【 日 付 】2019年5月26日(日曜日)
【 山 域 】鈴鹿
【メンバー】山猫、家内(yamaizu)、次男(タスク)
【 天 候 】晴れ
【 ルート 】朝明駐車場8:14~9:11ハト峰峠~9:58ヒロ沢出合10:14~10:48お金明神10:59~11:06お金峠11:16~11:39作ノ峰~11:51高岩~11:56ワサビ峠11:59~12:36オゾ谷出会~12:47クラシ谷出会~オフ会会場
新名神が開通したお蔭で鈴鹿の東側の登山口への駐車場までのアプローチは全般的に格段に早くなった。京都の自宅から1時間半程で朝明の駐車場に到着する。駐車場には続々と車が到着してゆく、すでにかなりの車が駐車しており、駐車場の東の端に車を停めることになる。清々しい朝の空気の中を歩き始める。駐車場では大勢の人を見かけたが、ほとんどは釈迦岳に登ってゆくのだろうか。羽鳥峠に向かう人は少ないようだ。
猫谷を入ってゆくと、無機的なコンクリートの堰堤だけでなく、大きな花崗岩をブロック状に積み上げた堰堤が現れる。無機的なコンクリートに比べると自然と調和したその景観は遥かに好ましい。それにして綺麗に花崗岩を加工した石工の技術と積み上げたその労力に感心してしまう。後から免夢さんのレポでオランダ人技師ヨハネス・デ・レーケによる古い堰堤であることを知る。積み上げられた石の堰堤の一つには左手の急斜面にはロープがつけられている。なわだるみ堰堤と呼ばれるところらしい。次男にあれを登れるかと聞くと一言、「大丈夫」と答え終わるや否や、器用に斜面の上に攀じ登ってゆく。
堰堤を越える度に急峻な崖に挟まれながらも広々とした谷の光景が広がる。深まりつつある樹々の緑に挟まれ、朝陽を浴びる花崗岩の白さが眩しい。後ろを振り返ると御在所岳の大きな山容が谷間にほどよく嵌まっている。次男は快調に登ってゆくが、歩き始めてから時折、咳をする。最近の連日のように発令される光化学スモッグが心配である。
やがて谷を離れ、ジグザグと斜面を登るようになると、峠の手前では登山路脇でチョロチョロと湧き出している清水がある。岩の奥にカップを挿入して何とか汲めるほどの細い流れである。水は十分に持参しているつもりではあるが、喉を潤す新鮮な清水の冷たさが有り難い。我々が清水を喉に運ぶのに夢中になっているとかなり下のほうで追い越した若い二人組の男性が後ろを通り過ぎてゆく。
羽鳥峠に到着すると、すぐ目の前には羽鳥峰の白いピークが忽然と現れる。山中にあって異様なこの花崗岩の小ピークは庭園に人工的に作られた築山のようでもあり、さしずめ銀閣寺の向月台の巨大版といったところではなかろうか。山頂には先程の若い男性二人組が少し前に到着されておられる。お二人の写真を撮って差し上げたところで、写真を撮りましょうかと申し出て下さるのだが、家内がなかなか登ってこない。
山頂からはすぐ西側に箱庭のような羽鳥峰湿原を見下ろす。この湿原に訪れるために羽鳥峠を経由するルートを選んだようなものである。次男と羽鳥峠に戻ると、家内は峠の木陰で休んだままであった。三日連続の山行になるのだが、昨日の芦生の森の山行では午後の暑さにかなり疲れたようであり、その疲労から快復していないのだろうか。
湿原の入り口では紅花灯台躑躅の花がほぼ満開の花を咲かせている。登山路の左手には小さな池塘が水を湛えている。無遠慮に湿原の中を歩き回るのは憚られるが、足場を選んで右手に広がる小さな湿原を覗いてみる。幾本もの倒木が荒れた印象を与えるものの、やはり箱庭のような特殊な雰囲気の空間である。湿原という標識がなければ、鈴鹿主脈の縦走路のすぐ脇にこんな場所があるということを知らずに通り過ぎかねないだろう。
当初の計画では水晶岳を越えて、根の平峠から下るというオーソドックスなプランであったが、時間に余裕がありそうだったのでお金明神に寄り道することを考える。湿原から流れ出る水の流れを追って、広谷を下ってゆく。沢沿いの谷は文字通り、広く、なだらかだ。谷の上部ではカシの葉と思われる光沢のある落葉が林床に深く堆積し、歩くにつれてカサカサと乾いた音をたてる。
