【日 時】 7月16日(月)
【地 図】
http://watchizu.gsi.go.jp/watchizu.html ... 3302280991
【同行者】 単独
【天 候】 曇り~晴れ(一時雨)
【ルート】 P(6:46)~下山口(8:34)~前山(8:52/9:05)~下山口(9:13)~前山最高点(9:29)~剣先(11:49/12:55)~前山最高点(14:25)~下山口(14:38)~P(15:52)
<前書き>
国道19号線を北上すると恵那山の前景に際立つ山がある。それが前山である。素っ気ないネーミングだが、まさに恵那山の前山にふさわしい風貌だ。これを放っておく手はない。
タイトルから決まる山行がある。それが今回の山のはずだった。当初は前山に登ってからおまけで高峰湖にそびえる(?)後山に登ろうと思い立った。名付けて『前山(1351m)と後山(487m)』である。

- 前山と剣先全景
ところがだ。地形図をよくよく眺めていると、前山(1351m)の東に前山最高点(1353m)があり、さらに恵那山方面へと稜線を辿ると、さらに高い標高点があることがわかった。調べてみると、その三角点は『剣先(1416m)』という点名を持っていた。
そこでひらめいた。よし、剣先で「剣先するめ」を献上して神事を執り行おう。かくして、この神聖なる国家百年の大計がおごそかに挙行されることとなった。
前夜、「剣先するめ」を所望するため地元のスーパーに馳せ参じる。剣先イカのするめは透明感があり、肉厚で高級品なのだ。値段に一抹の不安を覚えながら現物を見るとなぜか安い!裏のラベルを確認するとなるほど、国産品でなく輸入物のタ〇産であった。

- 剣先するめ
二拝二拍手一拝で献上物を携えてレジに向かう。庶民の味方ホムセンで自称高級な白木の献上台を手に入れる予定であったが、財布の中をのぞき込んでみると先立つものがない。そこで、あっさり諦めるに至った。
<本編>
心配していたイノシシ除けの防獣柵が開いている。松田区から登山口までゆるゆる車を進めるが、林道が荒れていてあまり得策とは言えない。ここでクマに襲われた騒動もあるので気が抜けない(2010/9/23)。
雨後の登山道を上がると笹の林床にアカマツや杉の森。意外にガスに中に足元がすぽんと落ちていて無造作に歩くとひやっとする。やがて林相にアスナロやコウヤマキが際立ってくるから、木曽五木の森のイメージにしっくりくる。
やがてカエル岩(カメ岩)が出てきて徳之城跡にぽんと飛び出す。由緒書きによれば東山道(坂本~阿智)開削に伴う警護のための砦なのだ。
この先、大岩が出て来て悪天で視界のない登山道としては良いアクセントとなる。ひたすら蒸し暑くて滝の汗。イワウチワの群落は花期を外して寂しいが、ヒガラやコルリのシャープなさえずりに元気をもらう私。
平坦路と急登が交互するうち、「下山口」と大書された稜線に達する。遭難騒ぎもあったのでこれをもってして大げさとは感じない。
日が射し始めた。木漏れ日の森がひたすら美しい。ヒグラシの鳴きぞめに付き合いながらドウダンツツジの花ガラを踏んで歩く。前山△(1351m)までは薮の刈払いに助けられて楽チン楽勝である。
「下山口」まで戻り、いざ前山最高点へ。ヤブの中の踏み分け道は中級程度。しかし、それも前山最高点まで。
剣先につながる尾根を求めるが、尾根型が見つからないまま徒労を重ねる。しかもヤブ度は上級クラス。背を没するネマガリタケの檻の中にがんじがらめに囲まれる。地形的な特徴も一切見いだせない。展望を求めて木登りしたいが、そんな木も皆無だ。
重力に任せて強引に身体をバリバリ・ズリズリ引き降ろしても、突破口が見つからない。まめにコンパスと地図とにらめっこするが、絶望的に現在位置に確信が持てなくなってきた。もともと正ヶ根谷林道から楽に剣先に登るというプランもあったが、やはりどうあっても前山から縦走すべきと感じていた。
さあ、この幽閉から逃れる術はあるのか。焦燥感だけが募る。あがいてもあがいても、どうにもラチが開かない。
ここは大手術しかないだろう。かと言って、前山最高点まで戻り返そうという根性も勇気も湧かない。そこで可能性の濃い北寄りに針路を移しながらじわじわ高度を上げて尾根芯を求めようという作戦に出る。
これが功を奏して尾根芯に到達する強運。そこには踏み分け道もある。ひとまず目印の赤布をつける。地図と推定現在地とを照合するが違和感はない。やれやれ。

