【 日 付 】2019年3月31日(日曜日)
【 山 域 】鈴鹿
【メンバー】山猫、家内
【 天 候 】晴れ一時雪
【 ルート 】坂本棚田駐車場9:08~10:04みつまたの森10:28~11:26野登山~11:36杉の大樹(ランチ)12:10~13:01仙鶏乗越~13:27仙の石~13:29仙ヶ岳(東峰)~13:43仙ヶ岳(西峰)13:46~14:40白谷コース・御所谷コース分岐14:43~15:16南尾根・白谷コース分岐~15:27小矢場峠~ 16:22坂本棚田駐車場
この日曜日から花冷えというのか寒の戻りとでも云うのか、3月下旬として季節外れとも云うべき寒波が到来するようだ。寒波が到来した後であれば山によっては霧氷も期待できるだろうが、山の上で雨に祟られると罰ゲームのような山行になりかねない。北山、比良、湖北、台高は何処も好天を期待することが難しそうであるが、唯一、晴天の予報が出ていた鈴鹿南部の山に焦点を絞る。仙ヶ岳の登山ルートを調べてみると、東の山麓からの登山路で満開の三叉(ミツマタ)を期待して野登山から仙ヶ岳へと周回するコースを考える。
野登山の登山口のある坂本の棚田にある駐車場に辿り着くと、既に駐車場は満杯である。いくら花の時期とはいえ南鈴鹿だからそれほど人はいないだろうと高を括っていたのは大間違いであった。我々が車を停めて準備をする間にも既に準備を整えられた登山者達が続々と出発してゆく。
驚いたことに登山者の中に若い女性が占める割合が圧倒的に高いことだ。いわゆる山ガールと云われる人達だろう。若い男女のカップルもいれば、女性だけのグループもいる。他の山域とは登山者のポピュレーションが全く異なるようだ。普段は滅多に人と出遭わない山行ばかりなので、このように多くの、しかも女性が多い山に入ると何とも場違いなところに来たような気がして困惑する。
天気予報どおり青空が広がるが、寒波の影響だろうか、風が強い。棚田の上では空に浮かんだ多くの綿雲が勢いよく流されてゆく。棚田を過ぎるとすぐにも杉の植林地の中の林道に入ると、流れてゆく雲が陽光と戯れるせいで、杉林の中に気まぐれに陽射しが差し込んだかと思うと瞬く間に杉木立の間に消えてゆく。
林道が終わり山道になるとすぐにも林の中に三叉の大群落が現われた。植林地の斜面は上の方に至るまで黄色い点が覆い尽くされている。林の中に何処までも続くかのように思われる黄色い花は遠目に見ると杉木立の中でふわふわと漂っているかのようだ。花に近づくとほんのりと蜜のような甘い香りが洩れ出ている。
林の中に光が差し込んだ途端に三叉の花はスイッチが入った照明燈のように光輝く。陽射しが消えるとそれまで白く輝いていた球形の花は途端に黄色い色を取り戻す。写真を撮るために光があたる三叉を探しては、再び光が雲の間から杉林の中に零れ落ちてくる瞬間を待つということを繰り返す。
三叉に夢中になっている間に後ろから来る人達に次々と追い越され、また上からも続々と人が降りてこられる。野登山の山頂を往復して来られたにしてはかなり早いように思われるので、この三叉の森で折返されたように思う。それにしても相変わらず女性の割合が圧倒的に高い。山ガール向けの最近の登山雑誌にでも紹介されたのだろうか。単独行の女性の方も少なからずおられる一方で、偶々かもしれないが、この日は最後まで男性の単独行には一人も出遭わなかった。
女性たちの賑やかな声が響く三叉の森を後にし、杉の植林地の急登になると途端に人気(ひとけ)がなくなり、全く人に出遭わなくなった。先程までの賑わいが嘘のようだ。それまでは南斜面を登っていたために風の影であったようだが、稜線である仙鶏尾根に出ると途端に風が強い。
