【 日 付 】2022年1月16日(日曜日)
【 山 域 】江越国境
【メンバー】山猫単独
【 天 候 】曇りのち晴れ
【 ルート 】新疋田駅7:33〜9:39インディアン平原〜9:52岩籠山〜10:58西近江(△739.6)〜11:58中山(△786.6m)〜13:12乗鞍岳〜14:14芦原岳〜15:01猿ケ馬場山〜16:10マキノ白谷温泉
岩籠山と乗鞍岳の間を南北に伸びる稜線の縦走は昨期のアオバトさんのrepの記憶が新しいところだ。これまで二回縦走してはいるがいずれも無雪期であり、改めて積雪期に歩いてみたいと思っていたところだ。この日は近畿は広くて晴天の予報である。若狭のあたりでも昼過ぎまでは天気が良いという予報を信じて、岩籠山に向かうことにした。
早朝の新幹線からは雲ひとつない茜色に染まる東の空を背景に鈴鹿の山々のシルエットが浮かび上がる。北陸本線に乗り換えて北に向かうと金糞岳や横山岳は綺麗な姿を見せているにも関わらず、マキノの高島トレイルのあたりは山々にはしっかりと雲がかかっているのを目にすることになる。山行先の選択を誤ったのかもしれないが、午後の好天を期待するしかない
岩籠山に冬季に登るには駄口からのルートが一般的だが、大型のトラックが高速で行き交う国道を新疋田の駅から登山口まで歩きたくはない。ここは躊躇なくアオバトさんも歩かれた大岩権現からの冬季限定ルートを選択する。
駅の西側の住宅地を抜けると尾根の取付きにある浄水施設までは除雪されている。まずは施設の大岩権現に立ち寄る。案内板によると、慶応二年(1866年) に山津波が生じ、その後で村人が山に登ると、この大岩が山から流出する岩を堰き止めて村を救ったということがわかり、以来、大岩権現として岩を崇め奉っているらしい。
浄水施設の裏側から取り付くと、尾根の右手にかつての古道の跡があるようだ。尾根の下部の雑木林を過ぎるとまもなく樹高の高いケヤキの壮麗な樹林となる。ca360mあたりで尾根上には嵓(くら)とも呼ぶべき大きな岩が現れる。左側から巻いて、最後は樹を掴みながら攀じ登ったが、右手に斜面をトラバースして、隣の尾根から大きく巻き上がる方が良かったかと思う。
嵓をすぎると尾根は見事なケヤキの大樹の疎林が続く。下根来から小栗に登る尾根では大きな石を根元に抱えた欅の樹をよく見かけたが、ここでも所々で樹の根元に石を抱えたケヤキの樹を見かける。
尾根の上部になるとブナの樹林が広がる。久しぶりにこの山域の繊細な樹影のブナ林をの中を歩く喜びに浸る。雲の中に入ったのだろう、すぐにも樹林の中には霧が立ち込め、幻想的な雰囲気になる。
三角点629.4に上がると唐突に樹林が終了し、ピークの北西側は植林のようであるが、南側は草木のない雪稜が伸びている。おそらく雪の下には草木の藪が広がっているのだろう。インディアン平原にかけての登り返しの尾根も無雪期には濃密な藪が広がっている筈だが、雪がすっかり低木を覆い尽くしているようだ。頭上の雲は明るく、山頂部分のみにかかる笠雲であることは明らかななのだが、なかなかガスが晴れないのが残念だ。晴れていたら好展望が広がっていることだろう。
雪稜を歩いてインディアン平原にたどり着くと、インディアン平原は昨日のものと思われる多数のトレースがある。ガスの中を歩いて山頂に向かう。トレースにつられて山頂の南東の小ピークca760mに寄り道する。ここも晴れていれば好展望が広がるところではあるが、景色は白いガスの中だ。
