単独スタイルで「中央分水嶺」の「福井県境」を踏破、などと大風呂敷を広げてしまってからの二回目山行となる。
途方にくれるほどの残りの距離だが、今回の「早出」は長大なアプローチの回数をも減らすことが出来る有効な手段だと実感し、完遂へ向けての手応えを少し感じ取ることが出来た。

- 反時計回りの周回
【 日 付 】 2013年3月9日(土)
【 山 域 】 越美国境
【メンバー】 単独
【 天 候 】 晴れ
【 ルート 】 登山口(3:32)-(5:44)P912m-(6:57)美濃俣丸-(9:20)笹ヶ峰(9:47)-(10:56)下山路分岐-(12:02)高倉峠手前ピーク
-(体調異変ピンチ)-(13:26)分岐-(13:55)林道着地-(14:56)通過不能滑り台-(15:24)駐車地
「やぶこぎ」の集中登山、ってか?
今日行なわれるはずのスノー衆パートⅢ、その登山口となる岩谷川林道を対岸にして除雪された広野ダム湖岸道を運転しながら一人笑い。もっとも集中登山とは、同じピークをそれぞれ違ったルートで目指すものを指し、登るのが同じ広野ダムというだけでソレも登山口は対岸となるから正確には離散登山かな?
除雪がされていて一時間以上は助かった。なにしろ今日は早めに下山しなくてはならないのだ。
週初め今日あたりまでの好天予報に、会社へそれとなく休みになるといいなと伝えたらあっさりOK、よっしゃー土日で美濃俣~金草行けるぞと喜んだ。が、休みの日にわざわざで申し訳ないが前々から話のあった勉強会の日程もその土曜の十六時になるとの追加連絡に愕然としてしまった。
もともと笹ヶ峰/金草は別々の二回分のコース設定。山中泊はあきらめるとして登山口から会社までは一時間程だが、どちらの山のコースにしても三時下山が可能なはずはない。
好天予報の土曜日には山を諦めかけたが、金沢のスーパードクターHPで簡単にその答えが見つかった。『冬季白山ワンディ、午後二時からの医院のミーティングに間に合わせるためには、早く出発するしかない!!』
あ、そ~か ♪♪
夜間登山は白山や日野山それに焼岳でも経験している。しかしそれも無雪期のこと、雪の時期には下山遅れの林道歩きが何度か。(^^ゞ こんなことでもなければ、雪山へ暗いうちから登ろうなどとは考えなかったはずだ。Y先生、ありがとうございます。
広く除雪された二つ屋導水施設に駐車して、満点の星空の下を三時半から歩き始めた。気温はまだ一月も経ってない前回のマイナス八度が信じられないプラス四度。橋でスノーシューを着けるが、登ろうとした西尾根の南面急斜面にはなんともう雪は無かった。おかげで尾根まではつぼ足となったが、ヘッデンでこの急斜面をスノーシューだとかなり難儀したかも知れない。
尾根直前で傾斜も緩み始めた頃、見上げた樹間からヘッデンを反射して野生動物の片目が光る。どき~っっ、目の大きさからかなりの大型獣だとわかる。動くことも出来ずにしばらく見つめ合うが、突然理解する。樹林帯の中でえらく低い位置からだけど、ありゃ~お星様だな~・・・・。
月もなく暗いというだけで、ひと月前の前回よりも格段に歩きやすい尾根歩きが始まった。いつのものなのか単独者の往復トレースもあり、間違いなく無雪期の明るい登山道よりも歩きやすい。そういえば暗くなってからの下山は危険だが登ってはいけないとは聞いたことがない。少し考えてみても樹林帯あたりだと危険というのは雪庇くらいしか思いつかない。なにか危険があれば夜明けを待てばいいのだから、今後の山行に夜間登山を積極的に取り入れるのもいいかもしれない。
歩き始めて二時間ほど、振り返るたび広野ダムの照明が湖面に反射していたのが見えなくなった。すると前方の樹間越しに黄色い光、まるで運転していて遠くのスキー場の照明が見え始めたたような感じの縦長の光の帯が見え出した。絶~っ対あんなトコにスキー場はないと分かってはいても私の中の『常識』は、あれはスキー場でいいじゃないか、鬼火の類いなんかじゃないよー、って言う。気のせいと思い込もうとするが黄色い光の帯はだんだん伸びていく。
見え始めて十分後、やっとその正体がわかった。なんのことはない、お月さん、上弦の月だった・・・。
月の出を迎えたからだけではなく、ぼんやりと回りも明るくなってきた。近くの山々のシルエットもはっきりしてきた。やはりヘッデンだけよりも歩きに安心感が宿ってくるようだ。ちょうど登り一辺倒の樹林帯を終えアップダウンも始まる。GPSだけでは下りがあると不安が出てくる。やはり目視ができることが一番だ。
下の樹林帯よりもさらに雪面は締まってきて歩きはさらに快適だ。急斜面もどんどん直登できるのがうれしい。前回はココで難儀したな~、なんて場所もあっというまに通過できてしまう。明るくなってきた上にさらに歩きやすくなった雪面のおかげで、かなりスピードアップができた感じだ。
登るにつれまばらになってきた樹々で広い空間を感じ取れる上に、どんどん明るくなっていく。三周ヶ岳や上谷山もよく分かるようになった。一度きりだが鳥の鳴き声が聞こえ、気がつくと青空のすがすがしい朝だ。霧氷こそ見えないが、山々の素晴らしい景色が広がっている。

