【 日 付 】2017年11月4日(土)〜6日(月)
【 山 域 】熊野古道
【メンバー】単独
【 天 候 】3日間とも快晴
【 ルート 】
1日目(4日):新宮駅 7:54 --- 8:12 那智駅 8:33 --- 8:50 那智山バス停 --- 9:50 那智高原公園 --- 12:06 地蔵茶屋 12:30 --- 13:22 越前峠 --- 14:50 小口 --- 16:21 桜茶屋跡(テント泊)
2日目(5日):桜茶屋跡 7:48 --- 9:06 百間ぐら --- 10:31 請川 10:53 --- 11:15 本宮 13:15 --- 大日越え --- 14:30 湯ノ峰温泉
(1日目)
10月8日にたろーさん、michiさんと台高の光谷に行っただけで、8月末から今まで2ヶ月以上にわたって山から遠ざかっている。定年まであと半年を切りながらなんでこんなに忙しいんだろうと思いながら、仕事をしている。と言っても、私の場合、仕事と趣味の境界は限りなく曖昧で、「仕事と言いながら実際は楽しんでいるんでしょ」と言われると全く否定しきれないのが辛い。休日返上で出張などしていたせいで、代休を取るように言われた。連休後の11月6日に代休を取り、4連休とした。
さて、4連休を使ってどこへ行こうか。案1:鈴鹿縦走、もう4回も縦走しているので新鮮味に欠ける。案2:台高縦走、今度やるとすると3回目。あんな厳しいアップダウンはもうこりごり。案3:大峰縦走、前回の縦走は10年前。10年前にできたことを今できるかどうか自信がない。といずれも却下。最後に、熊野古道を思いつき、まあこれだったら今の自分でもなんとかなるだろう。最後の締めとして大好きな湯ノ峰温泉でまったりプランを考えた。もちろんこのプランのメインは湯ノ峰温泉で、熊野古道歩きはその前座に過ぎない。
最初、電車とバスを乗り継いでいくことを考えていたが、このプランでは始発で行っても歩き始めが午後1時頃になってしまう。1日目に地蔵茶屋で泊まるとして、2日目の行程が辛い。前日夜になって、新宮駅前の公共駐車場に車を置いて周回するプランに変更した。2ヶ月間も山から遠ざかると、出不精になってしまう。家でまったりしようかなという悪魔の誘いを振り切って出かける。ザックの重量は13キロ。必要なものを全て入れた割にはコンパクトにまとめることができた。
最近の道路整備で、我が家から新宮までわずか2時間で行けるようになった。一昔前では考えられなかった速さだ。しかも、高速道路の半分はまだ無料区間のままだ。南紀は今や日帰り圏内なのだ。朝5時過ぎに家を出、7時過ぎに新宮駅前着。コンビニで買った朝飯を食べているとちょうど紀伊勝浦行きの鈍行に間に合った。短い区間ではあるが、鈍行列車の旅は楽しい。車窓に熊野灘の美しい海岸線を見ながら揺られているとすぐに那智駅着。この電車、整理券方式で、一番前の出入り口から運転手に切符を渡して降りる。那智山行きのバスまで20分ほどあるので、駅前をぶらぶら。駅前に日帰り温泉などあり、なかなか面白い。駅前には韓国人4人グループとイタリア系の顔つきの若者が一人。若者が何か困っているようなので声をかけたが、特別問題はなさそう。紀伊勝浦へ行くという。
- 那智駅前
那智山行きのバスは満員だった。さすが連休の観光地。大門坂のバス停で半分ほど降りる。バスは那智大社まで行くのかと思ったら、途中の那智の滝前で下ろされる。ここから先はバスはいけないのだという。バスで一緒だった韓国人グループと前後しながら那智大社への階段を登る。結構急登で、標高差がある。三重の塔の赤と青空と那智の滝の白い水が素敵なコントラストになって美しい。さすが常夏の国南紀、歩いていると汗をかくほどに暖かい。那智の滝を眺めながら、ちょっと前にこの滝を登って警察に捕まったクライマーのことを思い出す。こんな垂直の滝を登る人もいるんだねえ。
- 三重塔と那智の滝
青岸渡寺で旅の安全を祈願して出発。熊野古道に入るとあの喧騒が嘘のように人がいなくなる。黙々と石畳の階段を登って行く。単調な運動を続けていると下界のもろもろの悩みなどが洗い流されるようで、気持ちがいい。やっぱり来てよかった。途中、二の滝、三の滝への分岐あり。無許可での立ち入りは禁止されているようだが、一度行って見たいものだ。
那智大社から30分ほどで那智高原公園着。見晴らしのいい芝生になっていて、綺麗なトイレもあり、夏にキャンプでもしたいところだ。ここからがいよいよ本当の熊野古道。だらだらとした斜面を登って行く。岡山から来たという単独男性と前後しながら歩く。
1時間ほどで船見峠。ここはナル谷の源頭部に当たる。今年の春に林道を通ってここまで車で来たことがある。地蔵茶屋近くになると欧米系の外国人グループとすれ違う。大雲取越えを歩くのはこれで3回目だが、外国人にあったのはこれが初めてだ。湯ノ峰温泉に外国人が多くなったのは知っていたのだが、日本旅行ブームで外国人がここまで進出して来ていたのか。
