【日付】2019年11月2日(土)~4日(祝・月)
【山域】台高・笹ヶ峰~千石山~池木屋山
【天候】2日晴れ、3日晴れのちくもり夜雨、4日濃霧のち晴れ
【メンバー】Kちゃん、Iさん、アオバ*ト
【ルート】
2日:大又7:35、明神平9:50、△千石山12:35、千石山南テント場13:35
3日:テント場6:50、赤グラ山7:50、池木屋山9:30~10:00、テント場12:00~13:00、△千石山13:45、P1367北ビバーク地14:50
4日:ビバーク地6:50、奥山谷水場界隈9:15~9:50、大又11:45
11月の1週目、今年最後の三連休、今回は2泊3日テント泊でおさらい会。
千石山の南のテント場めざしてがんばりますよ。
メンバーは、Kちゃんと、Iさんと、アオバ*トの生徒会三人組。生徒会というのは、同じ師匠に弟子入りしていたことがあるので。わたしが勝手につけた名前。頼もしい沢屋のTさんは残念ながら所用でお休み。生徒会メンバーは未熟者ばっかりだけど、三人集まればなんとかなるでしょ。
荷物を極力軽くして行こうねと言っていたのに、家を出る前にザックを計ったら16キロを超えている。これはヤバくないですか。共同装備の少ないKちゃんに少し持ってもらおうと思ったら、なんとKちゃんも17キロ。ビールとワイン背負ってさらに夕食も作ってくれると言うIさんは、なんと21キロ。アオバ*トも17キロ背負うしかなくなった。
いつもより30分多くかかって明神平。みんな、ようここまで来られたね。渡渉の緊張感で重さの感覚マヒしてしまったのか。小屋裏にはすでにテントが幾張りか。今夜はにぎやかになりそうだ。ここも大好きな場所だけど、われらは、さらなる別天地をめざして先へ進む。木々の梢がすっかり葉を落とした稜線は、眩しいほどに明るくて、遥か奥駆道まで見渡せる。どこまでも青い空と稜線を吹き抜ける心地よい風。高揚感ハンパない。すばらしい展望にうっとりしたら、恐竜ベンチで写真を撮って、落ち葉の絨毯のブナの森に迷いこむ。
きょうはどこで休憩しようか。やっぱり瀬戸越のピークかな。ザックおろしておやつタイム。そうそう、次のピークもすてきなところだったんだ。すべての場所を覚えていたくて、なかなか先に進めないけど、やせ尾根をやり過ごしたら、もう本日のハイライト千石山の直下。ここは登るのがほんとに楽しい!前を行くふたりに振り返ってごらんと教えてあげる。すばらしい時間を共有できる仲間がいることに感謝する一瞬。三角点にタッチして小さな岩場を乗り越え、未知の領域南斜面の下りにかかる。もうすぐビールで乾杯できる。期待が最高潮に達すると思いきや三分の一ほど下って、三人とも、このテン場に行く人の少ない理由を徐々に理解する。果たして、明日、池木屋山を往復した後、この斜面を登り返して来られるのだろうか。大丈夫、明日は明日の風が吹くさ。水の音が聞こえてきた。小さなコルから沢へ下って、水を汲んで原っぱに上がり、テン場を探す。どこも斜めっているけど、原っぱの隅っこの大きな楓の木の下に、ちょうどいい場所ミッケ。
こんなにお天気いいのに、こんなに水もいっぱいあるのに、誰もいない。誰も来ない。三人だけの貸し切り。ソーセージ焼いて、シイタケ焼いて、ガーリックふりかけてフランスパンも焼いて、何はともあれビールで乾杯。たき火して、他愛のないおしゃべりして、楽しい時間は瞬く間に過ぎていく。満天の星空、真夜中になっても飛行機がいくつも通り過ぎて行った。
明けて二日目、曇り予報のはずだったのに、空が明るい。ラッキー。テントと荷物置いて、小さなリュックで池木屋山に向かう。Iさんが、今晩もビール1缶ずつとワインも半分残ってるからねと言う。ひえ~、ビール6缶も背負って来たのか。
目の前に赤グラ山が立ちはだかるが、荷物が軽いってすばらしい。小さなピークをガンガン越えて6つ目のピークで振り返ると超絶景が開けた。わたしたちは、なんて山深いところにいるのだろう。幾重にも重なる山並みとゆるゆるとガスが沸き上がる深い谷。そして千石山の全貌が正面に迫る。きのうあんなに急なところを下って来たんだね。あ、原っぱの隅っこにわたしたちのテントも見えてるじゃん!
