梅雨明け以来,初めて週末に晴れマークが並んだ.これはここ2,3年の懸案だったジャンダルムへ行くしかないだろう.ついでに大キレットも歩いてこよう.ということで,南岳から西穂高までの縦走になった.ただし,行ったことがない稜線なので大事を取って小屋泊まりにした.
【 日 付 】2012年7月27日(金)~29日(日)
【 山 域 】北アルプス 南岳~西穂高
【 地 図 】
http://watchizu.gsi.go.jp/watchizu.html ... 7762309513
【メンバー】単独、2日目のみTさん
【 天 候 】1日目 晴れ; 2日目 晴れ時々霧; 3日目 霧
【 ルート 】
1日目(7/27) 新穂高無料駐車場 5:50 --- 6:40 穂高平小屋 6:55 --- 7:35 白出沢出会 --- 9:10 槍平小屋 9:40 --- 11:30 救急箱 12:00 --- 13:15 南岳小屋
2日目(7/28) 南岳小屋 5:30 --- 大キレット--- 8:40 北穂高小屋 9:50 --- 12:30 穂高岳小屋
3日目(7/29) 穂高岳小屋 4:00 --- 6:00 ジャンダルム --- 7:10 天狗のコル 7:30 --- 7:55 天狗岳 --- 8:50 間ノ岳 --- 10:55 西穂高 --- 12:05 丸山 --- 13:10 新穂高ロープウエー山頂駅 --- 14:10新穂高無料駐車場
1日目(7月27日)
前日の木曜日に仕事を5時きっかりに切り上げて出発する.高山市内の居酒屋で生ビールをあおって前祝い.そのまま車中泊する.
翌朝,4時に出発.新穂高の無料駐車場に5時に着いたが,駐車場はすでに満車状態.あちこちに空きスペースを探す車がうろうろしている.しょうがないので無料駐車場に入る入口の雑草地に車をおかせてもらう.
5時50分出発.小屋泊まりなので荷物は軽く,槍平小屋までいくつものパーティーを追い越しながら歩く.途中,道端で初老の夫婦が休んでいるので挨拶がてら行き先を聞くと,私と全く同じコースだった.とても大キレットやジャンダルムを歩くようには見えないんだけど.このご夫婦とは結局奥穂~西穂縦走コースの途中まで前後して歩くことになる.
槍平小屋で一本入れた後,南岳新道に入る.出会った人やこのコースを下りてきた人ごとに大変な道だよとしっかり脅かされたのでどんな道だろうと戦々恐々で歩き始めたのだが.いざ歩いてみると確かに急傾斜だが,道自体はしっかりしていて歩きやすい道だった.明日からが本番なので,あまり疲れないようにゆっくり歩く.

- 南岳新道上部
1時過ぎに南岳小屋到着.余り混雑しなくて居心地のいい小屋と聞いてきたのだが,今日は2畳たらずのスペースに3人寝てもらうという.久しぶりの山小屋泊まりだったが,テントの気楽さが急に懐かしくなる.結局,最終的には3人が二人になったので,それほど窮屈でもなかった.
2日目(7月28日)
朝5時に朝食を食べようとすると,「○○さん」(私の本名)と呼ぶ人がいる.こんな所でなんで名前を呼ばれるんだろうとふと見ると,すぐ前にテニス仲間で大学の先輩のTさんの顔があった.あれれ,なんでこんなところにいるの?Tさんは私と同様定年近くになって山登りを始めて,定年をはさんで数年で百名山を完登した人だ.私と違って地元の山には興味がないらしい.前日,槍沢から南岳に来て,今日は大キレットを歩くという.なんという偶然.それじゃ,一緒に歩きましょうということでにわかパーティーを組むことになった.
南岳小屋を出てすぐの所から大キレットが一望できる.素晴らしい光景に感動するとともに,こんな所を歩けるんだろうかという不安も頭をもたげる.まずはほとんど垂直に見える斜面を下る.ちょっと見にはどこを歩くんだろうと思うが,ちゃんとルートができているので,見た目ほど大変ではなかった.垂直なはしごを2回降りるとキレットの底だった.

