奥美濃における日帰り登山での最難関は、やはり不動山と千回沢山だろう。これは、徳山ダムの完成で、より困難になったようにみられる。
以前の記録を見ると、沢を使って登頂していたようであるが、その沢に取り付く道がダムによって寸断されてしまったのだ。
そこで、まず考えたのは揖斐川の上流で、才ノ谷が分かれ赤谷(あかんだに)となる千回沢山北東尾根の末端から取り付こうというものだった。これは、昨年の秋に下見に行き、赤谷を長靴で何とか徒渉できると踏んだんだが、これが甘かった。
トンネル工事のためだろう3月の19日には、塚白椿隧道西口まで車が入れることが分かったので、25日の日曜日にさっそく長靴を持って出掛けた。ところが、川は雪解け水による増水で、長靴なんかではとても渡れるものではなかった。スゴスゴと退散、戻らざる負えなかった。
それならば西からと考えたのが越美県境稜線から尾根伝いに不動山へ至ろうというものだ。距離はけっこうあるが、源平谷山経由の最短で稜線に立ち不動山へ向かえば、何とか日帰りは可能と踏んだのだ。
さっそく翌週の4月2日に向かうことにしたが、広野ダムからどこまで入れるのかもポイントになると考えていた。
【日 付】 2017年4月2日
【山 域】 奥美濃
【メンバー】 単 独
【天 候】 快 晴
【ルート】 広野ダム湖畔6:09-ロボット尾根取付8:00-ロボットピーク10:10-10:55笹ヶ峰11:07(往復)-12:50美濃俣丸13:28-広野ダム湖畔16:01
2日、天気予報は快晴。半田をいつもよりも早い3時半過ぎには出た。5時40分過ぎには広野ダムに到着。1週間前には閉まっていたダム湖右岸道が開いていたので、喜び勇んで入っていたのだが。
左岸道との合流、二ツ屋橋まであと三分の一を残したところで残雪のため行き止まり。しかし、ここまで入られて30分以上は何とかなっただろうと十分満足。
さっそく車を端に寄せて支度に掛かる。ところが、そこで冬服を忘れて来たことが判明。「あ、終わった。」と登行意欲も激減。ほぼ今日の山行をあきらめた。この雪山シーズンに冬服を忘れてくるというのは、今までも何度かやっているが懲りない。
稜線に立つことはほぼあきらめたが、下見探索に林道くらい行けるところまで行こうと取り敢えずは、フリースを着て出発した。
左岸道の合流点、二ツ屋橋を越えて少し行くと、何と車が止まっているではないか。その少し先で、まだ道は雪に埋まっていたが、要するに、除雪したのか自然になのか分からないが、どうも左岸道の方は二ツ屋橋まで通れたようなのだ。まあチト損をしたが、そこまで15分大したことはないと二ツ屋導水施設へ向かう。4年前は、ここまで3月末で入れたのだった。やはり、今年は雪が多いのだろう。
二ツ屋導水施設からは、日野川を大河内廃村へ向かう。考えていたのは、源平谷山の西尾根末端、日野川が大河内川と前谷に分岐する所から取り付きたいと思っていた。しかし、問題はその徒渉である。
実際に行ってみると前谷を分けてもまだずいぶんと水量がある。とても飛び石などで渡れるものではない。装備の不備もあって、とても何とかして渡ろうという気にならない。そこで、さらに奥へ進み「岐阜の山旅 100コース 美濃上」で紹介されていた大河内廃村からの道を確認してみることにした。
記述には、「大河内廃村の橋は太い木を二本合わせたしっかりしたものである。」とある橋は、確かにまだ残っていた。しかし、この記述の状態から15年くらい経った現在の橋は、巨漢の私が乗るにはちょっと心許ない。ここでも、今日は下見探索でいいやの気持ちが出たこともあるが、前日のものと思われる何人かのトレースがまだ先の方へ続いている。どうせ、上まで登らないのなら、このトレースの跡がどうなるのかもうちょっと追ってみようと思った。
トレースは廃村を過ぎて、さらに奥まで林道に続いていた。いったいどこへ連れて行ってくれるのだろうとの興味が湧いてくる。
廃村から林道を30分近く進むと、トレースが川の方へ下りて行っている。近くまで行ってみると、笹ヶ峰登山口との看板があるではないか。それで、このトレースが笹ヶ峰に向かっていることが分かり、またその場所からそれがロボット尾根と呼ばれている尾根を辿ることも分かった。
橋はしっかりとしたものが渡し掛けてあるし、お天気も良く風もない。雨具、防寒具はないが、しっかりとしたトレースが上の方へ続いているので、それなら行けるところまで行ってやろうとの気持ちになった。
- トレースは、川の方へ下りて行き、橋が渡しかけてあった。
残雪は、カチコチになったトレースを踏んで上がって行くだけなので、スノーシューの必要もない。アイゼンがあればよかったなあと思ったが、トレースは階段状になっているので、それを踏んで行けば滑ることもない。