叢林を抜けて山頂にたどり着くと、一瞬、雲が切れて青空の下に野坂岳から芦谷山へと続く若越国境の稜線が姿を見せる。なんと野坂岳から三国岳に至る若越国境のあたりはすっかり晴れていて、どうやら雲がかかっているのはこの岩籠山だけのようだ。
敦賀の市街と敦賀湾も一瞬、幻影のように雲の中から姿を見せる。待っていればそのうちに晴れそうな感じではあるが、風も非常に強いので早々に山頂を退散し乗鞍岳に向かうことにする。
駄口へのルートの分岐となるp677までは多くのトレースがあるが、そこから先は当然のごとくトレースはない。次のピークca660mにかけては尾根芯には濃密な藪があるので、無雪期は尾根の右手を巻きながらトラバース気味に進むことになるのだが、その藪もすっかり雪に覆われている
前回この稜線を辿ったのは昨年の初夏であり地形や植生はまだ記憶に残っているところが多く、その記憶と目の前に広がる雪景色とのあまりの違いに驚きながら稜線を辿ることになる。
三角点△739.6(点名 西近江)にかけては東側の雪庇の張り出した尾根芯を歩くことが出来る。無雪期はここも到底歩くことは出来ないような低木の藪が繁茂しているところだ。三角点ピークのあたりから振り返るとようやく歩いてきた稜線が雲の中から姿を現す。
なだらかな台地状のピークの南端部ca730mで尾根をほぼ直角に左手に曲がる。その先に広がる広々とした尾根のなだらかな雪原の下にはユズリハの濃密な藪が広がっているとは想像し難いところだ。
ここから次の三角点ピークにかけてはいくつもの小さなアップダウンを繰り返す。尾根が最初の下に差し掛かると雲の中から一瞬、雲を纏う乗鞍岳と芦原岳が姿を見せる。どうやら国境稜線より滋賀県側のみに雲がかかっているようだ。
岩籠山から乗鞍岳を目指して南下して場合、無雪期には三角点ピーク△786.6m(点名は中山)が乗鞍岳の間の最大の核心部だろう。というものこのピークに至る稜線は濃密なリョウブの藪に覆われているからだ。前回は藪の手前で尾根を北側に回り込んで藪を回避しながらアプローチしたのだったが、今やその藪は完全に雪の下に隠れており、呆気ないほど容易にピークに達することが出来る。
山頂にいる間に雲が切れて、まずは芦原岳が姿を見せる。乗鞍岳は雲の中と思っていたが、突然、カーテンを引いたかのように雲が取れて、乗鞍岳が姿を現す。山頂へと至る光り輝く雪稜を目にすると乗鞍岳はかくも壮麗な山だったかと雪を纏った山容の見事さに瞠目することになる。
この三角点ピークはさほど高いピークには思われなかったが、風の通り道なのだろう。山頂の周囲の樹々には霧氷がしっかりと発達している。折しも急速に青空が広がり、陽光に照らされて白く輝く霧氷が蒼空に映える。
乗鞍岳への登りに差し掛かると再びブナの疎林が広がる。ブナ林を抜けるととすぐにも最初の送電線鉄塔が現れ、左手には大きく眺望が広がり、上谷山、左千方、横山岳といった湖北の山々を俯瞰することが出来る。
尾根を辿るとすぐにも前方に白く光り輝く琵琶湖の湖面が視界に入る。野坂岳から三国岳への縦走でも同様であるが、琵琶湖の眺望が大きく視界に飛び込んでくる瞬間は感動的であり、湖国にたど着いたという感慨が沸き起こる。彼方が霞んだ琵琶湖はまるで芒洋とした白い大海が広がっているかのようだ。まるで宙に浮いているかのように沖合に浮かぶ竹生島が小さなアクセントをつけている。
北湖の最奥部と余呉湖の間にある賤ヶ岳は広く切払いされた山頂部が真っ白になってるので同定が容易だ。視線を右手に向けると昨日歩いた山本山から賤ヶ岳へと続く尾根が続いている。背後を振り返ると岩籠山の純白に輝く山頂部が見える。
