【若狭】静寂のブナ林を歩く 庄部谷山
Posted: 2012年11月26日(月) 23:40
【日 付】2012年11月25日(日)
【山 域】若狭 庄部谷山(856.1m)
【天 候】晴れ
【コース】田代9:24---鉄塔10:26---11:55庄部谷山13:13---P677m北鉄塔14:07---どんぐり倶楽部15:20---15:45駐車地
新庄の田代集落のはずれに車を止めた。いつもなら林道奥の関電取水施設まで入るのだが、今日は西麓にあるどんぐり
倶楽部のあたりへ下山する予定である。
駐車地の前には大きな墓がある。それは墓のマンションのような、城のような、墓をてんこ盛りにした珍しいものだった。
車で通り過ぎるだけでは見えないものがある。
[attachment=4]P1090984_1.JPG[/attachment]
右手から入る庄部谷をまたぐ水路が入り口の目印だ。はしごを登って谷沿いの道に入ったところでハタと気が付いた。
タバコとライターを置いてきてしまったのだ。タバコはともかくライターがなければ昼飯の鍋が食えない。幸いなことに歩き始
めてまだ15分ほどだ。取りに戻る以外の選択肢はない。
ここで気が付くとはまだまだ俺も捨てたもんじゃない。今日はついている、ということにしておこう。
30分ほどのロスで試合再開である。このルートは7年ほど前に始めて庄部谷山を訪れた時に、下山でロストした尾根だ。
今日はその検証というわけである。
前回は外した尾根が谷に落ち込み、そのまま谷沿いを下ろう(沢装備をしていた)としたところ激しく雨が降り始めて、瞬く
間に流水が茶色に変わるのを見て隣の尾根にトラバース、植林が出てきたので「しめた」と下っていく内にトラロープが延々
と張られた谷沿いの道に出たのだった。
このトラロープの道は2年前に庄部谷を遡行した時に再確認している。中流域にある集落の取水施設跡への道だった。
しかし去年の水害のせいか、斜面にはトラロープは残っているものの、道の痕跡もないような状態である。7年前に下山して
きてバナナカステラを食べて(こんなことはよく覚えているものだ)ひと息ついた二俣に着く。
このすぐ上に巡視路の標識があった。戻り気味に山腹をトラバース、時々現われるプラ階段が巡視路であることを示している。
グズグズの急斜面はやがて尾根の形になり、急に目の前が開けて鉄塔が現われた。鉄塔の奥はここまでと打って変わっ
て明るい疎林の尾根が続いている。
傾斜が急なことに変わりはないものの、やはり下生えのない自然林は気持ちがいい。まだ標高が低いので黄色く色付いた
木も残っていた。海にほど近いこのあたりの山は、登山口の標高が100m内外しかないのだ。
[attachment=3]P1100024_1.JPG[/attachment]
標高600mを超えると立派なブナが目立ち始めた。
庄部谷山から放射状に派生する尾根上には、いずれも見事なブナ林が展開している。どの尾根を選んでも失望することはな
いが、ここもまたそうだった。この尾根は庄部谷山の顕著な尾根の中では最後の未踏の場所だ。
左から浅い谷が上がってくるあたりの尾根の広がりと素晴らしいブナ達。続く尾根左側の谷筋には5mクラスと目される大き
なトチが目を引く。思わずそばに駆け寄って木肌を撫でた。
このトチは耳川流域の山でも10本の指には入りそうだ。すぐ横には流れがあり水も得られる。
ここはもう庄部谷山頂の直下である。
[attachment=2]P1100038_1.JPG[/attachment]
最後の急登に喘ぐと右から庄部谷奥の左俣のたおやかな源頭が上がって来ている。
何度となく訪れたこの山頂。今日も誰もいない。10回以上登ったこの山でこれまで会ったのはたったひとりだけだ。
北東方向を見ると樹間に真っ白な白山の姿が見えた。やはりあの山は別格だ。
申し分のない快晴無風の空の下、庄部谷奥の右俣源頭に腰を下ろした。
