大台ケ原を含めた台高南部はいくつもの険悪な谷を形成し、その上には緩やかな起伏が連なる山上台地が広がる。この山上台地から南へ緩やかに下る稜線がある。その代表は尾鷲道が走る稜線で、もう一つは樫山へ至る稜線である。この二つの稜線をつないできれいな周回ルートができないかと考えた。そのルートのほとんどはすでに踏破ずみで様子はわかっているが、唯一、尾鷲道から光谷(白倉林道)への下降ルートだけは未踏破である。沢装備であれば谷中を下ることは容易なのだが、今回は通常登山装備である。どこから下ろうかいくつかの案を考えたが、なかなか一つに絞り切れない。そのうち、TWさんがマブシ嶺南東尾根を登った記録を見つけた。登れるのなら下ることも可能だろう。この時点で周回ルートは完成した。後は実行に移すのみ。
【 日 付 】2016年12月10日(土)~ 11日(日)
【 山 域 】台高南部 大台ケ原南東山地
【メンバー】単独
【 天 候 】1日目 晴れ;2日目 晴れ
【 ルート 】
1日目:銚子川第二発電所7:33 --- 10:09 840m付近稜線 --- 10:34 樫山近く 10:52 --- 11:36 P1174 --- 12:06 P1272 --- 12:45 P1344 --- 13:10 1215m付近鞍部(桃源郷)
2日目:1215m付近鞍部(桃源郷) 7:29 --- 8:06 P1344--- 9:34 尾鷲道出会い --- 11:11 マブシ嶺 11:40 --- 12:51白倉林道 --- 13:35 林道ゲート --- 14:35 駐車地
(1日目)
銚子川第二発電所近くの林道出合スペースに車を置き,発電所への階段を下る。発電所から送水管に沿ったジグザグの階段道を上っていくのだが,もう使われないようになってから随分経つようで,入り口さえ明瞭でない。付近はイノシシの掘り返しで畑状態になっている。かつてあった階段を探しながら登って行くと,上の方でイノシシの親子が逃げていく。このあたりのイノシシ密度は高いのだ。
最初のうちはなんとか階段に沿って登ったのだが,そのうち道を見失なった。送水管が尾根を越えるところまで登って,そこから岩嵓を縫って登ろうかと思っていたのだが,当初考えていたルートよりも左にそれているらしい。もう少し登れば昔の水平道に出そうだったので,方針を変えて水平道沿いのルートを辿ることにした。
- 貯水槽?
道のない急斜面を登って行くと見覚えのある構造物(昔の貯水槽か?)の所に出た。ここに走っている水平の杣道を西へ辿ることにする。標高350m付近の水平道を辿るが,長い間使われていないようで,そのうち道がなくなる。歩けるところを探してなおも西へ向かう。山頂台地へ向かう木馬道に出るはずなのだ。どこかでイノシシ同士が争う鳴き声が聞こえる。鹿が白いお尻を見せて逃げていく。ここは野生動物の世界なのだ。
ようやくzippさんいわくの木馬道に出,ジグザグ道を尾根に向かって登り始める。そのうちジグザグ道も不明瞭になったので,適当に直登していく。標高800m付近で山腹道に出たので,この道を樫山東尾根に向かって北東方向に緩やかに登っていく。登り切ってようやく樫山東尾根の標高840m付近の広場に乗る。発電所からここまで2時間半。急斜面だけど樫山の南尾根を登った方が良かったかなと思ったりする。まあいいか。これからはテン場まで緩やかな登り斜面があるだけだ。
樫山付近で一本立てる。ピークに興味はないので樫山にはいかない。ここまで3時間。今日の核心部は過ぎたようだ。ブナにヤドリギがたくさんついている。この辺のブナにヤドリギが特に多いのか,あるいは今まで気がつかなかっただけなのだろうか。
- ヤドリギがついたブナ
北に向かって歩き始めるが,稜線に登るまでに足を使ってしまって,久しぶりのテン泊装備がだんだんこたえてくる。時刻は午前11時。どんなにゆっくり歩いても午後2時にはテン場につくだろう。緩やかに登る稜線には碍子が落ちていたり,碍子が付いたままの柱が立っていたり,昔,ここが人々の活動の場であったことがうかがわれる。今はすっかり鹿の生息地になり,その鹿道をたどっていく。
