【山行日】2020年11月22日(日)~23日(祝)
【山域】台高南部・又口道~龍辻~出口峠道
【天候】晴れ時々曇り
【メンバー】タイラ、アオバ*ト
【ルート】
22日 又口橋8:25、林道終点9:10、北山索道古和谷駅跡13:50~14:50、
県境稜線1170南東尾根乗越(テント場)15:40
23日 テント場7:55、龍辻9:15~9:45、出口峠11:30、林道終点14:40、
又口橋15:35
11月下旬、小春日和の週末。今年最後のテント泊。
行きたい場所は、ただ一つ。
尾鷲道の稜線上にある「龍辻」。もう一度きみに会いたい。
同じ場所に何度来ても、見ているようで見ていないもの、たくさんあるなと、思う。
カメラのシャッターを切れば切るほど見ていないなとも思う。
だから今日は、自分の目で一生懸命見よう。
又口橋の橋の上から見える風景。打ち捨てられた小屋の残骸。伐採されて剥き出しになった斜面。山の神さまの祠。庚申塚。
置き去りのままの重機。無造作に作られた新しい林道。右岸斜面から染み出す湧水。谷の中の様子。対岸の杣道らしき。林道右岸の石の壁。
今年、今日で5回目。この林道もけっこう気に入っている。
いつものように林道終点から水道管巡視用の階段を下りて金属パイプの桟橋を通過する。
タイラさんが、最初の桟橋が付け替えられていると言う。わたしはそれにはちっとも気が付かなかった。
植林の合間から、「また来たね。上で待ってるよ。」と、“りゅう”が顔を出した。
朽ちた吊り橋の手前まで、右岸の道は今もすばらしい石垣道が残っている。
トラロープにつかまって川床に降りて飛び石で渡渉。やっかいなのはここから。
大きなザックで左岸の崩れかかった段差を登るのはけっこう緊張する。左岸は道の崩れ方が激しい。
岩盤が脆いのか。・488付近で柳ノ谷から離れて山腹をつづらに上がって行く。
・1112へ向かう尾根を回り込んだところから石垣の水平道。道抜けしているところをドキドキしながら通過して支流に降りて一服。
この先のガレた支流を右へ左へ渡りながら高度を上げていく道は道の形をとどめておらず、以前よりさらに荒れ果てていた。
最後の二俣で支流の左岸の小尾根に取りついて二度ほど切り返して、やっと県境稜線を古和谷へ乗越す。
柳ノ谷本流から離れてここまでの区間は、もとより植林地帯であまり美しくない。それでこの荒れ果てた様子、なんだか悲しくなった。
県境を乗越して、前回は強引に沢中へ降りてしまったが、索道駅跡にうまく下れる道型が残っていないだろうかと探しもって、
少し高いところをトラバースしてみる。なんとなく道型のように感じるところもあったが、けものみちだろうか。
駅跡は、空に雲が多いせいか寂寥感が大きかった。お湯を沸かし、ひと休みして、水を汲んで涸れ沢を登って行く。
源頭に近づくにつれ、ブナやヒメシャラやホウの混生疎林の森が美しい。
澄んだ冷たい空気と落葉して裏返ったホウの白い葉が、くすんだ色合いの森の美しさを際立たせる。
いったん稜線に上がり、進行方向と反対側に歩いて行ってみる。小さな車輪がいくつか転がっていた。索道なので、車輪でなくて滑車だろうか。
南へ向かって稜線のすぐ左手、古和谷右岸の高いところに巻き道が続いている。こんな高いところに巻き道があったのか。
再び古和谷へ戻って行きたくなるが、にわかに風が強くなってきて、あきらめてテント場に向かう。
前回も書いたけれど、ここから、県境稜線1170の南東尾根を乗越すところまで、
古和谷の源流部を見下ろしながら続く、広葉樹の美しい疎林の巻き道が本日のハイライト。
葉っぱを落とした広葉樹の、新芽を内包した枝が、空気を含んで綿毛のようにふんわりと谷間に浮かぶ。
風が吹こうが立ち止まってうっとりする。
ここもずっと憧れていた場所。そして乗越の東の小さな楕円の平坦地が今宵の宿。
北側は植林でちょっと狭いけど、南はブナの木。枝越しに龍ノ高塚の端正な姿が眺められる。
