【日 時】 10月1日(土)
【地 図】
http://watchizu.gsi.go.jp/watchizu.html ... 6935662932
【同行者】 単独
【天 候】 晴れ
【ルート】 P(9:46)~760m二俣(10:48)~重ね岩Ⅱ群(12:00)~登山道940m付近(12:05)~竜ヶ岳山頂(12:31)~石榑峠(13:12)~920mピーク(14:18)~920m西の鞍部(14:23)~旧国道(15:37)~P(15:46)
「蓋聞 上古之世 未有文字 貴賤老少 口口相傳・・・」とは、平安期の歴史書『古語拾遺』の冒頭文らしい。漢文で書かれていると聞いただけで、私のように高校時代、古典が赤点だった人間にとっては卒倒しそうになる。
さて、「拾遺」というのは、辞書によれば「(歌・作品など)漏れ落ちているものを拾い補うこと」とある。
なるほど、我が古語録谷は「酷道421号」が通じて以来、語られることが滅多にない。お隣の大井谷・又川谷の美渓ぶりがフォーカスされる中、忘れ去られた谷だと言えよう。確かに下流部には険しい廊下帯が報告されている。(『鈴鹿の山と谷②p169』)
しかし、下流部の現状は変わらぬままだろうか。地形図と睨めっこしてみると、国道がクラ谷越えして再び古語録に接近するポイントまでに、五本の堰堤を数える。そのための古語録谷右岸につけられた砂防林道かと思うにつけ、涙が二筋の糸となって落ちる。
「谷筋は荒廃し、砂防堰堤の嵐」と聞きながら、それでも敢えて溯行しようとする輩がいるとするならば、それは間違いなく奇人変人のたぐいであろう。
しかしだ。国道から離れる古語録谷の上流部はどうなのだろう。いささかなりとも、本来の谷の空気を感じ取れるかもしれない。ならばだ、古語録の語られない部分を「拾遺」してやるぜ。
ところがだ。所詮、ふ~さんのやることはスキだらけだ。私はガストン・レビュファの如きアルピニストを志して以来の、人生初の大失態をやらかすことになった。
数年前のことだ。これは私の友人の話である。遠路はるばる登山に来たというのに、ヤツは「登山靴を忘れた~」と一人騒いでいた。私は彼を横目に「ふっふっふっ、愚かな奴じゃ」と同情以前に唖然としていた。そんな芸当が出来る彼を畏敬の念を持って眺めていたとも言えよう。しかし、どうだ。まさに同じことが我が身に起ころうとは!
「ないっ!沢靴がないっ!!」途端に頭の中で、バッハの『トッカータとフーガ・ニ短調』が鳴り響いた。「アホちゃう?」ではなく、「アホやんけ~!」の世界だった。
http://www.youtube.com/watch?v=Dex2H3Z7Wtg
しばらく魂が抜けていたが、次の瞬間、車に積んであったAdidasのスポーツ靴をガシッと掴んで足を突っ込んだ。よっしゃ、こうなったら、この靴で沢登りの新時代を築いてやるぜ。
沢筋へ。本流の上流方向はいきなり無愛想な堰堤。我が左俣出合はすぐ目の前。恐る恐るアディダス靴を水に浸けてみる。挨拶代わりの小滝。うん、フリクションさえあれば悪くない。
ナメの連瀑。トユ状の滝。花崗岩質の明るい渓相が嬉しい。気をよくして歩くが、すぐ暗っぽい植林と激しい倒木帯。
それを我慢すると、美しい小滝や個性的な斜滝がたち現れる。窯跡に癒された後、再び小規模ながらナメの連瀑帯。インゼルを歩く。鹿が逃げる。何度も振り返ってはぴょんぴょん跳ねていく。次に現れたるは猿軍団。左岸の尾根の梢の上で高みの見物を決め込み始めた。
760m二俣に出る。ピンクに明るい左俣が手招きしている。思わず誘い込まれそうになるが、そこは我慢我慢。陰ってゴルジュくさい右俣の方が私にはお似合いか。暗い釜を伴った2m滝。その奥には10m滝の連瀑帯。待ってました!

- 10m滝上段
下段は直登。中段に取付き、さらに上段を探る。上段の滝は右岸側に取り付いてみたが、意外に難関。いや、スポーツシューズでは意外に難関と言うべき。流芯を突破しようとするが、つるつるしてフリクションが利かない。高度感も出てきた。冷や汗が出る。やむなく巻こうにも岩がボロボロ抜けてくる。すがる木立もない。バイルも役立たず。まさか退路を保証するためのハーケンが必要だとは思いもしなかった。
進退窮ったが、胡散臭そうな岩角もどきにかろうじてテープスリングをねじ込んだ。しばし、だまされてくれ。冷や冷やものだが、辛くも逃げ切る。首の皮一枚でつながった気分。
気を取り直して左岸の巻きで上がると二俣となった。渓相的には左俣の方が登高意欲が増すが、水なしじゃどうしようもない。右俣に水流を追う。小滝を連ねて標高を上げる。トユ状の連瀑帯をガシガシ登っていく。

- 10m滝の下段
正面にザレ地形を見て、左の小さなルンゼに突っ込んだ。水路跡を詰める。鈴鹿らしい源流の雰囲気に破顔。小笹と灌木に包まれて高みを目指す。
いきなり岩の基部の展望地に飛び出した。重ね岩の裏手の岩塊群だ。指のような巨岩が天を指している。見下ろすと電波塔跡がさら地になっている。伊勢平野と伊勢湾も遙か眼下だ。
そのまま斜面を適当にかきあがれば、登山道。折しも登山者が下ってくる。天気は上々。気分も最高。
山頂を踏んで一息つく。ゆっくりしたい気分を押さえ、すぐに戻り返す。石榑峠へ。そのまま県境稜線を南へ。電波塔跡地は小学生相手にソフトボールでもやれそうな雰囲気だ。
先週、天狗谷を溯行してカニグチ谷を下降しているので、勝手知ったる県境線。900mピークから920mピークに歩き、ここから西進。870mの金地峠(仮称)へ。いよいよ古語録谷右俣に当たる金地谷の下降だ。

- 重ね岩の裏手の一本指
小滝が現れる。快適な下降。そうこうするうち、ごそごそ動く影。あ、うり坊だ。しばらく無言の追いかけっこ。たかだかうり坊でも、相手の土俵じゃ、あちらの方が一枚も二枚も上手。やがて土手をかき上がって姿を消した。
小滝を連ねるようになる。左岸に台地が広がる。こんなところで幕営してみたいものだ。炭窯跡が現れた。水路のフタなどと言う、意外な砂防人工物が落ちていたりもする。一体、あんたは、どこから流れてきたんだい?
ちょっとした滝場を歩いて見上げると国道の橋が視野に入った。車まで歩いてフィニッシュだ。

- 古語録左俣から登山道目前
足下に視線をやる。今日の殊勲は、他ならぬ君だ。よくやった!Adidasのスポーツシューズ君!!
靴を脱ぐと、花崗岩質の砂粒がいやと言うほど出てきた。やれやれ。
ふ~さん