- シャクナゲ
3年前の5月に3泊4日で台高(高見山~大台ケ原)を縦走した.半年前にテントを買ったばかりで,今から考えると無謀以外の何物でもなく,よく生きて帰れたと思う.池小屋山から南に入った途端に,これまでとは空気がガラッと変わったことを覚えている.それまでは人間の匂いのする登山道だったのが,道は踏み跡程度になり,朽ち倒れているブナの巨木を避けながら歩くことになる.これから先は神の住みたもう世界なのだと思った.今,その台高南縦走路に3年ぶりに足を踏み入れようとしている.楽しみなような,怖いような.台高には人にそんなことを考えさせてしまう魔力がある.
【 日 付 】2012年5月12~13日
【 山 域 】台高
【メンバー】O氏、シュークリーム
5月12日(1日目)
【 天 候 】曇り時々晴れ、強風
【 ルート 】No.14鉄塔巡視路 7:50―9:00 No.13,14鉄塔巡視路合流―12:05 ウグイ谷高―12:20 昼食 12:40―13:15 中井高―14:25 台高主稜線―15:00 ブナノ平(テント泊)
道の駅おおだいでO氏と6時半に待ち合わせる.下山口と入山口を自転車でつなごうかとも思ったのだが,O氏とはしばらく一緒に山を歩いていなかったので,久しぶりにどうかと思い声をかけたら一緒に行ってもよいということだった.いつもながらありがたいことだ.
大和谷橋を渡ったところの下山予定地近くのスペースに私の車を置き,入山口に向かう.入山は美濃ヶ谷手前のNo.14鉄塔巡視路だ.カーブミラーの横に2,3台分の駐車スペースがある.7時50分,出発.
O氏は昨年9月以来のテン泊山行だそうで,調子が出てくるまでにしばらく時間がかかりそうだ.30分ほどでNo.14鉄塔に出た後,道は踏み跡になるが,尾根芯を外さなければ迷うことはない.
シャクナゲが咲く道を楽しみながらゆっくりと登っていく.途中,等高線の込み合っているところが2,3か所あり,そのような所は木の根や岩につかまって登る.日帰り装備であれば何の苦もないのだが,テン泊装備を背負っているのでO氏は苦しそうだ.
850mあたりで一旦傾斜の緩い痩せ尾根になるが,900mあたりからまた急登となり,ぜいぜい言いながら登りきると1153mピーク横の稜線に出る.稜線に出たとたんに西からの強風にまともにあたることになり,体温が奪われるので雨具をつける.連休前半の暖かい山行と比べると季節が逆戻りした感じだ.
ここからウグイ谷高に至る稜線の道は,天気が良ければ気持ちのいいところだと思うが,何せ冷たい風が吹き付けているので,とても快適とは言えない.12時にウグイ谷高頂上着.予定のコースタイムはここまで4時間なので,ほぼ予定通りだ.寒いので記念写真を撮りあってすぐに頂上を辞し,風の当たらないところで昼食にする.
このあとは多少のアップダウンはあるものの気持ちの良い稜線歩きだ.1か月前に下見に来た中井高を過ぎ,台高主稜線に向かう.この道も痩せ尾根ではあるものの,大したアップダウンもなく順調に歩くことができた.むしろ道迷いするような地形ではないので,安心だ.
ウグイ谷高から2時間ほどで台高主稜線に出る.台高主稜線手前の1280mピークは自分にとって思いの強い場所だ.3年前,父が谷の高で右折すべきところをなぜか左折し,1280mピークまで来た.これまでの台高縦走コースでは屈曲点は常にピークにあったので,ここでもピークで方向転換するものと思い込んでいたのだ.ここから南西に下ることは覚えていたので,1280mピークから南西に伸びる尾根を下りてしまったのだった.テープがないなと思ったのだが,何度コンパスをチェックしても南西方向で間違いない.おかしいと思ったのは,隣の尾根がいつの間にか自分が歩いている尾根よりも高くなってからだった.
道を間違えたと思ったとたん,顔から血の気が失せ,下ってきた尾根を重いテン泊装備を背負って全力で戻った.道を間違えてから父が谷の高に戻るまでに2時間が経過していた.その日の行程は大台辻までは十分に行けるはずだったのだが,引水サコまで来て力が尽き果て,そこで3日目のテン泊をしたのだった.父が谷の高に再び来て,3年前と同じ道標を見た.なぜあの時に,道標を確認しなかったのだろうか.先日の雨子庵さんの遭難話はとても他人ごととは思えなかった.