先週から鍋シーズン開幕というわけで、本日はすき焼き鍋。具材の追加をさぼったせいで少々貧弱だが、ビールが美味けれ
ばすべて良しである。ここでライターがないのに気が付いたら卒倒ものだろう。
[attachment=1]P1100055_1.JPG[/attachment]
下山は南西尾根へ入る。最終的には送電鉄塔の立つ351m標高点の尾根に乗るのであるが、これまで歩いたことのない
巡視路を辿ってみるのが目的だ。この尾根は積雪期に使っているが、巡視路は上部で尾根を外れて右隣の谷へトラバース
している。677m標高点近くの鉄塔から道が続いているようだ。この巡視路を利用して庄部谷山へ登るレポが散見される。
こちらとしては道があろうがなかろうが関係ないが、まあ一度ぐらいは経験しておいても損はないだろう。
この南西尾根はそれなりのブナもあり悪くはないのだが潅木が多く、やや雑然とした印象なのがちょっと残念だ。
北尾根や東尾根のようにブナ林が続いていれば、規模の大きい尾根だけにさぞ見ごたえがあるだろう。
それでも特筆すべきブナは数本あり、つまらない尾根ではない。前述の登山コースになっているせいかテープが目立つ。
登りの尾根には1本のテープもなかっただけに余計気になるというものだ。
677m手前の鉄塔まで来た。巡視路は次の鉄塔かららしい。ヘリで荷揚げされた物資がロープの畚に入ったまま置かれて
いた。
2番目の鉄塔から巡視路に入る。さすがに登山道として紹介?されているだけあって、いかにも現役の「道」らしくしっかり踏
まれている。
一段下りた下の鉄塔からは新庄の集落の向こうに若狭の海が広がっていた。対岸には雲谷山。眼下にはまるでSF映画の
要塞のような嶺南変電所の施設が見える。
送電線と鉄塔の利点は、確実に現在位置を把握できることと展望がいいことだけだ。もちろん道があるというのが最大の福
音かもしれないが。こんな人工の巨大な構造物はない方がいいに決まっているが、若狭の山と送電線・鉄塔・巡視路は切っ
ても切れない関係である。この狭い地域に日本で最多の原子力発電所を抱えているのだから。
[attachment=0]P1100083_1.JPG[/attachment]
もう一段下の鉄塔手前から道は右の谷へトラバースを開始した。これまでの「展望だけは良いが」という道と違い、谷を渡
る林間の道に変わった。最初の谷はゴルジュ帯の上部を渡っており、上にも小滝が続いてなかなかの景観だ。
次の45度傾いた鉄橋の架かる谷が351m尾根の上部でほとんど尾根と隣接するように流れる谷の下流だろう。
初めて訪れた時、急登に次ぐ急登を終えて飛び出した平坦地の、すぐ横に水が流れる不思議な光景は実に印象的だった。
トラバースを終えると351m尾根に合流、そこから下は下手な登山道顔負けの立派な道が尾根上に続いていた。
だが、そこから2つ目の鉄塔まで来たところで道は怪しくなった。と言うより消えてしまった。手前で左にいい道が分岐してい
たので、そちらが本来の巡視路なのかもしれない。
ここまで来れば適当に下ればどんぐり倶楽部のあたりへ下りられるのはわかっているので、急斜面をズリズリと強引に下る。
どんぐり倶楽部の屋根が見える林道の橋の袂に下り立った。ここは朝偵察していた林道の終点。100mも歩けば県道に到着
である。
これまで車で素通りしていた新庄の集落を歩く。道端ではおばあさんが水路で洗い物をしていた。
山あいの古き良き集落の面影がここにはあるが、海までわずか15分ほどの距離しかないというのもまたこの集落の特徴だ。
もう何十回訪れただろう。耳川を巡る山々の中心に位置するこの集落は、自分にとって心の故郷とも言える存在になった。
行き先に困った時にはここをベースに野坂岳、芦谷山、庄部谷山、三国山、赤坂山、寒風、大御影山、大日、雲谷山といった
耳川源流域の山々を思い浮かべる。
そしていつでもその懐で期待を裏切ることなくブナやトチ、カツラの大木が出迎え、癒しを与えてくれる。
