【山行日】2021年2月6日(土)
【山域】敦賀・国境~岩籠山
【天候】晴れ
【メンバー】MKさん、Kちゃん、タイラ、アオバ*ト
【ルート】国境スノーパーク7:10、県境稜線8:35、点標西近江11:10、
インディアン平原12:45、岩籠山12:55、インディアン平原13:15~13:45、
大岩大権現15:50~16:20、新疋田駅16:30
KちゃんもMKさんも、よくこんなことするって思いついたねと言う。
思いついたのは、わたしじゃない。わたしはただの二番煎じ。でも、知った瞬間からとりこになった。
矢も楯もたまらなくなって歩いたのは2018年の2月。
心に思い描いていたとおりのたおやかな大雪原と美しい雪稜のすばらしい縦走路だった。
小さなアップダウンを繰り返しながら、右へ左へ緩やかに弧を描き、白い丘と美しい樹林の森の連なりを越えて、
海の見える山上の平原へと続いてゆく。このすてきな雪の縦走路を再び歩きたくて、みんなにも見せてあげたくて、
ずっとこの日がくるのを待っていた。
ゲレンデトップのリフト係りのおじさんが、「どこまで行くんや?遭難するなよ。」と送り出してくれる。
朝陽のシャワーを全身に浴びて、明るいブナ林の中を切り返しながら登って行く。
振り返ると、くすんだ奥琵琶湖に竹生島がぼおっと浮かんでいた。
琵琶湖を背にして分水嶺を越えて日本海の海の見える山を目指す。なんてすてきなんだろう。
しかし、お天気良すぎて、雪が重いのなんの。
小さな白いドームの展望台を越えて稜線に出る。
一週間前に自分たちが歩いてきた雪稜が再び白く新しくなって横たわっていた。
電波塔と乗鞍岳を懐かしく遠望して、きょうはここから北へ向かう。
かわいらしいブナのプロムナードをくぐり抜けて送電線の鉄塔の下に躍り出る。
すてきな旅を予感させる眺めが大画面で迫ってきた。
西には葦谷山の稜線から野坂岳が圧巻だった。奥には西方ケ岳。東の隅は夕暮山の反射板で緩やかな尾根が黒河川へ延びていた。
主役のお姫さまは、反射板の脇の舞台袖にまだかくれているのだった。
ゆるやかに波打つ雪の斜面を駆け降りて小さな丘に登る。
丸くてかわいらしい白い丘に、雪にかくれきれずに飛び出した木々の枝がアクセントを添える。
ぐるりは360°のパノラマ。先は長いというのに、こんなのがたて続けに現れて、立ち止まっては写真ばかり撮って全然先へ進めない。
3つ目の丘からたおやかに広がる黒河川源流の大雪原は、もうもう言葉で言い尽くせないすばらしさ。
前回来た時も、今回も、ここでテントを張りたい誘惑に駆られて、足早に通り過ぎてしまうのが本当になごり惜しかった。
4つ目の大きな三角点の丘からは、ちょっと思いもよらぬ方向へ急斜面を下って行くことになる。
ここは前回間違えたから、よく覚えている。
納得いかない様子で地形図とにらめっこしている3人を置きざりにして急斜面を駆け降りる。
こっちだよ!ただまっすぐに続いている稜線じゃなくて、ふくらんだり、狭まったり、とつぜんあっち向いたり。
そんな等高線で描かれる連なりを時々地形図と照らし合わせながら進んで行くことが、本当に楽しかった。
徐々に足がだんだん疲れてきて、丘を巻くことを考え始める。まだまだ先は長いのだ。
アップダウンも少しずつきつくなり、コルからの登り返しが堪える。
しかしながら、645のコルあたりからブナ林が美しくなる。
そして白いブナの枝の間から見え隠れする湖北の山々が美しかった。
ブナ林に癒されつつ急坂を上り詰めて、大きくカーブして点標西近江へ向かう。
地形図を見ると、断崖のような谷が最後に緩くなって尾根と出合う。
カーブする箇所がもっさりとした雪庇で飾られているのが印象的だった。
先に三角点に着いた3人の歓声が聞こえてきた。
小高くなった稜線の雪庇の向こうに遮るもののない、湖北の山々の大展望が広がっていた。
ここから稜線は延々と続く西近江展望台となる。
何度も立ち止まりながら、嬉々として雪を蹴散らして駆けていく皆の後姿を追う。
個性的な形のブナが現れて、駄口との分岐にさしかかる。
駄口からは誰かのトレースがあるかもしれないよ、と話していた通り、何人かのスノーシューのトレースがあった。
こんなにいいお天気、きっと誰か上がって来ているだろうと思っていた。
誰かのトレースがあってもなくても、いよいよ佳境に入る。
崩壊地横の極上斜面を駆け降りて、美しいブナの鞍部に滑り込む。
ここのブナ林はいつ来ても、何度来ても、なんて美しいのだろうと思う。
まるで絵の中から現れ出てきたような美しさだ。
美しさに見とれつつ一服。駄口から登って来られた単独のお兄さんと言葉を交わす。
2パーティほど先に上がられているようだ。
もう一登りして再び鞍部に降りて、最後の壁のような斜面を登ってインディアン平原に飛び出す。
ザックを置いて山頂まで往復して、
たくさんの足跡だけを残して誰もいなくなった大平原のクジラ岩の傍らに腰かけてお昼にする。
インディアン平原から眺める敦賀湾がこんなに青くて美しいのは初めて見た。
スキー場の駐車場が閉まるまであと3時間ちょっと。
大丈夫だとは思うけれど、途中から使ったことのない尾根を下るので、気がはやる。
再び、誰のトレースもない広い雪稜を下って行く。
美しい敦賀の海と町が目の前にさらに大きくなって飛び込んでくる。
湖北の山々は、わたしたちがどんなにせっせと歩いても、どこまでもどこまでもついて来るのだった。
最後の大きな三角点ピーク△629で右折してしばらく東へ進んだのち、・294へ向けて下る。
照葉樹の雑木が多くなり、だんだん里山を感じさせる雰囲気となる。
岩が露出してきた頃、スノーシューを外して軽アイゼンを付けたが、
落ち葉やら雪やらが団子のようにくっついて何の役にも立たなかった。
標高180の下の急坂を難儀して降りた後、尾根と並行する巻き道を見つける。
きっと里へ下りて行く道だと思って辿って行くと、大岩権現の傍らに、ちょん!と降りることができた。
大きな岩に手を合わせて、無事に降りて来られたことを感謝する。
境内で店開きさせてもらい、やっと皆でしみじみとお茶会。
何かをやり遂げたと言うより、もう終わってしまったのかという寂しさが大きかった。
高台の団地の中を通り、新疋田駅に向かう。Kちゃんが、歩いてきたとこ見えるかなと言う。
立ち止まって山手を見上げる。もうここからは見えない。舞台の幕が降りても、まだそこにじっとすわっていたかった。
アオバ*ト