それにしても、風が強くなってきた。やっぱりテントは谷中で張るべきか。飛ばされそうになりながらやっとのことでテント設営。
風が強すぎて夕陽を眺めながら乾杯は叶わず。テントの中で、ささやかにアオバ*ト食堂開店。
豪華メニューはないけど、幸せなひととき、白ワインで乾杯。
夜中は大風が吹き荒れる。ずっと出口峠道のことが気になっていた。ここまでの又口道は、以前にも増して荒れていた。
果たして出口峠道は通過できるのだろうか。明日、龍辻から柳ノ谷右岸の稜線を出口峠まで進んでしまうと、もう後戻りできない。
後戻りはできても、日が暮れて帰れなくなる。少し気弱になって眠りにつく。
風は朝になっても、弱まったかと思うとまた吹き荒れる。タイラさんが小雨まで降ってきたと言う。
一気にテンションダウン。せっかく早起きしたのに、またテントの中でグズグズ。
もう7時、きのう来た道引き返そうか。悲しい気持ちでノロノロと片付けて外に出る。すると、雲が流れて青空が広がってきた。
再び、半ば崩れたスリリングなトラバース道が始まる。いったん始まると夢中になって、もう引き返すなんてできなかった。
木の枝や根っこにつかまって確実に足さばきする。夢中になりすぎてのどがカラカラになった。ひと休みしてジオグラフィカを見る。
龍辻のちょうど真下にいる。「ねぇねぇ、左の尾根登ったら、この上が龍辻だよ!ちょっと急だけど、登ってみない?」
ヤブはないと思う。アセビの茂みが点在するだけだ。逆にアセビの茂みにつかまって登れば、きっと登れる。
標高差はたった100m。あと半分の危ういトラバース道を行って、又口辻からの尾根を登るより、30分は短縮できるだろうし、
少しは前回と違うことをやってみたい。海に面した側から直登するって、きっとすばらしいにきまってる。
少し登って、よしよし行けるぞ。アセビをつかんで、ワシワシ登る。
振り返ると、海が光っていた。
見上げると、青空に吸い込まれていくように弧を描く小さなコルが美しかった。
目に映るすべてのものがすばらしく、そして愛しかった。
龍辻から出口峠へ向かう。時間はまだ10時前。青空が広がっている。“りゅう”が勇気をくれた。
龍辻から南へ少し下って西へ分かれていく柳ノ谷の右岸の尾根は、なかなか爽快感溢れる楽しい尾根だ。
柳ノ谷側はヒノキの植林、坂本ダム側は自然林。途中、ひと休みするのにちょうどいい、すてきな舟窪状の小場があった。
程なくして林道終点から見える1110ピークへさしかかる。
前回は巻き道にこだわり、ダム側をトラバースした。巻き道はいつのまにかわからなくなり、たいへんなアルバイトを強いられた。
今回は尾根芯を行ってみる。天秤竿の魚売りは、いったいどこを通っていたのだろう。
尾根芯は思いのほか快適に歩けた。柳ノ谷側は伐採されて展望が開ける。柳ノ谷左岸の1112西面の崩壊ぶりは凄まじかった。
1110直下、ダム側にめずらしい低木の群落があった。どこかで見たことがある。沈丁花ではないのか。沈丁花なんて山に自生するのだろうか。ピークより再び柳ノ谷側は植林地となるが、痩せ尾根の尾根芯ダム側には伐採を免れた美しいブナの大木があった。
出口峠には何の標もない。古びたテープのマーキングがあるだけだ。
坂本ダム側へは、すてきな自然林の巻き道が続いていて辿りたい気持ちがわいてくる。しかしダムの真上は難儀な道なのだろう。
暗い植林の中、又口側へ入って行く。植林の中を何度か切り返すと岩盤の壁に沿う石垣道が現れる。前回よりやや荒れた感もあった。
崩壊した斜面に張り付いて根っこにつかまり通過したところも一箇所あった。
それでも、何度歩いてもこの道の存在感には圧倒された。すばらしい道だ。
駒ノ滝を遠望して、水道管の尾根を下る。古い切り株を目印にして照葉樹のヤブの中、斜面に近い尾根を下って行く。
最後は尾根芯を外して異形の老木に導かれて又口道に降り立った。
“りゅう”が待っていてくれた。良かった、今日もちゃんと帰れた。
「お帰り、よう歩いたね。」
「ありがとう。また来るよ。」
アオバ*ト