左には二ノ俣谷が深く切れ込んでいる。この稜線のどこかから黒滝が見えるはずなんだけど。テン泊荷物がきつかったせいか結局みつけられなかった。南台高の代表的な大滝として,東から小木森滝,八町滝,岩井谷大滝それに黒滝があるが,このうち行ったことがあるのは小木森滝と岩井谷大滝の二つ。黒滝にも是非お目にかかりたいものだ。
右側には嘉茂助谷の頭の優雅な三角錐が見えている。この山行中ずっと嘉茂助谷の頭を見ながら歩いたが,どこから見ても絵になる山だ。P1344の手前を右に折れ,今日のテン泊地である1215m付近鞍部へと東に向かう。P1344付近は森林伐採後,更新がうまくいかず,倒木ばかりの荒れ果てた様相を呈している。おそらく幼木が生えてきても鹿が食べつくしてしまうのだろう。もう何年もこんな状態が続いている。
- P1344付近
標高1270m付近を右に折れ,緩やかに下ると左下に今日の目的地である桃源郷が見えるので,ここを下り,ザックを下ろす。ここは不思議なところだ。稜線のすぐ下に水が流れており,ほとんど四方を山に囲まれた窪地なので,上空に強風が吹いていてもここだけは平安が保たれている。これが桃源郷たる所以なのだ。ここへ来るのは2年ぶりだろうか。いつ来ても安らげる場所だ。
- 1215m付近鞍部(桃源郷)
まずテントを張り,焚き木集め。渇水期なので水が出ているかどうか心配だったのだが,いつもの場所から水が湧いていた。ただ,水量が少ないので,下流へ行けばもう少し多くの水が得られるかと思い下流へ少し歩いてみたが,すぐに伏流になってしまい,水が得られるのはテントのすぐ横の湧き水部分だけだった。常に水が得られるというのも桃源郷の一つの条件だろう。
2時頃から焚き火を始め,3時頃にはお腹が空いたので日本酒をちびちびやりながら一人焼肉パーティー。4時半頃には日がくれたが,焚き火のおかげで寒くない。7時頃には集めた焚き木を全て消費したので,テントに引き上げる。
テント内で湯たんぽ用のお湯を沸かし,同時にお酒のカンもする。湯たんぽを寝袋に放り込んで,潜り込むと寝袋全体がいい具合に温まってポカポカだ。このやわらか湯たんぽ,なかなか優れものである。湯たんぽを太ももの間に挟んで寝ると全然寒くなくて,ぬくぬくと快適だった。幸せ幸せ。夜になると風も止み,桃源郷で平穏な一晩を過ごした。
(2日目)
夜は冷えるかと思っていたのだが湯たんぽのおかげか全然寒くなくて、そのせいで6時前まで熟睡してしまった。不思議なことにこの時期にはつきものの夜露がテントに全くついていない。夜中に綺麗に月が出ていたので放射冷却は起きているはずだが。インスタントラーメンに切り餅を二つ入れて朝食にする。ラジオで天気予報を聞いていると今朝は今秋一番の冷え込みなのだという。それなのにこの桃源郷の穏やかさはどうなんだろう。
テントを畳み、桃源郷にお礼を言って出発。「平穏な一晩をありがとう。また来ますね」。一足ごとに霜柱が潰れる。やっぱり結構冷え込んだようだ。P1344まで昨日の倒木の道を戻り、北に向きを変えて地池高に向かう。右手に嘉茂助谷ノ頭のゆったりとした三角錐が見えている。地池高のピークをぐるっと囲むように真新しいシカよけネットが張り巡らされ,通せんぼされている。仕様がないのでネットの周りをぐるっと大回り。地池高のピークを経ずに縦走路に出る。大台ケ原方面から地池高までは結構人が来ているのか、ここからははっきりした踏み跡がある。
自動センサー設置という看板のある場所を過ぎ、南西に向きを変え、さらに西に向きを変えて堂倉山に向かう。このあたりは二ノ又谷の源頭部に当たり、この谷を下りていくと黒滝の落ち口に出るはずだ。下流から遡行するのは単独では無理そうなので、近いうちに上流部からアプローチしてみたいものだ。