左手の沢には滝があるようで、落口は登山路から見ることが出来るのだが、滝を眺めるには登山路から下に下る必要があるようだ。家内と次男を待たせるのも躊躇われるので、またの機会にしよう。
神崎川に出ると飛び石を伝って対岸に無事に渡渉。斜面をトラバースする道に入る。お金谷に入ると途端に広い沢沿いの道を緩やかに登ってゆく。次男は喉が乾くのだろう。家内が計画的に飲まなきゃだめよと次男が水をごくごくと流し込むのを嗜めるが、既にかなりの水を消費している。
お金明神に到着すると、次男は早速にも賽銭の硬貨の年号を調べている。私はお金明神の錆びついた鉄製の鳥居の写真を撮りながら、下からの次男の声を聞く。「パパ~、平成28年のがあるよ~」
お金明神からは再びお金谷を下り、神崎川沿いの道を辿るべきところであったが、ワサビ峠を回って会場に向かうかオフ会の開始時間には間に合わなくなるかもしれないが、多少の遅れで済むだろうと皮算用をする。まさに皮算用であった。
峠が近づくと足元には白いものから濃淡様々なピンク色の小さな花が数多く咲いている。次男も気になったのだろう。「これなんていう花?」「イワカガミだよ」それにしても、昨年は花期が異様に早かったのか、京都の北山では5月の上旬には花期は終盤だったように思うが、今年の鈴鹿では花期が遅いのだろう。
お金峠まではさほどの急登ではないように思われるが、やはり昨日までの山行の疲れのせいか、家内のペースが上がらない。お金峠にたどり着いた瞬間、反対側の谷から涼風が吹き上がってくる。次の瞬間、次男が「涼し~い」と歓声を上げる。峠から南に下る稜線には山毛欅の大樹が目に入る。
お金峠からはゆるいアップダウンを繰り返しながら細尾根を辿る。ところどころで新緑を纏った立派な山毛欅の樹が散見する。尾根上は終始、涼しい風が吹いており、お金峠までの登りで火照った躰を冷ましてくれる。やがて二重尾根の広々とした尾根となる。しかし、結局、この尾根の通過で思ったよりも時間を消費する。どうやら多少の遅れでは済まない状況に陥りそうだ。
ワサビ峠からの下りは最初はオゾ谷の左岸の斜面をトラバースし、小さな尾根を源頭部めがけて急下降する。右手の源頭から水が流れ始めているのが目に入る。時間に余裕がなくなってはいるのだが、次男が大量に水を消費したせいで水の余裕が少なくなりつつある。沢に降りて水を補給すると、水の冷たさが喉に滲みわたる。ふと上流を見上げると臙脂色の道標が目に入る。谷沿いにつけられていた古いルートのもののようだ。
下るにつれて谷は広くなり、歩きやすい。斜面には苔むした炭焼き窯の跡がいくつか現れる。この炭焼き窯もなかなか雰囲気のよいところだ。沢沿いに咲くヤマツツジの朱色に目を奪われる。
広い谷の平坦な左岸には再び苔むした石垣が現れるが炭焼窯の後にしては横に広く伸びているように思われる。果たしてなんの跡だろうか?
神崎川に出ると再び、左岸沿いの道に入る。タケ谷の出合が近づくと、平坦な河岸段丘となり、快適な林が広がる。タケ谷出合では次男は無事に神崎川を渡渉するのだが、家内がなかなか来ない。心配になって、道を引き返しはじめたところでようやく家内が到着する。渡渉するとオフ会の会場を目指して黙々と右岸の広い河岸段丘を辿る。
タケ谷を渡ると、下草のない広々とした新緑の林が広がりようになった。樹高の高い樹々が陽光を柔らかく遮り、林の中には清々しい緑の空気が充満している。なるほど、これが鈴鹿の上高地と呼ばれるところか。しかし、この林の景色を愉しんでいる余裕はない。まずはオフ会の会場を探して先へと進む。
川の近くでは人の群れが目に入る。遂に辿り着いたかと思い、近づいてみると数名の小さな子供達を伴った家族連れであった。もう少し進んだところで、ようやく彼方に周りを車座になって談笑する人の群れと中に見覚えのある黄緑色のTシャツに赤いバンダナを被った背の高い男性が目に入る。愉しげなその輪の中の背の高い男性をめがけて叫んだ「グーさ~ん」。