地蔵茶屋に着くとさらに欧米系の3人グループが休憩中。うち二人は綺麗な若い女の子だ。地蔵茶屋で昼食休憩。ここは滝本北谷の源頭部に当たる。来週、滝本北谷を遡行する予定なので、あのまま遡行を続けるとここに出るのだなと思いながら眺める。葉が少し色づいている。来週にはもう少し色づくだろうか。
しばらくすると欧米系の女性二人がやってくる。「ビューティフル」と言いながら滝本北谷の源流部を写真に撮っている。
- 滝本北谷源頭部
「どこから来たの?」
「オーストラリアからよ。2週間の旅行で来ているけど、今度の月曜日には帰らないといけないの。」
「どうやって熊野古道を知ったの?旅行雑誌?インターネット?」
「インターネットだけど、ここはすごく有名なのよ」
ふ〜ん、そうなんだ。熊野古道って外国人にそんなに有名だったんだ。
地蔵茶屋の向こう側は崩壊で通行止の標識。迂回路を通ると通常20分のところを1時間かかるという。「まあ、人間の足なら大抵のところは通れるだろう」とそのまま歩いて行くと、少し行ったところの斜面で倒木が道を塞いでいる。倒木を避けるようにルートができているところを見ると皆さん通行止めを無視して通っているのだろう。崩落は小規模で、倒木を避けながら歩くとほぼ問題なく通過することができた。
- 通行止箇所
越前峠を過ぎるとあとは下り斜面オンリー。歩きにくい石畳道をひたすら下って行くと、くるぶしの上のあたりが靴と擦れたのかだんだん痛くなってくる。いつも沢ぐつしか履いていなくて、こんなハイカットの登山靴は久しぶりなので、皮膚が薄くなったのかな?あるいは歳をとってだんだんO脚になって来たんだろうか。
長い長い下り坂をようやく下り終えて、14時50分に小口着。まだ時間も早いし、集落の中ではテントを張りにくいので、小雲取越えの途中でテント泊することにする。車道を小和瀬まで歩き、小和瀬橋を渡ろうとすると欧米系の可愛い女の子が単独で歩いて来たので、話しかける。
「どこいくの?」
「ここから本宮に帰ろうと思うんだけど、バス停はどこかしら?」
「すぐそこがバス停だよ」
橋を渡っているとカップルが歩いてくる。話しかけると、やはりバスで本宮に帰るという。なるほど、皆さん本宮を起点にして熊野古道を歩いているわけね。私の装備を見てテント泊であることがわかったらしく、「途中に水場がないので、ここら辺で水を補給したほうがいいよ」と逆にアドバイスをもらう。お礼を言って、民家で水をもらうことにする。どの家も不在のようなので、勝手に庭に入り込んで庭の水道から水をおすそ分けしてもらう。日本人だからできる行動だ。
たしか少し登ったあたりに東屋があったはずなので、そこらへんでテントを張ることにして登って行くがなかなか東屋につかない。上から欧米系の熟年夫人3人が下りてくる。しばらく話し込んでから別れる。やっぱり若い子よりもお年寄りの方が話しやすいなあ。あとから同じグループと思われる熟年男性が降りて来た。やはり歳をとると女性の方が強くなるのは万国共通のようだ。
1時間ほども歩いてようやく桜茶屋跡着。東屋の横にちょうどいいテントスペースがあるので、ここでテントを張ることにする。南向き斜面で、日当たりが良く、気持ちのいいところだ。桜茶屋跡には今は杉の大木が生えて薄暗いが、昔は日当たりのいい、気持ちのいいところだったのだろう。
- 桜茶屋跡の東屋
今日の献立は、ウインナーとピーマンとエリンギの炒め物。エリンギは薄切りにして塩胡椒を振っておいた。あとはウインナーから出る油と塩味がピーマンに移って適度な味加減になる。簡単な料理だが、お酒のつまみにちょうど良く、お腹もそれなりにいっぱいになる。今日のお酒はチリ産の白ワイン。香りが良く、おいしいワインだ。ラジオで日本シリーズを聴きながらワインを飲んでいると酔っ払って来たので、8時頃に就寝。風もなく、平和な夜を過ごすことができた。寒いかと思っていたが、ダウンの上下と3シーズン用の寝袋で十分に暖かかった。テントに水滴もつかなかった。
(2日目)
前日に頑張って歩いたので、今日は頑張らなくていい。あまり早く出て早く着きすぎても困るので、明るくなるまで待って、朝日を鑑賞しながら朝食もゆっくり食べたのだが、それでも8時前には出発準備ができてしまった。
昨日、桜茶屋跡まで歩いてしまったので、あとはわずかなアップダウンがあるだけだ。快調に飛ばし、百間ぐらまで来ると最初のグループに出会う。百間ぐらを過ぎると欧米系の外国人グループが次々とやってくる。なんだこいつらは?もういちいち話しかけるのも面倒なので、挨拶だけしてやり過ごすことにする。結局、小雲取越え終点の請川までに出会った日本人は二組のみ。あとは全て外国人、それも全て欧米系のみだった。いつの間に熊野古道が外国人に乗っ取られたの?
