- 20m多段滝
海外出張からの帰国を9月20日朝に設定したのは秋の3連休を見逃したくないという思いからだった。インドネシアでも週末の天気予報をチェックしていたのだが、予報はいまいち。半ばあきらめて帰国したら予報が好転していた。しかも、富山方面は日曜日も快晴の予報。かねてから行きたいと思っていた赤木沢が呼んでいる。帰国深夜便での寝不足を抱えたまま、家で仮眠して、とるものもとりあえず家を出る。
【 日 付 】2013年9月21日(土)〜23日(月)
【 山 域 】北アルプス 薬師岳周辺
【メンバー】単独
【 天 候 】3日間とも晴れ
【 ルート 】
21日:折立 10:00 --- 11:30 1870m三角点 11:50 --- 14:05 太郎平小屋 --- 14:30 薬師峠(テント泊)
22日:薬師峠 5:40 --- 7:15 薬師沢小屋 7:40 --- 8:30 赤木沢出会 --- 9:40 30m滝手前 10:00 --- 10:50遡行終了 --- 12:00 北ノ俣岳下 13:00 --- 14:30 薬師峠(テント泊)
23日:薬師峠 6:20 --- 7:30 薬師小屋 --- 8:20 薬師岳 8:40 --- 9:50薬師峠 10:45 --- 12:25 1870m三角点 12:40 --- 13:40 折立
(9月21日 1日目)
9時半に折立に着くと登山口近くの駐車スペースはもう満車状態。少し戻った脇道に奇跡的に見逃されている1台分の駐車スペースを見つけ,うまく駐車することができた。
今日のザックの重量は17キロ。沢道具も入っていることを考えると妥当なところだろう。いつもだとこのくらいの重量を担ぐと腰が安定してかえって歩きやすくなるのだが,今日はその感覚がない。テン泊装備は4月末の台高縦走以来(7月の堂倉谷は極力軽量化したので勘定に入れていない)なので身体がすっかり感覚をなくしてしまっているのだろう。
10時に折立を出発,14時太郎平小屋着。途中20分間の休憩が入っているので,実歩行時間は3時間40分だった。久しぶりのテン泊装備でゆっくり歩いたわりには好タイムだ。ちなみに5年前はこのコースを3時間半で歩いているが,この時は小屋泊だったので,テン泊装備であることを考慮すると5年前と比べてそれほど体力は低下していないようだ。
2時半,薬師峠着。テン場は予想したほどには混んでいなくて,50%程度の埋まり具合だった。メインのテン場からちょっと離れた場所に完全に水平な絶好のサイトを見つけ,テントを張る。ちなみに3年前に張った場所の隣だった。
ちょっと早いが暗くならないうちにと思い,5時頃に夕食にする。今日は肉野菜炒め。上市町の24時間営業のマックスバリューで買い出してきた。簡単に調理できて野菜もたっぷりとれるので定番になっているメニューだ。料理とビールで腹一杯になり,寝不足と疲れで6時頃には眠り込んでしまった。
(9月22日 2日目)
4時半に起床。いつものようにハムエッグとトーストで朝食をとり,5時40分に出発。薬師沢まではアプローチなので他のパーティーをごぼう抜きにして小走りで抜ける。まだ紅葉には早いがカンバやナナカマドなどが多少紅葉し始めている。
薬師沢の小屋でトイレをすませ,沢装備に変える。今日は初級沢と言うことでハーネスもロープもなし。沢靴だけなので身が軽い。隣で沢準備をしていた男性二人に軽く挨拶して,小屋横のはしごから沢に降りる。しばらくは奥の廊下のゴーロ歩きだ。複数の先行者がいるらしく,石や砂の上に足跡がついている。
赤木沢手前の右岸側のへつりのところで単独行の青年に追いつく。沢で単独行同士が出会うことはまれなので思わず嬉しくなってしまう。向こうも満面の笑みで迎えてくれる。コースなどについて情報を交換し合う。私は赤木沢へ向かうのだが,青年はこのまま黒部川の源流をつめるのだという。なるほどそういう歩き方もあるのね。今度機会があったら自分も歩いてみようと思う。出会いから赤木沢方面に右折し,振り返ると青年が大きく腕を振ってエールを送ってくれた。私も手をふりかえす。これだけでもここに来た甲斐があったと思った。
