2019年5月25日(土)晴れ 奥美濃・東前の谷〜花房山
そばつる 兔夢
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花房山登山口駐車場7:00ー水呑9:20〜50ー
花房山山頂11:45〜13:00ー駐車場14:50
ここ数年、沢を始めるのが遅くなった。今年もスキーに引っ張られなかなか沢に行けない。でも、流石にそろそろ。
どこがいいだろう。以前はあそこに行きたい、ここに行きたい、で満杯だったが今は考えないとなかなか行き先が出てこない。
face bookで山芍薬が話題になっていた。それを見て花房山の東前の谷を思い出した。以前、咲いているのを見かけた事がある。花を見る目的で沢に登るのもいいだろう。ちょっと時期が遅いかもしれないがそばつるを誘って東前の谷へ向かった。
東前の谷は12年振り。12年前はとっちゃん、SHIGEKIさん、そしてそのお友達二人の5人パーティで出掛けた。沢を初めて2年目だった。その一年前には初めての沢登りのルートとして単独で登っている。ヘルメットもロープももちろんハーネスもない、沢道具といえば沢靴のみの今から思うと危険きわまりない山行だった。更にはルートを間違えて予定外の尾根へ登り上げている。今誰かが同じ事をしたと知ったらきっと開いた口が塞がらない。そんなかつての未熟な遡行を思い出しながら東杉原に到着。廃寺跡の裏にある駐車スペースに車を置き、少し肌寒さを感じる中、谷沿いの林道を奥へ向かう。
12年前、林道は途中で崩れた土砂に埋まっていた。そこを乗っ越して奥に進んだ記憶があるが、改修されていて崩れていたのがどこだったかすらわからなかった。左岸に渉る橋の手前にはかつてはなかった沢に下る道ができていた。そこを降りてすんなり入渓する事ができた。
橋をくぐり抜けると新緑と苔に彩られた谷が迎えてくれた。のっけからのすばらしい渓相に感嘆の声がもれる。過去の記憶よりずっと良かった。
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下部には滝はない、と思っていて、そばつるにもそう話していたのだが巨岩の重なる滝が幾つも豪快に落ちていた。12年前の僕は一体何を見ていたのだろう。ひょっとしたらこういったものを滝として認識していなかったのかもしれない。
苔むした岩、左右の樹林。澄んだ流水。美しい光景が続く。12年前、同行のSHIGEKIさんが「いいですなあ」を連呼していたのが今ようやく納得がいった。
ふと見ると不思議な岩があった。灰褐色をしていて表面は細かい貝の化石の様な窪みや出っ張りがあり、下部の岩と層をなしている。いったいどうやって形成されたものなのだろう。粘土が固まったものなのだろうか。
そばつるは後ろで「赤い岩が多い」と言っている。そう言われればそうだ。これはチャートだろう。ということはプランクトンの堆積したものだからもともとは海の底だったという事か。とすれば先ほどの不思議な岩の成り立ちも海の底に由来したものだろうか。色々と想像が膨らみ楽しい。
岩の重なった滝は所々に潜り岩を作っている。見ているうちにひとつくらい潜り抜けたくなった。そばつるは避けたが僕は一つをシャワークライミング。水温は低いが気持ちいい。こういう遊びはテンションがあがる。
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谷は西に開けているので朝の陽が入るのが遅れる。ようやく差し始めるとその作り出す陰影が沢をより深い印象にする。久し振りに触れた沢の息づかいが心地よい。
かつらの匂いがするとそばつるがいうので見れば意外と桂が多い。独特の香りが鼻腔をくすぐる。どこかのワンダーランドにはかなわないけど素敵な樹相だ。
12年前、遊びで直登した三本滝に注意していたのだが見当たらない。そうこうするうちに500m辺りで伏流してしまった。12年という歳月の中で埋もれてしまったのだろうか。
穏やかな斜面に広がる樹林を見ながら掘割の様な涸れ沢を進む。ここだけでも癒されるが更に上にはもっと広々とした台地が迎えてくれる。一旦、巨岩の積み重なったガレ沢を急登。振り返れば西側にミノマタの稜線が一筋のラインを引く。
斜度を増すガレを登りきり最後の一登を終えるとすばらしい平が迎えてくれた。「水飲」と呼ばれる台地だ。
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「水飲」という名の由来はこの台地で水流がまるで大地に飲まれるように消えてしまうかららしい。台地自体が土砂やガレが堆積してできているから吸い込まれて伏流するのだろう。NHK「ブラタモ」でよく出てくる山体崩壊や深層崩壊などの結果できた台地なのかもしれない。