それが新庄の、耳川の山なのだ。
山日和
【山 域】若狭 庄部谷山(856.1m)
【天 候】晴れ
【コース】田代9:24---鉄塔10:26---11:55庄部谷山13:13---P677m北鉄塔14:07---どんぐり倶楽部15:20---15:45駐車地
新庄の田代集落のはずれに車を止めた。いつもなら林道奥の関電取水施設まで入るのだが、今日は西麓にあるどんぐり
倶楽部のあたりへ下山する予定である。
駐車地の前には大きな墓がある。それは墓のマンションのような、城のような、墓をてんこ盛りにした珍しいものだった。
車で通り過ぎるだけでは見えないものがある。
[attachment=4]P1090984_1.JPG[/attachment]
右手から入る庄部谷をまたぐ水路が入り口の目印だ。はしごを登って谷沿いの道に入ったところでハタと気が付いた。
タバコとライターを置いてきてしまったのだ。タバコはともかくライターがなければ昼飯の鍋が食えない。幸いなことに歩き始
めてまだ15分ほどだ。取りに戻る以外の選択肢はない。
ここで気が付くとはまだまだ俺も捨てたもんじゃない。今日はついている、ということにしておこう。
30分ほどのロスで試合再開である。このルートは7年ほど前に始めて庄部谷山を訪れた時に、下山でロストした尾根だ。
今日はその検証というわけである。
前回は外した尾根が谷に落ち込み、そのまま谷沿いを下ろう(沢装備をしていた)としたところ激しく雨が降り始めて、瞬く
間に流水が茶色に変わるのを見て隣の尾根にトラバース、植林が出てきたので「しめた」と下っていく内にトラロープが延々
と張られた谷沿いの道に出たのだった。
このトラロープの道は2年前に庄部谷を遡行した時に再確認している。中流域にある集落の取水施設跡への道だった。
しかし去年の水害のせいか、斜面にはトラロープは残っているものの、道の痕跡もないような状態である。7年前に下山して
きてバナナカステラを食べて(こんなことはよく覚えているものだ)ひと息ついた二俣に着く。
このすぐ上に巡視路の標識があった。戻り気味に山腹をトラバース、時々現われるプラ階段が巡視路であることを示している。
グズグズの急斜面はやがて尾根の形になり、急に目の前が開けて鉄塔が現われた。鉄塔の奥はここまでと打って変わっ
て明るい疎林の尾根が続いている。
傾斜が急なことに変わりはないものの、やはり下生えのない自然林は気持ちがいい。まだ標高が低いので黄色く色付いた
木も残っていた。海にほど近いこのあたりの山は、登山口の標高が100m内外しかないのだ。
[attachment=3]P1100024_1.JPG[/attachment]
標高600mを超えると立派なブナが目立ち始めた。
庄部谷山から放射状に派生する尾根上には、いずれも見事なブナ林が展開している。どの尾根を選んでも失望することはな
いが、ここもまたそうだった。この尾根は庄部谷山の顕著な尾根の中では最後の未踏の場所だ。
左から浅い谷が上がってくるあたりの尾根の広がりと素晴らしいブナ達。続く尾根左側の谷筋には5mクラスと目される大き
なトチが目を引く。思わずそばに駆け寄って木肌を撫でた。
このトチは耳川流域の山でも10本の指には入りそうだ。すぐ横には流れがあり水も得られる。
ここはもう庄部谷山頂の直下である。
[attachment=2]P1100038_1.JPG[/attachment]
最後の急登に喘ぐと右から庄部谷奥の左俣のたおやかな源頭が上がって来ている。
何度となく訪れたこの山頂。今日も誰もいない。10回以上登ったこの山でこれまで会ったのはたったひとりだけだ。
北東方向を見ると樹間に真っ白な白山の姿が見えた。やはりあの山は別格だ。
申し分のない快晴無風の空の下、庄部谷奥の右俣源頭に腰を下ろした。
先週から鍋シーズン開幕というわけで、本日はすき焼き鍋。具材の追加をさぼったせいで少々貧弱だが、ビールが美味けれ