- 大キレット
このあとは長谷川ピークまで通常の登山道に近い.途中,兵庫県から来たという中年男性と山ガール2人の3人パーティーにTさんが声をかけて,結局北穂高小屋まで一緒に歩くことになる.長谷川ピークは長野側から岐阜側へ乗り越すところが少し怖いが,それ以外はたいしたことはない.
山ガール二人のすぐ後にTさんが続くが,北穂高への斜面ではTさんの顔のすぐ前に山ガールさんのお尻が来る位置関係になる.Tさん,ちょっと近づきすぎやおまへんか?Tさんは山ガールさんのフェロモンを吸って元気をつけているんだろうか(ちなみに,Tさんはそんな変態エロじじいではありませんので.ごめんねTさんm(__)m).

- 北穂高まで一緒だった山ガールさん二人
北穂高小屋でしばらく休憩した後,若者パーティは涸沢に下山し,我々は涸沢岳に向かう.下りは大したことはなかったが,涸沢岳への登りは結構きつい道だった.12時過ぎに穂高岳小屋に到着.明日が本番なので,2日目のコースは少し短めにしておいた.
宿泊の受付をする.今日は二人で一つのふとんに寝てもらうという.げー,まさかTさんと同じ布団で寝ることになるとは思わなかった.やっぱり,テントが懐かしい.そのあと,ビールを飲みながらよもやま話をする.なにせ20年来のテニス仲間だし,Tさんは気さくな人なので一緒にいても気が楽だ.梅雨明け後の最初の晴天の週末とあって,小屋もテン場もいっぱいで,街の真ん中のようににぎやかだ.さながら小屋の周辺に大きな飲み屋街ができたよう.
結局,最終的には3枚の布団を4人で共有することになり,Tさんと同じ布団で寝ることはなかった.しかし,夜中は部屋から逃げ出した人たちが,廊下に思い思いに布団を敷いて寝ていた.
2日目(7月29日)
さあ,今日が本番だ.今日中に新穂高ロープウエーで下山する予定なので,なるべく早く出発したい.3時起床.4時に出発する.岳沢に下山するTさんはまだ寝ている.いろいろあって,初日に会った初老の夫婦と一緒に出発することになる.この人たち,本当に大丈夫なんだろうか.ヘッドランプの明かりを頼りに,暗い中を奥穂高山頂に向かって登り始める.
山頂からはいよいよ西穂高への縦走コースだ.いったいどうなるんだろう.生きて帰れるのだろうかと,不安がよぎる.その不安が的中するように,いきなり馬ノ背の難所だ.両端が切り立った狭い稜線上にコースを示す矢印が点々と見える.え~,こんな所歩くのかよ~.落ちたら即死じゃん.目指す西穂高は遠くにかすんでいる.え~,今日中にこんな所をあそこまで歩くのかよ~.引き返そうかとも思うが,もう馬ノ背の半ばは過ぎてしまっている.急斜面を手掛かりを確かめながら下ると,ようやく少しましな所に出た.

- 馬ノ背の下り
ようやく緊張から解放されて,思わず「チョー気持ちエ~」と叫ぶ.本当に気持ちがいいのではなくて,叫ぶことでアドレナリンを放出させようという作戦だ.気持ちを無理やりにでも高めていかないと,とても一日持ちそうにない.
同行の夫婦は,こんな所に来ようと思うだけあって,予想していたよりも大丈夫そうだ.奥さんの方は岩場が大好きだそうで,動きを見ていても大丈夫そうだが.ご主人の方は奥さんについてきただけという感じで心もとない.落ちるとすれはご主人の方に違いないと思ってしまう.

- 遠くにかすむ西穂高 ほんとにあんなとこまで行けるの?
ジャンダルムは思ったほど大変ではなく,簡単に頂上に出られた.ガスで何も見えないので,頂上にいた人にお定まりの証拠写真を撮ってもらい,さっさと下山する.このあとは小ピークをいくつか越えながら天狗のコルに降りて行く.