堂倉山のピークまで登るのは面倒なので、1400m付近で左にトラバースし、二ノ又谷の源頭部を渡って尾鷲道に直接出ることにする。このあたりも鹿道が縦横無尽に走っているので、ルートに困ることはない。気持のいい源頭部を回り込んで、白サコと呼ばれる場所に出た。
- 尾鷲道
あとはマブシ嶺まで尾鷲道を忠実に南下するだけだ。これまで歩いてきたバリルートとは一転し、ここはまるで高速道路だ。起伏もなくよく整備された道を歩いていく。空は快晴で、風もなく、冬枯れの南斜面に陽光が降り注いで、何とも言いようのない気持ちよさだ。ルンルン気分であっという間にマブシ嶺の手前に到着。
- マブシ嶺
ここで今回初めて登山者に出会う。空身なところを見るとマブシ嶺に荷物を置いてきたのだろう。挨拶をすると次に現れたのはkitayama-walkさんだった。最初に会った人を見直すとkeikokuさんだった。「キタさん、神出鬼没だねえ」。会うとしたらzippさんかと思っていたのだが、キタさんにこんなところで会うなんて。そのあと、キタさんの山友達の草川さんも現れた。4人で記念写真を撮り,マブシ峰で昼食。キタさんは相変わらずアルコール付きだ。昨日コンビニで買ったおにぎりが低温のせいかボロボロで食べにくい。そのうち体が冷えてきたので,早めにおいとますることにする。
ここから標高差700m超の南東尾根を一挙に降りることになる。初めての尾根で何が出てくるかわからないので念のためチェーンアイゼンを装着する。地形図を見る限り岩嵓は出てこないとは思うが,標高が下がるにつれて傾斜が急になるタイプの尾根なので,最後に軟着陸できるかどうかちょっと心配。一部尾根地形が不明瞭な部分がある。ここら辺は尾根を一つ間違えると絶望的な岩嵓にでる可能性があるので,尾根を間違えることはできない。GPSと首っ引きでコースを外れないように降りていく。
谷底まであと100mくらいで鹿避けネットの残骸が現れ,踏み跡も出てきた。あと50mくらいで地形図通りに傾斜が急になったが,踏み跡は急傾斜をうまくさばきながら降りている。下に沢床が見えてきた。うまく軟着陸できそうだ。チェーンアイゼンのおかげで落ち葉が積もった滑りやすい斜面でも安心して降りることができた。チェーンアイゼンさまさまだ。光谷右俣の出会いに着地。ここまで白倉林道が伸びている。
- 白倉林道
あとは林道をテクテク歩いて帰るのみだ。林道を歩き始めると,重機が置いてあり,林道の補修作業が行われているようだ。ここまで重機が来ているということは白倉林道が補修されているということだろう。予想通り,白倉林道はきれいに整地されており,ゲートまで普通車でも容易にこれるようになっていた。昨年同時期に来た時は落石で不通になっており,落石がなくても整備が悪くて四駆車以外は通れない状況だった。この工事は来年1月末まで続くようなので,少なくともそれまでは白倉林道は通行できるように整備されているに違いない。不動谷,光谷,二ノ俣谷近辺を探索する場合は今がいいチャンスかもしれない。少なくとも,ゲートまでの往復時間2時間を節約することができる。
- 素掘りのトンネル
素掘りのトンネルをいくつも通り抜け,眼前に広がる険しい山並みを見ながら,いつもながらよくこんなところに林道を通したものだと思う。昔は林業がそれだけ産業として重要だったということなのだろう。それにしても,今,白倉林道を改修しているということは伐採木材搬出の予定があるということなのか。何れにしても林道が通れるということは我々にとってもありがたいことだ。
2時間弱で駐車地着。桃源郷で再び一夜を過ごせたことも含め,充実した二日間を過ごすことができ,満足の山行だった。稜線はほぼ歩きつくしたので,今後は小木森谷,真砂谷,岩井谷,二ノ俣谷などの源流部を大滝も含め探索してみたいと思っている。