ばすべて良しである。ここでライターがないのに気が付いたら卒倒ものだろう。
[attachment=1]P1100055_1.JPG[/attachment]
下山は南西尾根へ入る。最終的には送電鉄塔の立つ351m標高点の尾根に乗るのであるが、これまで歩いたことのない
巡視路を辿ってみるのが目的だ。この尾根は積雪期に使っているが、巡視路は上部で尾根を外れて右隣の谷へトラバース
している。677m標高点近くの鉄塔から道が続いているようだ。この巡視路を利用して庄部谷山へ登るレポが散見される。
こちらとしては道があろうがなかろうが関係ないが、まあ一度ぐらいは経験しておいても損はないだろう。
この南西尾根はそれなりのブナもあり悪くはないのだが潅木が多く、やや雑然とした印象なのがちょっと残念だ。
北尾根や東尾根のようにブナ林が続いていれば、規模の大きい尾根だけにさぞ見ごたえがあるだろう。
それでも特筆すべきブナは数本あり、つまらない尾根ではない。前述の登山コースになっているせいかテープが目立つ。
登りの尾根には1本のテープもなかっただけに余計気になるというものだ。
677m手前の鉄塔まで来た。巡視路は次の鉄塔かららしい。ヘリで荷揚げされた物資がロープの畚に入ったまま置かれて
いた。
2番目の鉄塔から巡視路に入る。さすがに登山道として紹介?されているだけあって、いかにも現役の「道」らしくしっかり踏
まれている。
一段下りた下の鉄塔からは新庄の集落の向こうに若狭の海が広がっていた。対岸には雲谷山。眼下にはまるでSF映画の
要塞のような嶺南変電所の施設が見える。
送電線と鉄塔の利点は、確実に現在位置を把握できることと展望がいいことだけだ。もちろん道があるというのが最大の福
音かもしれないが。こんな人工の巨大な構造物はない方がいいに決まっているが、若狭の山と送電線・鉄塔・巡視路は切っ
ても切れない関係である。この狭い地域に日本で最多の原子力発電所を抱えているのだから。
[attachment=0]P1100083_1.JPG[/attachment]
もう一段下の鉄塔手前から道は右の谷へトラバースを開始した。これまでの「展望だけは良いが」という道と違い、谷を渡
る林間の道に変わった。最初の谷はゴルジュ帯の上部を渡っており、上にも小滝が続いてなかなかの景観だ。
次の45度傾いた鉄橋の架かる谷が351m尾根の上部でほとんど尾根と隣接するように流れる谷の下流だろう。
初めて訪れた時、急登に次ぐ急登を終えて飛び出した平坦地の、すぐ横に水が流れる不思議な光景は実に印象的だった。
トラバースを終えると351m尾根に合流、そこから下は下手な登山道顔負けの立派な道が尾根上に続いていた。
だが、そこから2つ目の鉄塔まで来たところで道は怪しくなった。と言うより消えてしまった。手前で左にいい道が分岐してい
たので、そちらが本来の巡視路なのかもしれない。
ここまで来れば適当に下ればどんぐり倶楽部のあたりへ下りられるのはわかっているので、急斜面をズリズリと強引に下る。
どんぐり倶楽部の屋根が見える林道の橋の袂に下り立った。ここは朝偵察していた林道の終点。100mも歩けば県道に到着
である。
これまで車で素通りしていた新庄の集落を歩く。道端ではおばあさんが水路で洗い物をしていた。
山あいの古き良き集落の面影がここにはあるが、海までわずか15分ほどの距離しかないというのもまたこの集落の特徴だ。
もう何十回訪れただろう。耳川を巡る山々の中心に位置するこの集落は、自分にとって心の故郷とも言える存在になった。
行き先に困った時にはここをベースに野坂岳、芦谷山、庄部谷山、三国山、赤坂山、寒風、大御影山、大日、雲谷山といった
耳川源流域の山々を思い浮かべる。
そしていつでもその懐で期待を裏切ることなくブナやトチ、カツラの大木が出迎え、癒しを与えてくれる。
それが新庄の、耳川の山なのだ。
山日和