天狗のコルで奥穂山荘の朴葉寿しを食べる.あまり食欲がなく,半分ほど食べておしまい.やはり通常の精神状態ではないのだろう.
休憩しているうちに次々と後続のパーティーが到着し始めたので,余り混雑しないうちに出発することにする.鎖をつかみながら,天狗ノ頭への急斜面を登る.夫婦は天狗ノ頭で弁当にするというので,先行させてもらうことにする.このご夫婦とはこのあと会うことはなかった.無事に下山されたと信じています.
途中で一人の男性とすれ違う.どこから来たのかと聞くと,鍋平からだという.昨日の午後11時に出発して,今日は槍ヶ岳まで行って,槍平を下山するという.信じられないような超人だ.たしかこの人には数年前に槍の穂先で会ったような気がする.その時も信じられないようなコース設定だった.頑張ってくださいと言って別れる.
西穂高まではこのあと数え切れないほどのアップダウンがあり,体力を消耗していく.西穂高まであと30分ほどのところで,滑落事故現場に遭遇する.滑落事故があったことは途中で聞いていたが,やはり実際に見ると緊張する.少し行くと,長野県警山岳救助隊の制服を着た二人とすれ違う.クサリのついた急斜面を平地を歩くようなスピードで通り過ぎていった.
11時頃,西穂高山頂着.頂上で「チョー気持ちエ~」と叫ぼうかと思っていたのだが,遭難した人のことを思ってやめる.出発から7時間.天狗のコルで弁当を食べた以外は,ほとんど休憩なしで歩いてきた.さすがに西穂高は人口密度が高かった.しばらく休憩した後,下山開始.道はこれまでと比べると問題なくいいが,足が疲れているので慎重に歩いていく.独標からはもはや山ガールの世界だ.思い思いのカラフルなコスチュームに身を包んだ若い女の子に笑顔で挨拶してもらうとだんだん気持ちがほぐれていく.
西穂山荘ではあまりの混雑に恐れをなして,休憩せずにそのままロープウエー駅に直行する.今回はヘルメットを忘れたので,ずっと落石が怖かったが,幸いなことに一度も落石に会うこともなく,自分も一度も落石を起こさなかった.
あ~,生きて帰ってきたんだと思った.
「あとがき」
このルートを歩いていながらこんなことを書くのもなんですが.っていうか,歩いたからこそ書けるのですが,歩きながら,「これは自分が目指している山歩きとは違う」と感じていました.決して岩場は嫌いではないし,どちらかというと好きなんですけど.大キレットから西穂高への稜線は日本で最も滑落死亡事故が多いエリアでしょう.このルートを歩いたことが一つのステータスになる傾向にあるためか今回も多くの方々が歩いていました.確かに,3点支持を守っていれば落ちることはほとんどないでしょうが,人間のすることですから,ほんのちょっとした油断やミスが間違いなく滑落につながります.落ちる確率は技術力の差によって違いますが,ゼロになることは絶対にありません.
私は藤内壁を一度だけ登ったことがあるクライミングの素人ですが.このときに感じたのは,クライミングというのは「人間は必ず落ちる」ということを前提にして作られた技術なんだということでした.そのため,滑落しても命は落とさないようなシステムが確立されています.私は,アルパインクライミングは機会さえあればやってみたいと思っています.それに比べて,一つ間違えば死に直結するこのルートをなんの確保もないままで歩くことのいかに危険なことか.
山は無事に下山してなんぼの世界です.何度も書いていますが,私の理想とする山歩きは「まったり山行」です.これまでの400回を超える山行を一度の遭難もビバークもなく行えたことが私の勲章です.今回のルートを歩いてみたいという人がいたら,私はこう言おうと思っています.「山と自分の命を引き換えにしてもいいのなら行きなさい」と.私は山で死のうとは思いません.おそらくこのルートを歩くことはもう二度とないでしょう.
・・・と書きながら,もしかしたら来年も歩いているかもしれませんけど.まあ,その時はその時ということで(^^;)
梅雨明け以来,初めて週末に晴れマークが並んだ.これはここ2,3年の懸案だったジャンダルムへ行くしかないだろう.ついでに大キレットも歩いてこよう.ということで,南岳から西穂高までの縦走になった.ただし,行ったことがない稜線なので大事を取って小屋泊まりにした.