雑然とした赤グラ山のピークから藪をすり抜けて下り口を探す。気持ち良い尾根道が千里峰までずっと続いていた。黒地に白い文字の二つに割れた千里峰の山名板が、わたしがひと月前に合わせて置いたそのまま静かに横たわっていた。また来たよ。大好きな場所。ひと休みしたら、少し飛ばして行きますか。奥の平峰で水場を探すが、見つけられずに先を急ぐ。小屋池が見えてきた。池木屋山直下。この間来た時と雰囲気は全然違う。眩しいほどの太陽の光がブナの森に降り注ぐ。今日も山頂には誰もいない。誰もいないけど、森の精はやっぱり舞い降りてきて、わたしたちと一緒になって、順番子に木に登って遊ぶ。Kちゃんが金曜日に早退して焼いたフルーツケーキをほおばる。すてきな三人掛けのベンチに誘導してくれる。やっぱりここは世界が違う。
ひとしきり遊んだら、ブナの森を駆け降りて、一気に霧降山まで飛ばす。空身といえども疲れてきたなぁ。再び赤グラ山から、小さなピークを6つ越えるのが堪えた。
水場を渡ってテント場に戻る。もうこれで本日の営業終了したかったが、休憩もそこそこにテントを撤収して今夜のテント場に向かう。予備の水を1.5ずつ汲んで行く。半日空身で歩いたので、重さのギャップが大きい。カメのようにしか歩けない。やっとのことで斜面を登り切って千石山のピークまで戻る。次第に雲が多くなり、風が冷たく吹き付ける。
IさんとKちゃんが、ヒキウス平まで行くのはあきらめて、笹ヶ峰でテントを張ろうと言う。3時頃にはテントを張ってビール飲んで、きのうみたいにテントの夕べを楽しみたいと言う。それもそうだな。がんばれば5時までにはヒキウス平に着くかもしれない。でも瞬く間に暗くなる。暗くなってテント張って、疲れ切って夕食の段取りしても楽しくない。よし笹ヶ峰でテント張ろう。独標のピークから下ったところのブナの森がいちばん美しかったはずだ。そうと決まれば足取りも軽くなる。大きなブナが根を広げて倒れている。風が吹いたら、あそこに身を寄せよう。そんなことをチラリと考え、稜線から少し東へ下りた。ここは、赤グラ滝谷の源流部だったろうか。水は流れていないが、汲んできた水がある。ここでビバークしよう。
今日もビールで乾杯。おつまみ作って、パスタゆでて、デザートも食べて、たき火をおこして語り合う。今日は星空はないけど、宝物のような時間が流れていく。明日は、ヒキウス平に行って、谷に降りて南から奥峰に登るよ。奥山谷の二股にも行こうね。
いつ雨が降り出したのか、わからない。何かの足音が聞こえたのは、雨が降り出す前だったのか、雨が降り出してからだったのか。こんな時間に誰か歩いているよ。誰だろう。あれ、どこ行ったのかな。霧雨がテントを濡らし続ける。稜線の向こうで恐ろしいほどの風が沸き上がる音がする。ここは稜線から反対側に少ししか下りていないのに、ほとんど無風状態だ。ただ雨がテントのフライを濡らしている。どうして、ゴウゴウと凄まじい音を立てている風がこちら側には舞い降りて来ないのか。不思議な気持ちに包まれたまま、夜が明けた。
雨は止んでいたけど、辺りは真っ白だった。濡れたテントを片付けながら、何気なくふたりに聞いてみた。「きのう、なんか足音せんかった?」
Kちゃんが、「した!わたしとアオバ*トちゃんのテントの間を歩いて行って、わたしのところには来なくて、アオバ*トちゃんのテントにファスナーを開ける音なく入って行った!」一瞬、、Kちゃんの横顔に目が釘付けになった。しばらくふたりで大騒ぎしたあと、Iさんが、驚きながらも、「なんでKちゃんところに入っていかんで、アオバ*トちゃんのテントに行ったんかな。Kちゃんのことが怖かってんな。」とジョークを飛ばした。現実なのか、非現実なのか、フツーには怖い話のような気もするけど、三人で大騒ぎしているうちに、なぜか笑えてきた。
出発前、Iさんが、たき火の跡をきれいに片付けてくれた。Kちゃんは、神妙に「お邪魔しました。ありがとうございました。」と言っていた。わたしは、見えないシェルターを見上げて、ザックを背負った。
ガスの中、だんだん晴れることを期待して、ヒキウス平に向かった。主稜線から離れたのに、風がびゅんびゅん吹き付けた。判官平の手前の倒木が散乱する場所で、倒木を風よけにして、バーボン入りのフレンチトーストを作って食べた。なんかぜんぜん晴れないね。寒いし、もう帰ろっか。温泉入って、お昼においしいもの食べて帰ろう。あっさりあきらめる。わたしたちは、どこかにたどり着くことだけが目的じゃない。見せてあげたいものが見られないならば、行っても仕方がない。また来ればいい。
トラバースして、谷の際に沿って歩いて水場に立ち寄る。荷物を置いて少しだけ奥山谷を下った。谷はまだ黄葉が残っていて美しかった。ガスで真っ白な明神平は、いくつも焚火の残骸を残して誰もいなかった。
つづら折れから谷へ下るベンチで休んでいると、丸太を渡ってふたり連れのおっちゃんたちが登ってきた。「大きい荷物やなぁ。何処行ってきたん。」「千石山越えて池木屋山まで行ってきた。」「大きな荷物でようけ歩いてきたなぁ。」
そんなに感心されるほどようけ歩いたわけでもないし、すごいことやってのけたわけでもないし、三日目は思い通りにいかんかった。
でも、三人とも、このテント泊のことは、簡単には忘れないだろうなと、思う。
アオバ*ト