- 前回昼食としたニセピーク下で、朝日を受け始めた三周ヶ岳後方のちょこっと頭の見える夜叉ヶ丸を望む。スノー衆は何時頃になるのかな?
この前はさんざん難儀したピーク手前のヤブ尾根トラバースは、トレースが左へと向っている。なるほどコチラも急ではあるが向こうよりか全然ラクだ。ここまでは登りで身体も暑く、素手でストックを握っていたが風も出てきたのでインナーをつける。しかし用意してきた耳当て付の帽子は面倒だったのでザックから出さずにおいたら正解。早朝の風でも耳が痛いほどの気温でもなく、結局一日中夏にも被っている帽子だった。
いよいよ美濃俣丸山頂へと到着だ。ひと月前にはアレだけ盛大だったエビノシッポが全くないのは寂しかったが、全方向の素晴らしい景色は同じだった。心配した黄砂の影響も許容範囲だろう。

- これから向う笹ヶ峰方向。
素晴らしいこの景色は、幸せなことに歩きながらでも見ることができる。すぐに下降し始めるがなんちゅう急斜面ですか~? なるべく斜度のゆるそうな真下に樹木や笹の見えるところを選んで、慎重にシューの爪を効かせながらの鉛直降を心掛ける。後の休憩で帽子につけたまま忘れていたヘッデンがないコトに気がついたが、落としたのは恐らくこの時。それだけ下降に集中していたということか。
数ある山の魅力の中で稜線歩きを最大の喜びとする私にとって、無上の幸せを感じる時間が延々と続く。歩いても歩いてもまだまだ先が続いているのは、人によってはツライものなのだろうが、少なくとも視界の確保された稜線歩きにはアップダウンがどれだけあろうと、私にとって苦役とは感じられない。このときばかりはマゾと呼ばれても仕方がない。(^^ゞ
少しずつ確実に変わっていく周りの景色に陶酔しながらの、幸せな時間が過ぎていく。
しかし、取り付きで雪が無かったことが不思議なほどの積雪だ。風上側では笹の頭が見えるほど雪が薄いところもあるが、稜線風下側の雪庇の大きさには驚くばかりだ。雪割れというか本当の稜線上に出来たクレパスから雪庇のハジまで優に二十メートルを越す場所も多い。変なことを考えると言われそうだが、この稜線は県境でもある訳だから、これだけ大量の雪を風がせっせと運んで越前側から美濃側にプレゼントしているワケだ。
そして実はワタシ、あまり山名の同定には自信がないほう。山は美しいとかカッコいいと感じるだけでよく、特に名前を調べるためだけに現場で地図を広げたりはしない。ん、コレがロボットピークと呼ばれる所かな、してみるとウワサの不動山というのは尾根をたどってあの山なのか? ま、こんなレベル。(^^ゞ

- 自信がないながらも奥の三つのピークは右から上谷・三周・烏帽子、三周手前に美濃俣、そしてその後は小さく夜叉ヶ丸かな三国かな。
美濃俣から二時間半も経っていたのが意外と感じるほどの幸せな時間を過ごしたら、もう笹ヶ峰へ到着だ。まだ朝だけど六時間も歩き通しでお腹が減った。

- またしてものコンビ二弁当を食べていると、あ、正面に白山み~っけ
事前に作成したカシミールのグラフ表示でわかってはいたが、笹ヶ峰からの下降は長い上に急傾斜。雪が腐ってきた時間で特に不安感は覚えなかったが、ホント逆コースにしなくて良かった。
昨夜の睡眠不足もあり疲労感も感じてくるが、思ったよりもペースは速い。下山予定コースの天草山分岐へは、かなりの余裕を見ての十二時までと考えていたが、それでもまだ一時間少々ある。よし、このまま幸せな県境分水嶺歩きを続けて十二時まで行けるところまで行くとしようかな。
ザックは木に引っ掛けて、ペットボトルのお茶だけをポケットに入れた。失敗だった・・・・。
結局、高倉峠手前ピークで十二時。まっ黒の冠山と横長の能郷白山(たぶん)の姿を見て満足しながら引き返すこととなった。かなり疲れを感じてきてはいたが、幸い登り返しのほうが少なかった。一番大きな登り返しをこなして気が緩んだのか、ガクガクしだした足を休ませようと腰を下ろしたら、突然両足がしびれだしてきた。立ち上がることも出来ない。
な、何事が起きたんだ? 分けがわからず狼狽するばかり。しばらくひざを叩いたりさすったりしたが一向に症状は改善しない。大声を出して自分を叱咤しながら無理やり起き上がる。まるで他人の足を使って立ちあがった感じだ。三歩も歩けずに倒れてしまう。これは勉強会どころではない、はるか遠くのザックがなければビバークすらも出来ないのだ。
と、とにかくザックまでたどり着かないと死んでしまうではないか。再び必死に立ち上がって歩き始めるとなんとかこのまま歩けそうだ。歩いているうちに潮が引くようにしびれも取れてくる。登ることも出来ると分かり一安心。しこりのような感触も足に残るが、気持ちもだいぶ落ち着いてきた。
「シャリばて」か? 弁当食べて三時間ほどだが、疲労や睡眠不足との複合作用が考えられる。ザックにたどり着き、エネルギージェルや大福餅とどめに練乳チューブをコーラで流し込む。自己診断や対処が良かったかどうかは分からないが、無事家に帰ってこんなレポを書くことが出来てホント良かった。
単独の怖さをまざまざと感じることができた。
なんとか生還できそうだと分かると、一時はどうでもいいと考えていた会社の勉強会も気になってくる。発作(?)で失った時間も三十分ほどだ。ぎりぎり間に合う計算だったが、やはり最後の最後で冬の名物林道すべり台(?)に引っかかって、ほんの少しアウトだった。
ま、叱られるのも生きていればこそ・・・
です。