【 日 付 】2012年7月27日(金)~29日(日)
【 山 域 】北アルプス 南岳~西穂高
【 地 図 】[url]http://watchizu.gsi.go.jp/watchizu.html?longitude=137.64366666658&latitude=36.287762309513[/url]
【メンバー】単独、2日目のみTさん
【 天 候 】1日目 晴れ; 2日目 晴れ時々霧; 3日目 霧
【 ルート 】
1日目(7/27) 新穂高無料駐車場 5:50 --- 6:40 穂高平小屋 6:55 --- 7:35 白出沢出会 --- 9:10 槍平小屋 9:40 --- 11:30 救急箱 12:00 --- 13:15 南岳小屋
2日目(7/28) 南岳小屋 5:30 --- 大キレット--- 8:40 北穂高小屋 9:50 --- 12:30 穂高岳小屋
3日目(7/29) 穂高岳小屋 4:00 --- 6:00 ジャンダルム --- 7:10 天狗のコル 7:30 --- 7:55 天狗岳 --- 8:50 間ノ岳 --- 10:55 西穂高 --- 12:05 丸山 --- 13:10 新穂高ロープウエー山頂駅 --- 14:10新穂高無料駐車場
1日目(7月27日)
前日の木曜日に仕事を5時きっかりに切り上げて出発する.高山市内の居酒屋で生ビールをあおって前祝い.そのまま車中泊する.
翌朝,4時に出発.新穂高の無料駐車場に5時に着いたが,駐車場はすでに満車状態.あちこちに空きスペースを探す車がうろうろしている.しょうがないので無料駐車場に入る入口の雑草地に車をおかせてもらう.
5時50分出発.小屋泊まりなので荷物は軽く,槍平小屋までいくつものパーティーを追い越しながら歩く.途中,道端で初老の夫婦が休んでいるので挨拶がてら行き先を聞くと,私と全く同じコースだった.とても大キレットやジャンダルムを歩くようには見えないんだけど.このご夫婦とは結局奥穂~西穂縦走コースの途中まで前後して歩くことになる.
槍平小屋で一本入れた後,南岳新道に入る.出会った人やこのコースを下りてきた人ごとに大変な道だよとしっかり脅かされたのでどんな道だろうと戦々恐々で歩き始めたのだが.いざ歩いてみると確かに急傾斜だが,道自体はしっかりしていて歩きやすい道だった.明日からが本番なので,あまり疲れないようにゆっくり歩く.
[attachment=4]01南岳新道上部(1).JPG[/attachment]
1時過ぎに南岳小屋到着.余り混雑しなくて居心地のいい小屋と聞いてきたのだが,今日は2畳たらずのスペースに3人寝てもらうという.久しぶりの山小屋泊まりだったが,テントの気楽さが急に懐かしくなる.結局,最終的には3人が二人になったので,それほど窮屈でもなかった.
2日目(7月28日)
朝5時に朝食を食べようとすると,「○○さん」(私の本名)と呼ぶ人がいる.こんな所でなんで名前を呼ばれるんだろうとふと見ると,すぐ前にテニス仲間で大学の先輩のTさんの顔があった.あれれ,なんでこんなところにいるの?Tさんは私と同様定年近くになって山登りを始めて,定年をはさんで数年で百名山を完登した人だ.私と違って地元の山には興味がないらしい.前日,槍沢から南岳に来て,今日は大キレットを歩くという.なんという偶然.それじゃ,一緒に歩きましょうということでにわかパーティーを組むことになった.
南岳小屋を出てすぐの所から大キレットが一望できる.素晴らしい光景に感動するとともに,こんな所を歩けるんだろうかという不安も頭をもたげる.まずはほとんど垂直に見える斜面を下る.ちょっと見にはどこを歩くんだろうと思うが,ちゃんとルートができているので,見た目ほど大変ではなかった.垂直なはしごを2回降りるとキレットの底だった.
