら見られるブナの純林は、その適度な間隔と木々の佇まい、そして控え目に開けた雪の台地との配置が芸術的ですらある。今シーズンも多くのブナ林を見てきたが、これは間違いなく上位にランクされるべきものだろう。
ブナの間から大笠山から奈良岳の真っ白い雪稜が眩しい。頭上に覆い被さるような赤摩木古山の山頂部は黒々とした壁の上にあった。
[attachment=3]P1130439_1.JPG[/attachment]
右手の尾根へ回り込んで上を目指すと、遮るもののない展望が開けた。ブナオ峠の台地の奥に猿ヶ山の雄大な姿。庄川を挟んで対峙するのは人形山、三ヶ辻山、猿ヶ馬場山、籾糠山といった飛越の名山達だ。
そして大笠山の左には意外に控えめな笈ヶ岳。更にその奥には白山の本峰が頭を出している。
ダケカンバの点在する快適な雪尾根を辿って加越国境稜線に立った。2年前、西赤尾のゲートからブナオ峠、大門山を経てここに到達した。歩く距離はその時の方が遥かに長かったが、今日の方が疲れているのは最初の激登りが堪えているせいだろうか。
主稜線には真新しいトレースがあった。テント泊縦走者だろう。そのトレースを辿って赤摩木古山頂へ向かう。
[attachment=2]パノラマ 4_1_1.JPG[/attachment]
赤摩木古山は稜線上の通過点に過ぎないような地味な山頂だ。時間は11時過ぎ。微妙な時間だが、ここから見る見越山、奈良岳は意外に近く思えた。意を決して足を踏み出す。
山頂から鞍部へは強烈な下りで始まる。帰りはここを登り返すのかと思うとげんなりである。
鞍部から二つ目のピークで見越山を見上げた時にあきらめた。一方通行で奈良岳から下山できるのなら頑張れないことはないだろう。しかし奈良岳東尾根の仙人岩のトラバース、去年目前にして開津谷へ逃げた地点が通過できる保証はない。
この重い足を引き摺って奈良岳まで行けたとしても、再び赤摩木古山へ戻って来れるのは5時を回っているかもしれない。アップダウンの多い雪稜の連続に心が折れてしまった。今年もまた奈良岳はお預けだ。
踵を返して再び赤摩木古山へ戻る。小広い南側の小ピークに陣取ってランチとしよう。
ここはこれまでに記述してきたすべての眺めを楽しめる絶好の展望台だ。ひときわ黒々とした仙人岩が雪に覆われた山々の中で異彩を放っている。あの稜線を踏破できる日は来るのだろうか。
靴を脱いで渡渉で濡れた足を解放してやる。なんという気持ち良さだろう。快晴、無風。
目的は達成できなかったが、この眺めの中で飲むビールは格別の味わいだ。
食後はあまりの気持ち良さに久し振りに昼寝までしてしまった。
[attachment=1]P1130478_1_1.JPG[/attachment]
起き上がると青空にも翳りが出てきた。白山はすでに雲の中。天気は下降線のようである。
下りは眼下に広がる開津谷右支流源頭のカールへ飛び込もう。崩れた雪庇の切れ目から斜面に飛び降りた。シートを取り出して超ロング滑走のスタートだ。あっという間に景色が後ろへ飛んで行く。何百m滑っただろう。傾斜がなくなったカールの底から見上げる稜線はもう遥かに遠い。
1300mラインで左へトラバースして元の尾根に復帰。再び極上のブナ林を愛でながら歩いた。
牛歩のようなペースでしか登れなかった急斜面も下りとなれば速い。ストックをしまって立ち木、ササの懸垂下降法でぐいぐい下る。
予想通りカタクリは満開だった。急傾斜の不安定な足場で写真を撮ろうとカメラを構えていたらそのまま5mほど滑落してしまった。油断大敵である。こんなところで無理して撮らなくてももっと下の方に撮りやすい群落があるのに。
ほどなく開津谷の雪河原に着地。渡渉も後のことを考える必要もなく、委細構わずじゃぶじゃぶと渡る。このまま曇って行くかに見えた空にはまた青みが増している。振り返れば白無垢の奈良岳が見降ろしていた。
またここを訪れる理由ができた。そう心の中で呟きながらデブリだらけの林道を戻った。
山日和
【日 付】2013年5月5日(日)