【日 付】 2023年10月17日
【山 域】 丹後 槙山金ケ岬周辺
【天 候】 曇りのち晴れ
【メンバー】 Kさん sato
【コース】 横波鼻~電波塔~△480.1直下~槙山砲台跡~△218.1金岬砲台跡~標高約100m地点~林道合流地
~△228・8~海岸道路~P
西舞鶴港に沿った道を北上していると、灰青色の空の下に連なる深緑色の山並みの奥にそびえ立つ
青葉山のお姿が目に飛び込み、その凛としたうつくしさに「あぁ」とちいさく感嘆の声をあげ、同時に、
今、ギザギザしたYの字を描く舞鶴湾の西と東の湾が合わさった辺りに来たのだと気付く。
雨後の湿った空気で微かに靄がかかり、海も山も空も静かに物思いにふけっているような色を帯びている。
今年初めてのKさんとの海をながめる山歩き。青空を期待していたのだけど、遠い遠いむかしを感じるような、
わたしの内面に触れてくるような色合いの情景を眺めながらこころが震えている。時空を超えていく旅を感じ、
トク、トク、と胸が高鳴る。
白杉の集落を過ぎ、横波鼻に車を置き、槙山山頂へと延びる林道に入っていく。標高70mの鞍部からは尾根を歩く。
最初は荒れ気味の植林だったが、照葉樹と落葉樹の混ざった雑木林となり、気持ちよく登って行くと、
コンクリートレンガが敷き詰められた林道にぽんと出た。先ずは三角点に向かう。
ところが、電波塔?に着くと作業服を着た人達がいて、ここは自衛隊の敷地なので入ってはいけないとおっしゃる。
レンガの道は進入禁止とのことだった。舞鶴は、かつて日本海における帝国海軍の最重要拠点。
今は海上自衛隊の基地となっているところが多い。海を見渡すこのお山は、かつても今も重要な地ということなのだろう。
北西の山頂地帯に着くと、レンガ造りの倉庫のような建物の跡が見られた。槙山砲台跡だ。
下が弾薬庫でその上に砲台が設置された造りというが、草木が生い茂りどこが台座なのか分からない。
横の階段を登ると芝地になっていて大絶景が広がっていた。
真下は栗田湾。芦生の森で生まれたしずくたちが、おおきな由良川の河口から大海原へと旅立っている。
奥には無双ケ鼻と一昨年訪れクマの親子に遭遇した栗田半島がにょきっと突き出し、
続いていつかゆっくりと巡ろうと夢見ている丹後半島がおおきく伸びている。
その先は限りなく広がる青い空と海。
いつしか灰青色の空は、白い雲がたなびく水色の空となり、海は、穏やかな秋の陽射しを受けて露草色に煌めいている。
なんて爽快なのだろう。夢と希望を感じる眺めなのだろう。爽やかな空気を胸いっぱい吸い込みながら、
砲台建設に携わった人たちは、どんな思いで、海を、山を、空を、見つめたのだろう、とふと思い、
チクリと胸に痛みを覚える。
次の目的地、△218.1へは舗装された林道を辿っていく。分岐から金ケ岬へは車は通行不可能な土道となる。
道中まあるい小石が散らばっていて、不思議だなぁ、と思いながら歩いていたが、そうかぁ、と気が付いた。
この道は砲台への道。整地するために海岸の小石を敷き詰めたのだろう。
木立の向こうに塀のようなものが見え、金岬砲台跡に到着した。
雑木林の中にレンガ造りの建築物の跡が迷路のように続いている。井戸や水路の跡もあった。
どれだけの軍人がここで過ごし海を見張っていたのだろう。想像を超える規模だった。
木が生い茂ったり崩れたりして元の形が分からないものが多いが、赤茶色のレンガでしっかりと固められた弾薬庫群は、
100年以上経った今も形を留めていて、当時のロシアへの脅威の大きさをまざまざと感じる。
わたしに、夢と希望、浪漫を感じさせてくれる海は、明治の時代は、ロシアからの侵略路と見なされ、
不穏の対象でもあったのだ、と思い知る。
落ち葉を踏みしめ、戦争という時代を物語る建築物の跡を巡りながら、
日本が関わった戦争について、世界のあちこちで起こっている争いについて、争いの中で生きる人たちについて、
わたしは何を知っているのだろう、知らないことだらけだ、と胸をつかれる。
知らない、知ることが出来ない、ということを感じるのは、時にかなしくやるせなく、時にどきどきわくわくする。
「そろそろ行きますか」
地図を広げ、Kさんと金ケ岬の地形を確認する。そう、今日の山旅は、先端への山旅。
標高170mで尾根がふたつに分れるが、北西の尾根に進むことに決める。
出会いはいつも不意にやって来る。お酒やビールのビンが転がる明るい雑木林の中を下っていくと、
思いもかけない風景がわたし達を出迎えてくれた。シデ、ヤマザクラ、ケヤキ、タブの大木が佇む静謐さを湛えた森。
中でもタブの木の貫禄には目を見張るばかり。
半島の先端、戦争遺跡の先には、こんなにも素晴らしい巨木の森が展開していたのだ。
波の音が大きくなる。どこまで進めるか。
「ここまでかな」Kさんがおっしゃった。標高約100m。木立の向こうがすとんと落ちているのが分かる。
地形図を見ても少し下は崖になっている。しゃがみ込んで木々の間から白い波が岩礁に打ち付ける青い海を眺める。
「多弥寺山のようにはなかなかいかないなぁ」
「そうですね」
くやしさは無い。今日も、清々しい諦めと共に、足元のすぐ先の未知の世界を感じ胸がときめく。
胸の鼓動と波の音が合わさるのを感じる。
そう、すうっと降り立つことが出来ないから、知ることが出来ないから面白いのだ。
そして、次の旅への想像を掻き立ててくれるのだ。
帰路は、海沿いの破線も気になったが、ヤブに埋もれているように感じたので、林道の合流地まで戻り、
△228.8の尾根を下った。この尾根も思いもかけない清々しい雑木林が続く素敵な尾根だった。
標高170mで南東に進み、車道が終わる地点に降り立つ。
すぐ横の緩やかな谷間に広がる田んぼは、セイタカアワダチソウのまっ黄色のお花畑になっていた。
目の前の青く煌めく湾には白い船が浮かび、向こう側の緑のお山の下には、無機質な巨大な火力発電所が建っている。
ひと息ついて空を見上げると、太古から変わらぬお日様が、令和の時代の風景を、
今を生きるわたしたちを、まっすぐに見つめていた。
sato