大台ケ原を含めた台高南部はいくつもの険悪な谷を形成し、その上には緩やかな起伏が連なる山上台地が広がる。この山上台地から南へ緩やかに下る稜線がある。その代表は尾鷲道が走る稜線で、もう一つは樫山へ至る稜線である。この二つの稜線をつないできれいな周回ルートができないかと考えた。そのルートのほとんどはすでに踏破ずみで様子はわかっているが、唯一、尾鷲道から光谷(白倉林道)への下降ルートだけは未踏破である。沢装備であれば谷中を下ることは容易なのだが、今回は通常登山装備である。どこから下ろうかいくつかの案を考えたが、なかなか一つに絞り切れない。そのうち、TWさんがマブシ嶺南東尾根を登った記録を見つけた。登れるのなら下ることも可能だろう。この時点で周回ルートは完成した。後は実行に移すのみ。
【 日 付 】2016年12月10日(土)~ 11日(日)
【 山 域 】台高南部 大台ケ原南東山地
【メンバー】単独
【 天 候 】1日目 晴れ;2日目 晴れ
【 ルート 】
1日目:銚子川第二発電所7:33 --- 10:09 840m付近稜線 --- 10:34 樫山近く 10:52 --- 11:36 P1174 --- 12:06 P1272 --- 12:45 P1344 --- 13:10 1215m付近鞍部(桃源郷)
2日目:1215m付近鞍部(桃源郷) 7:29 --- 8:06 P1344--- 9:34 尾鷲道出会い --- 11:11 マブシ嶺 11:40 --- 12:51白倉林道 --- 13:35 林道ゲート --- 14:35 駐車地
(1日目)
銚子川第二発電所近くの林道出合スペースに車を置き,発電所への階段を下る。発電所から送水管に沿ったジグザグの階段道を上っていくのだが,もう使われないようになってから随分経つようで,入り口さえ明瞭でない。付近はイノシシの掘り返しで畑状態になっている。かつてあった階段を探しながら登って行くと,上の方でイノシシの親子が逃げていく。このあたりのイノシシ密度は高いのだ。
最初のうちはなんとか階段に沿って登ったのだが,そのうち道を見失なった。送水管が尾根を越えるところまで登って,そこから岩嵓を縫って登ろうかと思っていたのだが,当初考えていたルートよりも左にそれているらしい。もう少し登れば昔の水平道に出そうだったので,方針を変えて水平道沿いのルートを辿ることにした。
[attachment=0]PC100005.jpg[/attachment]
道のない急斜面を登って行くと見覚えのある構造物(昔の貯水槽か?)の所に出た。ここに走っている水平の杣道を西へ辿ることにする。標高350m付近の水平道を辿るが,長い間使われていないようで,そのうち道がなくなる。歩けるところを探してなおも西へ向かう。山頂台地へ向かう木馬道に出るはずなのだ。どこかでイノシシ同士が争う鳴き声が聞こえる。鹿が白いお尻を見せて逃げていく。ここは野生動物の世界なのだ。
ようやくzippさんいわくの木馬道に出,ジグザグ道を尾根に向かって登り始める。そのうちジグザグ道も不明瞭になったので,適当に直登していく。標高800m付近で山腹道に出たので,この道を樫山東尾根に向かって北東方向に緩やかに登っていく。登り切ってようやく樫山東尾根の標高840m付近の広場に乗る。発電所からここまで2時間半。急斜面だけど樫山の南尾根を登った方が良かったかなと思ったりする。まあいいか。これからはテン場まで緩やかな登り斜面があるだけだ。
樫山付近で一本立てる。ピークに興味はないので樫山にはいかない。ここまで3時間。今日の核心部は過ぎたようだ。ブナにヤドリギがたくさんついている。この辺のブナにヤドリギが特に多いのか,あるいは今まで気がつかなかっただけなのだろうか。
[attachment=1]PC100014.jpg[/attachment]
北に向かって歩き始めるが,稜線に登るまでに足を使ってしまって,久しぶりのテン泊装備がだんだんこたえてくる。時刻は午前11時。どんなにゆっくり歩いても午後2時にはテン場につくだろう。緩やかに登る稜線には碍子が落ちていたり,碍子が付いたままの柱が立っていたり,昔,ここが人々の活動の場であったことがうかがわれる。今はすっかり鹿の生息地になり,その鹿道をたどっていく。