期待した山芍薬はこの台地の一角で見た覚えがある。そこに行ってみると株はあるものの花は既に終わっていた。もう一週間早ければなんとか間に合ったかもしれない。残念ではあったが花はなくともこの台地に広がる森のすばらしさは変わらない。
グリーンシャワーを浴びながらしばしの休憩。寝転んで見上げると、淡い緑が重なる中にのぞく青空を薄い雲が流れていく。許されるならずっとこのまま過ごしていたい空間だった。
奥に進むと涸れた沢に水が戻ってくる。沢は左右が立ち一旦狭まる。そこを抜ければ沢グルミの森が迎えてくれた。日差しと森の影のコントラストが鮮やかで妖精でも現われそうな雰囲気だ。
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再び両岸が狭まると沢が立ってくる。わずかで二俣に出て左奥に10m越えの大滝。沢デビューの時はここで間違えて大滝越えをした。進むのは雑然とした感じの右だ。沢登りとしてはここからが本番となる。
12年前、とっちゃんが先頭でスルスルと登っていった滝。凄いなあ、と感心したものだ。今でも初登だったらとっちゃんの様に躊躇なく登る事はできないだろう。上部の状態が今一わからないからだ。もちろん、今回は二度目で上部の状態がわかっているから登る。
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岩場の急登が続く。久し振りの本格的な沢登りで楽しくなってきた。左手を落ちる滝はフルシャワーなら登れそうだがその上の一条滝と一緒に巻いた。この気温なら積極的にシャワークライミングしても良かったかもしれない。
多段10mくらいの溝状の滝は12年前、一番上を傍らの樹木の枝を使って回避した。今回はこれをシャワークライミング。真ん中辺りのスタンスが微妙だったが切り抜けた。気温が高くなって濡れても全然平気だ。シャワークライミングをするとは思わなかったらしいそばつるも続く。
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テンションがあがったところで次の巨岩の間を落ちる滝ではそばつると交替で打たれた。そばつるは打たれているようだけど本当は打たれてなかったらしい。僕は本当に数分打たれて写真を撮ってもらった、はずだったのだが一枚も写っていなかった…
左岸の岩場にできたバンドを登って越えていくと上は溝の様なゴルジュが続く。難しい滝はなくなったがこれでもかというほど小滝が現われる。時には小型の淵もあり練習を兼てへつって遊んだ。最後に現われた大きな斜瀑は上に広がる樹林帯に入る最後の関門のようになっていて展開の格好よさに唸らされた。
斜瀑を登って左に折れると沢は感動するほど劇的に表情を変えた。左右に広がる樹林に挟まれて廊下のような沢がしばらく続く。その穏やかさに癒されていく。
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左岸斜面に笹が広がると癒しの森は終わり最後の核心部、薮沢となる。しかし、それほどきつくはなく思ったより詰めも素直だった。ただ、最後の逆相灌木帯がややきつかった。カラッとした陽気なのでそれほど体力を消耗せずに澄んだが夏場だったらヘトヘトだろう。灌木帯をかき分けて数分で登山道に出た。
わずかで山頂に出る。きれいな三角点が迎えてくれる。展望はよく、奥美濃の山々が連なる。遠くにはまだ白い白山が浮かんでいた。
この山頂は何時来ても何故だか落ち着く。僕が死んだらこの山頂に遺骨を撒いてくれと冗談も飛び出す。
休憩していると二十歳くらいのお嬢さんとそのお母さんが登ってきた。フライパンで手料理を作って楽しげだった。すばらしい天気なのに本日訪れたのはこの親子だけだったらしい。猛暑が予想されていた今日、他の登山者達はもっと涼しいところを求めていっただろうか。
下山は登山道を下った。急斜面を下ってしばらくして先ほどのお嬢さんが走ってきて僕らに追いついた。手には僕のウエストポーチ。山頂で外して忘れたのだ。彼女は僕がお礼を言い終わるか終わらない前にまた駆け上がっていった。ありがたく親切な行為だったがこちらの事は警戒していたみたいだ。沢登りする変なおっさん二人は流石に怖い…
途中の数年前に崩壊した場所は覗き込んでみたがその後崩壊が進んでないように見えた。これで落ち着いてまた森になるといいのだが。長い年月がかかるとは思うが。
令和沢はじめは、癒しあり、シャワーあり、劇的変化ありでとても楽しく満足のいくものとなった。こうなると沢に行きたくてウズウズしてくる。