左手からは風に乗ってスキー場からアナウンスの声が聞こえてくる。国境スキー場の駐車場はほとんど満車であり、ゲレンデには大勢の人が見える。昨年と一昨年は雪が少なかったので営業期間も少なかったのではないかと思うが、さすがに今年は既に十分な積雪があるのでスキー場も賑わっているのだろう。ゲレンデの賑わいを見ると国境に下降するのは躊躇われるところだ。
乗鞍岳の山頂に至るとスキーとスノーシューによる数人分のトレースがある。トレースの真新しさからするとおそらく今日のものだろう。急に滋賀県側からガスが登ってくる。乗鞍岳の山頂の西側は物々しく電波塔が立ち並びぶところだが、電波塔が霧に包まれると途端に荒涼とした雰囲気になる。
トレースを追って芦原岳へと向かう。スキーのトレースはp779の手前から南西の尾根に降っているようだ。p676を経て白谷に降るのだろう。時間に余裕がなければ芦原岳からこのルートを辿るつもりでいたが、時間には十分に余裕があるので先に進むことにする。
芦原岳への登り返しは林相の美しいブナ林となる。ブナ林を抜けると忽然と、送電線鉄塔のある広々とした雪原に出る。先ほどまでは雲の中だった乗鞍岳が再び姿を見せる。再びブナの叢林を抜けて、大きく雪庇の張り出した送電線の鉄塔広場に至るとそこが芦原岳のピークだ。再び空は晴れて、左手に野坂岳、右手に岩籠山を望むことが出来る。この二つの山の間を流れる黒河谷を俯瞰するのに一番の展望地だろう。彼方には敦賀湾の蒼い海も展望することが出来る。
正面に見える三国岳の赤坂山から大谷山にかけての稜線がヴェールを脱ぐように雲の中から次々と姿を現してゆく様を見るのは壮観だ。芦原岳から先は再び全くトレースがない。山頂を後に江越国境稜線を西に辿ると南側には再び芒洋とした琵琶湖の眺望が広がる。琵琶湖と敦賀湾を同時に眺めることが出来るのはここだけだろう。白い湖(うみ)と蒼い海、二つの「うみ」の景色を眺めながら純白無垢のトレースを辿るのは何とも贅沢であり、今回の長い縦走を締めくくるの相応しい終章のクライマックスに思われた。
送電線鉄塔の立ち並ぶ尾根を下降してゆくと、尾根が琵琶湖に向かって南側に突き出したところが猿ヶ馬場山だ。山頂部分は雪原が広がり、積雪したマキノの平野とその先に午後の光を受けて白い光を放つ琵琶湖の展望が大きく広がる。
下山は猿ヶ番場山から南に伸びる尾根を下降する。わずかな距離ではあったが白く輝く琵琶湖を正面に眺めながらの雪稜の下降はまるで白い光に向かって下降するような感覚を味わう。
尾根をすぐに右手に大きく曲がり、自然林の尾根を下降すると、すぐにも掘割の古道の跡が現れる。尾根の下部は急下降ではあるが、九十九折の古道が続いているので楽に下降することが出来る。尾根の末端まで古道を辿ると、左手には林道が見えるが、反対の右手の堰堤に降りてしまう。林道との間はかなりの急斜面だ。斜面を強引にトラバースし、最後は樹を掴んでなんとか林道に着地したが、ここは堰堤の上を対岸に渡渉した方が良かったのではないかと思う。林道を歩くとすぐにも黒河峠からの林道に合流する。多くのツボ足のトレースが刻み込まれている林道を歩いて在原への道に出ると、まもなく白谷温泉に到着する。
めくるめく現れるブナの樹林と雪稜の縦走を堪能した一日であったが、岩籠山への北東尾根の展望を眺めることができないのが心残りだ。ここは改めて天気の良い日に捲土重来したいものだ。