左には二ノ俣谷が深く切れ込んでいる。この稜線のどこかから黒滝が見えるはずなんだけど。テン泊荷物がきつかったせいか結局みつけられなかった。南台高の代表的な大滝として,東から小木森滝,八町滝,岩井谷大滝それに黒滝があるが,このうち行ったことがあるのは小木森滝と岩井谷大滝の二つ。黒滝にも是非お目にかかりたいものだ。
右側には嘉茂助谷の頭の優雅な三角錐が見えている。この山行中ずっと嘉茂助谷の頭を見ながら歩いたが,どこから見ても絵になる山だ。P1344の手前を右に折れ,今日のテン泊地である1215m付近鞍部へと東に向かう。P1344付近は森林伐採後,更新がうまくいかず,倒木ばかりの荒れ果てた様相を呈している。おそらく幼木が生えてきても鹿が食べつくしてしまうのだろう。もう何年もこんな状態が続いている。
[attachment=3]PC110039.jpg[/attachment]
標高1270m付近を右に折れ,緩やかに下ると左下に今日の目的地である桃源郷が見えるので,ここを下り,ザックを下ろす。ここは不思議なところだ。稜線のすぐ下に水が流れており,ほとんど四方を山に囲まれた窪地なので,上空に強風が吹いていてもここだけは平安が保たれている。これが桃源郷たる所以なのだ。ここへ来るのは2年ぶりだろうか。いつ来ても安らげる場所だ。
[attachment=2]PC110035.jpg[/attachment]
まずテントを張り,焚き木集め。渇水期なので水が出ているかどうか心配だったのだが,いつもの場所から水が湧いていた。ただ,水量が少ないので,下流へ行けばもう少し多くの水が得られるかと思い下流へ少し歩いてみたが,すぐに伏流になってしまい,水が得られるのはテントのすぐ横の湧き水部分だけだった。常に水が得られるというのも桃源郷の一つの条件だろう。
2時頃から焚き火を始め,3時頃にはお腹が空いたので日本酒をちびちびやりながら一人焼肉パーティー。4時半頃には日がくれたが,焚き火のおかげで寒くない。7時頃には集めた焚き木を全て消費したので,テントに引き上げる。
テント内で湯たんぽ用のお湯を沸かし,同時にお酒のカンもする。湯たんぽを寝袋に放り込んで,潜り込むと寝袋全体がいい具合に温まってポカポカだ。このやわらか湯たんぽ,なかなか優れものである。湯たんぽを太ももの間に挟んで寝ると全然寒くなくて,ぬくぬくと快適だった。幸せ幸せ。夜になると風も止み,桃源郷で平穏な一晩を過ごした。
(2日目)
夜は冷えるかと思っていたのだが湯たんぽのおかげか全然寒くなくて、そのせいで6時前まで熟睡してしまった。不思議なことにこの時期にはつきものの夜露がテントに全くついていない。夜中に綺麗に月が出ていたので放射冷却は起きているはずだが。インスタントラーメンに切り餅を二つ入れて朝食にする。ラジオで天気予報を聞いていると今朝は今秋一番の冷え込みなのだという。それなのにこの桃源郷の穏やかさはどうなんだろう。
テントを畳み、桃源郷にお礼を言って出発。「平穏な一晩をありがとう。また来ますね」。一足ごとに霜柱が潰れる。やっぱり結構冷え込んだようだ。P1344まで昨日の倒木の道を戻り、北に向きを変えて地池高に向かう。右手に嘉茂助谷ノ頭のゆったりとした三角錐が見えている。地池高のピークをぐるっと囲むように真新しいシカよけネットが張り巡らされ,通せんぼされている。仕様がないのでネットの周りをぐるっと大回り。地池高のピークを経ずに縦走路に出る。大台ケ原方面から地池高までは結構人が来ているのか、ここからははっきりした踏み跡がある。
自動センサー設置という看板のある場所を過ぎ、南西に向きを変え、さらに西に向きを変えて堂倉山に向かう。このあたりは二ノ又谷の源頭部に当たり、この谷を下りていくと黒滝の落ち口に出るはずだ。下流から遡行するのは単独では無理そうなので、近いうちに上流部からアプローチしてみたいものだ。