- 赤木沢出会い
赤木沢を入ったところで,男性3人,女性1人のパーティーに出会う。足跡はこの人達のもののようだ。赤木沢はまず赤茶色の岩盤でできたナメで出迎えてくれる。ナメのあとは美しい斜滝群だ。天気もよく,大きく開けた谷なので,樹木と釜の緑と青空と滝を落ちる水流の白さがそれぞれ際立って素晴らしい美しさだ。遡行難度が高くないこともあって,癒し系の沢として多くの人に愛されるのもうなづける。斜滝はほとんどが階段状になっているので,初級者であっても沢靴さえあればほとんどの滝を簡単に直登することができる。
- 赤木沢最初の10m斜滝 流れの右を登る
快適に滝を登って行く。単独行なのでスピードが自然に早くなってしまうようで,さっき会った4人組の姿があっという間に視界から消え,その後会うことはなかった。ウマ沢を左に見送ったあとの10m滝は沢ナビの遡行図通り左岸巻き。次の2条10m滝は2条の流れの中間を登る。ここだけが多少緊張したところだが,下が深い釜になっているので落ちても死ぬことはあるまい。なんとか登りきって大満足。
- 10m滝 左岸巻き
- 2条10m滝 流れの間を直登
そのあとも次々と美しい斜滝群が出迎えてくれる。すべて直登できるのが嬉しい。あまり早く進みすぎているので,30m大滝の手前の斜滝のテラスでちょっと一休み。4人組のあとには誰にも会わなかった。30m大滝は左岸を巻くが,通る人が多いようでちゃんとした道になっていた。大滝を越えてすぐに右俣の支流に入り,小さな斜滝群を登って行く。
- 30m大滝の巻きの途中
水流が細くなったところで,遡行を終了し登山靴に履き替える。右側の斜面を登り始めるとハイマツこぎだった。ちょっと早まったかなと思ったが,そのハイマツもそれほど濃い密度ではなかったので,簡単に抜け,草原の赤木平にでた。薬師沢左俣の源流を徒渉して北ノ俣岳に直接向かうことにする。チングルマが一面に生えているので,きっと花の時期はきれいなのだろうと思う。
- 赤木平から北ノ俣岳を望む
北ノ俣岳直下でまだ12時だ。登山道に上がってしまうと人に会いそうなので,手前で休憩しながら草原に寝転ぶ。目の前には左から薬師岳,赤牛岳,水晶岳,鷲羽岳,三俣蓮華,双六岳,黒部五郎岳が一望で,その向こうには槍の穂先が独特の存在感を持って見えている。鷲羽と三俣蓮華の間に見えているのは常念なのか大天井なのか。なんて贅沢な時間。
- 北ノ俣岳から望む薬師岳
北ノ俣岳に上がるとやっぱり人に会ってしまう。意外に長い道のりを太郎平小屋まで歩き,2時半に我が家につく。途中お腹がすいたので小屋でチマキを2つ買ってテントで食べたら夕食を食べたくなくなった。今日の夕食のメニューはアルファ米とフリーズドライのカレーの予定なのだが,やっぱりドライ系の食品には食欲がわかない。ビールだけ飲んで寝てしまう。
(9月23日 3日目)
今日は最終日。天気がいいので予定通り薬師岳に寄ってから下山することにする。空身なので足が軽い。途中,昨日歩いた赤木平から北ノ俣岳の斜面がきれいに見えていて,昨日のことを思い出しながら登る。薬師小屋までほぼ1時間。そのあとひと登りで薬師岳の頂上だ。
薬師岳は私が山登りを始めるきっかけになった要因の一つで,有峰湖から長大でどっしりした山容を眺めながら,いつか自分もあの山に登れる日がくるのだろうかと思ったものだった。その頃は折立がこの山域の登山口になっていることさえ知らなかった。
薬師の頂上の仏様に再訪のご挨拶をした後,駆け足でテン場に降りる。テントをたたみ,太郎平から折立に降りる。折立近くになってさすがに足に疲れを感じたが,まだまだ歩けそうだ。これで台高の闇鍋オフにも多少のアルコールと食料を持って参加できそうだ。久しぶりの沢行とボッカ訓練が同時に達成できていい山行だった。3日間ともよい天気に恵まれ,日本の山の神様にも帰国の歓迎をしていただいたみたいだし。やっぱり日本の山はいい。