【日程】2020年3月20日(金・祝)
【山域】台高南部・出口峠道と龍ノ高塚(・1167)
【メンバー】Tさん、アオバ*ト
【天候】晴れ
【ルート】又口ゲート前8:20、出口峠道に入る9:20、橋の落ちた枝谷出合10:30、
アゲグチ峠12:05、熊野灘展望台12:30、龍ノ高塚(1167)13:45~14:25、
出口峠14:50、林道終点17:00、ゲート前17:40
「ここでみんなでテント泊したら楽しいだろうな。」反射板の前の広々とした平らなところにテントを張って、一段高くなった夕陽のテラスで晩ごはん作って、スパークリングワインで乾杯。考えただけでうっとりする。海は見えるし、大台ケ原も見えるし、大峰の山々も見えるし、上北のダム湖も見えるし、もちろん愛しい龍辻も見える。それに何にもまして、この居心地の良さ。おっきな反射板が2つも立っているっていうのに、この居心地の良さは何だろう。龍辻も抱きしめたいほどに愛しかったけれど、ここもとっても気に入った。
柳ノ谷の左俣が突き上げるピーク・1167。zippさんのレポによれば、「龍ノ高塚」。
今日も紀勢自動車道の尾鷲北から国道425へ入り、又口橋のたもとに車を停めて、山の神に手を合わせて、やって来た。
すっかり、この尾鷲のはずれの「又口」というところが気に入った。何がと言われてもうまく答えられないのだが、国道がカーブするところの妙に明るくて広い空間。古びた森林組合の建物と川を包み込むような樹林の向こうに又口橋がかかっている。橋の真ん中に立って又口川を眺めて、沢の音を聞いてゲートのはしっこを抱きかかええるようにして越える瞬間に感じる何か。打ち捨てられた生活の痕跡を横目に、山の神を見上げて手を合わせる。今ここにある、人の営みと共に存在してきたすべてのもの、山も谷も木も水も魚も鳥も、伐採されて置き去りにされたままの木も、打ち捨てられてしまったかけらさえも、心に何かを響かせる。
林道を少し歩いて、地形図の出口峠道の破線が始まる真下あたりから、やや尾根地形の斜面に取り付いてみようねと話していた。15分ほど歩くと、この間は重機の停まっていた作りかけのような新しい林道の出合。GPSで確認すると、ここが出口峠道の破線の始まる真下だった。なら、この作りかけの林道あがってみましょ。今日は重機は停まっていない。造られつつある道はそこらへんで終わっているだろうという予想に反して、切り返しながらどんどん上がっていく。もうだいぶん上がったよなと思ってGPSを見ると、もうすでに破線を越えて、さらに上に延びていた。林道が枝谷を避けて切り返しているところまで戻る。そして枝谷へヤブをかき分けて降りてみると、果たして古道はそこから始まっていたというか、そこから先は寸断されずに残されていた。植林の中、照葉樹の灌木のヤブに覆い被されながらも、古道はしっかり残っていた。今も山仕事で使われることがあるのだろうか。
アゲグチ道との分岐にはお地蔵さんがあるらしいので、何も考えずに「すごいね!すごいね!この道!」とハイテンションで進んで行って、気付かぬままアゲグチ分岐を通り越してしまっていた。通り過ぎてから、さっき渡った枝沢のところが分岐だったのだと気が付いた。それにしてもお地蔵さんはどこにいたんだろう。Tさんが、もしロープ使ってこの先も通過できたら帰りに通るから、先に進もうと言う。通過できてもできなくても、又口側からあの朽ちた吊り橋を見てみたい気持ちもあったので進むことにする。そしてすぐに道は途切れた。あの朽ちた吊り橋の掛かった枝谷よりももうひとつ又口側のこの枝谷も深く切れて、かつては橋がかかっていたようだった。Tさんがきょうはロープがあるから行けるからと言うが、クライミングも沢登りもまともにできないわたしには、とても行ける気がしなかった。それにこの狭いほうの谷を渡れたとしても、先の大きな谷が渡れなければ、再び怖い思いをして戻らなければいけないのだ。地形図を見るとここから、前回、出口峠側から来て引き返した吊り橋の向こうまで直線距離にしたらわずか50mばかり。山の神は、そのわずか50mの区間をつなげることを許してはくれなかった。100年前、ここに橋があって人が行き交っていた時はどんなだったのだろう。ふとそんなことを思い、来た道を少し戻る。
さてとお地蔵さんを探しに戻りたいがアゲグチ道分岐まで戻ると時間が足りなくなるかもしれない。この切れ落ちた枝谷の右岸の尾根を登ることにする。仕事道のようでヤブもなく最初は登り易かったが、だんだん傾斜が増して、やっぱりお地蔵さんのところに戻ってアゲグチ道を行けば良かったなと少し後悔した。それでも最後は尾根芯から離れてきれいに巻くように稜線のアゲグチ峠の少し北へ上がった。稜線を下ってアゲグチ峠を見に行ったが、一面植林だけで、他には何もなく殺風景だった。ここからは稜線を北西にアップダウンを繰り返して進んで行くだけだが、地味にしんどかった。
途中、尾鷲の海と町がきれいに見える箇所があって癒されたのも束の間、雑然とした植林帯の上り下りで嫌気がさした。
龍ノ高塚もあまりパッとしないところなのだろうか。ほとんど人の歩いている形跡もない。でも、龍ノ高塚から、前回テントを張った乗越と龍辻を眺めたくてやって来たのだ。
先に着いたTさんが「ええとこやで~。テント張れるで~」と叫んでいた。わたしも遅れて反射板の横に立った。いっぺんに、うっとおしい尾根歩きの鬱憤が吹き飛んだ。「龍ノ高塚(・1167)」、とってもすてきなとこだ。
海を眺めて、大台ケ原を眺めて、ダム湖を眺めて、「あ~!あそこがこの間テント張ったとこで、あれが龍辻~!」龍辻は遠くから眺めてもほんとにほんとに可愛らしかった。山頂の少し高くなったところで店開きする。あまりゆっくりできないけれど、今日も極上の場所でお昼。いつかここでテント張りたいなと思った。水は担いで来なくちゃダメだけど。
もう一度写真を撮って出口峠へと下る。出口峠へ下るまでは、東ノ川側の自然林が美しく、途中すてきな小場もあった。
そして再び出口峠道を歩けるのが嬉しかった。
前回、道を見失ってしまったところもちゃんと辿れた。今日も帰りは途中からは送水管の尾根だけど、又口道の古道に合流して、金属パイプの桟橋を渡るときの満ち足りた気持ちは何ものにも代え難かった。
アオバ*ト