
- 広がった尾根のむこうに三嶺がみえた
【日付】2014年10月16~19日
【山域】四国剣山系
【メンバー】夫婦
【天候】ほぼ快晴、一時霧
【ルート】剣山1955 ~ 丸石 ~ 高ノ瀬 ~ 三嶺1893
私、昨年12月に一念発起して起業し、自営業者となりました。そんなわけでこの夏はお盆休みも返上、
雲よ湧け、雷よ鳴れ、と心せまい願いを念じて日々を送ってまいりました。ところがその甲斐あってかよ
うやく損益分岐点が目の前にやってきたものですから、急に心変わりし、この際大胆にも一週間の連休
をとるという大バクチを打つことにいたしました。
スタッフのみなさん(といっても妻+α)には、「103万制限を超えるといけないから…」と偽善的なポーズ
で一週間のヒマをだし、さあ、次はどこに行くかです。この時期のまとまった休みはこれまで南アルプス
で過ごすことが多かったのですが、予報では雪の日があるようで、最大風速23mの予報まででていまし
た。白山方面も曇りがちのようです。台高も考えたのですが、結局一番予報が安定していた四国に行く
ことにしました。コースは剣山から三嶺への縦走。15年くらい前に一度歩いています。結果的にコース
設定は大成功。日頃の行いがよほどいいのか、終始快晴に恵まれて居心地良い山旅となりました。
もっとも後で知ったことですが、アルプスも白山もどこに行っても快晴だったようですね。
さて剣山系に行くのは久しぶりです。ナビによると距離は大阪から200kmちょっとらしいのですが、高速
を降りてからの細いウネウネ道が延々と続くため時間がかかります。16日の昼前、ようやく登山基地
見ノ越からのスタートです。観光客が目立つ見ノ越ですが、標高は1400mを超えています。一部紅葉前
の青さを残す森もありますが、すっかり落葉した木々も多く、日が陰ると唐突に晩秋らしい冷たさがやっ
てきて不安にさせられます。できるだけ人の少ないルートを選んで歩いていると、遠回りコースで剣山と
次郎笈のコルにでました。登り返すと剣山頂上のテーブルランドは人でいっぱいです。足早に隣の二ノ森
まで歩いてそのピークに幕を張りました。
少し離れただけで、ここは静かで誰もいません。夕食に雑炊を食べて秘蔵の60°のどなんを飲みはじめ
ましたが、その頃からにわかにガスがかかり始めました。そこに強風がくわわってテントを揺らし、突風は
翌朝までやむことなく続きました。天気予報は晴れなのですが…。翌朝も天気は回復しません。とりあえず
出発はしたものの、剣の山頂付近では耐風姿勢が必要なほどの悪天です。カナワンナア…、風裏にあたる
次郎笈とのコルで様子見していると、ちょうど8時半くらいのことでしたが、空が割れて真っ青な青空が見え
るようになりました。テンションがあがると次郎笈のピークは指呼の間です。
頂上はだれもいませんでした。山名板だけの簡素な頂上です。悲しいかな、山座同定ができませんが、
展望は360°で兄弟峰の剣山も霧が割れたところから暖かな日射しを浴びています。その右に昨夜泊った
ニノ森、その先が一ノ森です。180°反対、西側遠くにこれから向かう三嶺が端正な三角錐の姿をみせ、よく
みるとミヤマクマザサにおおわれた尾根に延々と踏みわけ道が続いているのも視認できます。至福の時を
過ごした後、別ルートで下って縦走路に合流すると、さあここからいよいよ縦走の開始です。

- 西へ向かってうねる縦走路
2週続けて週末に台風がきた四国の空は真っ青です。たまに縦走者とすれ違いますが、どの顔も2週待
たされた後の幸福と戯れているかのようです。静かで風の音だけが鳴っています。白骨樹が点在し、とき
どき小さな森を抜け、展望の笹道を緩く下っていくとスーパー林道分岐のコルにつきました。ここはこの
コースの重要なエスケープルートのひとつです。下にまだ緑の広葉樹林が広がりさらに下に林道がみえま
すが、車の気配は終始ありませんでした。このあたりの稜線は海抜1500~1600mを歩きますが、陽が高く
なるとかなり暑くなってきます。風の当たらないところで少し早めのお昼にしました。私の場合、山行中の
ご飯がのどを通りにくいので、雑炊にしてフジッコで食べました。コーヒーをいただいてエネルギー補給が
終わればまた出発です。
こんどは笹原の急登で丸石1683に着きます。いつのまにか剣、次郎笈が遠くなりました。ルートはここから
森歩きになります。日影で休んでいるとトレランの二人がきました。今朝剣山で霧明け待ちしていたとき出発
していった人たちです。三嶺まで行ってもう戻ってきたといいます。人間技ではありません。
やがて森の中に丸石避難小屋がみえてきました。まだ早いけど今日はここに泊ることにしましょう。霧で濡れ
たテントを風が通る木にかけて干し、湯を沸かしてコーヒーを飲み、それから夕食の準備を始めます。淡々と
山の日課を続けているとそのうち日が傾き、次に闇がきました。この日小屋にはだれもきませんでしたが、夜は
少し先の切り開きから満天の星が望めました。天頂を天の川が太く流れています。ほんとはSHIGEKIさんのよう
にキレイな写真が撮れればよかったのですが…。