台高主稜線を30分ほどで,テン泊予定地のブナノ平に到着.無人雨量観測所は3年前と同じで,懐かしかった.雨量観測所のコンクリートの平面に2つのテントを張り,今夜の宿にする.ここは風も当たらず,午後になって日が差してきたので,天国のようなところだ.雨量観測所のすぐ裏手に水場があり,水量も十分だ.3年前に通った時から,ここで一度テントを張ってみたいと思っていたのが,ようやく実現した.いつもの焼肉,焼野菜で夕食をとり,冷えてきたので,7時にはテントに入った.夏用シュラフとシュラフカバーではちょっと寒かったが,眠れないほどではなかった.
- 雨量観測所の前に張ったテント
5月13日(2日目)
【 天 候 】快晴
【 ルート 】ブナノ平6:20―7:25 湯谷の頭―8:00 山の神の頭―9:00 縦走路分岐―9:50 林道出会い―11:40 大杉国見山―12:00 昼食 12:30―13:35 No.6鉄塔―13:50 No.7鉄塔―14:40 大和谷橋駐車地
朝4時半起床.風は収まり,よい山行日和になりそうな予感.気持ちの良いテン場を提供してくれたブナノ平に感謝しつつ,6時半ころ出発する.山の神の頭までは急なアップダウンが続く.岩場には固定ロープも付けられている.3年前に歩いているはずなのだが,すっかり記憶から抜け落ちている.きっとつらいところはすべて忘れてしまったのだろう.人間の記憶メカニズムのよいところだ.
ca 1150mピークを左折して下ると地池越えだが,我々はここを直進し,国見山に向かう.このピークは広々として気持ちのいいところだ.縦走路を外れ,国見山まではテープはない.GPSを確認しながらルートを決める.自分には地図とコンパスだけでこのような所を歩く能力はまだなさそうだ.ほどなく林道に出る.ガードレールなどもまだちゃんとしているのだが,林道上には崩れた土砂が堆積して,とても使用できる状態ではない.
- 土砂で埋まった林道
- 国見山へ向かう稜線
林道を横切り,すぐまた斜面を登り始める.1112mピーク近くにはヒメシャラの若木の中に赤く塗られ,尾鷲営林署と書かれた筒が立っており,上は灰皿になっている.昭和の遺物だ.たしかzippさんのブログにもその筒のことが書いてある.
ここから国見山までは常に右側に急ながれ場を見ながらの歩きなので,GPSがなくても迷うことはない.12時前に国見山頂上着.頂上は見晴らしが悪いので,東峰のがれ場の横で昼食にする.目の前には昨日歩いたウグイ谷高の稜線や,仙千代が峰,大台ケ原とその左横に加茂助谷の頭も見える.後には古ヶ丸山から白倉山の稜線がすぐ近くに見える.
昼食後,大和谷橋に向かって下山開始.歩き始めてすぐの2本のアケボノツツジの花がちょうど満開ですばらしかった.今年はアケボノツツジが不作の年だが,ここだけは昨年並みの花の付き具合だ.1050m付近で,右側の斜面に降りなければならないのだが,O氏は尾根にそってそのまま直進してしまうので,大声で呼び戻し方向修正する.ここは迷いやすい場所だと思ってあらかじめ注意していたので,すぐに修正することができた.GPSがなければ迷っていたかもしれない.
- 今年の最高のアケボノツツジ
1019mピークでNo.6鉄塔に出会い,あとはわかりやすい鉄塔巡視路にそって下山口まで到達できる.ここからはまず道迷いすることはないので安心だ.No.7鉄塔を過ぎると植林のトラバースとなる.延々と続く植林内の道は見晴らしもなく,ただ早く着きたい一心で歩いた.O氏もすっかりテン泊装備での歩きになれたらしく,最後はぶっちぎられてしまった.
大和谷橋のたもとにピンポイントで着地.車で入山口まで戻った後,フォレストピアで2日間の汗を流した.疲れたが,今回は道迷いもなく,楽しい山歩きだった.自分の中で空白になっていた山域に多少の感覚ができてよかった.この山行に関してはzippさんほか,やぶこぎネットの皆さんのレポを参考にさせていただきました.厚くお礼申し上げますm(__)m.