[attachment=3]02大キレット(1).JPG[/attachment]
このあとは長谷川ピークまで通常の登山道に近い.途中,兵庫県から来たという中年男性と山ガール2人の3人パーティーにTさんが声をかけて,結局北穂高小屋まで一緒に歩くことになる.長谷川ピークは長野側から岐阜側へ乗り越すところが少し怖いが,それ以外はたいしたことはない.
山ガール二人のすぐ後にTさんが続くが,北穂高への斜面ではTさんの顔のすぐ前に山ガールさんのお尻が来る位置関係になる.Tさん,ちょっと近づきすぎやおまへんか?Tさんは山ガールさんのフェロモンを吸って元気をつけているんだろうか(ちなみに,Tさんはそんな変態エロじじいではありませんので.ごめんねTさんm(__)m).
[attachment=2]03北穂高まで一緒だった山ガール二人(1).JPG[/attachment]
北穂高小屋でしばらく休憩した後,若者パーティは涸沢に下山し,我々は涸沢岳に向かう.下りは大したことはなかったが,涸沢岳への登りは結構きつい道だった.12時過ぎに穂高岳小屋に到着.明日が本番なので,2日目のコースは少し短めにしておいた.
宿泊の受付をする.今日は二人で一つのふとんに寝てもらうという.げー,まさかTさんと同じ布団で寝ることになるとは思わなかった.やっぱり,テントが懐かしい.そのあと,ビールを飲みながらよもやま話をする.なにせ20年来のテニス仲間だし,Tさんは気さくな人なので一緒にいても気が楽だ.梅雨明け後の最初の晴天の週末とあって,小屋もテン場もいっぱいで,街の真ん中のようににぎやかだ.さながら小屋の周辺に大きな飲み屋街ができたよう.
結局,最終的には3枚の布団を4人で共有することになり,Tさんと同じ布団で寝ることはなかった.しかし,夜中は部屋から逃げ出した人たちが,廊下に思い思いに布団を敷いて寝ていた.
2日目(7月29日)
さあ,今日が本番だ.今日中に新穂高ロープウエーで下山する予定なので,なるべく早く出発したい.3時起床.4時に出発する.岳沢に下山するTさんはまだ寝ている.いろいろあって,初日に会った初老の夫婦と一緒に出発することになる.この人たち,本当に大丈夫なんだろうか.ヘッドランプの明かりを頼りに,暗い中を奥穂高山頂に向かって登り始める.
山頂からはいよいよ西穂高への縦走コースだ.いったいどうなるんだろう.生きて帰れるのだろうかと,不安がよぎる.その不安が的中するように,いきなり馬ノ背の難所だ.両端が切り立った狭い稜線上にコースを示す矢印が点々と見える.え~,こんな所歩くのかよ~.落ちたら即死じゃん.目指す西穂高は遠くにかすんでいる.え~,今日中にこんな所をあそこまで歩くのかよ~.引き返そうかとも思うが,もう馬ノ背の半ばは過ぎてしまっている.急斜面を手掛かりを確かめながら下ると,ようやく少しましな所に出た.
[attachment=1]04馬ノ背の下り(1).JPG[/attachment]
ようやく緊張から解放されて,思わず「チョー気持ちエ~」と叫ぶ.本当に気持ちがいいのではなくて,叫ぶことでアドレナリンを放出させようという作戦だ.気持ちを無理やりにでも高めていかないと,とても一日持ちそうにない.
同行の夫婦は,こんな所に来ようと思うだけあって,予想していたよりも大丈夫そうだ.奥さんの方は岩場が大好きだそうで,動きを見ていても大丈夫そうだが.ご主人の方は奥さんについてきただけという感じで心もとない.落ちるとすれはご主人の方に違いないと思ってしまう.
[attachment=0]05遠くにかすむ西穂高(1).JPG[/attachment]
ジャンダルムは思ったほど大変ではなく,簡単に頂上に出られた.ガスで何も見えないので,頂上にいた人にお定まりの証拠写真を撮ってもらい,さっさと下山する.このあとは小ピークをいくつか越えながら天狗のコルに降りて行く.