堂倉山のピークまで登るのは面倒なので、1400m付近で左にトラバースし、二ノ又谷の源頭部を渡って尾鷲道に直接出ることにする。このあたりも鹿道が縦横無尽に走っているので、ルートに困ることはない。気持のいい源頭部を回り込んで、白サコと呼ばれる場所に出た。
[attachment=4]PC110050.jpg[/attachment]
あとはマブシ嶺まで尾鷲道を忠実に南下するだけだ。これまで歩いてきたバリルートとは一転し、ここはまるで高速道路だ。起伏もなくよく整備された道を歩いていく。空は快晴で、風もなく、冬枯れの南斜面に陽光が降り注いで、何とも言いようのない気持ちよさだ。ルンルン気分であっという間にマブシ嶺の手前に到着。
[attachment=5]PC110075.jpg[/attachment]
ここで今回初めて登山者に出会う。空身なところを見るとマブシ嶺に荷物を置いてきたのだろう。挨拶をすると次に現れたのはkitayama-walkさんだった。最初に会った人を見直すとkeikokuさんだった。「キタさん、神出鬼没だねえ」。会うとしたらzippさんかと思っていたのだが、キタさんにこんなところで会うなんて。そのあと、キタさんの山友達の草川さんも現れた。4人で記念写真を撮り,マブシ峰で昼食。キタさんは相変わらずアルコール付きだ。昨日コンビニで買ったおにぎりが低温のせいかボロボロで食べにくい。そのうち体が冷えてきたので,早めにおいとますることにする。
ここから標高差700m超の南東尾根を一挙に降りることになる。初めての尾根で何が出てくるかわからないので念のためチェーンアイゼンを装着する。地形図を見る限り岩嵓は出てこないとは思うが,標高が下がるにつれて傾斜が急になるタイプの尾根なので,最後に軟着陸できるかどうかちょっと心配。一部尾根地形が不明瞭な部分がある。ここら辺は尾根を一つ間違えると絶望的な岩嵓にでる可能性があるので,尾根を間違えることはできない。GPSと首っ引きでコースを外れないように降りていく。
谷底まであと100mくらいで鹿避けネットの残骸が現れ,踏み跡も出てきた。あと50mくらいで地形図通りに傾斜が急になったが,踏み跡は急傾斜をうまくさばきながら降りている。下に沢床が見えてきた。うまく軟着陸できそうだ。チェーンアイゼンのおかげで落ち葉が積もった滑りやすい斜面でも安心して降りることができた。チェーンアイゼンさまさまだ。光谷右俣の出会いに着地。ここまで白倉林道が伸びている。
[attachment=6]PC110084.jpg[/attachment]
あとは林道をテクテク歩いて帰るのみだ。林道を歩き始めると,重機が置いてあり,林道の補修作業が行われているようだ。ここまで重機が来ているということは白倉林道が補修されているということだろう。予想通り,白倉林道はきれいに整地されており,ゲートまで普通車でも容易にこれるようになっていた。昨年同時期に来た時は落石で不通になっており,落石がなくても整備が悪くて四駆車以外は通れない状況だった。この工事は来年1月末まで続くようなので,少なくともそれまでは白倉林道は通行できるように整備されているに違いない。不動谷,光谷,二ノ俣谷近辺を探索する場合は今がいいチャンスかもしれない。少なくとも,ゲートまでの往復時間2時間を節約することができる。
[attachment=7]PC110086.jpg[/attachment]
素掘りのトンネルをいくつも通り抜け,眼前に広がる険しい山並みを見ながら,いつもながらよくこんなところに林道を通したものだと思う。昔は林業がそれだけ産業として重要だったということなのだろう。それにしても,今,白倉林道を改修しているということは伐採木材搬出の予定があるということなのか。何れにしても林道が通れるということは我々にとってもありがたいことだ。
2時間弱で駐車地着。桃源郷で再び一夜を過ごせたことも含め,充実した二日間を過ごすことができ,満足の山行だった。稜線はほぼ歩きつくしたので,今後は小木森谷,真砂谷,岩井谷,二ノ俣谷などの源流部を大滝も含め探索してみたいと思っている。