【日付】2019年10月6日(日)
【山域】台高 北股川~池木屋山
【天候】くもり時々晴れ一時雨
【メンバー】Tさん、アオバ*ト
【ルート】北股林道駐車地(細尾谷出合)7:15、沢下降点8:30~8:50、池木屋山13:40~14:10、千里峰15:35、
北股林道終点17:05、駐車地18:30
初めて投稿いたします。
奈良県側、川上村の北股川から池木屋山に登りました。
2018年5月の山日和さんのレポを読んで、池木屋山に登るなら、このルートでいきたいなぁと、ぼんやり思っていた。宮ノ谷から高滝を巻いて登るよりぜんぜん怖くなさそうだし、長靴でジャブジャブのんびり歩けそうだ。しかしながら、北股川までどうやって行ったらいいのかピンと来なくて、行きたいと思ってから1年以上たってしまった。今年の5月に馬の鞍峰と山ノ神ノ頭を周回した時に、やっと北股川のことがわかって、6月にドラム缶のところまで下見に行った。誰もいない林道に立って風の音と水の音を聞いた。原生の森とか、静寂の森とか、そんな言葉では説明できなくて、その音は目に見えない何かの声みたいだった。
川上の道の駅で少し仮眠して大迫ダムに向かう。山鳩湯を過ぎて黄色い橋の広場でいったん車を停めて、カセットコンロで朝食を作った。トイレがあったらここに泊まれるのにねと会話しながら片付けて、三之公川を右手に見送り、薄暗い北股林道へ入っていく。朽ちかけた作業小屋がいくつかあって、通り過ぎるほどに森は深くなる。林道は部分的にすごくダートになったり、意外と走りやすいところもあったり、山の神さまに無事に帰ってこられますようにとお祈りして、トロトロ進む。ハンドルはアオバ*ト、助手席には沢屋のTさん。黄色い橋のところで何度も運転しようかと言われた。助手席に座っているのが不安極まりないらしい。時々助手席から下りて尖った石や木の枝を除けてくれる。素掘りのトンネルまで来た。まるで魔界への結界を越えるみたいだった。
車で進むのはこの先の細尾谷の手前であきらめる。黄色い橋から7㎞。私のトロトロ運転で45分。下見の時は60分かかったから少し上達。
靴はいて出発。Tさんはアプローチシューズと沢シューズの二足組。アオバ*トは水陸両用長靴のみ。長い林道歩きが始まる。ドラム缶のある下降ポイントまで1時間以上かかる。すでに少し時間ロス。今日は晴れ予報だったと思うけど見上げる稜線には厚いガス。不穏な空気が漂う。
ドラム缶のところから五郎平谷に下って渡渉して対岸を乗っ越して、少しトラバースして本流に降りた。お天気はイマイチだけど、ワクワク感復活する。しかしそれも束の間。沢シューズのTさんは「ええとこやなあ」と言いながら嬉々として足取り軽くジャブジャブとどんどん進む。しかしだ、思っていたより水量が多い。アオバ*トは長靴。この水量、この深さ、楽しく歩くには無理がある。追いつこうとして急ぐとすぐに中に水しぶきが入ってくる。焦りが生じる。こんなことしてたら時間が足りない。足の長いTさんには膝下でも私には膝上。再び追いつこうとして焦って深みにはまって、いとも簡単に水没。さすがに悲しくなる。脱いでひっくり返すとジャーっと水が勢いよく出てきて、Tさんが「どしたん」と能天気に笑うので、「どんどん先に行くからやんか~」と当たり散らした。この先もはたして長靴で行けるのか、暗くなるまでに帰ってこられるのか、どんよりした空の色が気を滅入らせる。雨もぽつぽつ降ってきた。「こんなことしてたら上までいけんかもしれん」一瞬帰りたい気持ちがわいてくる。「だいじょぶだいじょぶ」Tさんが励ましてくれた。靴下しぼって仕切り直す。
標高810辺り、谷が大きな岩の塊と折り重なる倒木で埋めつくされているところへ来た。これはいつ崩れたものだろうか。こんな惨状には自然の恐ろしさを思い知らされる。右岸の倒木をかいくぐって恐る恐る高巻く。次第に谷の様子は変わってきて、フカフカの苔と美しい小滝の癒しワールドが広がっていた。不思議なことに、空もとたんに明るくなった。大きな岩の下から水が湧いていて、コーヒー用の水も汲めた。標高880の美しい三股でひとしきり写真を撮って右へ進む。次の二股も美しかった。
右も左もそこそこ水量がある。Tさんは沢を詰めたそうだったけど、沢はもうたくさん。真ん中の尾根に取りつく。下から眺めると楽に登れそうなのに、疲れた足にはきつくて足がつる。ちょっと待って、150くらい登ったよね、休んでいい?これ、すごい樅の木だね。100くらい登ったかな?水分補給していい?あと150だぁ。この小さいヒメシャラ、うざいなぁ。あれ、ヤブから出られなくなっちゃった。あ、ジキタリスの葉っぱ。小屋池に着いたよ!でもなんかヌタ場みたいだね。写真を撮ってピークへ急ぐ。
山頂直下、源流部が稜線と出合うゆるやかな地形。原生のブナが美しかった。初めて池木屋山に来た。もう13時半を回っている。こんな時間には誰もいない。お湯を沸かしてコーヒーをいれる。誰もいないけど目に見えない何かが静かに舞い降りてきてちょこんと私の隣にすわっているような気もした。風が吹いて、ただ静かな時間が流れていく。こんな山頂は好きだ。でも、ここでお昼寝したら二度と家には帰れない、そんな雰囲気も漂っていた。
あと3時間で林道終点までたどり着けるだろうか。行く手にそびえるように見える霧降山を眺めると気が萎える。でも、暗くなるまでに林道へ戻らなければ。縦走路は今までの道のりと比べたら遊歩道のようだった。足元の何かの灌木の幼木が煩わしかったけど、よく見たらシロヤシオの子どもだった。早く大きくなれ。縦走路からはこんなに眺めがすばらしかったのか。かすんでいたけど遠くに海も見えた。
黒地に白い文字の千里峰の朽ちかけた山名板が地面に落ちていた。ここもすてきな雰囲気だった。コンパスを合わせて五郎平への尾根を下る。やせ尾根の先から五郎平への斜面はどこに踏み跡があるのかよくわからず適当に下った。途中で作業用らしい古い架線があった。一帯を探索してみたかったけど、もう時間が無かった。暗くなるまでに林道終点に降りてきてホッとしたのも束の間。林道終点からドラム缶のところまでの崩壊ぶりは凄まじかった。ドラム缶を過ぎて橋をいくつか渡ったら、瞬く間に夕闇が降りてきて、林道は漆黒の闇につつまれた。
アオバ*ト