- 夕暮れ
翌朝は快晴で明けました。早朝の冷気のなか、森歩きを続けます。徐々に登り加減になり、このコース唯一の
岩場をしのいで高ノ瀬1740に立ちました。切り拓かれた草地から南に折り重なるように蒼い山々の展望が広が
っていました。高知の山並みでしょう。種田山頭火の有名な句、 分け入っても分け入っても青い山 が思い出
されます。「青い山」とは教科書的正答は「煩悩」を指しているのだそうですが、私には「山懐深くに入った安ど感」
のほうがピッタリきます。そういえば昔、国鉄のディスカバージャパン・キャンペーンで「青い国、四国」というのが
ありましたね。
ここから先もルートは明瞭なアップダウンが続き、快適に歩けます。以前ここを歩いた時はもっとブッシュだった
ように思うのですが、今はそんな様子はありません。ボタンブチやイブネもそうですが、すっかり歩きやすくなりま
した。しかしなんとなく素裸にされたような居心地悪さも感じます。
ほとんど廃道化した石立山分岐を左に分け、もうしばらくで尾根は急に広がり、広大な笹原にでます。原っぱの先
に大きくなった三嶺が見え、胸がすくような快哉を感じるところです。もっともここも以前歩いたときは腿の深さの笹
だったのが、今は足首くらいです。それとも笹原というのは常に変わり続けるものなのでしょうか? ここからは樹林
帯と笹原を交互に繰返して白髪避難小屋に着きました。時刻はまだ11時ですが、ここでお昼にします。ルートの少
し先をだいぶん南に降り下ると、谷水が勢いよく湧いていました。明日の分までたっぷり汲んで戻りました。この小
屋まわりは、開放的ですばらしいロケーションです。周囲は広い笹原で、その真ん中に小さなテン場があります。
今日は好天の土曜日なので早くも幕営者第一号が到着して設営をはじめました。まもなく第二号がきて一号にな
にか挨拶しています。礼儀正しいですね。でもその後やってきた第三号はなにもいわずに張りだし、たちまち狭い
テン場は超満員、次の人は小屋前に張ったそうです。
我々は先に進みます。10分登ると白髪山分岐、そこからおお下りして森の中に入ると涼しい木陰のコルに小さな
ヌタ場がありました。前来た7月はナンゴククガイソウがいっぱい咲いていたところです。もう一度登りに入って樹林
帯を抜けると平坦な草地がありました。三嶺の衛星峰カヤハゲのピークがすぐ先にみえます。ここに今夜は泊らせ
てもらいましょう。ここからみる剣山はずいぶん遠くなりました。谷を隔てたはるかな先に豆粒のように白髪のテント
群がみえます。その上に湧いた時期遅れの夏雲がそのうちうすいピンクに染まり始めましたが、その一部始終が完
全に静かなドラマで、うなずくコトリという音まで聞こえてくるようです。水がたっぷりあるのでラ王を食べ、ピーク近く
の岩峰から夕陽をみました。西の空に残照が長く残り、風のない静かな夜がきました。ラジオが明日日中の好天を
保障してくれたので、安心してお酒を飲みました。その後は前後不覚ですが、夜空は天の川、南西に高知の灯りが
みえたそうです。ラジオがクライマックスシリーズを中継していたことは、なんとなくおぼえています。
ほろほろ酔うて木の葉ふる 山頭火
最後の一日が明け、その日初めの光で赤く染まった斜面を歩きはじめました。緩やかなアップダウンで森をゆき、
大きな岩峰を右からまくと最後の急坂になります。ここは鎖場が連続し、両手で岩をつかんではい上るところです。
周囲は紅葉を終えたばかりのコメツツジばかり。国の天然記念物には悪いけど、枝につかまって身体をひきあげ、
また次の枝を手探りするようなルートです。

- 三嶺から西を望むと石鎚までみえた
そんな風にして、まだかな…、となんどか空を仰ぎ見ながら行くと突然
重力から解放されたように頂上に着きました。1893.4m、三嶺の狭いヒルトップは360°の展望が迎えてくれます。
ここは三度目です。一度は霧のなか、一度はいい天気でしたが、今回いちばん見通しがききます。西のほう、うね
うねと天狗塚に向かう巨大な尾根がみえます。その先はるかに小さく石鎚山がみえることは、昨夜ここでビバーク
した青年が教えてくれました。

- コメツツジに染まった三嶺ピーク
30分ほどすると、つぎつぎ登山者がやってくるようになりました。少し下ってからコーヒーを沸かしました。陽射し
が暖かく、幸福な山行の最後にふさわしいひとときでした。降りたくはないのですが、明日から自営業者としての
一日が始まるので降りなければなりません。美しい森を歩いて車の待つ名頃に下りました。