ところでこの仙鶏尾根、仙ヶ岳と野登山を結ぶ尾根であるにもかかわらずこの鶏の字は果たして何処から来たのだろうと訝しく思って調べると、野登山の別称である鶏足山に由来するらしい。実際、この山にある野登寺(やとうじ)の山号は鶏足山である。
杉林の急登を登るとガードレールを有する舗装路に出る。この舗装路は電波塔のあるピークへと登ってゆくようだ。仙ヶ岳から鎌ヶ岳の特徴的な鋭鋒へと連なる鈴鹿の主脈を見晴らすことが出来る。入道ヶ岳の右手には四日市の市街を展望する。彼方に見える高層ビル街は名古屋だろうか。
左手に分岐する国見広場への林道を辿ると、右手に「三角点↗」と記された道標があり、若い女性のグループが何組か降りてこられる。小道を辿り三角点を目指す右手には湿地のようになった池があり、池の畔には立派な杉の大樹が目立つ。
野登山の三角点のある山頂は樹林に囲まれた小さな広場であった。三角点の向こう側に掘割の道が見えたので、この道を辿り、再び先程の湿地に出る。杉の大樹の近くで、木陰で風を避けながらランチとする。まずは小籠包と肉饅を蒸し、次はベーコンとしめじを炒めてチャーハンと合わせる。
再び舗装された林道を下ると仙鶏尾根に戻り、仙ヶ岳を目指す。尾根はすぐにもヤセ尾根となり、小さなアップダウンを繰り返しながら岩場を越えてゆく。後ろから家内が私を呼び止める、何かと思えば、猩々袴(ショウジョウバカマ)がいつくか咲いている。この岩稜の多いヤセ尾根で花に出遭うとは全く期待していなかったのだが、その後も尾根上では薄紫色から赤紫色のものまで、ちらほらと猩々袴を散見する。
仙鶏尾根の鞍部を越えると意外にも梅花黄蓮も咲いていた。
- 猩々袴
- 梅花黄蓮
仙ヶ岳の東峰への登りに差し掛かると、空から白い粉が舞い降りてくる。まさか、と思ったが、雪である。東峰の山頂は樹林に囲まれているが、山頂の北側からは縦走路の見晴らしが良いはずだ。しかし、先程まで見えていた鎌ヶ岳の鋭鋒は瞬く間に雪雲の中に消えてゆく。
小さな鞍部を越えて西峰に辿り着いた頃には風も強く、吹雪の様相を呈してきた。
山頂から下り、鞍部から白谷に入ると、南斜面に入ったせいだろう、途端に風もほとんど感じられなくなる。伏流の谷には落ち葉が堆積して登山路がわかりにくい。落ち葉の踏み抜きに注意しながら、急下降が続く谷筋を黙々と下る。登山路は不明瞭ではあるが、頻繁にピンクのテープがつけられている。
白谷という名前の通り、谷には白く大きな岩が多い。傾斜が緩やかになると谷筋に少しずつ水が現われ始める。渡渉地点で岩の上についた濡れた足跡が見えたので、少し前を先行者が歩いていることを知る。すぐにも若い男女のペアに追いつくが、仙ヶ岳の山頂におられた時にはまだ晴れていたらしい。先程の雪が下に降ってくると霙になることが心配されたが、仙ヶ岳東峰から南に延びる尾根を周りこむようになると晴れ間が見える。
南尾根からの登山路と合流すると後は延々と林道歩きだ。林道から坂本の方に向かう農道に入り、ショートカットをしようとして驚いた。そこにあるのは成長しきって濃密な藪となったお茶の樹である。茶畑の中の荒れた農道を藪漕ぎすると整然と並ぶ現役の茶畑の間を通る道に出るのだった。ここからは東海自然歩道となり、小さな棚田を越えて車を停めた坂本に出る。
野登山の登山口からまだ下山してこられるハイカーがいるが、やはり女性が目立つ。駐車場に戻るとさすがに残っている車はわずかである。車に乗り込んで鈴鹿I.C.に向かうと、路面が濡れている。山頂で雪を降らせた雲は東に流れて、このあたりで雨を降らせたようだ。山を振り返ると、入道ヶ岳の方は雪雲に烟っているようだったが、野登山と仙ヶ岳はすっきりと姿を見せてくれるのだった。