請川着10時30分。まだ宿に入るのは早すぎるので、本宮まで行って時間を潰すことにする。前回は気がつかなかったが、本宮に真新しい立派な熊野古道ビジターセンターができていた。総檜造りで、展示やビデオの上映なども垢抜けている。時間を潰すにはちょうどいいところだ。ここも外国人が半分くらい。
- 熊野本宮
1時過ぎ、湯ノ峰温泉行きのバスまであと1時間ほどあるので、大日越えの熊野古道を通って湯の峰まで歩くことにする。途中、また何組かの外国人グループとすれ違う。中には美人の女の人などもいたので、にっこりとしながら挨拶する。日本人は歩いていないのにねえ。
2時半、湯ノ峰温泉着。定宿の民宿あづまやに行くと、すぐに部屋に通してくれた。あとはいつもの通り、あづまや旅館のお風呂にひたって、のんびり温泉三昧。
- 湯ノ峰温泉
ところで、あづまや旅館の宿泊は日本人グループが3組に対して、外国人が6組もいる。お風呂で出会った自分と同年輩くらいのドイツ人と話をすると、3週間の旅行らしい。日本通で、日本風の旅館大好き、温泉も好きだという。
一方、民宿あづまやは単独の日本人男性4人のみで、外国人ゼロ。民宿と旅館でなんか住み分けでもしているのだろうか。まあ、ボロボロの民宿では外国人も戸惑うかな。
(3日目)
最終日、朝8時40分発のバスで新宮まで戻ることにする。バス停に行くと、なんと欧米系の外国人がいっぱいバスを待っている。日本人はごく少数。まるで外国に来たみたいだ。半分ほどは本宮行きのバスに乗り、あとの半分は私と同じ新宮行きのバス。そのうちの大部分が請川で降りる。小雲取越えのトレッキングに行くようだ。なるほど、昨日会った人たちは湯ノ峰温泉をベースにしてこんな風に周回しているわけね。そういえば、1日目にあった熟年夫人のグループも湯ノ峰温泉に泊まったと言っていたっけ。
- バスを待つ外国人観光客たち
宿で見た新聞に、オーストラリアのロンリープラネットという旅行雑誌が、世界で訪れてみたい場所のベスト5に紀伊半島をあげているという。確かに、このあたりは熊野古道という歴史のあるトレッキングルートはあるし、熊野三山や温泉、熊野川の川下りもあるし、欧米系の外国人にとっては素晴らしく魅力のある場所だろう。
私がいたハンガリーは標高最高地点が1000mで、山はなく、丘しかない。そのせいか、登山というよりはトレッキングが盛んである。登山をしようと思うと、お隣のルーマニアやオーストリア、ケービングはイタリアへ行かなければならない。イギリスでも高い山はスコットランドくらいで、登山というよりは丘陵地帯を歩くトレッキングが主体となる。そのような欧米系の外国人にとって、登山ではなく熊野古道のようなトレッキングルートはとりつき易いものだろう。
中国人や韓国人などアジア系外国人は、観光地では見かけるが、熊野古道は歩いていない。北朝鮮と中国との国境にある名山長白山では、頂上まで舗装道路が通じ、三菱パジェロが排気ガスを撒き散らしながら疾走し、観光客を頂上まで運んでいる。タイ人やインドネシア人など東南アジア系の人たちは歩かない。大抵は山の上まで舗装道路が通じ、車で山に登るのである。アジア系の外国人たちが熊野古道に来る日はあるのだろうか。
湯の峰温泉は今、外国人観光客で急速に変貌を遂げようとしている。2011年の水害で、一挙に客足が遠のき、最近まで回復していなかった。宿は古びた民宿と旅館のみで、経営者は一様に年をとり、活気を失いつつある。私はそんな湯ノ峰温泉が好きで通っていたのだが、そのままでは早晩融けるように消えていったかもしれない。しかし、ここ2、3年で欧米系の外国人が急速に増え、外国人で沸き返っている。今、外国人観光客が消えたら湯ノ峰温泉は立ちいかなくなるだろう。湯ノ峰温泉が鄙びた温泉のままで変わらないでほしいという気持ちは山々だが、そのような鄙びた温泉に外国人観光客(特に欧米系の人たち)が魅力を感じているのだ。おそらく、この状況にうまく適応できれば、湯ノ峰温泉も昔の活気を取り戻すだろう。欧米系外国人にとっての紀伊半島南部の魅力を考えると外国人観光客の増加傾向はまだ続くだろう。湯ノ峰温泉がいい意味で変貌できることを願っている。
そんなことを考えながら歩いた熊野古道+湯ノ峰温泉三昧の三日間。有意義な旅だった。