- ようやく尾根芯へ
これでほっとひと息と言いたいところだが、そうは問屋は降ろさない。不明瞭な踏跡はヤブに飲まれたり倒木の下敷きになったりで人をけむに巻く勢い。おまけにデカいスズメバチに好かれたようで、幾度となく偵察の対象となるから疎(うと)ましい。
それでも時折の恵那山と、目指す剣先の眺望に尻を叩かれるようにして前進前進。それにしても目的地は遥かヤブの向こうにある。全く嫌になる。
古い赤布を合図に前方に明るい切り拓きが透けて見える。期待を裏切ることなく、剣先の頂上の刈り払いに飛び出した!
「やったぞ!!」と骨太に叫んでみる。まわりのクマたちもびっくりだろう。きっと君たちにも私の湧き立つ感動が伝わったはずだ。
三角点にへたり込み、まずは水をがぶ飲みだ。おととい、職場で熱疲労に倒れた患者の介抱をしたばかり。たんまり水を飲み込んでお腹がたぷんと音を立てる。
人心地ついて、いよいよ神事に取りかかる。大切に持ち込んだ剣先するめを剣先三角点の献上台に献げる。おお、これはまさしく天の配剤だ。恭しく拝礼を済ませてからプリムスの聖火台に点火。剣先するめに非はないものの火あぶりの刑に処す。彼は神への忠節を誓うかのようにくるくる巻きあがった。

- 剣先に剣先
香ばしい香りが剣先山頂に漂い始める。焦げ目だって芸術的に美しい。引き続き、八つ裂きの刑に処してから御神酒を頂く。と言っても残念ながらサントリーの「オールフリー」である。
恵那山がど真ん前。巨大な体躯を誇示している。視線を右方へずらせば、ウエストンも辿った前宮ルートだ。八右門の頭(1801m)はあれか。木曽川左岸支流の中津川を挟んで焼山からロクロ天井への流れるようなスカイラインも覗いている。
ぐるっと見渡すと前山らしきも望めた。北向きの眼下には中津川市街地。落合川に架かる中央道の赤い橋の向こうに高峰山がうずくまっている。天候に恵まれれば御岳や小秀山、はるかに乗鞍や穂高が望めるとも聞くが、今日は今日で上出来の展望としよう。
一瞬雨がパラつくが、再び雲間から日が射した。お尻に根っこが生えそうな気分に打ち勝つのは一苦労だ。往路を戻ろう。前山最高点への未踏区間も不安だし、剣先直下の途中の屈曲点も侮れないと感じている。

- 再びヤブコギ
往路の剣先尾根の戻り返しとは言え、気を使いながらの歩きが続く。最高点からさ迷った区間の尾根芯未踏ルートだが、これはどう考えてもヤブに戻りゆく獣道状態だ。力任せに前山最高点のアセビの立つピークに掻き登る。往路で辿るべきだった正解を今さらながら振り返ると、確かにあの時見送ったトンネル状の獣道であった。
気がつくと、ベルクロで手首にしっかり留めていたはずのカシオの腕時計がない。五年間愛用の沢登りでも重宝してきたお気に入りグッズだったのに。おまけに休憩時に外したヤブ対策のサングラスまで消息不明だということに気づいたが、さすがに捜索願いを出そうという気力に欠けた。
「下山口」の標に戻ってひと息つく。ここからの復路は明るく楽しい森歩き。愉快だ。爽快だ。持ち上げた水は最後の一滴まですっからかん。山中で3㍑飲み干した勘定だよ。
<後書き>
車を中央道脇の水田脇に移動させて今日の山のおさらいだ。前山の背後にそびえる恵那山の足元には、陽光を浴びてきらめく剣先がちょこんと頭を出している。
今回のミッションである神事も滞りなく終えた。さて、私の剣先スルメを越える企画をどなたか是非とも叶えて頂きたい。その折りには、剣先スルメではなく、「生」の剣先イカを献上するというのはイカが?
ふ~さん