【日 付】 2022年8月30日(火)
【山 域】 越前
【天 候】 曇り時々雨
【メンバー】Kさん sato
【コース】 樫曲と越坂の途中~△317.6~越坂峠(仮称)
~△360.2~・271~標高180m森林組合の小屋~林道(北陸道木ノ芽峠越え道)~P
各地で雨の予報だった8月最後の週の火曜日、敦賀方面は午後から雨の予報なのでお昼ごろまでの山歩きに出かけましょう、
と、Kさんが、旧北陸道の越坂越えの両側の尾根を辿る山旅をご提案してくださった。
北陸道木ノ芽峠越え道が通る樫曲と越坂は気になっていた集落だった。そのふたつの集落の裏山の峠を巡る旅。
△362.2の北は3年前に歩いたウツロギ峠からの稜線だ。何度も開いて眺めた地図の見過ごしていた尾根。地形も面白い。
カタ・・カタ・・わたしの中のどこかで、何かが、ちいさな音を奏でるのを感じた。
まずは、△317・6に登ることに。
国道476号線から樫曲集落の東、越坂から流れる川沿いの道に入り、旧北陸道に出て路肩が広くなっている場所に車を停めた。
外に出て見上げた空は、鉛色の雲に覆われていたが、暗さはなかった。お昼まで雨は大丈夫かな。
準備を整え、草が生い茂った斜面を見ながら歩き始める。少し進むと植林地に入る道があり、山中に足を踏み入れた。
もわっとした空気がこもる植林地の坂を登っていくと、シデやアベマキが目立つ二次林に風景が移り変わった。
木々の緑の爽やかさに目を細める。なんていうことのないような風景。でも、自然に笑みがこぼれている風景。
木立の向こうから、ふっと誰かの声が聞こえてきそうな、何気ない雑木林の佇まいにこころがよろこぶ。
送電線下の山頂は伐採地かな。この爽やかな風景が続くことは期待しなかった。
到着しただだっ広い山頂は、伐採地どころか、切られた木々がそのまま放置された殺伐とした地だった。
三角点の標石を確認し、頭上を送電線が走る二次林と植林が混ざるなだらかな尾根を北上し越坂峠へと向かう。
空から早くも雨粒が落ちてきた。
雨の山歩きもまたよろし、と傘をさして歩くと、いつの間にか止んでいた。
建物が見え、車道の通る峠に着いた。石仏は見当たらなかった。
10時と早いが、また雨に降られるかもしれないので、その前にお昼ご飯にすることに。
路肩にリュックを置こうとすると、
二枚のピンク色の花びらが艶やかに煌めく不思議な形のお花が、深緑色の葉っぱの中に浮かんでいた。
ハグロソウと教えていただく。
お花の横にKさんと並んで腰を下ろし、お昼の休憩をしていると、越坂の方から車が来た。
運転手のおじさんは、何だこの人たちは、というお顔をして、わたしたちの前を通り過ぎていった。
おじさんのポカンとしたお顔を見て、なんだか江戸時代の旅人になったような気分に。
1000年以上もの年月の間、いろいろな姿の人々が、峠越えの途中、ひと休みしていた場所に、
今、わたしたちは座っているのだ、という感慨に包まれる。
休憩を終え、ハグロソウに出発のごあいさつをと覗き込むと、
雨粒に濡れ、翳りと艶やかさを帯びた光を放つピンク色の花びらの奥に、この道を行き来した人びとの眼差しを感じた。
△360.2までも同じような植生の尾根だった。
細い木々に囲まれた山頂に立つと、何にも思い出せないことに、「えっ?」とうろたえた。
3年前、田尻から塩買い道と旧北陸道を味わう8の字歩きの山旅に出かけ、最後東に曲がる地点がこの山頂だった。
それまでの道のりで出会った風景の数かずは記憶に刻まれている。
驚きと感動が続いたので、この地味な山頂は印象に残らなかったのか。
輝く山旅の記憶からこぼれてしまった地に、ふたたび訪れることが出来てよかったと思う。
ここからは、谷が入り組みくねくねした尾根を南に下っていく。古くから歩かれていたのだなぁ、と感じる尾根。
でも、気になっていた田結と越坂を結ぶ峠道は分からなかった。石仏もなかった。
越前海岸の集落では塩作りが盛んだった。越坂は北陸道木ノ芽峠越え道沿いの集落。峠道は存在したはずだが。
標高180mあたりの尾根が広がった台地には森林組合の小屋が立ち、スギの苗が植樹されていた。
左の尾根に入り、樫曲集落からの林道、830年から明治の時代まで、
北陸と京、江戸を繋ぐ重要な道だった北陸道木ノ芽峠越え道に着地した。
路肩に咲く野の花を観察しながら駐車地に戻る。
白いお花はアキカラマツ、黄色いお花はキンミズヒキ。今までも見てきたのだろうけれど、意識していなかった花ばな。
どちらも目を近づけて見ると、ちいさなお花ひとつひとつ、ほんとうにうつくしい。
ひとつの花が語る真実の世界に耳を傾ける。見ているようで見ていなかったものの多さを花からも教えてもらう。
「すごい」と歓声をあげるような風景には出会わなかったが、
お会いできるかな、と、淡い期待をしていた石仏も、そこにはなかったが、
空からは、ひと時、雨粒がぽつぽつおちてきたが、
道中、ふわりとどこかから来て、ふわりとどこかへと向かっていく、
カタ・・カタ・・という心地よい音が胸の中で響いているのを感じながらの、何とも言えないうれしさに満ちた山旅だった。
カタ・・カタ・・、心地よい音に酔いながら家路についた。
家に帰り、地図を眺めていると、音は高鳴りとなった。
頭の中に、もう何年前か分からなくなってしまったころからの、わたしが見てきた風景、わたしの感じた風景、
そして未知の風景が、万華鏡のようにクルクルと繋がり幾重にも重なり、様ざまな色彩を放ちながら映し出されていった。
道中響いていた音、それは、わたしの中で縫いつがれてきた旅の音、縫いつがれていく旅の音だった。
あるくみるきく、みるきくあるく、きくあるくみる・・・、限りなく続いていくわたしの旅を感じた。
いつか山に登れなくなっても続いていく旅の音を感じた。
sato