前回の「龍ノ高塚」のレポを書いていた時、いいタイトルが思いつかなくて、
やや投げやりに「第二章」と付けた。自分では、続きがあるとは思っていなかったが、
Tさんより、「こんどは柳ノ谷を遡って駒ノ滝を見に行こう」との、なんとも魅力的なお誘いが来た。
また、思いがけず、biwacoさんよりも「さて、第三章はあるや否や?」との嬉しいコメントも頂戴した。
で、もって、たいへん拙い語り部ですが、「第三章」、お送りいたします。
【山行日】2020年6月27日(土)
【山域】台高南部 柳ノ谷・駒ノ滝
【メンバー】Tさん、アオバ*ト
【天候】晴れのち曇り
【ルート】又口橋8:00、林道終点8:45、入渓点10:20、駒ノ滝12:10~13:10、
林道終点15:30、又口橋16:00
尾鷲の土井家によって最初に造られた尾鷲道(又口道)を歩いてみたくて始まった旅物語。物語は今回で3回目だが、
ここ(又口)に来るのは、この半年の間にもう4回目となる。
どうしてこんなに夢中になったのか。唯々、このエリアの雰囲気が気に入ったとしか説明できないのだが、
地形図を見ていて、妙に惹きつけられたことがある。
それは、「柳ノ谷」と「県境」と「又口道」(尾鷲道)の関係性だ。銚子川水系又口川支流の「柳ノ谷」は、台高山脈主稜線上の龍辻(P1260)というピークの少し南の奈良県側に源頭がある。龍辻から奈良県側を流れてきて支流のハチヤ川(支流名はっきりしない)と合流するところで県境と重なる。逆に言うと、県境は下流では柳ノ谷と重なっていたものが、上流では支流のハチヤ川から尾根へ上がっていく。また尾鷲道もハチヤ川付近からジグを切って登り始めている。尾鷲道はピークを巻いてしまうので、柳ノ谷と再び出合うことはないのだが、県境から離れた柳ノ谷は、回り込むようにして再び県境稜線(台高山脈主稜線)へ上がってくる。尾鷲道から寄り道して、龍辻のピークで尾鷲の海と町を眺めるとき、眼下に堂々と広がるのは古和谷で、背後から登ってくる柳ノ谷は陰に隠れてしまう。
柳ノ谷は龍辻の南で静かに湧き出して、人知れず、優美な大滝を掛け、あとは緩やかに美しい小滝を掛けつつ又口へと流れて行く。「龍」なのに穏やかで静かで、いつも陰に隠れていて、でもとても美しくて、この一帯の山仕事を支えてきて、なんかそんなイメージが、わたしの頭の中で広がって行ったのだ。
今日も、又口橋のたもとに車を停めて、林道を歩き始める。この林道もお気に入りだ。
林道終点までゆっくり歩いても40分程度。ずっと平坦な道。山の神様が祀られていて、しばらく歩くと庚申さんがあって、またしばらく歩くと右岸の壁から水が湧いていて、おしゃべりしているとすぐに終点に着く。もっと目を凝らし耳を澄ますと、もっといろんなものに出会えるかもしれない。石積みの道から垣間見える柳ノ谷は、梅雨の合間の光を浴びてコバルトブルーに輝く。しばらく石垣道を進むと朽ちた吊り橋の残骸の残る渡渉点。トラロープにつかまって慎重に川底に降りる。Tさんは、トレランシューズで飛び石で上手く渡っていたけど、最初から沢シューズのわたしは、少し上流側をジャブジャブと渡る。沢登りを楽しむ場合はここから遡行するといいのかもしれないが、わたしたちは、又口道と離れていく沢沿いの古道(木馬道だと尾鷲の山に詳しい方に教えて頂いた)がどこまで続いているのか知りたくて対岸へ渡る。この対岸へ這い上がるのも、重なり合った岩や朽ちかけた木の根っこが崩れやしないかとやや緊張する。
大きな岩盤の横を通るときカモシカと出会った。岩盤の先、道が落ちたところを高巻して、又口道と分かれて、再び沢沿い(左岸)の道へ戻る。ほとんど崩れ落ちた道をドキドキしながらトラバースして進んで行くと作業小屋の痕跡らしきがあり、右手に上がっていく道の石垣が残っていた。このあたりで、沢沿いの道はわからなくなり、沢の中へ入る。
水の中を戯れたり、右へ左へ渡りながら、「りゅう」といっしょに遊ぶ。楽しい。
叫びながら小さな淵をへつったり、美しい小滝に感嘆したり、ロープに繋がれて高巻きしたり。
やがて水しぶきをいっぱいに吹き散らす小滝の前に来た。登れても降りて来られるだろうか。この滝の上に深い淵があったらどうしよう。不安がないわけではなかったが、確保してもらって、滝身のすぐ左を登る。小滝の上は狭くなっていたが、深くはなかった。
架線の残骸が散らばる岩場を乗り越えて、上を見上げる。「見えたよ!すごい!」
三月前、出口峠道から遠望した、柳ノ谷の大滝「駒ノ滝」が、いま目の前にある。
「駒ノ滝」を背にすると、遠く緑の濃い山腹にか細い一筋の線があるように見える。
わたしにとって、それはただの線ではなくて、何かに繋がっていく道だった。
滝のすぐ傍まで行ってみた。「ここまで来たよ!」
「よく来たね!」と言って、“りゅう”は、水しぶきをいっぱい上げて空へ舞い上がって行った。煌めきながら降ってくる無数の小さな水の粒は、“りゅう”の虹色のウロコみたいだった。
レポを書きながら、どうして「駒ノ滝」というのだろうと考えていた。駒、駒、駒。あ、「駒止め」。ここから先、牛馬はもう、“りゅう”のようには登れない。木馬道の終点。そうかぁ、ひとりで納得した。当たってるかどうかわからないけど、なんかひとりで嬉しくなった。
アオバ*ト