天狗のコルで奥穂山荘の朴葉寿しを食べる.あまり食欲がなく,半分ほど食べておしまい.やはり通常の精神状態ではないのだろう.
休憩しているうちに次々と後続のパーティーが到着し始めたので,余り混雑しないうちに出発することにする.鎖をつかみながら,天狗ノ頭への急斜面を登る.夫婦は天狗ノ頭で弁当にするというので,先行させてもらうことにする.このご夫婦とはこのあと会うことはなかった.無事に下山されたと信じています.
途中で一人の男性とすれ違う.どこから来たのかと聞くと,鍋平からだという.昨日の午後11時に出発して,今日は槍ヶ岳まで行って,槍平を下山するという.信じられないような超人だ.たしかこの人には数年前に槍の穂先で会ったような気がする.その時も信じられないようなコース設定だった.頑張ってくださいと言って別れる.
西穂高まではこのあと数え切れないほどのアップダウンがあり,体力を消耗していく.西穂高まであと30分ほどのところで,滑落事故現場に遭遇する.滑落事故があったことは途中で聞いていたが,やはり実際に見ると緊張する.少し行くと,長野県警山岳救助隊の制服を着た二人とすれ違う.クサリのついた急斜面を平地を歩くようなスピードで通り過ぎていった.
11時頃,西穂高山頂着.頂上で「チョー気持ちエ~」と叫ぼうかと思っていたのだが,遭難した人のことを思ってやめる.出発から7時間.天狗のコルで弁当を食べた以外は,ほとんど休憩なしで歩いてきた.さすがに西穂高は人口密度が高かった.しばらく休憩した後,下山開始.道はこれまでと比べると問題なくいいが,足が疲れているので慎重に歩いていく.独標からはもはや山ガールの世界だ.思い思いのカラフルなコスチュームに身を包んだ若い女の子に笑顔で挨拶してもらうとだんだん気持ちがほぐれていく.
西穂山荘ではあまりの混雑に恐れをなして,休憩せずにそのままロープウエー駅に直行する.今回はヘルメットを忘れたので,ずっと落石が怖かったが,幸いなことに一度も落石に会うこともなく,自分も一度も落石を起こさなかった.
あ~,生きて帰ってきたんだと思った.
[color=#BF0000]「あとがき」
このルートを歩いていながらこんなことを書くのもなんですが.っていうか,歩いたからこそ書けるのですが,歩きながら,「これは自分が目指している山歩きとは違う」と感じていました.決して岩場は嫌いではないし,どちらかというと好きなんですけど.大キレットから西穂高への稜線は日本で最も滑落死亡事故が多いエリアでしょう.このルートを歩いたことが一つのステータスになる傾向にあるためか今回も多くの方々が歩いていました.確かに,3点支持を守っていれば落ちることはほとんどないでしょうが,人間のすることですから,ほんのちょっとした油断やミスが間違いなく滑落につながります.落ちる確率は技術力の差によって違いますが,ゼロになることは絶対にありません.
私は藤内壁を一度だけ登ったことがあるクライミングの素人ですが.このときに感じたのは,クライミングというのは「人間は必ず落ちる」ということを前提にして作られた技術なんだということでした.そのため,滑落しても命は落とさないようなシステムが確立されています.私は,アルパインクライミングは機会さえあればやってみたいと思っています.それに比べて,一つ間違えば死に直結するこのルートをなんの確保もないままで歩くことのいかに危険なことか.
山は無事に下山してなんぼの世界です.何度も書いていますが,私の理想とする山歩きは「まったり山行」です.これまでの400回を超える山行を一度の遭難もビバークもなく行えたことが私の勲章です.今回のルートを歩いてみたいという人がいたら,私はこう言おうと思っています.「山と自分の命を引き換えにしてもいいのなら行きなさい」と.私は山で死のうとは思いません.おそらくこのルートを歩くことはもう二度とないでしょう.
・・・と書きながら,もしかしたら来年も歩いているかもしれませんけど.まあ,その時はその時ということで(^^;)[/color]