1時間20分くらいで600m余りの標高を稼ぎ、源平谷山から来る尾根筋と出会う。傾斜も緩くなり、視界が一挙に広がって県境のお歴々が顔を見せ始めた。快晴の無風で、「今日はダメだな」と思っていた気持ちはどこへやらだ。それからも、稜線のロボットピーク (ca.1290m) までは、標高差240m、50分余り掛かったが、もう気持ちのよい稜線歩きも同然だった。
結果的には、現状ではこのロボット尾根が稜線の笹ヶ峰へのルートとしては最適であると言えるだろう。
- まずは目指すロボットピーク
- 背後に見えた上谷山。長い尾根を引いていたのが印象的だった。
- 登って来たロボット尾根を振り返る
ロボットピーク10:10。さて、忘れていた今日の目標、不動山、千回沢山へ向かうには、まず隣の夏小屋丸 (1294m) へ行かねばならぬ。
快晴で、県境稜線まで上がってみると越美の山々が勢ぞろいだ。北は白山から、今日は伊吹山の山頂の雪まできれいに見える。もちろん、笹ヶ峰から美濃俣丸、そして羨望の不動山、千回沢山もはっきりとすぐそこに見えている。美濃俣丸の向こうには、三周ヶ岳。それに連なって左に高丸が、揃ってその存在をアピールしている。
一通り山々の写真を撮って夏小屋丸には15分余りで着いた。夏小屋丸から不動山までの稜線は結構長く、不動山までは顕著なピークが三つもある。これを越えて行くのかあと前途の多難さが思われた。
- ロボットピークから南の方を眺める
- 夏小屋丸、笹ヶ峰の北方面
実際には不動山への稜線は、夏小屋丸の少し手前から派生している。そこから向きを東に変え、少しずつ下りて行く。すると、その不動山までの稜線の様子が見えてくるのだが、容易ならぬものを感じる。
その稜線上で、明らかに雪がずれ落ちていざり、雪のクラックというか小さなクレバスのようなものができた跡に雪が降り積もってその溝を埋めたという地形が確認できるのだ。果たして、その小さな隠れ溝に落ちることはないだろうか。その雪の塊がずれ落ちることはないだろうかとの心配がよぎる。もちろんトレースなどなく、誰も歩いてはいないだろう。また、今日はひとりで辺りには誰もいない。その中での判断だった。
最終的には撤退を決断し、戻ることにした。これが、雪山のプロからしたら正しいというか、行けるのに止めたという判断であったかどうかは分からない。ただ、あの時点での自分の技量と知識では、やはり止めておくことが仕方のない判断であったろうとは思う。
- 夏小屋丸から不動山の稜線と左に千回沢山、さらにその左には能郷白山が見える
その「挑戦」を止めてしまったら、後は展望満点、快晴の中、ゆったりと漫遊散歩気分の稜線歩きだ。雪はまだまだ締まっていて、スノーシューは履いたが、アイゼンでも十分であったろう。そんな中を取り敢えず、笹ヶ峰へ向かう。このルートは、4年前の3月末にも歩いたのだが、その時はほとんどガスの中で、着いてみて、ああここが笹ヶ峰の山頂かと認識したくらいだった。そういう意味では、初歩きとほとんど変わらなかったから、今日の山行としては、これでも十分であった。
笹ヶ峰には、夏小屋丸から15分くらいで到着。さて、ここからどうしようかと思った。前回はここから北回り天草山経由で下りたが、下山するにはまだ時間が十分にある。そこで、ここから戻って前回とは逆に美濃俣丸へ回って下りることにした。
笹ヶ峰からは、今度は逆に夏小屋丸 (1294m) 、ロボットピーク (1290m) 、大河内山 (1288m) とピークを踏んで美濃俣丸 (1253.8m) へ向かう。特に困難なこともなく、本当に稜線散歩で辺りの風景を存分に楽しみながら、1時間40分余りで美濃俣丸へ到着。
山頂から少し南へ下ったところで、高丸を正面に据えてのお昼とする。今日はそんなゆっくりと食事をする余裕なんかないと、ほとんど行動食同然のカップ麺だったが、コーヒーだけはお湯を沸かしてじっくりと入れて楽しんだ。デザートの景色で、またいっそううまく感じる。
ゆったりとした時間を過ごした後、山頂を後にする。さて、どこを辿って下りるのか。美濃俣丸から下りるなんて、想定していなかったものだからその場で選択しないといけない。いろいろなルートが考えられるが、なるべく苦労なく下りたい。選んだのが、標高点912mを通って、その後左の尾根筋を取り林道跡へ降り立とうというものだった。
うまく、標高点1115mを下り、912mを通過して左の尾根に入った。残っていたトレースもそのようなものだったので、このままそれを辿ればいいだろうと思っていたが、そろそろ尾根を外れて林道へ向かわなければいけないくらいまで下りて来ると、雪が無くなってトレースも道跡もない。後は自分で判断して尾根を離れて林道へ向かわなければいけない。適当にここらでと思ったところから尾根を離れてヤブの中へ突っ込むと、あっさりと数十メートルで林道へ出ることができた。やれやれである。
林道からは、それを辿って二ツ屋導水施設で往き道と合流し、さらに20分ほど歩いて車まで戻った。